国際貢献を拡大する中国人民解放軍と将兵の信仰心

中国人民解放軍と国連PKO

 2019年2月にニューヨークの国連本部において、また3月にはアディスアベバのアフリカ連合本部において、「世界平和を護る中国軍」展が開催され、人民解放軍の国連PKOにおける活動が国際社会から高い評価を得ていると中国国防部は報じている[1]。

 また、2015年には、中国の国連PKOに対してスーダンの村が「中国村」に改名されるほどの歓迎を受けたと報じ[2]、2018年には、アフリカおける人民解放軍の国連PKOにおける活躍を題材とした映画「中国蓝盔(中国のブルーヘルメット:英語版 Chinese Peacekeeping Forces)」も公開されている[3]。

 中国の国連平和維持活動、いわゆる国連PKOへの参加は1992年の日本よりも古い。冒頭の報道によれば、1989年の国連ナミビア独立支援グループへの文官派遣に始まり、1990年に国連軍事監視機構に人民解放軍将兵が監視要員として初めて派遣されている。爾来、延べ4万人の人民解放軍(武装警察部隊を含む)将兵が24の国連PKOに参加し、13名の将兵が殉じている。

国際貢献を拡大する中国人民解放軍と将兵の信仰心

国連PKOに求められる地元社会と信仰への理解

 中国と同様に、もしくはそれ以上に、日本の国連PKOにおける活動は受入国や国際社会から高い評価を受けている。その大きな要因には、創設以来、地域住民の理解を得ること重視してきた自衛隊の経験とともに、他の宗教や異文化に対する日本人の寛容性に基づく地元社会の歴史や文化、習俗を理解して住民目線に立った住民と対等な関係作りへの地道な努力がある。

 いかなる宗教・宗派にかかわらず、信仰はその地の民衆の生活、習俗、文化の基盤であり心の拠り所である。それを蔑ろにするようなアプローチがその地の民衆に受け入れられるものではないことはこれまでの人類の歴史が物語っている。

中国共産党員たる人民解放軍将兵と信仰

 中国の場合も、人民解放軍将兵が国外活動をする場合には地元社会の宗教を尊重することを義務付けている。たとえば2018年に施行された人民解放軍内務条令(試行)第111条及び第234条では、人民解放軍の軍人が国外及び境外[4]で活動する場合に、現地の国家及び地域の宗教・風俗・習慣を尊重するべきであると規定している[5]。

 一方で、同じ条令の第92条において、人民解放軍将兵は宗教活動への参加を禁止されている[6]。そもそも人民解放軍は中国共産党の軍隊であり、出世を望む軍人は共産党員となる必要がある。今なおマルクス主義を堅持する中国共産党では、共産党員が宗教を信仰することは「世界観、価値観、人生観に関わる根本的なもの、党の団結を害する」ものとして厳しく禁止している[7]。習近平主席も2016年の全国宗教工作会議の席上において「宗教の中に自身の価値観や信念を求めることがあっては決してならない」として強く言及している[8]。

 そのうえ中国国内では、イスラム教、仏教、キリスト教の信者や少数民族の独自の文化・習俗への弾圧や施設の封鎖・破壊などに関する報道が近年とみに増加しており、米国国務省の人権報告書[9]などで懸念され厳しく非難されるなど、国際社会の注目を集めている。

国際貢献を拡大する中国人民解放軍と将兵の信仰心

国外の宗教信仰に触れた人民解放軍将兵

 いずれの宗教にかかわらず、信仰心の無い者や信仰を悪と考える者が他者の信仰心を理解することは容易ではない。国外・境外における宗教の尊重は、考えることのなかった未知の分野、考えてはならないとされた悪の部分を容認せよと言っているのに等しい。

 香港やマカオでは自由主義的な社会、宗教活動等の「害毒」から駐屯している人民解放軍将兵を守るために、彼らは基地からの外出を厳しく制限され市民との交流は局限されている[10]。一方で国連PKOは地元市民や地元社会との深くかつ地道な交流なしには成功しえない困難な活動である。

 共産党員たる人民解放軍将兵にとって、中国国内における宗教への対応と異なるアプローチを国外活動で求められることは、彼らの心の内を大いに戸惑わせることになっているのではないだろうか。国連PKOを体験することで、他者の信仰心を理解して心を寄り添うことができる将兵が多数生まれているとするならば望ましい。しかし残念ながらそうした事実を耳にしたことはない。

まとめに代えて

 中国の価値観が従来の西側社会の価値観に優越して世界に広がっていくと中国共産党の理論誌は言う[11]。現地住民を中国とは異なる「世界観、価値観、人生観」であると捉えることは他者との関係に差異と優劣を生み、対等な関係を作り出すことは難しい[12]。

 冒頭で紹介したとおり中国の国連PKOは好評のうちに成功を収めていると中国は言う。もしそれが真実であるのだとすれば、他者の信仰心を理解できない「無神論の共産主義者による信仰を有する現地住民への配慮」といった困難な対応を、既に人民解放軍は克服したということなのだろうか。

  • 本稿で述べている見解は、執筆者個人のものであり、所属する組織を代表するものではない。

(2019/05/16)

脚注

  1. 1 孙阳、朱鸿亮「和平力量,吸引世界目光-“维护世界和平的中国军队”主题展览侧记(平和の力、世界が注目-『世界平和を護る中国軍』展観覧記)」)、『中国军网』、2019年2月18日。
    孙阳「维护世界和平的中国军队主题展在非盟总部开幕(世界平和を護る中国軍展覧会がアフリカ本部で開幕)」、『中国军网』、2019年3月22日。
  2. 2 杨辉「我维和部队帮助苏丹民众解决吃水问题:苏丹有个“中国村”(我がPKO部隊がスーダン民衆の飲料水問題解決を支援、スーダンの「中国村」)」、『八一电视』、2015年6月20日。
  3. 3 马天宇「电影『中国蓝盔』―展现维和军人的英雄风采(映画「中国のブルーヘルメット」PKO軍人が英雄的活動を展開)」、『中国军网』、2018年11月25日。
  4. 4 「境外」とは、中国語では境界線(国境:border)の外を意味する用語である。中華人民共和国の一部ではありながら「一国二制度」の特別行政区として位置付けられる香港及びマカオと中国本土を往来する際も、外国との往来と同様に「出(入)境」という言葉が使われている。当該条項では、「国外」と「境外」とが併記されていることから、これらの規定が国外のみならず香港やマカオ等においても適用されることが推定される。
  5. 5 「中华人民共和国中央军事委员会命令 军令﹝2018﹞58号、『中国人民解放军内务条令(试行)』」、『中国军网』、2018年4月17日。
  6. 6 人民解放軍では、将兵の宗教活動への参加を一様に禁止していたが、2010年以降、宗教活動の位置づけが変わっていることが変化していることは注目に値する。
    具体的には、2010年改正前の内務条令では、宗教活動が迷信行為、飲酒による酩酊、賭博等と同じ括りで個人の行為として禁止(第97条)され、デモや陳情などの組織的活動としての禁止(第99条)とは区別していたのに対して、2010年条令及び新たな内務条令(試行)では、宗教信仰を飲酒や賭博等の行為の禁止(第試行91条)から、デモ及び陳情等への参加と同じ括り(試行第92条)で国家・共産党に脅威を及ぼす組織的な行動として扱われている点である。
  7. 7 马立党「树立正确的宗教观(正確な宗教観を樹立する)」、『中国军网』、2018年5月4日。
  8. 8 桑林峰「共产党员绝不能信仰宗教(共産党員は絶対に宗教を信仰してはならない)」、『中国纪检监察报』、2016年4月30日。
  9. 9 United States Department of State • Bureau of Democracy, Human Rights and Labor, “China (includes Tibet, Hong Kong and Macau) 2018 Human Rights Report” 2018 Country Reports on Human Rights Practices, March 13, 2019.
  10. 10 拙著「香港と人民解放軍」海上自衛隊幹部学校戦略研究会、2011年10月6日.
  11. 11 王安忠「论新时代社会主义核心价值观的对外传播(新時代の社会主義核心価値観の対外伝搬を論じる)」、『求是网』、2018年11月22日。
  12. 12 Gordon G. Chang, “China’s Han Superstate: The New Third Reich,”, Gatestone Institute, April 3, 2019”.