現実的な対中戦略構築プロジェクトのワーキングペーパー掲載のお知らせ

 この度、IINA(国際情報ネットワーク分析)では「現実的な対中戦略構築プロジェクト」と提携して、日米専門家による対中戦略構築のための情報を日本語と英語で掲載いたします。今後の国際関係の潮流の要因である米中関係について少しでもIINA読者の理解にお役にたてれば幸甚です。


〇安全保障貿易管理と多国間協力

 中国との安全保障関係において、日米両国では経済的手段の役割が注目されている。オバマ政権以降の米国の各政権では、中国に対するハイテク製品や技術の移転はパワーバランスの変化につながると警戒し、その緩和策が検討されている。そのような米国の政策の変化を受け、本稿では、日米の輸出管理協力を効果的に実施するための条件を模索する必要がある。

 安全保障貿易管理における多国間協力が成立するためには、三つの領域でのコンセンサスの存在が条件になる。冷戦後、大量破壊兵器や一部の通常兵器、また汎用技術などの領域で推進された不拡散問題では、これが明確であった。2001年の同時多発テロ後の安全保障貿易管理でも、テロ組織と大量破壊兵器のつながりを遮断する目標が設定され、不拡散輸出管理の枠組みが利用された。

 多国間協力において必要なコンセンサスとは、第一に安全保障貿易管理に関する目標の共有である。この目標は、安全保障貿易管理の政策手段と直接関係する。安全保障貿易管理は、国内企業の技術等の経済面での比較優位を政治的響力に転換する政策であるため、必然的に国内のアクターに不利益をもたらす。このため、国内の各主体が規制目的に納得できない場合、すなわち国内で規制が国家及び国際の安全保障に貢献すると確信が持たれない場合、安全保障貿易管理における協力に対するインセンティブは低くなる。安全保障貿易管理の目的について、国内で意見が分かれる場合もあれば、国際的にも意見が収斂しない場合がある。

 第二のコンセンサスは、安全保障貿易管理の手続きである。非国家主体に対する各国の安全保障貿易管理体制の強化を求めた国連安保理決議1540と、決議の履行をモニターする国連安保理決議1540委員会では、安全保障貿易管理が有効に機能するためには、法制度、ライセンス制度、罰則、そして規制品リストの存在が必要不可欠であるとしている。これら、輸出管理の施行に必要な措置は、国家間で相互に信頼できるものでない限り、それぞれが相手に対して「フリーライド」の懸念や、抜け駆けなどの不満を持つものとなる。

 第三のコンセンサスは、管理品目の内容である。軍事的に活用される製品や技術には、軍事専門のものと、民生分野にも活用可能なものがある(いわゆる汎用技術)。トランプ政権以降、新興技術や死活的技術も、安全保障上の重要性が指摘され、輸出管理の対象とみなされるようになっている。これら技術は、民間市場で巨大な価値を生み出す潜在性があり、管理対象の技術レベルが、それらを保有する関係国間で共通化されないと、管理の障壁を低く設定した国が最大の利益を得ることになる。このため、東西冷戦期の輸出管理や不拡散輸出管理において、有志国による自発的な国際レジームの下で規定される管理リストが重要な意味を持った。

 中国を対象とする安全保障貿易管理では、これら三つのコンセンサスが形成途上にある。この三つを軸に、日米協力の現在の位置関係を考察し、必要な政策を考察する。

〇中国に対する脅威認識と安全保障貿易管理(目的と制度の共有について)

 米国の輸出管理政策が、中国に対する安全保障上の懸念を反映させる方向に向けて制度改変を実施していることは知られている。米中経済安全保障委員会が作成する年次報告では、特に2016年以降、中国の人民解放軍系の資金や影響が認められる企業による米国での技術入手活動についての懸念を強調している。その活動としては、貿易に限らず、米国企業との合弁会社の設立、買収(M&A)、技術協力協定、留学生を通じた知識の移転など、多様な方法の存在が指摘された。これら懸念が、2018年の輸出管理改革法(ECRA)の設立につながったのである。

 日本においても、日本国内のハイテク企業等の外資による買収に起因する技術流出の懸念は早期から指摘されていた。米国では2018年、欧州では2019年に対内直接投資に関わる規則が変更されているが、日本も2020年に外為法を改正し、対内直接投資に関する事前届出の対象の見直しが実施されている。この見直しにより、上場会社の取得時事前届出の閾値引下げ(10%→1%、会社法上の株主総会における議題提案権の基準)、役員への就任及び指定業種に属する事業の譲渡・廃止について、行為時事前届出の導入が進められた。

 日米欧は、協調するように対内直接投資に関する規則(届出制度と事後の指導)を変更している。これらは、中国による国内企業の買収やその技術移転政策などを念頭に置いたものであるが、必ずしも中国を敵視したものではない。特に日本では、これら制度改正は、国内に所在する技術の海外流出の可能性を念頭に置いたものであり、対内直接投資一般に適用される規則の改正であった。

 日本の安全保障貿易管理で安全保障上の懸念に基づく規制が正当化される事由は、外為法第1条で「対外取引の正常な発展並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持を期し」とされているが、その具体的な内容は規定されていない。したがって、日本の安全保障貿易政策では、中国に対する懸念の実体は、キャッチオール規制の運用で参照される外国ユーザーリスト上の懸念対象者の指定等を通じて明らかになる。

 経済産業省が公表した外国ユーザーリストには、大量破壊兵器等の開発等の懸念が払拭されない外国所在団体として、中国の85法人が指定されている(2022年3月)。米国では、情報通信分野の技術移転に関わる懸念から、ファーウェイ(華為)など一部の団体が特別な枠組みで規制対象に指定されているが、日本はそこまで明確な規制を課していない。米国は安全保障戦略(暫定的戦略ガイダンス)の文書の中で、中国を指定して脅威の特質を説明しているが、日本は年度ごとの「防衛白書」などを通じて、中国の外交政策や軍事政策、あるいは南シナ海問題や台湾問題などに懸念を表明するのみである。米国は一歩進み、中国を、戦略的競争相手もしくはライバルと名指しするが、日本はそこまで中国そのものに対する立場を表明していない。

 つまり、安全保障貿易管理を実施するうえで、日米間には政策目標の設定の仕方において齟齬が存在する。もちろん米国も、国連憲章や多国間不拡散レジームの下で規定される国際の平和と安定に対する考慮に基づいて輸出管理を実施している。米国ではこれと並行して、外交政策目的での輸出管理を導入する政策実施上の柔軟性が担保されていると共に、2018年のECRA等の導入に際し、「みなし移転」管理において政策上の考慮を反映させる余地を拡大した。

 それに対して日本は国際的な場において十分な理由が無いと、安全保障貿易管理の対象として中国を標的にしづらい状態にある。日本の安全保障貿易管理は、国際社会で日本が合意したルールの国内履行手段とみなされてきた時代が長く、一部の例外を除いて(外為法第10条で、閣議決定による措置は認められている。)単独の措置や、外交政策上の考慮を反映しにくくなっている。過去、外為法で設定された安全保障貿易管理の目的は、第三章第16条「支払等」の第1項に残されており、そこでは「我が国が締結した条約その他の国際約束を誠実に履行するため必要があると認めるとき、国際平和のための国際的な努力に我が国として寄与するため特に必要があると認めるとき、又は第十条第一項(対応措置:筆者注記)の閣議決定が行われたとき」とあり、この際に支払いの管理が正当化される。

 つまり、日本は輸出入管理における法制度上の柔軟性を拡大してきたが、その細目を規定する制度が未整備な状態にある。

〇安全保障貿易管理の手続き上の問題

 日米間で、安全保障貿易管理に関する制度上の差は存在しない。ただしこれは、法制度、ライセンス制度、罰則、規制リストなどの外形的な措置の有無を意味する。日米両国は、東西冷戦の時代から、冷戦後の不拡散の時代まで、輸出管理では国際社会を主導しており、その過程で両国の制度には調和がとられている。しかし、制度の運用には差があり、どちらの制度が効率的であるか判断するのは困難である。

 日本の安全保障貿易管理は、外為法と、それ以下の政令によって成立しており、ライセンス審査及び規制品や技術のリストについても、経済産業省が一元的に担当している。また、輸出企業等と経済産業省の間に、安全保障貿易情報センター(CISTEC)が存在し、企業のライセンス申請の際の該非判定に関わる支援を実施している。日本の輸出の約70%以上がCISTECの会員企業によって実施されているとされ、安全保障貿易管理の手続きの円滑化に協力している。CISTECが輸出者に対して仲介や助言を行うため、行政府の判断が企業側に伝わりやすく、制度運用が円滑に行われる。

 米国では、商務省が輸出管理に第一義的な責任を負っているが、防衛装備品は国務省、原子力関連製品や技術はエネルギー省が担当しており、省庁間の調整が必要な事項が存在する。オバマ政権が輸出管理改革イニシアチブを立ち上げ、商務省が管理するCCL(汎用品の製品管理リスト)と、国務省が管理するUSML(軍事品リスト)の統合や、ライセンス審査機関の統合を進められた。それと同時に、長年の懸案である、ライセンス審査期間の短縮・合理化も進めている。

 日米の管理手続きの差を考えるとき、日本側では経済産業省がライセンス審査からリストの管理まで、単一の機関として安全保障貿易管理を担当しており、制度の効率的な運用ではメリットは大きい。米国は、輸出審査において国防総省やホワイトハウスなど他省庁の関与する余地があるため、政策的な考慮の調整も必要になる。

 ただしこれは、政府全体のアプローチを担保するものとなるため、軍事安全保障政策上の考慮を反映しやすいという利点もある。たとえば、日本はワッセナー・アレンジメントの下で規定された、通常兵器キャッチオール制度を導入しているが、経済産業省が情報を一元的に管理するため、そこでの判断基準の不透明さと、情報の信頼性の問題が指摘されることがある。

 対中政策として安全保障貿易管理を活用するうえで、日米間の制度上の差が深刻な影響をもたらすと指摘されることは少ない。しかし、より効果的に運用するうえで、日米両国が安全保障情報の活用で協力する余地は存在するだろう。安全保障貿易管理に関する議論では、日本における多省庁間協力の欠如が指摘されることがある。日本国内では、防衛省や外務省が保有する情報の活用を推進する必要があり、日米間では情報当局間での安全保障情報の協力の必要性が指摘される。

 情報の機微度を考えると、対中政策に関係した領域、あるいは人民解放軍の技術調達活動に限定した安全保障情報の協力も選択肢として検討すべきであろう。

〇管理品目の日米協調

 冷戦後の安全保障貿易管理は、大量破壊兵器の不拡散を中心に組み立てられていたため、核兵器、生物・化学兵器、ミサイル、汎用技術などの不拡散レジームで作成された規制品目リストを国内制度上施行する形で実施された。もちろん、不拡散レジームでの規制製品や技術のリスト化には、各国の利害が反映するため、レジーム主導でリストが決定する訳ではない。特に米国は、安全保障情報を収集分析する能力を保有していたため、国際的な議論を先導してきた。

 対中政策の競争及び対立的な状況の下では、必ずしも不拡散輸出管理レジームのリストを援用することができない。その理由は三つ存在する。第一に、ワッセナー・アレンジメントの下で汎用品リストと軍需品リストが作成されているが、これらリスト改定のスピードは遅く、新興技術などの新領域、あるいは情報通信技術など各国の開発競争が激しい領域の技術は、リスト化の合意を得ること自体が困難であった。また、対中政策で日米と戦略関心を共有しない国家が含まれるレジームの下では、規制内容を戦略的に操作することが困難である。

 第二に、中国の技術開発のスピードが速く、ワッセナー・アレンジメントやMTCRのリストでは、競争的な技術開発状況に対応した品目が指定されない場合がある。それらはむしろ、広範に入手可能な技術とみなされ、リストから外される可能性が高くなる。第三に、例えば中国はNSGのメンバー国であり、ワッセナー・アレンジメントへの参加が検討される場合もあるなど、不拡散問題では日米のパートナーである場合もある。

 このように、不拡散輸出管理のリストを援用して、かつての「チャイナ・ディファレンシャル」のような状況(一般的にはChincomと呼ばれる)を作り出すのは困難になっている。さらに、新興技術や死活的技術が日米両国内に所在する限りにおいて、中国に向けた移転管理の強化は、対中政策上の理由が存在するにせよ、経済的機会の喪失を意味するため、国内政治上大きな反発を招くことになる。

 したがって、管理対象を安全保障目的に絞ることで、規制を最適化することになる。その際に用いられるのが経済安全保障、ということになるのだろう。日本では、経済安全保障推進法案が検討されているが、そこでは、供給チェーンの安全や強靭性、技術漏洩の防止など、輸出管理の手法を援用しながら、その目的は移転禁止ではないようなアプローチを精緻化している。つまり、規制内容は、技術自体のリスト化や移転先のリスク評価ではなく、日米対中国の競争状態を前提とした、リスク管理へと移行しているのである。

〇リスク管理の時代の安全保障貿易管理

 リスク管理型の安全保障貿易管理では、先に述べた、安全保障認識、制度、そして規制内容に加え、管理方法の日米協調が必要になってくるだろう。その管理方法として、現時点までに、特定の死活的技術に関する供給チェーンの管理や、サイバーセキュリティ、さらには留学生などのような人的交流を通じた技術漏洩などがあげられている。

 おそらくこの項目は、ここまでで議論されているものが全てではないだろう。たとえば、将来のSTEM人材の育成方法や、技術開発に対する資金調達や人材調達など、現在日米で議論されているものに加え、技術開発の状態に応じて変化していくことになるだろう。したがって、日米協調においては、そのような管理の方法の変化についても意見交換と政策調整ができる体制を構築する必要があるのである。

(2022/04/05)