第二次トランプ政権の発足直後に発表された90日間の対外援助停止、続いて3月のUSAID(米国国際開発庁)解体の決定は、国際協力体制に甚大な影響をもたらしている。それは単に人道・人権・環境・開発などの幅広い分野で、国連や民間支援団体の人員削減や活動中止が始まっているだけではない。アフリカでは、援助の停止によって紛争とその被害が一層拡大するだろうという懸念が高まっている。本稿で注目しているコンゴ民主共和国とスーダンでは、内乱が激化している最中に援助が打ち切られる。地域機構や近隣諸国による調停も進展を見せないまま、両国では内戦が続くことが危惧されている。本稿では第二次トランプ政権の対外援助削減がアフリカの平和に与える影響を、コンゴ民主共和国およびスーダンの最新動向の分析を通して、その中長期的展望を論じる。

アフリカにおける米国海外援助停止の影響

 これまで米国は、OECD(経済協力開発機構)の開発援助供与国として(すなわち非加盟国の中国とロシアと除いて)アフリカにおける最大援助国だった(図1)。コンゴ民主共和国およびスーダンにおいても、米国は2024年の人道支援総額のそれぞれ66.6%と44.8%を担う筆頭ドナーであった[1]。両国で米国の対外援助を担うUSAIDは主に食糧支援や保健衛生に力を入れてきた[2]。USAIDの解体および支援の停止は、これまで築き上げてきた紛争・貧困地域における最低限の医療や栄養状態の確保を困難にさせるだけでなく、現地で援助活動を支えてきた非営利団体の存続も脅しており、人道援助体制そのものが揺らいでいる。

図1:地域別主要ドナー国実績

図1:地域別主要ドナー国実績
出典:『2024年版 開発協力白書』2025年3月、23頁。

 さらに米国の対外援助停止・縮小は、国際機関にも大きな打撃を与えている。米国はこの10年間、人道支援分野ではWFP(国連世界食糧計画)、UNHCR(国連高騰難民弁務官事務所)、UNICEF(国連児童基金)、IOM(国際移住機関)の活動を資金面から大きく支えていた(図2)。これらは戦火や暴力を逃れる難民・避難民・子どもへの緊急援助を担っている機関で、コンゴ民主共和国やスーダンなど緊急援助が必要な地域には欠かせない存在である。しかし、トランプ政権の決定を受けて、予算削減のため世界中に展開しているスタッフを20〜30%ほど解雇する予定だという[3]。国連本部もすでに加盟国の分担金滞納で深刻な資金不足に陥っており、国連予算の20%を担う米国がもし分担金も停止・削減の対象とした場合、国連全体の機能がますます低下するだろう。

図2:米国の国際機関に対する非軍事対外援助(2013−2022年累計)

図2:米国の国際機関に対する非軍事対外援助(2013−2022年累計)
出典:Nick M. Brown, “Foreign Assistance: Where Does the Money Go?” Congressional Research Service, August 8, 2024.

 このように第二次トランプ政権の対外政策転換は、国際社会全体に大きな影響を与えている。そして、時を同じくして、米国の人道支援の優先国だったコンゴ民主共和国とスーダンにおける内戦が新たな局面を迎えている。

コンゴ民主共和国の内戦拡大

 30年以上武力紛争状態が続いているコンゴ民主共和国東部では、2025年1月に反政府組織が主要地域を制圧した。これに対して、国際機関や地域機構に安定化を支援する力はなく、治安回復のために派遣していた部隊の撤退・縮小をしている。コンゴ民主共和国の情勢は、1994年の隣国ルワンダでの内戦・虐殺・大規模難民流出の影響で不安定化し、1998年からはアンゴラ・ブルンジ・ルワンダ・ウガンダなどを交えた地域戦争へと発展した。度重なる和平プロセスを経て、2002年に暫定政権が誕生し、国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)の支援のもとに選挙や武装解除なども行われたが、コバルト、コルタン、銅、金などの天然資源が豊富な東部では和平合意の実施が不十分として反政府勢力が武装抗争を繰り返してきた。

 その中でもルワンダの支援を受けているとされるM23が2025年1月に東部・北キブ州の州都ゴマを掌握し、続いて南キブ州の州都ブカブも2月に制圧して占領地域で新たな行政体制を設立した。コンゴ民主共和国政府軍とともにこの攻勢に対処するはずのMONUSCOはすでに縮小方向にあり、南キブ州からも2024年に撤退している。代わりにM23対策としてコンゴ民主共和国政府が2022年に契約したルーマニアの傭兵部隊300名も2025年1月に東部から撤退した[4]。さらに政府軍を支援していたブルンジも2月に東部から撤退し、また2023年より東部治安改善のために数千人の部隊を派遣していた南部アフリカ開発共同体(SADC)も3月に撤退を決定している[5]。一方でM23を支援するウガンダは現在も数千人規模の部隊を駐留させていると言われる[6]。

 国連・地域機構・近隣諸国による反乱鎮圧支援の兆しがない中で、和平プロセスも錯綜している。当初アフリカ連合はアンゴラに仲介を求めたが、3月に予定された和平交渉の直前になってM23が不参加を表明しただけではなく、同時期に突如カタールでコンゴ民主共和国とルワンダの大統領が直接交渉を始めたため、アンゴラは調停から離脱した[7]。ルワンダとコンゴ民主共和国の投資国として影響力を持つカタールは4月にコンゴ民主共和国政府とM23が停戦合意を発表した後、米国に調停の主導権を委ねた[8]。同月ワシントンで米国マルコ・ルビオ国務長官在席のもとコンゴ民主共和国とルワンダの大統領が紛争の終結を宣言し、この合意によって米国がコンゴ民主共和国東部の安定化を支援する代償として、米国資本が現地の鉱物資源調達に優先的に進出することが約束された[9]。しかし実際どのように米国がコンゴ民主共和国東部の安定化を図っていくのかは不明である。

スーダンの内戦拡大

 2023年4月に首都ハルツームで勃発したスーダン軍(SAF)と迅速支援部隊(RSF)の戦闘はダフルールから南スーダンやエチオピアの国境まで広がっている[10]。2013年に軍組織の一部としてSAFの下位に置かれたRSFは、10年後の2023年にはかつて上部組織であったSAFをハルツームからポート・スーダンに退却させ、さらにダルフールのほぼ全域を制圧した。これに対してSAFは2024年後半以降、民兵やイスラム組織、さらには過去軍事制圧の対象であったダルフールの反乱組織とも連携して反撃に転じた[11]。現在においてもダルフールでは熾烈な戦闘が続いており、予断を許さない状況にある。2025年3月にSAFはハルツームを奪還したが、5月にRSFがSAFの本拠地ポート・スーダンにドローン攻撃を始め、戦局はますます混沌としている。これまで航空戦においては飛行機およびトルコ製ドローンを持つSAFが有利と考えられてきた。しかしRSFはアラブ首長国連邦(UAE)を通じて中国製ドローンを入手したと言われている[12]。これによってスーダン政府はUAEとの外交断絶を発表している。

 コンゴ民主共和国と同様に、国連・地域機構・近隣諸国による安定化や和平プロセス支援に進展は見られない。2023年の内乱勃発後、ほとんどの大使館はスーダンを去り、同年12月には国連とAUのハイブリッドPKOだった国連ダルフール派遣団(UNAMID)の後任ミッションとなった国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)も撤退した。サウジアラビアと米国、また東アフリカ諸国を中心とした政府間開発機構(IGAD)が和平交渉の仲介を試みたが、いずれも失敗に終わっている。2023年5月にサウジアラビアで初めて行われた和平会談でSAFとRSFは原則的に紛争解決に賛同したものの、2024年8月にスイスで米国とサウジアラビアの主導で開かれた和平交渉の場には両者とも出席しなかった[13]。2024年12月にはトルコがSAFとUAE・RSFの調停を申し出たが、2025年4月にロンドンで行われたスーダンの和平プロセスを模索する会合ではSAFを支持するエジプトおよびサウジアラビアとRSFを支援するUAEの対立のため共同声明にすら至らなかった[14]。RSFが支配するダルフールの金鉱からの金がUAEに流れる一方、サウジアラビアやクウェートなどの湾岸諸国はSAFが抑えている東部の農業地帯や港湾の借款や水力発電に投資している[15]。特にサウジアラビアからの出資は過去10年で35億ドルにのぼるという。5月にリヤドでトランプ大統領出席のもと開かれた米国・湾岸首脳会談の席で、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子は今後も米国とスーダンの和平プロセスを模索し続けると述べているが[16]、トランプ大統領自身はこれまで特にスーダンに関心を示していない[17]。

コンゴ民主共和国とスーダンの中長期的展望

 コンゴ民主共和国、スーダンともに政府軍と反乱軍の勢力が拮抗し、事実上の国家分裂状態にある中で、一般市民に多大な被害が出ている。その一方で国際支援体制も危機的状況にある。世界最大規模だった米国の対外支援を培ってきたUSAIDの職員1万人が15人程度を残して解雇された。もし数年後に政権交代を経てUSAIDが再建されたとしても、世界中の現地パートナーも含めて支援枠組みの能力再構築にはさらなる時間がかかるだろう[18]。

 援助や介入といった外圧がない中、コンゴ民主共和国でもスーダンでも和平プロセスが近い将来に成功する、あるいはどちらかの軍事的圧勝によって内戦が終結するという可能性は低い。恐らくコンゴ民主共和国東部ではM23が、スーダンではダルフールでRSFが、中央政府とは一線を画して実質統治をする形の現状維持が続くのではないだろうか。M23もRSFも、さらにはコンゴ民主共和国軍もSAFも、決して一枚岩ではなく、それぞれの支援部族や民兵などとの連携で戦線を保っている。現地での統治体系は恐らくもっと細分化されていると考えられる。よって、各部族や武装団体が支配するエリアがモザイクのようにある程度の均衡を保つ状態が現実的な目標だろう。和平交渉が進むとするならば、そのようなバランス・オブ・パワー的な安定化で外部からの投資を可能にする方向で考えられる。

 第二次トランプ政権の海外援助停止とUSAID解体によって、途上国における中国の影響力は相対的にさらに増大すると思われる[19]。ただし中国が米国の代わりを担うという構図とはならないだろう。USAIDが主に保健衛生や教育などプロジェクト・ベースで支援を提供してきたのに対し、中国は大型のインフラ投資が多く、また金額的にも経済成長が緩やかになっている中国が海外援助を大規模に増加することは考えにくい。ヨーロッパ諸国でも選挙で極右政党が台頭し、排他的感情が高まる中、海外支援を拡大する余裕がないのが現状だ。よってトランプ政権誕生以前から始まっていたアフリカの脱・西欧、国際支援の世界的緊縮、国連などの国際機関の衰退が中長期的に続くと予測される。

 日本の経済も停滞が続く中、対外援助の増額は難しいかもしれないが、保健衛生の分野など特に米国撤退の打撃が厳しい分野を優先するなどの対処は可能ではないだろうか。そうすることで米国の援助縮小を補填する形で日本外交の「ソフト・パワー」を発揮できる機会となることも期待できる。

(2025/06/10)

脚注

  1. 1 “Democratic Republic of the Congo 2024,” OCHA Financial Tracking Service, accessed June 5, 2025 ; “Sudan 2024,” OCHA Financial Tracking Service, accessed June 5, 2025.
  2. 2 Jacques Mukena, “USAID Suspension’s Impact on Critical Sector Funding in the DRC,” Center on International Cooperation, March 26, 2025.
  3. 3 Gavin Blackburn, “UN Agencies Slash Jobs, Warn of Impact to Services amid US Funding Cuts, Officials Say,” Euronews, April 29, 2025; Farnaz Fassihi, “U.N. Orders Agencies to Find Budget Cuts, Including via Staff Relocations From N.Y,” The New York Times, April 30, 2025.
  4. 4 Ian Wafula, “DR Congo’s Failed Gamble on Romanian Mercenaries,” BBC News, January 31, 2025.
  5. 5 Antonio Cascais, “Blue Helmets in Eastern Congo: Unloved, but Still Needed,” Deutsche Welle, February 1, 2025.
  6. 6 Patricia Huon, “After the Fall of Goma and Bukavu, Where Is DR Congo’s M23 War Headed?,” The New Humanitarian, March 20, 2025.
  7. 7 武内進一「コンゴ民主共和国東部紛争和平プロセスの複線化」現代アフリカ地域研究センター、2025年4月12日。
  8. 8 David Thomas, “African-Led Diplomacy Struggles to Resolve DRC War,” African Business, May 2, 2025.
  9. 9 Richard Moncrieff, “A New Great Lakes Peace Pledge Marks Progress but Questions Remain,” Crisis Group, April 30, 2025.
  10. 10 坂根宏治「過去40年で最も深刻な人道危機に直面するスーダン―停戦と支援再開への道はあるのか?」笹川平和財団IINA、2024年8月5日。
  11. 11 “Sudan’s Calamitous War: Finding a Path toward Peace,” Crisis Group, January 21, 2025.
  12. 12 “UAE Denies Supplying Sudan Paramilitaries with Chinese Arms,” Al Jazeera, May 9, 2025.
  13. 13 Jehanne Henry, “Two Years on, Sudan’s War Seems Further than Ever from Resolution. Can US Involvement Help Peace Efforts?,” Middle East Institute, April 14, 2025.
  14. 14 Alan Boswell, “London Conference Puts Paralysed Sudan Peace Efforts on Display,” Crisis Group, April 18, 2025.
  15. 15 Selma El Obeid, “Gulf States: A Paradoxical Economic Lifeline for Sudan,” Ifri Studies, September 2024.
  16. 16 SudanTribune, “Saudi Arabia Vows to Pursue Sudan Peace Efforts via Jeddah Talks,” Sudan Tribune, May 14, 2025.
  17. 17 Munzoul Assal, “Trump’s Sudan Snub: Are We Better off without Him?,” CMI - Chr. Michelsen Institute, February 2025.
  18. 18 “Final Cuts Will Eliminate U.S. Aid Agency in All but Name,” The New York Times, March 28, 2025.
  19. 19 Peter Hille, “What Do USAID Cutbacks Mean for Development Aid?,” Deutsche Welle, February 7, 2025.