2024年は世界人口の半分以上が投票すると言われる「選挙イヤー」である。アフリカでも全54カ国のうち約3分の1にあたる19カ国で選挙が予定されている。近年アフリカ諸国では、過激派組織の台頭、クーデターの多発・再発、そしてマリなどの不安定地域から撤退した国連平和維持活動(PKO)や旧宗主国フランスに代わるロシアの進出などが顕著となっている。これらは民主制度の後退とも捉えられる。そうした状況のアフリカで、何が選挙の焦点となり、その結果はどのようなものが予測されるだろうか。そしてそれはアフリカの安定化と世界情勢にどのような影響を与えるだろうか。本稿では今年のアフリカでの選挙の動向と、地域紛争や国際政治との関わりを論ずる。

図1:2024年に選挙が予定されているアフリカ諸国

出典:Joseph Siegle and Candace Cook, “Africa’s 2024 Elections: Challenges and Opportunities to Regain Democratic Momentum,” Africa Center for Strategic Studies, January 17, 2024.

地域機構は民主化後退を止められるのか(西アフリカ)

 近年クーデターが多発している西アフリカでは、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)が地域機構として民政復帰を促す外交努力を行なってきた。ECOWASはクーデターが2度続いたマリとブルキナファソに対して経済制裁を課す一方で、早期の選挙実施を要求したが、両国の暫定軍事政権は2024年1月にECOWASからの脱退を発表しただけではなく、2024年前半に予定されていた選挙の延期を決定している[1]。一方その隣国ギニアでは、クーデター後にECOWASが仲介に入り、2024年12月までに選挙を実施し暫定軍事政権から文民政権へ政権移譲を行うという合意がばれている。しかし2024年に入って暫定軍事政権が内閣解散・改造を行なったり首相が選挙の延期を匂わせたりと、状況は予断を許さない[2]。ギニアではマリ・ブルキナファソと一線を画し文民政権への移行が実現するのか。それはECOWASの地域機構としての影響力を問うことにもなるだろう。

 政治的に安定しているとされていたセネガルでも、2024年2月に予定されていた大統領選挙の3週間前に選挙の無期限延期が発表されるなど、民主制度に揺らぎの兆候が見えた。これに対してもECOWASはアフリカ連合(AU)と共に対話による解決を促した。その結果、セネガルは3月に無事大統領選を終え、野党候補が57%の得票で当選し12年ぶりの与野党交代となった。新大統領ディオマイ・ファイ氏はセネガルの国家元首としては史上最年少の44歳で、自党の党首ウスマン・ソンコ氏を首相に任命しているが、ソンコ氏は反仏主義で知られており、またECOWASに対しても地域の分断を許したなどと批判の声をあげている[3]。選挙で長期政権が敗北するということは、旧宗主国や地域機構といった既存の組織・枠組みからも民意が離れていることを示唆している。その流れが新たな国際協調へと繋がるためには、国連・地域機構・ドナー国とセネガル新政権や世論との関係再構築が重要になってくる。

 選挙によって平和裡に政権交代を繰り返してきたためアフリカ民主主義のモデルと呼ばれるガーナでも12月に大統領選が予定されており、与党・最大野党間で接戦が予測されている。ガーナの選挙が平和裡に行われるかどうかは、西アフリカにおける民主政治の要が今後どうなるのかを占うものとなる。

長期与党支配の行方は(南ア、モザンビーク、ルワンダ)

 特定政権の長期化は様々な形で選挙の意義・枠組みを蝕んでしまうリスクを孕む。2024年5月に行われた南アの総選挙では、アパルトヘイト(人種隔離)終焉以来30年政権を握っていた与党「アフリカ民族会議」(ANC)が初めて過半数割れ(42%)した。経済格差の拡大や汚職の蔓延で徐々に支持率を失ってきた結果である。事実、2018年には汚職疑惑をきっかけにANCのズマ氏が大統領職辞任に追い込まれている。しかしズマ氏は新たに2023年12月に結成された「民族の槍」(MK)から出馬した。そしてロシアの情報操作ネットワークを通じてズマ氏支持のプロパガンダが発信されている[4]。2021年に法廷侮辱罪で禁錮1年3ヶ月の実刑判決を受けているズマ氏は憲法裁判所によって出馬資格がないと選挙直前に判断されたが、MKの得票率は12.4%で、最大野党の民主同盟(DA)21.6%には劣るものの、極左的政党「経済的解放の闘士」(EFF)の10.8%を上回っている。ANCは第1党の座は維持するものの連立政権を余儀なくされるため、今後の南アの内政・外交政策に不確定要素が増えるだろう。またズマ氏の支持基盤を中心に今後もロシアの情報操作が続くことも懸念される[5]。

 一方で隣国モザンビークでは、2024年10月に予定されている大統領選・総選挙を前に2023年10月に地方選挙が行われたが、全65地域の選挙で与党フレリモが64戦勝利という異様な結果に終わっている。これには速報では野党レナモが勝利したとされる地域も含まれたため、レナモ支持者による大規模な抗議デモが起こったが、警察に鎮圧され死亡者も出ている[6]。大統領選の結果も同じくフレリモによる事実上の一党支配となる可能性が高い。同じく一党支配が長く続くルワンダでも7月に大統領選が予定されているが、前回2017年に99%の得票で当選した現カガメ大統領の再選は間違いがない。こういった強権化に伴うリスクは人権侵害の懸念や民主政治の衰えだけではない。歴史を遡ればコンゴ民主共和国やウガンダなどで独裁政治が反乱に繋がったという例もある。また抑圧された不満分子が過激化する恐れもある。既にモザンビークでは、レナモの地盤である北部でイスラム国家に繋がる過激派組織が台頭し、2021年よりモザンビーク軍および南部アフリカ開発共同体(SADC)待機軍の一部としてルワンダ・南アが出兵し鎮圧にあたっている[7]。ルワンダ国内でも、このモザンビーク派兵への報復措置として、首都キガリでテロ未遂事件が起こっている[8]。モザンビーク・ルワンダにおける更なる権力の集中は、長期的な不安定化に繋がる可能性がある。

紛争地域での選挙(ソマリランド、南スーダン)

 また民主化の歴史がまだ浅い国では、選挙が更なる軋轢を生む場合もある。1991年にソマリアから一方的に独立を宣言したソマリランドでは、大統領選が11月に予定され、現職が二期目を目指す。これまで2回行われた大統領選挙では与野党の交代があり、また2021年の地方選挙・下院選挙も接戦だったため、ソマリランドは過激派組織の脅威化にあるソマリアより政治的に安定し民主制度が根付いていると言われてきた。しかし境界線地帯ではソマリア回帰を望む部族と戦闘状態にあり、選挙を前に反乱分子に対する軍事制圧の可能性は否定できない[9]。

 さらに2024年1月には、エチオピアが国連加盟国としては初めてソマリランドを正式に国家承認(これまでソマリランド国家承認は台湾のみ)する対価として、ソマリランドが沿岸20キロ地帯を港湾商業および軍事施設としてエチオピアに50年間貸与する覚書が二者間で交わされたことで、不安定な地域関係に更なる亀裂が入った[10]。エチオピアのソマリランド承認にソマリアが猛反対していることに加え、エチオピアと競争関係にあるエジプト、国境紛争が解決していないエリトリア、そして紅海からアラビア海の中継地点として開発を進めてきたジブチが、エチオピアが海への出口を得ることに反発している[11]。また、ソマリランドの港湾整備に資金提供しているアラブ首長国連邦 (UAE)がアフリカへの影響力を増すことに対しても、トルコやサウジアラビアが神経を尖らせている[12]。つまり、ソマリランドの選挙の結果は、未承認国家の民主政治の行方だけではなく、アフリカ・湾岸地域の国際関係にも多大な影響を及ぼすことになる。

 2013年の内乱勃発より不安定状態が続く南スーダンでも、2018年の「南スーダンにおける衝突の解決に関する再活性化された合意」に基づき大統領選が2022年に予定されていたが、2023年まで延期され、そして2024年12月まで再度延期されている。選挙実施に向けての準備は殆ど進んでいない[13]。反政府側は2018年合意の実施が遅れたままでの選挙に難色を示し、また政権側は反政府側が選挙実施を妨害していると非難し、膠着状態が続いている[14]。

 これから雨季に入る南スーダンで6ヶ月後に選挙を行うインフラ整備はほぼ不可能である。また2018年の合意を調停したスーダンが2023年4月より内戦で統治崩壊状態にあるだけではなく、上記の通りエチオピアなどの近隣諸国も南スーダンへの平和へ向けて地域的協力関係を築くような状況ではない。また南スーダン政府は国連南スーダン共和国ミッション(UNMISS)を撤収させることも検討している。選挙が更に遅れて、2018年の合意自体が空洞化した場合、南スーダン紛争の長期化・激化を防げる具体策は見当たらない。

おわりに

 2024年のアフリカの選挙にはいくつかのパターンが見られる。(1)強権化の継続・拡大(モザンビーク、ルワンダ)、(2)旧宗主国との同盟も含む既存体制への反感(セネガル、南ア)、そして(3)地域協力体制の低迷(マリ、ブルキナファソ、ソマリランド、南スーダン)などである。またこれらの選挙の結果から、アフリカの地域大国と考えられてきた南ア、セネガル、エチオピアなどの求心力が弱まる傾向も考えられるだろう。南アでは、ANCの敗因として、対外政策に重点を置き国内問題の対処を怠ったという批判があるため、新連立政権の主眼は外交から内向きへとシフトせざるをえない。エチオピアも、ソマリランドで現職が再選されれば念願のアラビア海進出が現実化する可能性が高まる一方で、それが更なる地勢的対立を生むとなると、その立場は地域安定の要ではなく原因となってしまいかねない。そして既にECOWASやフランスから一定の距離感を見せているセネガル新政権の動向、そしてギニアの選挙の結果によっては、マリやブルキナファソの独自路線に続いて地域機構の役割や紛争介入が再度否定され民政再建が更に困難となることもありえる。

 一方で、ボツワナ、モーリタニア、ナミビアなど、選挙が平和裡かつ民主的に行われている国もある。ナミビアでは11月に大統領選が予定されているが、二期目を満了した現職に代わり現副大統領が初の大統領女性候補として出馬するだけではなく、最有力野党候補も女性で、合計6人の候補のうち最も支持率が高い候補の3人が全員女性である。今後アフリカ地域機構や国連、そしてドナー国にとっては、このような安定地域をいかに守りつつ、既存体制の強権化のリスクを軽減するかが鍵となるだろう。

 これまでアフリカの紛争要素に対する解決策として、「地域の課題はまず地域で」と言われてきた。しかし地域機構がアフリカ諸国にどこまで受け入れられているのか、そして地域機構を率いてきた国がどこまでその役割を背負えるのか、2024年の選挙はその認識そのものが揺らいでいることも示唆している。さらにはアフリカの「地域」はもはやアフリカに限られない。UAE、サウジアラビア、トルコなどの参入による広範囲の競争が、ソマリランドなどの局地政治体系にも影響を及ぼしている。

 おそらく今は民主化・国際協力といった自由主義が停滞し、それに代わる国家間関係の在り方を模索する過渡期なのだろう。特にアフリカでは、旧宗主国もそれに代わろうとしているロシアなども、現地の既存政権と連携することで影響力を行使してきた。しかし定期的な選挙による政権交代があった方が民主主義の浸透度が高く、デモの激化や反乱の勃発を防ぐことができ、長期的な政治的安定が確保できるとするならば、政権を握っている一部の勢力と国家間協力を築いてきたこと自体に矛盾があったということになる。日本も含めドナー・パートナーの役割は、アフリカ諸国と多層的な関わり方を模索していくこと、例えば研究者や留学生の積極的な受け入れや、災害対策支援など政府だけではなく一般市民にも恩恵をもたらす分野での協力など、多様な人的交流・育成を目指すことが肝要ではないだろうか。

(2024/06/10)

脚注

  1. 1 Damien Glez, “Opinion: Elections in Mali and Burkina Faso Postponed for Forever (and a Day),” The Africa Report, May 6, 2024.
  2. 2 “Guinea Opposition Demands Return to Civilian Rule,” TRT Afrika, April 2, 2024.
  3. 3 Mark Banchereau, “Senegal’s New Prime Minister Criticizes French Military Presence in the West African Country,” AP News, May 17, 2024.
  4. 4 African Digital Democracy Observatory, “Unravel South Africa’s Election Chaos and Zuma’s Influence,” May 9, 2024.
  5. 5 The Africa Center for Strategic Studies, “Mapping a Surge of Disinformation in Africa,” March 13, 2024.
  6. 6 Borges Nhamirre, “Fraudulent Municipal Elections Cripple Democracy in Mozambique,” ISS Africa, November 7, 2023.
  7. 7 「モザンビーク北部ジハディストの拠点を奪還」現代アフリカ地域研究センター、2021年8月10日。
  8. 8 外務省「ルワンダ テロ・誘拐情勢」2024年01月31日。
  9. 9 “International Concern as Conflict Grows in Breakaway Somaliland,” Al Jazeera, March 1, 2023.
  10. 10 「エチオピアとソマリランドのMoU署名で地域の緊張高まる」日本貿易振興機構、 2024年1月23日。
  11. 11 Crisis Group, “The Stakes in the Ethiopia-Somaliland Deal,” March 6, 2024.
  12. 12 「港求めるエチオピアから読む中東・アフリカ地政学」Wedge ONLINE, 2024年1月26日。
  13. 13 Jean-Pierre Lacroix (Under-Secretary-General for Peace Operations), “Briefing to the 9564th Meeting of the Security Council,” March 5, 2024.
  14. 14 Selam Tadesse Demissie, “Can Dialogue Rescue South Sudan from a Perpetual Transition?” Institute for Security Studies, April 18, 2024.