はじめに

 日印関係は、2014年に「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」へと関係が格上げされて以降[1]、2019年に外務・防衛閣僚会合(2+2)が立ち上げられ[2]、2024年には「日本国とインドとの間の安全保障協力に関する共同宣言」が改定されるなど、着実にその協力関係が強化されている[3]。2024年の共同宣言では、安全保障・防衛協力のさらなる強化に加え、防衛装備・技術及び経済安全保障など新たな分野においても今後協力していくことが示された。安全保障・防衛の枠組みでは、海上自衛隊とインド海軍による日印海上共同訓練(JIMEX)[4]や多国間演習「マラバール」[5]に代表されるように、海上での安全保障協力を深めている。その背景には、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指したシーレーン防護や航行の自由、海上交通路の安定確保、災害対応といった海洋公共財の維持に関する共通の戦略的関心が存在していた[6]。

 こうした海上共同訓練が積み重ねられていることは、各メディアでも頻繁に報じられており、広く知られている通りである。しかし、あまり注目を集めていないものの、日印防衛協力は海上領域に限られず、陸上においても実績を積み重ねている。

 そこで本稿では、この日印の陸上防衛協力の一例として、陸上自衛隊とインド陸軍の共同訓練である「ダルマ・ガーディアン」を取り上げる。「ダルマ・ガーディアン」の「ダルマ」は、日本語の「達磨」を意味するのではなく、正義、秩序、法などを意味するサンスクリット語に由来する。すなわち、「ダルマ・ガーディアン」はそれらを守護することを意味する名称である。本稿では、2018年に初めて実施されたこの共同訓練がどのような経緯で始まり、どのように実績を積み重ねてきたのかを整理したうえで、日印防衛協力における陸上協力の意義を検討する。

「ダルマ・ガーディアン」の発展

 2018年に「ダルマ・ガーディアン」は初めて実施された。「ダルマ・ガーディアン18」(DG18)は、インド北東部ミゾラム州の対反乱・ジャングル戦学校(CIJWS)において実施され、「インド陸軍との実動訓練を実施して、陸自の対テロに係る戦術技量を向上させるとともに、日印両国の相互理解と信頼関係を促進して日印陸軍種及び両国の関係を強化する」ことを目的にしていた[7]。

 その後も「ダルマ・ガーディアン」は継続的に実施され、最新の2026年2月の訓練を含め、合計7回実施されている。以下の表は、公開資料に基づき、各回の開催時期や実施場所、参加部隊および人員規模、主な訓練目的・内容等を整理したものである。

表:「ダルマ・ガーディアン」の実績と訓練内容

回数(名称) 開催時期 実施場所 参加部隊および人員規模 公表資料で確認できる主な訓練目的・内容
第1回
(DG18)
2018年10月27日~11月18日 インド・ミゾラム州CIJWSおよび周辺 陸自第1師団第32普通科連隊第2中隊約30名、印陸軍第1グルカライフル第6大隊約30名 対テロに係る戦術技量向上、相互理解、信頼関係促進/各種戦術行動、IED対処等
第2回
(DG19)
2019年10月15日~11月5日 インド・ミゾラム州CIJWSおよび周辺 陸自第1師団第34普通科連隊第5中隊約30名、印陸軍ドグラ連隊第18大隊約30名 対テロ等に係る戦術技量向上、相互理解増進、関係強化/至近距離射撃、武器展示、閉所突入、掃討・突入等
第3回
(DG21)
2022年2月27日~3月10日 インド・カルナータカ州ベルガウム 陸自第3師団第36普通科連隊約40名、印陸軍第5歩兵大隊約40名 対テロ等に係る戦術技量向上、連携強化/屋内戦闘射撃、市街地戦闘、ヘリコプターからの特殊降下等
第4回
(DG22)
2023年2月17日~3月2日 日本・饗庭野演習場 第3師団第36普通科連隊約190名、印陸軍第5歩兵大隊約40名 対テロ等に係る戦術技量向上、連携強化/都市部対テロ、屋内射撃、指揮所活動、本部機能・EOD(爆発物処理)部隊等の増強
第5回
(DG23)
2024年2月25日~3月9日 インド・マハジャン・屋外射撃場 陸自第1師団第34普通科連隊約40名、印陸軍第19歩兵大隊約40名 対テロ戦に係る作戦遂行能力、戦術技量向上/テロリストを共同で捜索~撃滅する一連の行動等
第6回
(DG24)
2025年2月24日~3月7日 日本・東富士演習場、朝霞訓練場 陸自第1師団、陸上総隊・中央即応連隊、印陸軍第48歩兵旅団第5大隊約120名(日印計300名)
※陸自の人数は公式資料では未確認
対テロ戦に係る作戦遂行能力・戦術技量向上、相互理解・信頼関係促進/市街地対テロ行動、ヘリボーン、MCVによる火力支援等
第7回
(DG25)
2026年2月24日~3月8日 インド・チャウバティア演習場 陸自第1師団約120名、印陸軍第14ラダックスカウト連隊隷下大隊約120名 対テロ戦に係る作戦遂行能力・戦術技量向上、相互理解・信頼関係促進/対ドローン措置、ISR、包囲・捜索、ヘリボーン、建物突入訓練等

出典:防衛省・陸上自衛隊の各年度のニュースリリース、インド側報道資料等より筆者作成。

 表が示すとおり、実施場所や訓練目的・内容、参加部隊および人員規模等に段階的な変化がみられる。当初は小規模部隊による対テロ戦術の習得や相互理解であったが、近年では部隊規模が拡充し、ヘリボーン、ISR、対ドローン措置、火力支援等を含み、これらを組み合わせたより複雑な訓練が確認されるようになっている。こうした変化は、個別技能の共有にとどまらず、複数の部隊間における役割分担や行動の連接を前提とする内容へと発展してきたことを示している。すなわち、日印の陸上分野における防衛協力は、個別技能の共有を中心とする段階から、任務遂行を前提として複数の作戦機能を組み合わせる内容へと発展してきたものと考えられる。

 DG19の後、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大により2年間訓練は実施されなかった。しかし、2022年にDG21として訓練が再開されたことは、両国間の防衛協力を継続する政治的コミットメントが維持されていたことを示している。

 また、DG22は、初めて日本国内(饗庭野演習場)で実施された。インド陸軍が日本の地形・環境・装備に習熟する機会が生まれ、相互運用性の向上につながる契機となった。また、インド陸軍を日本に招致することは、2022年の「日印外務・防衛閣僚会合(2+2)」の開催で示された「四大臣は、日印間の安保・防衛分野における協力の飛躍的拡大を確認した上で、今後も二国間・多国間の共同訓練を重層的に実施していくこと等で一致しました」[8]という文言にもあるように、この共同訓練が両国の外交・安全保障の枠組みに組み込まれているようにも考えられる。

 最大の変化は、DG23以降の公表資料に「作戦遂行能力」という表現が加わったことである。それ以前の訓練の目的は、「戦術技量の向上」と「相互理解・信頼関係の促進」が中心であった。他方で、DG23以降は、共同捜索・制圧行動、ヘリボーン、ISR、対ドローン措置など、部隊として任務を遂行する過程を重視した訓練内容が確認できる。すなわち、これまで進展してきた変化が、訓練目的の水準においても明確化されつつあると評価できる。もちろん、こうした変化を特定の国際的事象だけで説明することはできない。ただし、DG23以降の時期は、中国による軍事的プレゼンスの拡大やロシアによるウクライナ侵攻があり、日印両国ともに安全保障政策の見直しが進められていた時期とも重なる[9]。

インド太平洋の安全保障への含意

 「ダルマ・ガーディアン」の発展は、インド太平洋における日印防衛協力を考える上で、二つの重要な含意を持つ。

 第一に、日印の防衛協力が海洋分野にとどまらず、陸上分野にも広がりを見せていることだけでなく、相互理解や戦術技量の共有を中心とする段階から、部隊として任務を共同で遂行する段階へと発展していることが指摘できる。これは、日印防衛協力が単なる交流の枠を超え、任務遂行を念頭に置いたより具体的な協力へと進展していることを示唆している。ただし、これは日印両国が同盟型の共同作戦に向かっていることを意味するものではない。インドは戦略的自律性を重視しており、特定の同盟網に全面的に組み込まれることに慎重な立場をとってきた[10]。そのため、日印陸上協力は、制度的統合を前提とするものではなく、継続的な訓練を通じて相互理解や運用上の知見を積み上げるものとして理解する必要がある。

 第二に、こうした協力の蓄積は、将来的な多国間・ミニラテラル協力を支える基盤にもなり得る。日印協力は、日米印、日豪印、さらにはQUAD(日米豪印)を含む広範な安全保障協力の文脈とも接続し得る[11]。ただし、インドとの協力には制度や指揮統制手順、部隊運用の考え方等の違いが存在するため、その接続は自動的に進むものではない。まずは二国間の訓練を通じて、相互理解、戦術技量、作戦遂行能力を着実に高めていくことが重要である。

おわりに

 本稿では、陸上分野の日印防衛協力の例として、共同訓練「ダルマ・ガーディアン」の発展とその意義について検討してきた。同訓練は、2018年の開始以来、コロナ禍による中断を挟みながらも継続され、日本国内での初実施や訓練目的の変化を通じて、徐々に任務遂行を意識した訓練へと発展してきた。特にDG23以降の公表資料において「作戦遂行能力」の向上が明示されるようになったことは、「ダルマ・ガーディアン」が単なる交流や信頼醸成の場にとどまらず、部隊として共同で任務を遂行することを意識した訓練協力へと発展してきたことを示している。

 ただし、この変化を過度に評価することは避けるべきである。日印協力は同盟型の共同作戦に直ちに向かっているわけではなく、制度や指揮統制手順等の違いも大きい。むしろ、「ダルマ・ガーディアン」の意義は、こうした違いを前提としながらも、相互理解、戦術技量、作戦遂行能力を段階的に高めている点にある。インド太平洋における安全保障環境が複雑化する中、日本にとってインドとの防衛協力はますます重要になる。その際に必要なのは、過度に大きな制度構想を掲げることではなく、共同訓練を通じて相互理解、戦術技量、作戦遂行能力を段階的に積み上げることである。「ダルマ・ガーディアン」は、そのような日印陸上協力の現実的な進展を示す事例であり、今後の日印防衛協力を考えるうえで注目すべき訓練である。

備考

 本稿は、2026年3月に開催された「DPG-Sasakawa Peace Foundation Dialogue」における筆者の報告「日印安全保障協力における陸上分野の協力深化」および同対話における議論を踏まえて執筆したものである。Delhi Policy Group and Sasakawa Peace Foundation, “DPG–Sasakawa Peace Foundation (SPF) Dialogue,” March 9, 2026.

(2026/06/19)

脚注

  1. 1 外務省「共同声明 日インド戦略的グローバル・パートナーシップの強化(仮訳)」、2014年9月1日。
  2. 2 外務省「第1回日印外務・防衛閣僚会合」2019年11月30日。
  3. 3 外務省「日本国とインドとの間の安全保障協力に関する共同宣言」2024年8月20日。
  4. 4 JIMEXは2012年に開始され、2025年の共同訓練では、インド海軍との連携強化を目的に、各戦術訓練が行われている。「日印共同訓練(JIMEX25)について」海上自衛隊、2025年10月20日。
  5. 5 マラバールは1992年に米印の2国間訓練として始まり、海上自衛隊は2007年から参加している。2020年からは、日米豪印共同訓練として位置づけられている。2025年度の共同訓練については、海上自衛隊「日米印豪共同訓練(マラバール2025)について」2025年11月10日を参照のこと。
  6. 6 日印防衛協力が海洋分野を中心に発展してきた背景としては、これらの海洋公共財への関心に加え、中国の台頭やインド太平洋を巡る戦略環境の変化がその背景にあることが指摘されている。G. V. C. ナイドゥ・石田康之「インド太平洋時代の日印防衛協力――日印戦略的パートナーシップの構築と進展」『国際安全保障』第49巻第3号、2021年12月、pp.99-101。
  7. 7 陸上幕僚監部「平成30年度 インドにおけるインド陸軍との実動訓練(ダルマ・ガーディアン18)の概要について」2018年10月19日。
  8. 8 防衛省「第2回日印外務・防衛閣僚会合(「2+2」)について」2022年9月8日。
  9. 9 Kamakshi Wason and Satoru Nagao, “Japan–India Strategic Evolution in the Indo-Pacific: Partnerships, Security, and Regional Order,” Journal of Indo-Pacific Affairs, August 12, 2025.
  10. 10 Council on Foreign Relations (CFR), “India Between Superpowers: Strategic Autonomy in the Shadow of a Pacific Conflict,” December 16, 2024.
  11. 11 インド太平洋におけるミニラテラル協力の意義については、たとえば、小熊真也「インド太平洋地域におけるミニラテラル協力の行方」『防衛研究所NIDSコメンタリー』第377号、2025年5月20日を参照のこと。