はじめに

近年、韓国は世界で最も急成長している防衛輸出国の1つとして台頭し、国際舞台で注目を集めている。自国をグローバル中枢国家の地位に高めるというビジョンを掲げる尹錫悦政権は、外交、安全保障、貿易、技術、産業のさまざまな側面を対象とする18の政策を提唱してきた[1]。これらの主要政策の中で、防衛輸出の強化は尹大統領の主要な取り組みの1つとして浮上している。尹大統領は新年の辞において、韓国の防衛産業輸出額が年平均150億ドルの節目を超えたことを高らかに表明し、2027年までに世界の4大防衛輸出国の一角を占めるという韓国の確固たる目標を再確認した[2]。実際、2000年には31位であった韓国は、2019年~2023年の期間の防衛輸出で世界上位10カ国入りを果たしている[3]。

この飛躍的な成長の背景にあるのが情勢不安の高まりと軍事費の急増を特徴とする世界の安全保障環境の変化であり、ロシアの侵攻に伴い現在も続くウクライナ戦争により一層拍車がかかっている。こうした状況下において韓国は防衛産業で成功を収めてきたが、韓国と同水準の国力で達成できた国は数少ない。

本稿では、主要な実績と韓国が世界の武器貿易における急成長国として脚光を浴びるに至った内外の重要要因について掘り下げる。さらに、武器売却は単なる商取引にとどまらず、国家の戦略観と地政学の側面も含むという認識の下、韓国が直面する課題について検討する。

グローバル中枢国家と防衛輸出

「グローバル中枢国家」は尹政権にとって中心となるビジョンであり、国家目標の指針となっているものの、幾分曖昧さをはらんでおり、解釈の余地が残されている。尹大統領は、「自由と連帯の精神に根差したグローバル中枢国家として、大韓民国は急速に変化する安全保障環境に積極的に対応するよう努めていく」と明言した[4]。実質的に、正式名称である「自由・平和・繁栄に寄与するグローバル中枢国家」は、韓国の主要な目標を端的に表したものである。すなわち、韓国は国際問題においてより大きな役割を担い、同志国との緊密な協力の下、「自由、人権や法の支配」といった普遍的な価値観を推進するということだ[5]。尹大統領の「グローバル中枢国家」ビジョンは、自由主義的なレトリックを韓国の現実的な外交路線に組み込むことで、実質的に「価値観外交」を包含するものとなっている[6]。この文脈において、防衛輸出は、経済的利益や外交関係の発展などの具体的成果を示す上で大きな役割を果たすとともに、擁護を約束した価値観へのコミットメントを強調する「グローバル中枢国家」の実現に不可欠である。こうした側面は、尹大統領の権力基盤を強化し、国内外においてこのビジョンを正当化するにあたって欠かすことができない。

韓国政府は防衛輸出を通じて確かに一定の誇るべき成果を上げてきた。尹政権の国家安全保障戦略では、韓国を「防衛産業大国」とうたっており、防衛輸出の拡大により2022年の輸出額は過去最高を記録したとしている[7]。2023年には、韓国の武器輸出は約140億ドルに達したが、2022年の173億ドルからは減少した[8]。このように前年比では減少したものの、2023年の韓国の防衛輸出は多角化の面で成功を収めた。2023年の輸出先は従来の4カ国から12カ国に拡大し、輸出された兵器システムの種類も6種類から12種類に倍増した[9]。韓国はその多様な顧客基盤を拡大し、今では豪州から東南アジア、中東、欧州諸国など複数の地域にまたがって、戦車、榴弾砲、戦闘機、多連装ロケットシステム、装甲車、外洋哨戒艦などさまざまな品目を販売している。さらに、武器売却は、装備品や部品の供与、訓練プログラムの実施、共同開発の取り組みを含んでおり、兵器の販売にとどまらず、韓国の防衛協力を促進する上でますます重要な役割を果たしている[10]。

2024年については、韓国政府は武器輸出額を200億ドルにするという野心的な目標を掲げている。この目標は、世界の防衛市場における韓国の地位の向上を反映するとともに、同志国と協力して国際場裏でより影響力のある役割を果たすという同国の戦略的ビジョンと合致している。

防衛輸出がグローバル中枢国家としての韓国の新たな役割を国際社会にアピールする上で大きく寄与してきたことは明らかである。韓国は紛争当事国に対する兵器供与を制限する政策を取っているため、ウクライナ支援にあたり殺傷力のある兵器を直接提供してはいないが、米国に155mm砲弾を輸出することで米国によるウクライナへの弾薬供与を支援する一方、ポーランドに対しては韓国製部品を組み込んだクラブ榴弾砲の対ウクライナ輸出を承認した。さらに、韓国による近年の北大西洋条約機構(NATO)諸国への武器輸出は、対ウクライナ支援によりNATOの軍事力が制約を受ける中、その強化に寄与している[11]。実質的に、韓国の武器輸出は間接的にウクライナの防衛に貢献しており、同志国を支援し、共通の価値を支える上で韓国の役割が大きくなっていることを示している。

タイミングの良さか、それとも別の要因か

タイミングが完璧であったことが、韓国の防衛輸出の成功において極めて重要な役割を果たした。世界の安全保障環境は不安定さを増しているため、世界の国防費はかつてない水準に達しており、世界的に武器売却が促進されている。2023年の世界の軍事費の総額は過去最高の2兆2,000億ドルに達し、前年比で9%増加した。今年の軍事費は記録をさらに塗り替える見通しである[12]。ウクライナで戦争が続く中、一部の欧州諸国では、東部前線で高まる需要に対応し、自国の国防を強化するための生産能力が不足している。ウクライナ侵攻に伴う対露制裁により、ロシアによる武器輸出は困難になっている。かつてロシアにとって重要な顧客であったベトナムは、5年間でロシア製兵器の割合が22%から16%に減少した[13]。

このような状況の中で韓国はチャンスをつかんだのである。朝鮮戦争以来、北朝鮮による脅威が続いているため、韓国は防衛産業強化に多大な努力を費やしてきた。政府と企業の緊密な協力に基づき、超党派の支持を受けて、ハンファ・エアロスペース、韓国航空宇宙産業(KAI)、現代ロテム、LIGネクスワンなどの主要な兵器メーカーは、今や世界の防衛市場において存在感を示すのに十分な競争力をつけている[14]。

韓国の技術力、大量生産能力、迅速な納期対応、競争力のある価格設定、NATOとの兵器の相互運用性、信頼できる販売後の保守・整備のおかげで、韓国は世界の顧客にとって魅力的な選択肢となっている[15]。さらに、韓国は現地生産や共同開発を提案することで、巧みに顧客の要請に応えるとともに、手厚い技術移転の機会を提供している。2023年の大きな節目となったのは、ハンファ・エアロスペースがレッドバック歩兵戦闘車129両を供給する24億ドルの契約を豪州と締結したことである。この契約は、K21歩兵戦闘車を豪州向けのAS21レッドバック歩兵戦闘車に仕様変更し、豪州国内で生産することにより地元経済と国防産業に恩恵をもたらすことを通じて、韓国が顧客に応えられることを示した[16]。

尹政権がグローバル中枢国家のビジョンに沿って防衛輸出促進のために相当な外交支援を行うと同時に、技術的・財政的・制度的支援を提供したことも特筆に値する。実際、尹政権の国家安全保障戦略には、防衛輸出は安全保障、外交、政治、国家間の相互信頼と密接に関連しているという認識の下、防衛輸出拡大を目指した「政府を挙げた支援体制」を確立するという韓国政府のコミットメントが反映されている[17]。

韓国政府は、防衛産業分野で米国との連携強化に向けた取り組みを強化している。昨年10月のソウル国際航空宇宙および防衛産業展示会(ADEX)では、KF-21戦闘機が米軍の主要軍用機と並んで初の公開デモ飛行を行ったほか、米軍のB-52爆撃機が上空飛行を行った上で韓国の空軍基地に初めて着陸した[18]。これらの出来事は、北朝鮮に対する抑止のメッセージを強化するだけでなく、防衛産業における韓国の競争力強化にもつながっており、韓国の存在感と説得力が高まった。さらに、韓国は米国との間で相互の防衛調達(RDP)に関する協定を締結する可能性があるが、その目的は防衛分野のサプライチェーンにおけるパートナーシップを強化することにあり、協定締結による米国やその同盟国・パートナー国の市場へのアクセス拡大を通じて防衛輸出を促進することが期待される[19]。

尹大統領は、安全保障パートナーシップを強化し、韓国の防衛産業の知名度を高めるために外遊を巧みに活用しており、訪問国だけでなく世界中の顧客に向けて防衛産業を宣伝している。こうしたアプローチの好例となっているのがアラブ首長国連邦(UAE)との戦略防衛協力および多目的輸送機の共同開発プロジェクトに関する覚書や英国との初の共同防衛輸出に関する覚書であり、いずれも両国への訪問中に締結されたものである。さらに、尹大統領が欧州、東南アジア、中東の主要武器市場を訪問した際、兵器メーカーを同行させて売り込みを図ったことは、韓国がこうした側面で積極的な取り組みを行っていることを一層浮き彫りにしている。

課題

ウクライナ戦争、イスラエル・ガザ紛争、台湾海峡をめぐる緊張、イランの代理勢力の活発化などのさまざまな不安定要素を背景に、今年の世界の武器市場は拡大する見通しであり、韓国は世界市場で足場を固める態勢が整っている。欧州、東南アジア、中東には潜在的な輸出機会がある上、ポーランドとの新規契約の交渉も現在進んでいる。韓国国会は韓国輸出入銀行の資本限度額を15兆ウォンから25兆ウォン(187億ドル)に引き上げる法案を可決しており、韓国の防衛輸出は一層促進されるだろう。

しかし、現在こそ成功を収めているものの、韓国の防衛産業の未来は必ずしも明るいとはいえないかもしれない。韓国には防衛技術の独自開発能力が不足しているため、その基幹技術を米国に大きく依存している[20]。また、韓国の防衛輸出を阻害しかねない不測の事態が生じるおそれもある。例えば、インドネシアとのKF-21戦闘機共同開発プログラムでは、インドネシア側の技術者がKF-21の秘密情報を漏えいしたほか、分担金未納分が1兆ウォン近くに達するなどの課題に直面している[21] 。欧州連合(EU)初の防衛産業戦略に記載されているように、EUは欧州域内の防衛産業の連携強化に向けた強い意向を持っており、韓国が欧州の武器市場にアクセスする上で課題となる可能性がある[22]。何よりも、韓国の防衛産業に対するアプローチは短期的な成果に偏りがちで、包括的な長期戦略を欠いている。防衛産業は国家のビジョンと政治的方向性を表す広告塔の役割を果たしている。すなわち、防衛産業は地政学と相互に複雑に結びついており、武器取引に伴う単なる経済的利益を超越しているのである。この点に関連して、韓国は防衛産業輸出を熱心に推進しているが、グローバル中枢国家としてのメッセージ発信と役割との間で矛盾をはらんでいるという課題に直面している。

尹大統領は、防衛産業は「平和産業」であり、専ら「価値観を共有し、国際秩序を尊重する」国々を強化するためのものであると明言した[23]。しかし、昨年5月、駐韓ミャンマー大使が韓国の兵器PRイベントに参加し、K2戦車の上に乗っているところを写真に撮られたことは、普遍的な価値観の擁護に尽力する主要防衛輸出国としての韓国の信頼性に疑問を投げかけるものである。加えて、批判の声こそ広がってはいないものの、UAE、エジプト、サウジアラビアなど、米国の主要なパートナーでありながら、自由民主主義の模範例とは言い難い国々に武器を積極的に売却することは、グローバル中枢国家であるという韓国のメッセージに矛盾があることを示唆しているのかもしれない。

さらに、韓国が世界の武器貿易におけるプレゼンスを拡大するにつれ、これまで意図的に深くは関与してこなかった特定の安全保障問題や領域において、より大きな役割を担うよう求める圧力が高まることは避けられない。そのことは、ロシア、北朝鮮、中国といったさまざまなステークホルダーを巻き込み、韓国がかじ取りを行う地域の安全保障ダイナミクスをいずれ複雑化させることになる。官民の緊密な協力を通じて製品の質を高め、体系的な改善を図る取り組みを強化することも重要であるが、韓国は防衛輸出を通じて発信・追求しようとしているグローバル中枢国家としてのナラティブと目標を洗練させることにも時間をかけるべきである。

(2024/05/10)

*この論考は英語でもお読みいただけます。
Global Pivotal State: South Korea’s ascendance in defense exports

脚注

  1. 1 Office for Government Policy Coordination, Prime Minister’s Secretariat, “Yoonsukyeol jeongbu 120dae gugjeong-gwaje [120 National key policy goals of the Yoon Suk Yeol government]”, p.9.(2024年4月2日閲覧).
  2. 2 Office of the President Republic of Korea, “New Year Address to the Nation by President Yoon Suk Yeol”, 1 January 2024.(2024年3月15日閲覧).
  3. 3 以下を参照。
    SIPRI, “Trends in International Arms Transfers, 2023”, March 2024.(2024年4月2日閲覧).
  4. 4 Office of National Security, Republic of Korea, National Security Strategy, June 2023, Preface.(2024年3月15日閲覧).
  5. 5 Office of National Security, June 2023, pp.12.-13; The government of the Republic of Korea, “Strategy for a free, peaceful, and prosperous Indo-Pacific region”, December 2022, p.12.(2024年3月16日閲覧).
  6. 6 Andrew Yeo, “South Korea as a global pivotal state”, Brookings Institution, 19 December 2023.(2024年3月15日閲覧).
  7. 7 Office of National Security, June 2023, p.84.
  8. 8 Eun-jung Kim. “S. Korea's arms exports amount to nearly $14 bln in 2023”, Yonhap News Agency, 20 December 2023.(2024年3月15日閲覧).
  9. 9 Ministry of National Defense, Republic of Korea, “Olhae bangsansuchul gyumo, daesang-gug 3bae·mugichegye 2baelo neul-eossda [The scale of defense industry expanded in 2023: tripled in export countries and doubled in weapons systems]”, 21 December 2023.(2024年3月16日閲覧).
  10. 10 Office of the President of the Republic of Korea, “Yun daetonglyeong, Seoul ADEX gaemagsig-e chamseoghae bang-wisan-eob jung-yoseong gangjohago, bangsangieob gwangyeja gyeoglyeo [President Yoon attends the opening ceremony of ADEX in Seoul, emphasizing the importance of the defense industry and encouraging defense industry companies]”, 17 October 2024.(2024年3月16日閲覧).
  11. 11 The Korea Times, “Seoul’s arms exports to Poland help NATO tackle capabilities gap amid Ukraine war: U.S. envoy”, The Korea Times, 14 December 2023.(2024年4月2日閲覧).
  12. 12 IISS, “The Military Balance 2024 spotlights an era of global insecurity”, 13 February 2024.(2024年3月16日閲覧).
  13. 13 David Brennan & Yevgeny Kuklychev, “Russia's Arms Export Industry Is Collapsing” Newsweek, 12 March 2023.
  14. 14 Wooyeal Paik, “South Korea’s Emergence as a Defense Industrial Powerhouse”, IFRI Papers ASIE.VISIONS, No. 139, Ifri, February 2024, pp.9-12.(2024年3月16日閲覧).
  15. 15 Ibid, pp.17-18.
  16. 16 The Australian Trade and Investment Commission, “Hanwha Defense starts construction on new armoured vehicle centre of excellence in Victoria”, 20 April 2022.(2024年3月15日閲覧).
  17. 17 Office of National Security, Republic of Korea, June 2023, pp.84-85.
  18. 18 Josh Smith, “South Korea to hold largest defence show in bid to boost global sales”, Reuters, 16 October 2023.(2024年3月16日閲覧).
  19. 19 Defense Acquisition Regulations System, Department of Defense, “Negotiation of a Reciprocal Defense Procurement Agreement With the Republic of Korea”, Federal Register, 23 February 2024.(2024年3月15日閲覧).
  20. 20 Paik, February 2024, p.18.
  21. 21 Hyo-jin Lee, “Indonesia's commitment in KF-21 project faces growing skepticism”, The Korea Times, 17 February 2024.(2024年3月17日閲覧).
  22. 22 European Commission, “First ever defence industrial strategy and a new defence industry programme to enhance Europe's readiness and security”, 5 March 2024.(2024年4月2日閲覧).
  23. 23 Office of the President Republic of Korea, “Yun daetonglyeong “bang-wisan-eob-eun pyeonghwasan-eob”…bang-wisan-eob yugseong-eul tonghae teunteunhan anbowa iljali changchul dongsi dalseong ganeung [President Yoon “The defense industry is a peace industry”… Strong security and job creation can be achieved simultaneously by fostering the defense industry]”, 7 December 2023.(2024年3月15日閲覧).