はじめに
2026年2月末にアメリカとイスラエルによるイラン攻撃が開始され、それに対しイランも周辺国に所在するアメリカ軍拠点やインフラ施設に対して攻撃を行った。5月21日現在、停戦中であるが、ホルムズ海峡における事実上の封鎖は継続したままであり、世界経済に大きな打撃を与えている。
今回のアメリカによるイラン攻撃では、4月6日時点で攻撃目標は13,000か所以上に達し、イランの統合防空システムや弾道ミサイル基地、司令部などが標的とされた。また、イラン海軍の艦艇・潜水艦155隻以上が損傷または撃沈されたとされている。こうしたアメリカ軍は発表を踏まえると、アメリカ軍はイラン海軍に壊滅的な損害を与えたようだ[1]。
それに対するイランからの反撃は、中東周辺の米軍基地や現地の石油施設などへのミサイル、ドローンによる攻撃にとどまっている。そのため、アメリカとイランの被害の格差はあまりにも大きく、軍事的視点から見れば、いつイランが無条件降伏してもおかしくない結果となっている。それにもかかわらず、イランはアメリカと対等とも言える交渉を行っている。その理由は、イランが「経済の武器化」を利用しているからである。イランは、ホルムズ海峡を事実上封鎖することで、世界のエネルギー供給に深刻な影響を及ぼし、経済的打撃を与えているからである[2]。
本論では、ホルムズ海峡の封鎖に使用されているとされる機雷の効果について言及した上で、イランによるホルムズ海峡封鎖という「経済の武器化」が他へ拡散する可能性、平時やグレーゾーン事態においても機雷による「経済の武器化」が利用される可能性について論じる。
機雷の効果の再認識
ホルムズ海峡の事実上の封鎖でイランが機雷の特徴を有効に使用したことは、その効果を世界に改めて認識させる機会となった。機雷の特徴としては、少なくとも以下の4点が挙げられる。
第1に、被害効果(破壊力)が大きい。爆薬量100~1,000㎏以上の爆発により、数万トンの貨物船・タンカーなどの船体を「まっぷたつ」にする破壊力がある。
第2に、海中に存在することから商船等では発見できない隠密性がある。機雷は小型であり、対機雷戦艦艇が持つ特殊な音響探知機(ソーナー)でないと海上や水中からの探知が難しい。上記のような破壊力がありながら、隠密性もあることから心理的効果も大きくなる。すなわち、商船は機雷が無いことが十分に確認されない限り、危険水域を通航することができないのである。つまり、海上交通の阻止、海域通航阻止を効率的かつ有効的に遂行することが可能になる。
第3に、持続性がある。敷設後、除去されるか爆発するまで数年にわたって海中に存在することができる。海域通航阻止の効果がそれだけ続きかねないということである。
第4に、費用対効果が大きい。機雷は「貧者の兵器」とも言われており、その種類にもよるものの安価な機雷は20万円台からあり、一方で4,000億円以上するイージス(搭載)艦を破壊・損傷させることが可能である。安価な兵器であるだけに、イランは約2,000〜6,000個の機雷を保有していると言われている。
このような機雷の特徴をホルムズ海峡の事実上の封鎖において最大限に利用することで、イランはアメリカとイスラエルからの大規模攻撃へ抵抗を続けることができている。ひいては、アメリカと対等とも言える交渉を行うことも可能となっているのである。

ホルムズ海峡の封鎖による「経済の武器化」
イランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖は、アメリカとイスラエルによる大規模攻撃に匹敵するほどの効果を得ている。ホルムズ海峡の事実上の通峡阻止が、世界の石油、液化天然ガス(LNG)供給量の約20%を寸断することになるからである[3]。まさに「経済の武器化」である。
「経済の武器化」とは、一般的に、経済依存関係を背景にした貿易制限、投資規制、制裁などの経済的手段を外交・安全保障上の目的達成(相手国への圧力や報復)のために利用する行為である。例えば、中国の事実上のレアアース輸出制限や米国の対中半導体規制など、サプライチェーン依存を突いた「経済的威圧」がある。近年では、平時やグレーゾーン事態における「経済的威圧」が常態化し、地政学に経済が「武器」として組み込まれ、国家間対立の手段として経済が用いられるようになる「地経学」の時代に突入していると言われている[4]。
これまでの「経済の武器化」は、平時やグレーゾーン事態で使用される「経済的威圧」であったが、イランによるホルムズ海峡の事実上の通峡阻止(経済封鎖)は、戦争の一環として使用されており、第2次世界大戦後では初めて世界的影響を与えているものとなっている。すなわち、イランからアメリカだけへの「経済的威圧」だけではなく、中東の石油や天然ガスなどへの依存率の高い国々への「経済的威圧」となっている。これをイランが交渉の「エース・カード」として使用している。
「経済の武器化」の拡散への憂慮
今回のイランによるチョークポイント(ホルムズ海峡)の通峡阻止が効果を発揮したことから、今後世界の各国、特に力による一方的な現状変更を試みる国々は、新たな「経済の武器」として、その有効性を認識したに違いない。
世界のチョークポイントは、ホルムズ海峡をはじめ、バブ・エル・マンデブ海峡、ボスポラス海峡、ジブラルタル海峡、マラッカ海峡、さらにはスエズ運河、パナマ運河など多く存在する。そのため、今回のイランによるホルムズ海峡の封鎖によって、戦争やグレーゾーン事態での「経済の武器化」は、ますます増加することが予想される。
ホルムズ海峡における機雷などによる実質的海峡封鎖が、チョークポイントの中でも、大きなインパクトを与えた理由の1つが、ペルシャ湾からの通航の唯一の出入口となっていることがある。パナマ運河やマラッカ海峡のように、代替の航路帯がある場合には、遠回りという航路設定により経済的効率が悪くなっても代替航路があり、そのインパクトは大きくない。しかし、世界にはホルムズ海峡と同じようなチョークポイントがある。例えば、ボスポラス・ダーダネルス海峡は、黒海からの唯一の出入口である。またバルト海からの唯一の出入口であるカテガット海峡もこれに属する。さらにジブラルタル海峡とスエズ運河の遮断は、地中海からの出入口を塞ぐこととなる。
図:世界の主要コンテナ港湾と世界海運のチョークポイント
東京大学柴崎研究室ウェブサイトより許可を得て転載した(2026年5月29日アクセス)。
世界の主要港湾もまた「経済の武器化」が使用される可能性を秘めている。歴史的な話になるが、機雷に係る国際法であるハーグ第8条約策定のきっかけとなった日露戦争で旅順港を封鎖するために機雷が使用された前例がある。
そして世界の主要港湾への機雷敷設が可能な理由の1つとして、先のハーグ第8条約において「民間通商妨害目的のみでの機雷の敷設は禁止」されているものの、商業港であるとともに軍港としても使用されている場合、機雷敷設禁止の対象とはならないからである。
日本についていえば、東京湾や陸奥湾、紀伊水道、豊後水道、関門海峡、舞鶴湾、佐世保港、沖縄の中城湾などには、日本の海上自衛隊とアメリカ軍の基地が所在していることから、ハーグ第8条約での機雷敷設禁止の対象外となる可能性を秘めている。こうした湾や港への敷設は、日本にとって単に軍事的制約となるのみならず、致命的な「経済の武器化」として、経済的なダメージにもなるものである。
さらにこれを台湾有事に当てはめれば、台湾の主要な軍事基地兼商業港である高雄港(台湾貨物総量の約60%を扱う)、台北港・基隆港(2港で台湾貨物総量の20%を扱う)および左営港が機雷などにより封鎖されれば、これだけで台湾の経済封鎖を実現することが可能となる。
おわりに
本論では、イランの戦略的対抗策であるホルムズ海峡の事実上の封鎖に使用されているとされる機雷の効果について言及した上で、機雷の特徴をイランが最大限に利用することで、アメリカとイスラエルによる大規模攻撃と同等の抵抗となっていることを論じた。また今回のイランによるホルムズ海峡封鎖を契機として、機雷敷設による海峡や港湾の封鎖による「経済の武器化」が他へ拡散する可能性があること、さらには戦時ではない平時やグレーゾーン事態においても「経済の武器化」が利用される可能性が憂慮されることについて分析した。
将来、「経済の武器化」がなされる可能性を考慮すると、日本は「戦略的自律性」を確保することが必要である。「戦略的自律性」とは、「日本の国民生活及び社会経済活動の維持に不可欠な基盤を強靱化することにより、いかなる状況の下でも特定の他国に過度に依存することなく、国民生活と正常な経済運営という日本の安全保障の目的を実現すること」である[5]。海上自衛隊の対機雷戦部隊を中心とする防衛手段によって水路の安全を確保することはもちろんであるが、エネルギー資源、重要物資や食糧を含む貿易相手国の分散化やチョークポイントを考慮した貿易相手国の拡大を進めることも重要である。

(2026/06/03)
脚注
- 1 U.S. Department of Defense, "Operation Epic Fury Fact Sheet," April 6, 2026;The White House, "Peace Through Strength: Operation Epic Fury Crushes Iranian Threat as Ceasefire Takes Hold," April 8, 2026.
- 2 「イラン戦争によるアジア太平洋地域での経済損失は推計47.5兆円 国連報告書」CNN、2026年4月14日; 「イラン攻撃、世界の反応「危険な状況」「国際法の遵守を」」『朝日新聞』2026年3月1日; Adi Imsirovic and Clayton Seigle “How to Interpret Wartime Oil Prices,” CSIS, April 24, 2026.
- 3 「ホルムズ海峡とは 世界の原油・LNG、2割が通過」日本経済新聞、2026年3月3日。
- 4 鈴木一人『地経学とは何か:経済が武器化する時代の戦略思考』新潮選書、2025年、8頁を参照した。
- 5 「提言『経済安全保障戦略』の策定に向けて」自由民主党政務調査会新国際秩序創造戦略本部、2020年12月16日、3頁。
