はじめに
2025年5月13日から14日にかけて、国連平和維持活動(PKO)に関する第8回閣僚級会合「平和維持の未来」(Future of Peace Operations)がベルリンで開催され、PKOをより効果的にするための方策やPKOを強化するための改革について議論が行われた。昨今のPKOは非伝統的かつ越境的脅威の拡大、主たる展開地域の一つであるアフリカ域内の政治変動、国際関係の激変などを背景にミッション数が減少している[1]。閣僚級会合に先立ち、2024年10月には独立チームによる研究が公表されたほか[2]、2025年5月6日には平和活動に関するグローバル・アライアンス(GAPO)による提言も発表された[3]。これら研究や提言では、いずれも国連と地域機構が各々の強みを生かして補完しあうパートナーシップに着目しており、アフリカはもっとも経験値の高い地域であり、有益な視点をもたらすことができるとされている[4]。
そこで、本稿では国際平和活動の一形態であるアフリカ連合(AU)主導の平和支援活動(Peace Support Operations: PSO)に焦点を当てて、その活動の特徴・現状や形成過程を分析する。その上で、平和維持に関するパートナーシップのあり方、また日本の支援策を展望する。

AU主導の平和支援活動の歴史的経緯
AUが主導するPSOはどのように形成されたのだろうか。本格的な分析に入る前に、その経緯について言及しておきたい。PSO最初の事例は2003年2月のAUブルンジミッション(AMIB)である。しかし、AU初のミッションであったAMIBには資金や後方支援の不足という課題があり[5]、2004年6月に要員を引き継ぐ形で国連ブルンジミッションへと移管された。AUから国連への移管はスーダン、マリ、中央アフリカ共和国でも実施された。この他にも、ダルフールにおける国連とAUの合同ミッション(UNAMID)、ソマリアにおけるAUミッション(AMISON, ATMIS, AUSOOM)のように国連やEUから支援を受けたミッションもある。
さらにさかのぼれば、源流はアフリカ統一機構(OAU)の時代から続く試行錯誤の歴史にあるということができる。OAUは1963年の設立以来、コンゴ動乱を通して国連PKOの限界を目の当たりにしたこともあり、国連憲章のもとリージョナルなPKOを志向した[6]。しかし、チャド部隊派遣(1981-1982)を除けば、こうしたビジョンの具体的制度化が進まないまま冷戦終結を迎えた。しかし、その後、1992年のOAU第28回首脳会議で「紛争予防・管理・解決メカニズム」(MCPMR)が設置され[7]、OAUからAUへの改組で「内政不干渉原則から積極的介入へ」という大転換を試み、地域主導の安全保障の追求を本格的に目指すようになった。
アフリカにおける国際平和活動の現状とAU平和支援活動のしくみ
AUが地域主導の安全保障を本格的に追求するようになった2000年代以降、アフリカではAUや準地域機構(RECs)による38の地域主導ミッションが25ヵ国に展開してきた。主なマンデートは①停戦監視、和平合意・プロセス履行支援、②選挙・移行支援、③(指導者に対する)保護の提供、④複合的反乱や過激派に対する安定化・平和強制活動、⑤保健衛生危機・パンデミック対応であり、2001年に約1,000名だった要員も2022年には約70,000名に増加した[8]。
このうち、①AU が主導し、②AU平和・安全保障理事会(PSC)が授権や指揮権を伴って派遣を命じ、③多くの場合、国連安保理からも授権されたミッションという、ノルウェー国際問題研究所(NUPI)のチエ(Andrew E. Yaw Tchie)の定義に合致する[9]AUのPSO ミッション数は2025年5月時点で22にのぼる。
表1:AU主導の平和支援活動(PSO)(2000年~2025年5月現在)

本表の作成において、以下の資料も参照した。AUSSOM, “AUSSOM Mandate,” Accessed June 18, 2025; ACCORD, “The East African Community Regional Force in the Democratic Republic of the Congo: Successes, Challenges and Prospects,” March 4, 2025.
なお、アフリカの準地域機構(RECs)主導の平和支援活動は含めていない。
AUは2002年の改組以来、PSOの立案・政策決定・運用等をつかさどる主要機関である。加盟国がアフリカ平和安全保障アーキテクチャ(APSA)を構築し、平和・安全保障理事会(PSC※表2を参照のこと)、賢人会議、AU平和基金(APF)、大陸早期警報システム、アフリカ待機軍制度(ASF)の整備を進めてきた。これらがAU総会、閣僚理事会と連携しつつ、日々の業務はAU委員会(特に政治・安全保障委員会PAPS)が担っている[10]。
PSOの設置を決定するのはPSCであり、AU総会が地域配分を加味して選んだ15の加盟国で構成される。PSCのミッション派遣の形式は、①PSCによる設置、②PSCから準地域機構への授権、③PSCから多国籍部隊への授権、④国連安保理とPSCによる共同設置などが挙げられる。
表2 AU平和・安全保障理事会の構成(2025年3月時点)

ASFはAU主導のPSOで軍事・警察部門を担う。当初の計画であった2010年から遅れたものの、現在では要員提供の枠組みとなっている。ASFの本部はアディスアベバ(エチオピア)に、兵站基地はドゥアラ(カメルーン)におかれている。構成は北アフリカ地域待機旅団(NASBRIG)、東アフリカ待機旅団(EASBRIG)、中央アフリカ多国籍軍(FOMAC)、南部アフリカ待機旅団(SADCBRIG)、ECOWAS待機旅団(ECOBRIG)で構成されており、RECsを軸に編成されている。
APFは平和支援活動の財政面を担う。AUの通常予算と、アフリカおよび国際ドナーからの自発的拠出財源とするが、とくにEUから多額の支援を受けてきた[11]。国連でも、2023年12月21日に当時の安保理構成国が決議2719を採択し、国連PKO予算の最大75%をAU主導のPSOに拠出する道を開いた[12]。
今やPSOはアフリカのリージョナルな安全保障で欠かせない活動の一つである。そこで課題となるのは、PSOにかかるコストをいかに安定的に確保しつつ、アフリカのPSOをグローバルな安全保障の枠組みに位置づけ、安保理をはじめとする意思決定に参画するかということである。
写真:第3回準備会合では国連と地域機構とのパートナーシップが議題に挙がった

パートナーシップにおける負担分担と責任分担
上述のPSOの課題を解決するうえで鍵となるのがパートナーシップである。AU主導のPSOが国連のPKOと補完関係を構築し、EUなど域外アクターや域外国の支援を受けつつ進展することで、コストの負担分担と意思決定に関わる責任分担を図る必要がある。
まず、負担分担(burden-sharing)をいかに行うかである。AUのPSOは資源不足が課題である。たとえば、国連と違ってAUはPSO設置前の現地視察を十分に実施する予算を確保できておらず、実施計画の検証やPSOの効果測定を十分に行えていない。AUの平和支援活動の財政支援を企図した安保理決議2719の採択では、米国と英国が修正案を提示し、国連の分担率に75%という上限を設定した。拠出の条件もAUの要員提供国による装備・設備の調達や派遣前訓練の質担保、人権基準の順守など多岐にわたる。
要員確保についても地域主導ならではの難しさがある。近隣諸国からの要員派遣は当事国にとっては政治的に非常にセンシティブな問題である。例えば、2007年からソマリアに展開するAUミッション(AMISOM、ATMIS、AUSSOM)は、軍事・警察ともにアル・シャバーブの直接的脅威にさらされる近隣諸国で賄われている一方、各ミッションへの要員提供は「アフリカの角」ひいては東アフリカ諸国の勢力関係を反映してきた[13]。
写真2:ソマリアのハッサン大統領と面会するユスフAU委員長(2025年3月)

負担分担に関する課題の克服で鍵となるのがAUのPSO設置・マンデート決定、終了などにかかる責任・正統性の分担(responsibility/authority-sharing)である。AUのPSOは国連憲章第8章に基づいており、安保理による授権は不可欠である。昨今、その安保理でAU加盟国の意思をもっと反映させようとの機運がアフリカで高まっている。アフリカの安保非常任理事国(A3)が決議案の共同起案者になったり情報を注入したりするだけでなく、安保理改革をAUのPSOと関連づけて推進する動向が注目される。安保理アフリカ枠を拡大する案が議論されており、欧州諸国が賛同を表明している。
TICAD9へ向けて-AU平和支援活動支援を
日本は他国に先駆け、1993年からアフリカ開発会議(TICAD)を国連やAUと共催してきた。2016年に開催されたTICAD 6では、安倍晋三首相(当時)が「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想を発表し、2019年のTICAD7からは従来の「経済」「社会」に加え、「平和と安定」が主要テーマとなった[14]。2025年8月にTICAD 9を控える今、「平和と安定」はアフリカ諸国だけでなく様々な国家・組織が注視する分野でもある。中でも、「アフリカの角」をはじめとする東部アフリカ沿岸はインド太平洋に面し、日本の経済活動に欠かせない航行ルートである。日本がインド太平洋において利益と脅威を共有するアクターと連携し安全保障を確保するために、アフリカのリージョナルな取り組みであるPSOをグローバルな脅威に対峙する多国間協力と位置付け、支援することが必要である。
ここで重要なのは、日本がすでに国連の枠組みで実施している支援を地域主導型にも振り向けるという発想である。例えば、日本が国連でPKOの要員訓練に関しイニシアティブをとってきた三角パートナーシッププログラム(TPP)の知見を活かし、PSOの要員訓練の質を国連基準に引き上げる能力構築支援を行うことが考えられる。そうすることで、国連によるPSOへの財政支援を側面支援できる。その際、アフリカ諸国との協働はもちろんのこと、アフリカの安全保障に継続して関与する国・組織と連携しながら、同地域の安全保障関与を「貢献」だけでなく「国際社会のリスク管理」と捉え進めることが肝要である。例えば、日本がアフリカ諸国とPSOで連携する際の重要なパートナーとしては、アフリカの紛争地にミッションを派遣してきた知見を有するEUや[15]、EUとならんでAUのオブザーバー資格を持つトルコなどが挙げられる。いえるまた、国連PKOの主要要員提供国でありBIRCSの加盟国でもあるインドや、2025年1月に東南アジア諸国としてBIRCSに初めて正式加盟したインドネシアなど、アジア諸国との連携も強化すべきである。
(2025/06/23)
脚注
- 1 PKOを取り巻く課題について詳しくは、井上実佳「アフリカにおける国連PKOの減少
――国連主導からAU平和支援活動とのパートナーシップへ」国際情報ネットワーク分析IINA、2025年3月19日を参照のこと。 - 2 El-Ghassim Wane, Professor Paul D. Williams, Professor Ai Kihara-Hunt, “The Future of Peacekeeping, New Models, and Related Capabilities(Independent Study commissioned by the United Nations Department of Peace Operations),” October 2024.
日本語版は、キハラハント愛監訳・杉本智美訳「平和維持活動の未来、新しいモデル、及び能力」東京⼤学⼤学院総合⽂化研究科持続的平和研究センター、2025年5月。 - 3 Annika S. Hansen ed., “The Future of United Nations Peace Operations Compendium of Policy Papers and Policy Recommendations for the UN Peacekeeping Ministerial 2025 in Berlin,” the Global Alliance for Peace Operations (GAPO) , May 6, 2025.
- 4 El-Ghassim Wane, “Peacekeeping as Multilateralism: An African Perspective for Berlin,” ACCORD, May 2, 2025.
- 5 国連広報センター「大湖地域」2025年6月18日アクセス。
- 6 初代議長のハイレセラシエⅠ世は1973年に国連との連携を前提とするリージョナルな平和維持も提言している。ハイレセラシエⅠ世による第10回首脳会議(1973年)演説を参照のこと。OAU Document, CON/AHG/SP/1(Ⅹ)(Address by His Imperial Majesty Heile Selassie Ⅰ of the OAU Assembly of Heads of State and Government), May 28, 1973.
- 7 AHG/Decl. 1 (XXVIII), “DECISION ON A MECHANISM FOR CONFLICT PREVENTION, MANAGEMENT AND RESOLUTION,” The Assembly of Heads of State and Government of the Organization of African Unity, meeting in it Twenty-eight Ordinary Session in Dakar, Senegal from 29 June to 1 July 1992.
- 8 Nate D.F. Allen, “African-Led Peace Operations: A Crucial Tool for Peace and Security,” Africa Center for Strategic Studies, August 9, 2023.
- 9 Andrew E. Yaw Tchie, “Generation Three and a half peacekeeping: Understanding evolutionary Character of African-led Peace Support Operations,” African Security Review, 32:4, 2023, pp. 421-439.
- 10 詳しくは、井上実佳「『アフリカによるアフリカ問題の解決』再考―国際平和活動をめぐって―」『国際安全保保障』50巻1号、2022年6月、54-73頁。
- 11 Ulrich KAROCK, “BRIEFING: The African Peace and Security Architecture: Still under construction,” European Parliament Policy Department, DG EXPO/B/PolDep/Note/2014_47, March 2014.
例えば、2008年から2011年にかけてAU加盟国が負担した額は平和支援活動予算のうちわずか2%だった。 - 12 UN Doc. S/RES/2719, December 21, 2023.
- 13 篠田英朗「縮小するPKO・援助活動とパートナーシップ国際平和活動の変容~ソマリアの事例に着目して~」『国際関係論叢』(東京外国語大学)、第13巻第2号、2024年11月、15-36頁。
- 14 外務省「TICAD7 横浜宣言 概要」2019年8月。
- 15 田中(坂部)有佳子「行動する安全保障アクターとしての欧州連合(EU)―CSDPミッション派遣による危機管理の実際―」笹川平和財団、2024年11月15日。