連邦議会下院の選挙区再区割り
―2026年中間選挙に及ぼす影響―
西山 隆行
2026年の中間選挙に関しては、下院は民主党が優勢で、上院は共和党がやや優勢だという見立てが多い1。選挙結果を左右する浮動層は、自らを取り巻く経済状況に基づいて投票先を決定する可能性が高い。伝統的には経済成長率や失業率が彼らの投票行動を規定するとされてきたが、今日では、食品、住居、医療、光熱費などの日常支出が強く意識されている。現在は大統領の所属政党と上院多数党、下院多数党の全てを共和党が押さえる統一政府の状態となっているが、トランプ大統領の不人気もあり、来年以降は分割政府(Divided Government)になるとの見方が一般的である。
しかし、今回の中間選挙で下院を民主党が制するとの予測が一般的だとしても、その具体的数字を予測するのは、通例の選挙よりも難しい。その一つの要因は、ドナルド・トランプ大統領の行動の予測不可能性が高く、それが連邦議会選挙に及ぼす影響の予測はさらに困難だということである。だがそれ以上に、今回の選挙では、現職候補が出馬しない事例が多いことも結果の予測を困難にしている。米国の連邦議会選挙では、現職候補が再選を目指して出馬する場合、その当選率は九割を超える2。そのため選挙予測をする際には現職候補が出馬しない選挙区に着目することが重要になるのだが、今回はその数が70以上と例外的なまでに多いのである。
そして、不出馬議員が多くなった理由の一つと考えられるのが、選挙区再区割りの問題である。米国の連邦議会下院では、10年ごとに行われる国勢調査の結果を受けて、435の議席が各州に割り振られ、各州内で一票の格差が生じにくいように区割りが見直される。区割りを州議会が主導する州もあれば、超党派の委員会や独立委員会の設置を義務付けている州もある。前回の国勢調査は2020年に実施され、各州は2021~22年にかけて区割りを行った。通例ならば2030年の国勢調査を受けて再び区割りが行われるまでは現在の選挙区割りが維持される。だが今年に関しては、共和党が支配する州を中心にそのサイクルを待たず、区割りを変更する動きが活発化したのである。
これまでにも、選挙区割りの適切性をめぐって訴訟が行われ、その結果として通例とは異なる時期に再区割りが行われることはあった。訴訟以外の要因で再区割りが行われたのは、1970年以降では2003年のテキサス州と2005年のジョージア州、そして今回2025年のオハイオ州のみだった。だが、今回の中間選挙に関しては、党勢拡大を目指すトランプ大統領の意向を受けてテキサス州が共和党に有利になるように再区割りを行い、それに対抗する形で2028年大統領選挙への出馬を検討しているとされるギャビン・ニューサム知事の主導により、カリフォルニア州が民主党の議席が増えるように再区割りを行った3。公正中立な形で実施されるべきとの認識が比較的強い選挙のルールをめぐって、大統領の党派的な介入をきっかけとし、強い政治的野心を持つ人物がそれに応じて、選挙直前に変更が加えられたのである。
それに加えて、連邦最高裁判所がこの時期の再区割りにお墨付きを与えたことも、再区割りの動きを活発化させた。連邦最高裁判所は、黒人多数派選挙区の創出を要請すると解された1982年投票権法の規定に違憲判決を出した。また、選挙年であるにもかかわらず再区割りの実施を認める判決も出したため、一部の州が再区割りを行ったのである。
本稿ではこれらの動きについて解説した後、2026年中間選挙に与える影響、そして今後の米国政治に与える影響について検討することにしたい。
ルイジアナ州の区割りをめぐる連邦最高裁判所の判決
2026年4月29日に連邦最高裁判所が出したルイジアナ州の連邦議会下院選挙区の区割りをめぐる判決は大いに注目を集めた。1982年に改定された投票権法の第2条は、人種差別的な意図の直接的な証拠がない場合でも、マイノリティの有権者の影響力を損なう結果となる選挙区割りを行うことを禁止すると定めていた。同判決はその規定を否定し、人種的な考慮を制限する判断を示したものである4。
1965年に制定された投票権法は、人種・肌の色・以前の奴隷状態を理由に投票権を制限することを禁じた憲法修正第15条の規定を現実化したものである。投票に関する直接的な障壁を撤廃しただけでなく、投票権を否定または制限するあらゆる基準、慣行、手続きを禁止している。1982年の改正に伴い、市民が政治過程に参加し、代表者を選出する機会を損なう慣行も禁止された。そして、マイノリティの選挙区を分散させたり、逆にマイノリティを一つの選挙区に押し込めるなどしてその影響力を弱める区割りを違法とするよう主張されるようになった。連邦最高裁判所も1982年の改正法に関する訴訟で、「第2条に基づく訴えの本質は、特定の選挙法、慣行、または制度が、社会的・歴史的状況と相互作用し、黒人と白人の有権者が自らの望む代表者を選出する機会に不平等を生じさせていることにある」と説明し、マイノリティ集団が白人有権者と同様に、自らの集団から代表者を選出する機会を持つべきだとして、上記の主張を容認した。もっとも連邦最高裁判所は、同法がマイノリティ集団の構成員が人口比率に等しい数で選出される権利を保障するものではないとも明言し、マイノリティの人口比率と州議会や連邦議会における代表者の割合とにズレがあっても投票権法に違反するとは限らないとしている。
なお、米国では選挙区割りに際して、原則として飛び地を作ってはならないなどの制限はあるものの、その自由度が高い。党派的な意図をもって区割りがなされるのも一般的である。特定政党を利することを目的とした党派的なゲリマンダリングの妥当性が争点となった2019年の事件に関して、連邦最高裁判所は、当裁判所が判断するべき問題ではないとして党派的なゲリマンダリングの合憲性を実質的に認めている(州裁判所が独自の判断に基づいて選挙区割りを無効とする可能性はある)。だが、投票権法を根拠として、特定のゲリマンダリングを、人種を根拠とする違法なものだと批判する余地は残されていた。
ルイジアナ州ではマイノリティ多数選挙区を二つ設置することが可能であり、下級裁判所も二つ目のマイノリティ多数選挙区の設置を命じていた。しかし今回の判決において連邦最高裁判所は、州にマイノリティ多数選挙区の追加設置を義務付けることは合衆国憲法修正第14条の平等保護条項に違反すると判断した。判決文を書いた保守派のサミュエル・アリート連邦最高裁判所判事は、投票権法が禁じているのは「意図的な差別」だけだと指摘して、下級審の判決は憲法に違反する形で人種を利用していると判断した。現在の最高裁判所の判事は6対3で保守派が優位しているが、保守派の全判事が判決に賛成した。他方、リベラル派は一致してこの判決を批判しており、米国の黒人が過去60年間で勝ち取ってきた成果を全面的に後退させると主張している。
もっとも、1982年投票権法の規定を根拠として、黒人の議席を確保することが目的だと主張することで黒人居住地域を一つの選挙区に押し込め、黒人議員の当選者数を結果的に減らそうとする試みは他にも多いと指摘されており、同規定が否定されたことが選挙結果にどのような影響を及ぼすかを単純化して説明することはできない。だが、この判決には保守的な州が黒人の議席を減らすために行う活動にかかっていた歯止めを取り払った側面があることは否めない。
2026年下院選挙の結果は変わるか?
とはいえ、比較的早期に予備選挙を実施し、立候補届出期限が設定され、期日前投票が計画されている州では、判決後に新たな再区割りを行うのは現実的でないとも考えられていた。だが、ルイジアナ州で共和党のジェフ・ランドリー知事は判決を受けて、州議会が選挙区の再編に時間を十分に確保できるよう、5月に予定されていた予備選挙を延期すると決定した。また、アラバマ州も黒人有権者が多い二つの選挙区のうち一つを廃止する動きを示し、6月2日に連邦最高裁判所もそれを認める判断を下した。この判決を受けて、保守的な州を中心に再区割りを積極的に行おうとする動きが見られるようになった。
2026年中間選挙を前に、アラバマ、カリフォルニア、フロリダ、ルイジアナ、ミズーリ、ノースカロライナ、オハイオ、テネシー、テキサス、ユタの10州で再区割りが行われた。ラリー・サバトが主導するヴァージニア大学の研究所が5月22日に発表した調査によれば、再区割りの結果共和党は6から10議席を上積みする可能性があるとされた5。ただし、再区割りが議席の増減に及ぼす影響は状況によって変わることもあり、予想数には幅がある。各種報道によれば、共和党は、テキサス(最大5議席)、ノースカロライナ(1議席)、オハイオ(最大2議席)、ミズーリ(1議席)、フロリダ(最大4議席)、テネシー(1議席)、ルイジアナ(最大2議席)、アラバマ(1議席)などの州で議席を増やす可能性があるとされている(ミズーリについては後述)。他方、民主党はカリフォルニア州(最大5議席)とユタ州(1議席)で議席を増やす可能性があるとされている。
このように、再区割りが共和党に有利に働きそうだとされているのは、民主党が優勢な州では選挙区割りを独立した委員会が実施するよう義務付けていたり、州憲法の制約が大きいなど、ゲリマンダリングを行う上での制約が大きい場合が多いためだとされている。また、ヴァージニア州やニューヨーク州では民主党に有利な形で区割りを行う案が出されたのに対し、州最高裁判所がそれを阻止している。
もっとも、共和党優勢州においても共和党が意図した区割りが無条件で行われたわけではない。例えば、ミズーリ州に関しては州が行った区割りを州の最高裁判所が無効と判断した。実は、同州が行った再区割りに基づいて予備選挙がすでに行われていたこともあり、同州政府は最高裁判所に上訴した。だが、その上訴を認めないという判断が下された。早急に最高裁判所の判断を求める必要がある州最高裁判所からの上訴は、緊急ドケット(緊急訴訟事件一覧)案件と呼ばれ、米国内の区域ごとに上訴を認めるか否かを判断する判事が割り振られている。緊急ドケット案件に関する判断がなされる場合には特段の理由を付す必要がないということになっているため、各判断の法的根拠についてはわからない。なお、ミズーリ州を担当するのは保守派のブレット・カバノー判事である。保守派の判事であっても、共和党の要求を無条件で認めるわけではないことを示す例だといえるだろう。
以上のように、選挙区割りをめぐる動きは全般的に共和党に有利に働きそうだというのが大方の予想である。そのため、当初は民主党が大勝する可能性があるともされていた下院でも、民主党は勝利すると思われるものの、その幅は当初の予想よりは小さくなりそうだ、ということである。
不出馬議員と再区割り
それに加えて、今回の再区割りが作り出したと考えられるのが、不出馬議員の例外的なまでの多さである。現職議員32人(民主党15人、共和党17人)が引退の見込みである。また、上院議員選挙に出馬するため下院議員としての再選を目指さない議員が16人(民主党7人、共和党9人)、州知事を目指すために不出馬なのは10人(全て共和党)、州の司法長官選挙に出馬するために不出馬なのは1人(共和党)である。予備選挙で敗北した現職議員は、民主党が7人、共和党が4人である。それに加えて、再区割りの結果、テキサス州第18選挙区で民主党現職2人が、カリフォルニア州第40選挙区で共和党現職2人が同一選挙区内で競合することになった6。
このように、70人以上の現職議員が本選挙に出馬しないというのは、近年の米国では異常といってよいだろう。もっとも、別の職を目指すという政治的野心や高齢などの理由によりもとより不出馬を決定していた人々もいるだろう。二大政党共に、党内の勢力争いが原因で出馬を断念した場合もあるだろう。だが、選挙区再区割りの動きが降ってわいたために、再選の可能性が低下したと判断したり、体勢を整えるのが困難だと判断した場合も多いと推測される。選挙の地盤は多くの場合10年計画に基づき、長年かけて作り上げられる。選挙区が急に変更された影響を予想するのは困難である。サウスカロライナ州とインディアナ州、カンザス州ではトランプ大統領が区割りを要請したのに対し、共和党が多数を占める州議会がそれを見送ったと報じられている。その理由としては、州の決定事項に連邦が関与することへの反発なども考えられるが、急な選挙区割り変更に対する現職議員の不満が大きな影響を与えている可能性が高いだろう。
米国政治に及ぼす長期的影響
再区割りをめぐる問題が米国政治に長期的に及ぼす影響は計り知れない。通常とは異なる時期であっても再区割りを行うことはこれまでも可能だったとはいえ、頻繁には行われてこなかった。10年に一度はゲリマンダリングをしたとしても、区割りは原則として10年固定され、2年ごとの選挙サイクルに合わせて恣意的な決定をするのは(現実の調整が困難だというのに加えて)妥当でないという認識は一般的だったと思われる。選挙に際して党派的な行動が見られたとしても、選挙管理は政治的な考慮なく公正に行われるべきだというのが選挙民主政治の基礎だからである。今日の米国では連邦議会に対する信頼度は著しく低いが、今後、下院に対する信頼度はさらに低下する可能性があるだろう。
また、再区割りが選挙結果に及ぼす影響の度合いはよくわからないのが実情だが、選挙のたびごとに再区割りを行ってもよいという考えが一部の活動家の中で持たれるようになると、それを行わないという決定が思わぬ反発を招く可能性もある。そうなると、どのような影響を及ぼすかがわからないことをするために多額の費用が投じられる、という事態が生じる可能性が高くなる。
更には、選挙結果の予測不可能性が一層高まるということになれば、長期的に政策形成を目指そうとするようなタイプの人物が政治家を志しても無駄だと考えてしまう可能性もあるかもしれない。上述の理由と同様、これも米国政治の質を低下させる結果となるだろう。
このように、今回の再区割りをめぐる動きがパンドラの箱を開けてしまった結果として、11月の中間選挙の結果に関わらず、長期的にアメリカ政治が様々な次元で変容を迫られることになる可能性があるといえるだろう。
(了)
- 上院は現在の議席数は共和党が53、民主党系が47(民主党45+無所属2(キング、サンダース))であるが、今回の改選数は35で、非改選部分は民主党が34、共和党が31である。米国では、大半の州では勝敗が明白であり、2026年は共和党にとって守りやすい州が比較的多いとされる。だが、候補者の資質の問題やトランプ大統領の不人気もあり、共和党が優勢と考えられる州においても民主党候補が善戦しているとされる(例えば、ミシガン州、テキサス州、アラスカ州、メイン州、オハイオ州、アイオワ州など)。だが、優勢とされていた州での苦戦が予想されると、選挙直前に積極的な動員が図られることも多くなる。また、民主党は予備選挙で左派系候補が存在感を増しており、共和党は民主党=過激派というイメージを売り込もうとしている。例えばミシガン州では進歩派アブドゥル・エルサイードが候補となったのに対し、共和党の候補はMAGA派ではなく穏健派のマイク・ロジャーズである。エルサイード自身は自らを社会主義者ではなく資本主義者だとして過激だとの批判を避けようと努めている。左派の動員力と共和党による左派批判のどちらが効果的かは結果を見るまでわからないが、現時点では民主党が上院を奪還する可能性が高いとは断言できないだろう。(本文に戻る)
- 最近の世論調査でトランプ大統領の支持率が33%に低下したことが話題となったが、連邦議会に対する支持率はそれを下回り、2026年9月の時点で16%となっている。“Do you approve or disapprove of the way Congress is handling its job?,” GALLUP, <https://news.gallup.com/poll/1600/congress-public.aspx>, accessed on October 5, 2026.
連邦議会への不信は今に始まったことではなく、支持率が20%を下回ることも多いのだが、にもかかわらず現職議員の再選率は非常に高い。そのため、政治改革を求めて有権者が投票したとしても、その不満が解消されない事態が続くことになり、政治不信が増大する構図となっている。これが米国において、ポピュリスト的な政治家に対する待望論が強まる背景の一つになっているといえよう。(本文に戻る) - テキサス州で共和党が5議席増大させたと報じられたのに対抗し、カリフォルニア州の民主党も共和党現職の5議席を狙った独自の区割りで応戦した形となった。(本文に戻る)
- 選挙区割りに関する基本的情報については、以下の拙稿で概略を紹介している。今回の判決が出されるまでの過程については、そちらを参照していただきたい。西山隆行「米国に選挙区割り『一票の格差』はないのか?2023年連邦最高裁判所の判例から読み解く」Wedge Online、2023年7月3日、<https://wedge.ismedia.jp/articles/-/30694>(2026年9月11日参照)。(本文に戻る)
- J. Miles Coleman, “Louisiana, Alabama, and South Carolina: How We Would Rate Looming New Republican Maps,” The Center for Politics, May 22, 2026, <https://centerforpolitics.org/crystalball/louisiana-alabama-and-south-carolina-how-we-would-rate-looming-new-republican-maps/>, accessed on September 11, 2026.(本文に戻る)
- 連邦議会下院選挙をめぐる情報は、クック・ポリティカル・レポートが随時情報を更新している。“2026 CPR House Race Ratings,” The Cook Political Report, September 11, 2026, <https://www.cookpolitical.com/ratings/house-race-ratings>, accessed on September 11, 2026.(本文に戻る)