2022年中間選挙最大の勝者ロン・デサンティスとは何者か?¹

西山 隆行
中間選挙最大の勝者 ロン・デサンティス
2022年の米国中間選挙は、予想外に民主党が善戦した。中間選挙では大統領の政党が議席を減らすのが一般的な傾向である。また、最終的な勝敗を決めるとされる無党派層は経済を重視するとされている。6月に人工妊娠中絶の権利を否定するドブス判決が出されたのを受けて、反発バネが働いて民主党は大敗はしない、と予想された時期もあった。だが、選挙が近づくにつれて、インフレ率の高さを考えても民主党に強い逆風が吹き、共和党の勝利はゆるぎないとの予想が一般的になっていった。しかし結果は、上院は民主党が51議席を獲得し、共和党の獲得議席は49となった(大統領の政党が中間選挙で上院の議席を増やしたのは、フランクリン・ローズヴェルト政権期以来初めてである)。下院は共和党が221議席でかろうじて半数の218を超えて多数を確保したものの、民主党が213議席を確保した(1議席分は未定)。州知事選挙については、民主党が州知事を務める州が22から24に増加し、共和党が知事を務める州は28から26に減少したのである。
このような結果を生んだ大きな理由は、接戦州の共和党候補に主流派が推した人物ではなくトランプ派の人物が選ばれ、彼らの多くが2020年大統領選挙の結果を否定しているか、スキャンダル等の問題を抱えていたことがある。これらの候補が続々と敗北したのを受けて、共和党内でトランプの責任を問う声が強くなっている。トランプは、共和党大勝は自分の功績というイメージを作り上げたうえで2024年大統領選挙への出馬宣言をし、機密文書の持ち出しや連邦議会議事堂襲撃事件などに関する自らに対する調査委員会の活動を「国民の支持」に基づいて終わらせ、バイデン大統領の息子ハンター・バイデンのビジネス慣行に関する調査委員会を立ち上げさせるという絵を描いていたと思われる。その目算が大きく変わってしまったといえるだろう。
実は、選挙前の7月の時点で、それまでトランプを擁護してきたウォール・ストリート・ジャーナルとニューヨーク・ポストがそれぞれ社説でトランプの再出馬に難色を示していた2。選挙後には、Foxのオンラインニュースは「多くの保守派コメンテーターが選挙結果を見て『トランプから離れる時が来た』としている」との報を出し、ニューヨーク・ポストは「不満ばかり口にするトランプを捨てて、デサンティスと戦っていく時が来た」と記した記事を掲載するに至っている3。ウォール・ストリート・ジャーナルは、トランプが開いた利己的な集会が民主党支持者を投票に向かわせたとして、トランプを共和党「最大の敗者」だと記している4。実際に、2022年大統領選挙の最大の敗者はトランプだと言ってもよいかもしれない5。
他方、最大の勝者としてしばしば名前が挙がるのが、フロリダ州知事選挙で再選を果たしたロン・デサンティスである。同州選出の連邦下院議員を務めていたデサンティスは、2018年の州知事選挙でトランプの支援を取り付けると、アメリカ=メキシコ国境地帯の壁建設を訴えるなどトランプ的な政策を主張して共和党の予備選挙を勝ち抜き、本選挙でも勝利した。州知事就任後もトランプと歩調を合わせていたこともあり、ミニ・トランプであるとか、頭の切れるトランプなどと称されることもあったが、彼は今回の中間選挙で対立候補に150万票以上の差をつけて地滑り的勝利を収めた。2018年選挙の勝利は32,000票という僅差でのものだったことを考えれば、今回の当選はトランプの威光だけではなく、自ら勝ち取ったということができるだろう。
当選確定後には、集まった支持者たちが「あと2年!」との歓声を上げたとされている。フロリダ州知事の任期は4年であることを考えると、2年後には大統領になってほしいという希望が示されたと言ってよいだろう。もっとも、デサンティスは今の段階ではトランプほどのカリスマ性があるわけではなく、演説も(下手ではないものの)抜群にうまいというわけではないとされる。このような状況を踏まえて、トランプは、デサンティスのことを、演説がややつまらないとのニュアンスを込めて “Ron DeSanctimonious” (聖人ぶったロン)と中傷し始めた。ニックネームをつけて対立候補を叩き潰してきたトランプにしては、不出来なニックネームだといえる。他方、ニューヨーク・ポストはデサンティスを “DeFuture”、すなわち「将来の候補」と呼んで期待を表明している。共和党支持者によって行われた、2024年大統領選挙の候補となってほしい人を選ぶ投票ではトランプを超えたこともある。さらには、ツイッター社を買収したことでも注目を集めたイーロン・マスクは、デサンティスが2024年大統領選挙に出馬するならば支援する旨を表明している。
デサンティス自身も、2024年大統領選挙を念頭においてトランプと距離を置きはじめているし、中間選挙の選挙戦中にも、大統領選挙を念頭においたと思われる様々なパフォーマンスを繰り広げていた。フロリダ州は29人の大統領選挙人を要する激戦州のひとつであることを考えても、デサンティスは大統領選挙に向けて重要候補と位置付けられていくのであろう。
このようなことを考えて、本論考では、デサンティスの政策的立場や行動について紹介することにしたい。
デサンティスの経歴と主要争点に対する態度
1978年にフロリダ州ジャクソンビルで生まれたデサンティスは(トランプより32歳若い)、イタリア系でカソリックである。イェール大学、ハーバード大学ロースクールを修了した後、2004年から2010年まで海軍に所属し、2007年には海軍特殊部隊ネイビー・シールズのリーガル・アドバイザーとしてイラクのファルージャに派遣されている(2022年現在も予備役として登録されている)。政界入りする前の経歴は、共和党候補として申し分ないといえるだろう。
デサンティスは、2012年から2018年までフロリダ州選出の連邦下院議員を務めた際は、最も保守的な投票行動をとる極端な候補と評価されていた。2018年の州知事選挙の際には、トランプの支持を得て当選し、人々を驚かせた。
デサンティスについては、日本のニュースでも時折取り上げられたことがある。当初は、トランプと歩調を合わせる極端な候補としてであった。とりわけ、コロナ禍でも州全体のマスク着用義務化に反対し、経済活動と学校の再開に積極的な姿勢を示したことが注目された。さらにフロリダ州が他州に先駆けて各種規制を解除した結果、経済状態が他州よりも良好となるとともに、死亡率は全国平均レベルであったことも注目された。ジョー・バイデン政権成立後も、ワクチン接種義務化阻止に向けて連邦政府を提訴したり、2021年11月に全米で初めて職場で新型コロナウイルスワクチン接種を義務づけることを禁じる法律を成立させたりした。コロナ禍の状況を、連邦のコロナ政策の主導的立場にあったアンソニー・ファウチ博士の名前を用いつつ、各種規制によって自由な行動が規制された「ファウチ的ディストピア」と呼んで糾弾してもいる。2024年大統領選挙への出馬が噂され始めた今年に入ってからは、トランプ政権によるロックダウン要請に応じたことを後悔すると発言して、トランプに批判的な立場を取り始めたことも注目を集めたといえるだろう。
また今年6月に連邦最高裁判所がドブス判決を出して人工妊娠中絶の権利を否定し、中絶の是非の判断を州政府に委ねると、デサンティスはフロリダ州で妊娠15週目以降の中絶を禁止する州法案に署名したことでも注目を集めた。2名以上の医師が、妊娠の継続が母体に深刻な危険をもたらすと判断した場合には中絶が例外的に認められる可能性はあるが、強姦や近親相姦などによる妊娠の場合であっても中絶は認められない。部分出産中絶(例えば胎児の頭だけを子宮内に残した状態で行う中絶)も禁止された。そして当該法律に違反して中絶手術を行った医師は第3級殺人の罪に問われることになった6。だが、フロリダ州は40年以上にわたって州憲法のプライバシーに関する修正条項に基づいて中絶の権利を保護してきており、また同様の法律について州裁判所が違憲判決を出してきたこともあり7、州裁判所は今回もこの法律の執行を差し止める判決を出している。現在、それを不服とする州政府が州最高裁判所に上告している。
中間選挙の前に、デサンティスが48人の移民をマサチューセッツ州のマーサズ・ヴィニヤードに移送したことも注目を集めた。テキサス州知事のグレッグ・アボットが米墨国境周辺地帯に多く存在する不法移民を、不法滞在以外の罪を犯していない不法移民の取り締まりを積極的に行わない、いわゆる「聖域都市8」に移送したことで注目を集めたが、デサンティスはフロリダ州から離れたテキサス州のサンアントニオでベネズエラからの移民など48人を2台の飛行機に乗せ、フロリダ州のクレストビューに一旦着陸した後、マーサズ・ヴィニヤードに移送したのである。デサンティスは連邦下院議員時代からオバマ政権の移民政策に批判的で、2015年には国外退去処分になったことのある人物が違法に米国に再入国した際の罰則を強化する法案の共同提出者となっていた。州知事時代の2019年に反聖域都市法を制定したことを考えても、デサンティスの不法移民に対する厳格な態度は一貫しているといえるだろう。ちなみに、この措置はフロリダ州議会が6月に不法移民を州外に移送するための予算として1,200万ドルの支出を認めたことを根拠として実施されたが、その予算をフロリダ州ではなくテキサス州にいた不法移民の移送に用いたことの妥当性には疑問も呈されている。デサンティス政権は、いずれフロリダ州にやってくる人々を事前に移送したとの立場をとっているが、中間選挙を前に全米の注目を集めるためのパフォーマンスだったと考えられている。
反マスクと反ワクチン、中絶禁止、移民問題はトランプ政権でも注目された争点であり、これらはデサンティスとトランプの類似性を示すものである。だが、デサンティスが単なるポピュリスト政治家ではなく、現実的な政治家でもあることを示した事例として注目されたのが、ハリケーン・イアンに対する対応である。2022年9月28日にフロリダ州に上陸したこのハリケーンは、同州で少なくとも146名の死者を出した。この悲劇を前に、バイデン大統領は、復興に数年を要する場合でも連邦政府は支援を続けると宣言し、デサンティスはバイデン大統領と連邦緊急事態管理庁(FEMA)による支援に謝意を表明して、両者は協力体制をとると明言した。もちろん、実際にはバイデンとデサンティスの発言や行動にはズレがあったのだが9、バイデン大統領にとっては大統領選挙前に強調していた超党派的な結束の重要性を強調する機会となり、デサンティスにとっては危機に際しては実務的な対応ができることを示す機会となったといえるだろう。
ハリケーンなどの危機に際し、どのような対応をとることができるかは、リーダーの評価に直結することが多い。例えば、2005年のハリケーン・カトリーナに対するジョージ・W・ブッシュ政権の対応の拙さは強い批判を招き、ブッシュが当初掲げていた「思いやりのある保守主義」という構想の実現をほぼ不可能にした。また、2012年にハリケーン・サンディが襲来した際、ニュージャージー州知事のクリス・クリスティ(共和党)は対立していた民主党のオバマ大統領と協力する姿勢を示すことで、大統領選挙の有力候補として知名度を上昇させた。そして、2017年にハリケーン・マリアが自治領であるプエルトリコに甚大な被害をもたらしたにもかかわらず、トランプ大統領が救済に向けて消極的な対応しか示さなかったことは、強い批判を招いた。
以上、日本でも頻繁に報道された事例を中心に、デサンティスの行動について紹介してきた。これに加えて、デサンティスは文化戦争の分野でも大きな注目を集めている。次回の論考では、その点について検討することにしたい。
(了)
- この記事を含めて、ロン・デサンティスに関する記事を3本掲載する予定である。この記事ではデサンティスの経歴と主要争点に対する態度について紹介する。2本目では、フロリダ州の文化戦争に関する分析を行う。3本目では、中間選挙の出口調査から読み取ることのできるデサンティスの強みと、2024年大統領選挙との関係について検討する。(本文に戻る)
- ウォール・ストリート・ジャーナルとニューヨーク・ポストは共に保守派のルパート・マードックが所有する新聞である。(本文に戻る)
- Selim Algar, “‘It’s DeSantis’ time now’: Donald Trump losing support on home turf,” New York Post, November 11, 2022, available online at <https://nypost.com/2022/11/11/its-desantis-time-now-donald-trump-losing-support-on-home-turf/>, accessed on December 12, 2022.(本文に戻る)
- “Trump Is the Republican Party’s Biggest Loser: He has now flopped in 2018, 2020, 2021 and 2022,” Wall Street Journal, November 9, 2022, available online at <https://www.wsj.com/articles/donald-trump-is-the-gops-biggest-loser-midterm-elections-senate-house-congress-republicans-11668034869>, accessed on December 12, 2022.(本文に戻る)
- トランプは発表通り11月15日に出馬表明をしたが、18日にはメリック・ガーランド司法長官が、昨年1月の連邦議会襲撃と機密文書持ち出しに関してトランプを捜査する特別検察官を任命した。その他、元ニュージャージー州知事のクリス・クリスティは、2020年大統領選で大規模な不正があったとするトランプの虚偽の主張によって共和党は衰えてしまったと発言している。メリーランド州のラリー・ホーガン知事は共和党の軌道修正の必要性に言及しているし、トランプ政権下で国務長官を務めたポンペオは「パーソナリティーやセレブには無理だ」と語ってトランプを暗に批判している。ニッキー・ヘイリー前国連大使は、新しい世代の指導者を選ぶべきだと訴え、2024年大統領選挙への出馬を検討していると明かしている。(本文に戻る)
- 一般に、第1級殺人は、殺意と計画性を持って行われた殺人、または、放火、誘拐、強姦、強盗などを犯す過程で故意に殺害した場合のことを指す。第2級殺人は、殺意はあったものの計画性がなかった場合、あるいは、強姦や強盗のなどの過程で意図せず殺人を犯した場合のことを指す。第3級殺人は、ミネソタ、フロリダ、ペンシルヴァニアの3州でのみ用いられる概念だが、危険な行為によって人を死なせる犯罪を一般的に指すものと考えられている。(本文に戻る)
- フロリダ州は州の憲法で中絶の権利を認めている11の州のひとつであり、世論調査でも州民の56%が中絶は合法であるべきだと回答している。"The State of Abortion and Contraception Attitudes in All 50 States," PRRI, August 13, 2019, <https://www.prri.org/research/legal-in-most-cases-the-impact-of-the-abortion-debate-in-2019-america/>, accessed on December 12, 2022.
疾病対策センター(CDC)によると、フロリダ州の中絶率はイリノイ州、ニューヨーク州に次いで高い。(本文に戻る) - 聖域都市については、西山隆行『<犯罪大国アメリカ>のいま―分断する社会と銃・薬物・移民』(弘文堂、2021年)第6章を参照のこと。(本文に戻る)
- バイデンはハリケーンの問題を環境問題と関連付けてアピールするとともに、フロリダ州を「立て直す(build back better)」として自らの2020年の大統領選挙時のスローガンと結び付けた。また、オバマ政権期に副大統領として尽力したスマート・グリッド技術への支援が、同州の復興に役立つとも主張した。他方、デサンティスは、ハリケーン対応で官僚主義的な手続きが打破されたと主張するとともに、フロリダ州の復興には慈善団体などが重要な役割を果たすと強調した。(本文に戻る)