はじめに
安全保障に対する脅威として偽情報などを用いた情報戦・認知戦に対する注目が高まっている。世界各国の選挙、戦争、パンデミックなどあらゆる場面で情報の武器化が常態化しており、世界経済フォーラムの「グローバルリスク報告書」では誤情報・偽情報が短期的に最も差し迫った脅威であると指摘されている[1]。こういった状況は日本も例外ではなく、パンデミック、ロシア・ウクライナ戦争、福島第一原発の処理水放出、日米関係、沖縄、能登半島地震、尖閣諸島の領有権問題など、情報工作事例は枚挙にいとまがなく、国際社会における日本の評価を貶めたり、日本と同盟国を離反させたり、国内社会を分断するような政治的な意図が見られている。直近の2026年衆議院議員選挙でも中国の影響工作キャンペーンがソーシャルメディア上で展開されていたと報じられている[2]。
こうした偽情報の拡散は、今日においてはさまざまなアクターによって行われており、その全ての実態を把握することは難しい。そこで、本稿では、中国による偽ニュースサイトの展開に注目し、実際にどのようなトピックが利用されているのかを実証的に分析した。こうした偽ニュースサイトでは、その意図は明らかではないが、韓国に関する話題が多く引用され、中国発信の情報ではないようにみせかけており、その実態がこれまで明らかにされてこなかった。結論を先取りして分析結果を述べれば、こうした偽ニュースサイトでは、政治性の弱い話題とともに、日本人にとって政治性が強く、意見が対立しがちな情報も発信されていた。政治性の強い話題には、韓国の聯合ニュースをもとにした福島第一原発の処理水放出記事が多くあり、処理水をめぐる情報を利用して日本国内の分断を煽る影響工作を展開していたことが明らかになった。

偽ニュースサイトの展開
2024年2月、カナダの研究機関シチズン・ラボ(Citizen Lab)は、中国が世界30カ国でローカルメディアを模倣する123の偽ニュースサイトを運営していると報告した[3]。この報告によれば、「ペーパーウォール」(Paperwall)と呼称されるこのキャンペーンでは、商業的なプレスリリースに紛れる形で新型コロナウィルスが中国起源であると主張する研究者への個人攻撃が行われたり、アメリカが生物実験を行なっているといった偽情報が拡散されたりしていた。このうち、日本では15の偽ニュースサイト(今日の福井、福岡エクスプレス、明治発展日報、仙台ニュース、日光ニュース、フジヤマタイムズ、神奈川県、玉ST、YAMATO CORE、DYP、北海道トラベルネット、ニホンデイリー、銀座デイリー、徳島オンライン、東京ビルダーズ)が展開されており、かなり早い段階から日本向けドメインとして登録されていたことが明らかとなっている。また、偽ニュースサイト記事に埋め込まれたリンク情報から大半の記事が大手ニュースサイトやネットメディアから無断転載されていたと指摘されている[4]。
中国以外にも、ロシアによる偽ニュースサイトを通じた影響工作が2025年のカナダ総選挙[5]や、オーストラリア総選挙において確認されている[6]。また、日本でも、ロシア国営メディアなどの主張を取り上げる「プラウダ」ネットワーク(Pravda)が展開されている[7]。オンライン情報源の信頼性などを調査するニュースガード(News Guard)の最近の調査では、「フランスがカメルーン兵士をウクライナに動員している」といったプラウダ・ネットワークなどの虚偽の主張が主要な生成AIチャットボットの33%の回答に反映されていることが明らかとなった[8]。オンライン上で虚偽の主張が蔓延し、それをチャットボットが学習した場合、偽情報を真実として回答する可能性がある。安全保障上、こういった状況は国家間の政治的コミュニケーションを歪曲する可能性があるだけでなく、国内の分断や政治不信を加速させる可能性がある点で重大な問題である。
中国による偽ニュースサイトでは何が発信されているのか
筆者が2024年2月までに上記偽ニュースサイトにて転載された記事タイトルを対象に、「どのようなトピックに言及した記事が頻繁に転載されていたのか?」、また、「転載記事の中には日本に関連した偽情報の拡散もあったのか?」という問いを実証的に分析したところ、「韓国」に関する話題が頻出していたことがわかった。
本分析では、ウェブスクレイピングサービスのParsehubを用いて15の偽ニュースサイトから2024年2月までに発信された169,756記事のタイトル情報を収集し、それらを計量テキスト分析ソフトウェアKH Coderを用いて分析を行なった[9]。
収集した169,756記事のタイトル情報を見てみると、最も古い記事は2020年1月8日にDYPから発信された34件の記事となっていた。つまり、これら偽ニュースサイトは遅くとも2020年1月8日時点では記事発信を行なっていたことがわかる[10]。
それでは、2020年1月8日から2024年2月29日の期間で発信された169,756記事のタイトルではどのような単語が頻出していたのか。ソフトウェアKH Coderを用いて頻出単語リストを作成したところ、最も多く言及されていたのが「韓国」で、次いで、「コロナ」、「日本」、「感染」、「発表」が上位を占めた。このことから、パンデミック期の韓国、日本におけるコロナ関連記事が頻繁に転載されていたことが推測される。また、下位に向かうと「映画」、「女子」、「五輪」、「イベント」、「ゲーム」、「写真」などの単語が確認され、非政治的記事も多く転載されていたことがわかる。
図1:偽ニュースサイトの記事タイトルにおける頻出単語トップ50
韓国に関する話題の四分類
韓国に紐づけられる話題とはどのようなものであったか。韓国に関する言及が特に多かった明治発展日報、仙台ニュース、日光ニュース、フジヤマタイムズの「韓国」記事に絞って分析を行った。
これら4つの偽ニュースサイトにおいてタイトルに「韓国」が付く記事は合計で13,584件であった。この記事タイトル情報をもとに類似性の高い単語を配置するデータ処理を施し、8つのクラスターを作成したものが以下の図2である。内容を見てみると、韓国に関連する話題は以下の四つに分類できる。一つ目の話題はコロナ・経済関連(上部)で、「コロナ」、「連続」、「最高」、「株価」、「指数」などからコロナ感染者の報告や経済状況に言及していることがわかる。二つ目は韓国カルチャー関連(左上)で、「韓流」、「サムスン」、「映画」、「アルバム」といった韓国の音楽や映画に関する話題が取り上げられている。三つ目は日本関連(左下)で、「歴史」、「徴用」、「汚染水」など日韓の文脈ではネガティブな意味合いを持つ話題が言及されている。四つ目は北朝鮮・アメリカ関連(右下)で、「北朝鮮」、「米」、「会談」、「外相」、「ミサイル」など北朝鮮とアメリカに関する政治的な話題が取り上げられていることが想定される内容であった。
図2:韓国に関する話題の分類
日本に関連した偽情報の拡散も見られた
このように韓国に関連した記事の転載が多くを占める中、2023年8月24日に実施された福島第一原発の処理水放出に関する韓国の聯合ニュースを発信源とする記事が転載されていた。これらの偽ニュースサイトに転載された記事を分析すると、「汚染水」表記が含まれている記事を意図的に転載する中国の影響工作活動が確認された。
2023年9月1日から2024年2月29日にかけて、偽ニュースサイト全体で「汚染水」表記の記事は52件、「処理水」表記の記事は13件転載されていた。これら記事タイトルをGoogle検索したところ、汚染水表記の記事は1件を除き、51件が韓国の聯合ニュースから転載されたものであった。一方で、処理水表記の記事は一部情報源が確認できないものもあったが、TBS NEWS DIG、新潮社フォーサイト、聯合ニュース、共同通信など情報源に分散が見られた。このうち、聯合ニュースからの処理水表記の記事は3件に留まっていたことが分かった。つまり、聯合ニュースを情報源とする偽ニュースサイトの転載記事に限れば、汚染水表記の記事数は51件、処理水表記の記事は3件で、汚染水表記の記事が17倍も多く転載されていたことがわかった。
これは聯合ニュースにおける記事数の割合にそもそも偏りがあったためだろうか。筆者が調べたところ、聯合ニュースにおける同期間の汚染水表記の記事数は113件、処理水表記の記事数は69件で、汚染水記事の多さは1.64倍に留まった。すなわち、偽ニュースサイトでは明らかに汚染水表記の記事が多く取り上げており、これは処理水放出に対して国内世論を揺さぶることを目的とした中国の政治的な意図を反映したものであると考えられる。
図3:偽ニュースサイトと聯合ニュースにおける汚染水、処理水表記の記事数比較
おわりに
ここまで中国による偽ニュースサイトの展開、またその偽ニュースサイト内で掲載されている記事について、筆者独自の分析を用いて、どのようなテーマが偽情報の拡散に用いられているか検討してきた。この調査結果から見えてきたことは、韓国に関する非政治的話題に紛れる形で、日本社会の分断を狙って福島第一原発からの処理水放出を「汚染水」の放出と煽る政治性の強い記事が多く掲載されていたという点である。
偽ニュースサイトを通じて発信された記事が読者をひきつけたり、これらの記事がソーシャルメディア上で広く拡散することには繋がらなかった。しかし、プラウダ・ネットワークの事例で見られるように、AIチャットボットの回答がこれら偽ニュースサイト発信の記事を誤って引用することを狙っている可能性も考えられる。そのうえで、印象論的にこの問題を語ることを避けるためにも、影響工作を展開するアクターがその時々においてどういったテーマやナラティブを扱ってきたのかという傾向を含め、実証的な分析を積み重ねることが重要である。
(2026/03/23)
脚注
- 1 "Global Risks Report 2025: Conflict, Environment and Disinformation Top Threats," World Economic Forum, January 15, 2025.
- 2 「日本を批判するアカウント群3000件規模、X投稿・拡散…衆院選前から中国系の影響工作か」『読売新聞』2026年2月23日。 また、「中国系の400アカウント、Xで『反高市工作』 衆院選 AI画像も活用、巧妙に」日経新聞オンライン、2026年2月23日。
- 3 Alberto Fittarelli, "PAPERWALL: Chinese Websites Posing as Local News Outlets Target Global Audiences with Pro-Beijing Content," Citizen Lab, February 7, 2024.
- 4 杉田沙智代、斉藤直哉、絹川千晴、芋野達郎、「追跡!日本のメディア名乗る不審なサイト 誰が何のために」NHK、2024年3月2日。
- 5 Jonathan Montpetit, "Major Russian disinfo site featuring anti-Trudeau articles prompts calls for new focus at public inquiry," CBC News, September 14, 2024.
- 6 Ange Lavoipierre and Michael Workman, "Pro-Russian influence operation targeting Australia in lead-up to election with attempt to 'poison' AI chatbots," Australian Broadcasting Corporation, May 3, 2025.
- 7 平和博「標的は『生成AI汚染』、年360万件超のプロパガンダを量産するロシア影響工作ネットのインパクトとは?」Yahoo News、2025年3月10日。
- 8 "Monthly AI Misinformation Monitor of Leading AI Chatbots," NewsGuard, April 8, 2025.
- 9 本データ収集は2024年2月から3月にかけて実施したもので、最終的なデータ更新は2024年3月6日に行なった。
- 10 収集した記事情報のうち、徳島オンライン、銀座デイリー、日光ニュース、日本デイリーはウェブサイトの仕様から記事公開日情報を取得できなかった。そのため、これら4つのウェブサイトにて2020年1月8日よりも前に記事が発信されていた可能性もある。収集したデータ上で最も古い記事はDYPによる2020年1月8日の記事であった。
