はじめに

 イスラエルとアメリカがイラン攻撃を開始して約2週間が経った。この攻撃によりイランの最高指導者アヤトラ・ハメネイが殺害された。イランは報復としてイスラエルや中東地域に存在するアメリカ軍基地のみならず、アラブ湾岸周辺諸国、さらにはホルムズ海峡を航行するタンカー等の船舶も攻撃すると威嚇している。この結果、アラブ湾岸周辺諸国の社会・経済に損害が生じるとともに、事実上ホルムズ海峡が閉鎖された形となり、原油価格の高騰など世界経済に大きな影響を与えている。

 イラン国内では、後継の最高指導者選出が法に基づいて行われ、殺害されたハメネイの次男モジタバ・ハメネイが選出された。モジタバ最高指導者は、12日声明を発出し、アメリカ・イスラエルに対する報復及びホルムズ海峡航行船舶への攻撃継続を宣言し、徹底的に抗戦することを鮮明にした。イラン民衆による反政府活動は見当たらず、イスラム革命防衛隊(IRGC)が権力を掌握しており、イランの国家体制が揺らいでいる様子はない。

 重要な点は、今回のイラン攻撃は、2023年に始まったイスラエルのガザ戦争の延長線上にあるということである。イスラエルがガザ戦争を始めた時、イラン及びその傘下の勢力はハマスへの連帯を示しイスラエルに攻撃を行った。結果的に、イスラエルの反撃によってハマスやヒズボラは大きな打撃を受けた。イランも、イスラエルによる攻撃で防空網に大きな被害を受けた。とは言え、イランは、核開発を続け、弾道ミサイルを戦争開始前は保持しているとみられていた。イスラエルにとってイランは国家存立の脅威であり続けており、この脅威を取り除くことがイスラエルにとって最大の国家目標となっていた。

 本稿では、イラン戦争のイスラエルとアメリカの戦争目的に言及した上で、この戦争がイスラエルの国家目標に適った方向で始まり、進められていることを確認し、政治的・経済的に世界的影響を与えているこの戦争の行き着く先について考察する。

イスラエルとアメリカの戦争目的

 トランプ大統領は、2月24日の一般教書演説で、イランに言及し、同国の核兵器保有を認めないことを明確にし、欧米も脅かす弾道ミサイルの開発を厳しく批判した。しかし、イランの民衆に言及することはあっても[1]、イランの体制転換までは述べていない。実際、オマーンを仲介者として行われたアメリカとイランの交渉では、アメリカの要求範囲は明らかになっていないが、イランの核兵器の開発の中止、弾道ミサイル廃棄、並びにヒズボラ、ハマス等のイランの代理勢力への支援中止をアメリカが要求したようである。

 これに対し、イスラエルは、イランの核施設の破壊だけでなく、イランの体制転換を目指していた。エコノミスト誌によれば、今回のイラン攻撃は、昨年の「12日間戦争」直後から検討が始まっていたようだ[2]。こうした点を踏まえれば、イスラエルの戦争目的は当初から明白であった。実際に、イスラエルは、攻撃の早い段階でハメネイ最高指導者を殺害し、かつ最高指導者を選出する「専門家会議」が開催されていた建物も攻撃した[3]。

 ハメネイの後継最高指導者の選出に際して、トランプ大統領は「我々の承認がなければ長く続かない」[4]と述べるなど、イランの体制転換を望んでいるかのような姿勢を示したが、「原油高は米の利益」、イラン核保有阻止が最優先などと発言するなど[5]、アメリカの戦争目的を明確にするような発言はしていない。一般教書演説などから読み解くと、イランを核保有国としないことが戦争の目的とみられる。

 整理すれば、イスラエルの戦争目的はイランの体制転換をはかり、イスラエル国家を承認するイラン体制をつくることであり、アメリカの戦争目的は、あくまでもイランを核兵器保有国家としないことであり、そのためには体制転換という選択肢も排除しないというものではないか。

イランへの武力行使の影響

 国際社会にとって最大の問題は、ホルムズ海峡の事実上の閉鎖とイランの報復攻撃による湾岸産油国の石油関連施設をはじめとするインフラの被害である。これによって石油や石油製品の価格高騰、生産減退に伴う世界経済への悪影響が広がることである。石油価格の指標とされるブレントの価格は、3月8日のエコノミストの報道では、100ドルを超え戦争前から40%の値上がりをし、アメリカのガソリン価格も3.4ドルとなり戦争前から50セントの上昇となっている[6]。これに対し、アメリカは、イラン空爆を強めるとともに、トランプ大統領のSNS発信によれば、3月13日夜、イランの輸出石油の90%を扱うカーグ島の軍事基地を攻撃し、完全に破壊した模様である[7]。また、国防総省の関係者は、イランのホルムズ海峡封鎖に対抗することを約束した[8]。

 ホルムズ海峡のことばかり注目を集めているが、イスラエルとアメリカによるイラン国内の軍事・政治・経済施設への攻撃に対し、イランがイスラエル、アラブ湾岸周辺諸国に対して報復攻撃を行っており、双方の武力攻撃が続いている。イランによる報復攻撃はアメリカ基地や外交使節を標的としており、トルコのNATO軍基地を狙った攻撃を含めれば全部で9つのアラブ湾岸周辺諸国に対してイランは攻撃していることになる。モジタバ最高指導者は、この戦争で殺されたイラン人の「血の報復」を行うとの声明を発表し、ホルムズ海峡封鎖は継続されるべき、湾岸アラブ諸国はアメリカ軍基地の受け入れを停止せよ、と述べた[9]。しかし、イランは、長期戦に備えてミサイルを確保しているとの見方もあるが、アメリカとイスラエルによる攻撃は、イランの戦闘能力をかなり衰えさせていると見ることもできる。3月10日のヘグセス国防長官の発表では、イランのミサイル攻撃は戦争開始当初から90%減少し、ドローン攻撃も83%減少したとしている[10]。

 イランの報復攻撃により、イラン戦争に直接かかわることになった湾岸協力会議(GCC)諸国に与える影響も甚大である。これら諸国は、アメリカの軍事基地だけでなく、自国の石油関連施設や発電所や淡水化施設などの攻撃を受け、被害も出ている。イランからの攻撃は当初2日間からは和らいだようだが、未だ散発的な攻撃は続いているようだ。内部では、イランに報復攻撃するべきであるという意見もあったようだが、実際にはアメリカ、イスラエル、イランの戦争当事国のみならず、GCC諸国間及び各メンバー国内での各勢力間の信頼関係の欠如により、統一した行動がとれないとされている[11]。

今後の行方と国際社会の対応

 イラン戦争の行方は、第三者で仲介にあたる国や勢力が不在で、残念ながら停戦に向けた仲介が行われることは想像できず、停戦の行方は当事者の事由で決まるものと考えられる。イスラエルはイランの体制転換を戦争目的とし、それが達成されるまで、武器弾薬が尽きるまで戦争を続ける意志を持っている模様である。これに対しアメリカはイランの体制転換は目指しつつも、中間選挙で共和党不利になる戦争は続けられない。トランプ大統領は、戦争は4〜5週間かあるいはそれ以上かかると述べているが、早期に戦争を終わらせる必要があるであろう。ホルムズ海峡の事実上の閉鎖がガソリン価格の上昇を生んでいる以上、ホルムズ海峡の安全性を確保できるか、またGCC諸国の石油・天然ガス関連施設や発電所・電力供給や淡水化等インフラ施設を守れるかがもう一つの鍵となる。

 このように、当事者の事由で決まる部分も多いが、国際社会の果たす役割や日本独自の事態沈静化に向けたアプローチの可能性もあるのではないか。 国際社会にできることは、石油・天然ガス高騰による経済危機への対応を粛々と行うことと戦争当事者に問題の本質を問いかけ、それを解決するように働きかけることである。問題の本質は、イランとイスラエルがお互いの国家や体制を認めない点にあるのではないか。戦争の根本的な原因である問題を、国際社会は公に問うことをしてこなかった。国際法を遵守することを基本政策とする日本が、「2国家解決」を示した国連総会決議181(1947年)及び国連安保理決議242(1967年)を基礎として訴えてみることも有効ではないか。

 論考執筆時点では、情報が錯綜しているが、トランプ大統領がホルムズ海峡安全航行のため軍艦を派遣するよう日本など、ホルムズ海峡経由で石油・天然ガスを輸入する諸国に呼びかけた[12]。これまで同盟国として日本は中東和平協議、イラク戦争、アフガニスタン戦争等中東の問題にアメリカが取組む時は、同じ立場に立って汗をかき協力してきた。しかし、今回は日本に相談もなくアメリカがイスラエルと始めた戦争であり、これまでと同様な対応はすべきでないと考える。しかしながら、一方でホルムズ海峡封鎖は日本経済・社会にとって重大な問題であり、ヨーロッパ諸国や同様の立場にあるアジア諸国と協力して事態沈静化に向けた外交的働きかけを行っていくべきであると考える。

(2026/03/24)

追記(2026年3月24日)

 3月19日、高市総理はトランプ大領との面談に際して、ホルムズ海峡の航行安全のための軍艦派遣に関し日本の法律の範囲内でできることとできないことがあるとして詳細にきっちりと説明したとするとともに、中東情勢を巡り「日米間で緊密に意思疎通を続けていくということを確認した」と明らかにした[13]。イランへの国際的な外交的働きかけを強め、アメリカを支援する旨を述べた。3月21日、共同通信によれば、アラグチ・イラン外相は、封鎖中のホルムズ海峡について、日本側との協議を経て日本関連船舶の通過を認める用意があると明らかにしたとしている[14]。また、これに対し、また同じく共同通信は、日本政府関係者の発言として、「封鎖の解除はイラン側と直接交渉するのが最も効果的だ」と述べたと報道している[15]。日本は、1987年9月イラン・イラク戦争でホルムズ海峡付近を航行する船舶が国籍不明のガンボートに攻撃を受け、海峡通過が全面的に停止した際、イラン政府に日本関連船舶の船団としての海峡通過情報(船団の各船舶の情報及び船団の入湾・出湾日時等)を提供し、その後同船団に入らなかった1隻を除き攻撃されることはなかった[16]。日本政府関係者の発言は、この経験からのものだと考えられる。

 アラグチ外相は、共同通信の取材に対して、「イランを攻撃する敵の船舶に対しては封鎖している」と主張し、敵以外で、通過を希望する国々の船舶は通過可能だとしている[17]。この発言は裏を返せば、敵であるアメリカが日本に駐留していた軍艦や兵員をイラン攻撃に参加させれば、日本関連船舶は敵として通過できなくなる可能性もあると筆者はみている。また、日本は、イランによる周辺国への攻撃は中東地域と世界の安全保障を脅かしているとして、「全ての攻撃の即時かつ無条件中止」を求めるG7外相声明(3月21日)に参加したが[18]、これは日本の国際的外交努力の一環として評価し得る一方、イランの受けとり方によれば、イランに対する敵対行動にもなる。日本としてはこれら諸点を踏まえて総合的な外交努力を続けていく必要があろう。

脚注

  1. 1 「トランプ米大統領の一般教書演説の全文(2026年)」『日本経済新聞』2026年2月25日。
  2. 2 “The Iran war has been a stunning aerial success,” The Economist, March 4, 2026.
  3. 3 「イスラエル、イラン「専門家会議」空爆 最高指導者選出を妨害か」『ロイター』2026年3月4日。
  4. 4 「トランプ氏「我々の承認なければ長く続かない」イランの最高指導者選出について警告」『FNNプライムオンライン』2026年3月9日。
  5. 5 「トランプ氏「原油高は米の利益」、イラン核保有阻止が最優先 議員反発」ロイター 2026年3月12日。
  6. 6 “The Iran war puts Asia in an energy panic: Stranded Gulf supplies are choking off the region’s economies,”The Economist, March 8, 2026.
  7. 7 “U.S. Military Attacks Iran’s Oil Export Hub, Trump Says,”The New York Times, March 14, 2026.
  8. 8 “Trump says U.S. struck Kharg Island, core of Iran’s oil economy”The Washington Post March 14, 2026.
  9. 9 Gabriela Pomeroy “Iran’s new Supreme Leader vows to continue blocking Strait of Horms” BBC, March 13, 2026.
  10. 10 “Iran’s Retaliatory Strikes Appear to be slowing,” The New York Times, March 11, 2026.
  11. 11 “Should the Gulf states join attacks on Iran,” The Economist, March 9, 2026.
  12. 12 「ホルムズ海峡に「軍艦」派遣要求 トランプ氏、日本などに」『時事ドットコム』2026年3月15日。
  13. 13 「高市総理コメント全文」『TBS NEWS DIG』 2026年3月20日。
  14. 14 「【独自】日本船の通過「認める用意」ホルムズ海峡巡りイラン外相」『共同通信』(NEWS.JP)、2026年3月21日。
  15. 15 「イラン外相発言、慎重に見極め 日本政府、海峡通過の協議で」『共同通信』2026年3月21日。
  16. 16 筆者は、当時在UAE日本大使館の政務担当二等書記官として、治安担当書記官及び石油担当書記官並びに船舶運航の同地駐在員の方とともに海峡通過船団との連絡を行うとともに、1988年3月18日に国籍不明ガンボートに攻撃されたケミカルタンカーの犠牲者の遺体を引き取り被害者親族に引き渡した。
  17. 17 「【独自】日本船の通過「認める用意」ホルムズ海峡巡りイラン外相」『共同通信』2026年3月21日。
  18. 18 「中東地域のパートナーへの支持に関するG7外相声明」外務省、2026年3月22日。