【「欧州とインド太平洋の同盟間協力プロジェクト」のポリシーペーパー掲載のお知らせ】

 この度、IINA(国際情報ネットワーク分析)では「欧州とインド太平洋の同盟間協力プロジェクト」と提携して、米欧と日韓豪の専門家による欧州とインド太平洋の同盟間協力構築のための情報を日本語と英語で掲載いたします。今後の世界の戦略的中心となるインド太平洋と欧州の米国の同盟国間の協力について少しでもIINA読者の理解にお役にたてれば幸甚です。


 NATOと韓国は今、防衛産業の関係強化に向けた重大な岐路にある。北朝鮮その他の主体がロシアのウクライナでの戦争を支援して相互利益を高め、米国同盟システムの安全保障に対する直接的な脅威となる中、欧州とインド太平洋地域は安全保障領域での相互の結び付きを強めている。このように目まぐるしく変化する厳しい安全保障情勢の下、NATO加盟国と韓国は、両者間の防衛産業協力が持つ戦略的価値への認識を深めつつある。この認識は、経済的な考慮や防衛装備品の在庫を緊急に補充する必要性にとどまるものではない。

 NATOの新たな「産業能力拡大誓約」は、目下の安全保障環境における差し迫った課題に対処すべく、韓国、豪州、日本、ニューランドのIP4を含め、強力な防衛産業を有するパートナー国との防衛産業協力を拡大するというNATOの決意を示したものだ。[1] EUもその「欧州防衛産業戦略」において、防衛の即応性を高め、EUの安全、繁栄、民主主義の価値観を守るためには、同志国との連携が重要であると強調している。[2] 同様に韓国も、自身の「自由・平和・繁栄のインド太平洋戦略」に従い、欧州パートナー国との関係深化をはじめ、価値観を共有する国々との防衛産業ネットワーク拡大に力を入れている。[3]

 NATO加盟国と韓国は、民主主義の価値観やルールに基づく国際秩序に対する脅威の高まりに共同で対処する上では、両者間の防衛産業協力が重要な役割を果たすという信念を共有している。こうした点から見て、特に重要と考えるのは、防衛技術イノベーションと産業強靱化に向けた協力である。

防衛技術イノベーションに向けたパートナー

 ロシア・ウクライナ戦争は、今日の戦争で軍民両用技術や先進技術がゲームチェンジャーとなることを見せつけ、敵対国に対する技術的優位性を保つためには米同盟国間の協力が喫緊に必要であることを示している。韓国は、北朝鮮によるドローン攻撃の脅威増大に対応すべく、世界で初めて国産低コストレーザー兵器の大量生産を公表した国となった。このレーザー兵器「ブロックI」は、米同盟国にとっても低価格な防空手段となる可能性を秘めている。[4] 韓国はまた、北朝鮮からの脅威に対抗するため、ポーランド製自爆型ドローン「ウォーメイト3」の購入計画も発表している。[5] これは、韓国とNATO加盟国が防衛能力の相互強化を目指した防衛産業協力へと進む可能性を示唆するものである。

それ以上に有望なのが、NATOと韓国による防衛イノベーションの可能性だ。いずれの側も、財務・人的・技術資源を出し合うために必要な熱意と能力を備えているためだ。防衛研究開発への投資額で世界第3位の韓国は[6]、2024年の1年間だけで軍民両用技術産業を中心とする先端防衛技術の開発に約3億ドル(4,000億ウォン)投じると約束し、海外パートナーを積極的に模索している。[7] 根本的な問題は、武器システムのニーズ型開発を重視し続けていることで[8]、急速な進化を遂げる今日の戦争に対応する上では準備不足となる恐れもある。こうした備えの欠如は協力関係構築の必要性を浮き彫りにするものだ。欧州の防衛企業は、その優れた技術力と新興技術開発ノウハウゆえに、韓国にとって魅力的な協力機会を提供する存在である。

 韓国の防衛科学技術は、2021年には世界第9位にランクされ、フランス、ドイツ、英国といった欧州防衛産業強国の後塵を拝している。[9] 特に、韓国は航空宇宙と警戒監視・偵察の技術分野で課題を抱えているため[10]、両分野に強い欧州諸国は理想的なパートナー候補となる。NATOにとっても、人的資源の質の高さやメモリー半導体等の重要電子部品の主要生産国という韓国が持つ強みは、協力の魅力を増すものだ。さらに、韓国がアジアの国としては初めてNATOと耐空証明の相互承認協定を締結したという事実は[11]、韓国の防衛技術能力をNATOが認めたことを意味している。2024年5月にエアバスが韓国産業通商資源部との間で韓国での国際技術センター新設に関する覚書を締結したのは、その顕著な例だ。[12] 航空宇宙と防衛の分野に特化した研究開発拠点を韓国に設立するというこの取り組みは、NATO加盟国と韓国の関心事項は一致しており、防衛イノベーションにおける協力深化の可能性があることを示している。

防衛産業強靱化に向けたパートナー

 ウクライナでの戦争は、防衛能力と抑止態勢の強化に欠かせない要素である防衛産業の生産能力と強靱性を高める上で、米同盟国との協力がいかに戦略的に重要であるかを気付かせるものとなった。韓国がNATOとの互換性を確保した兵器を生産し、迅速な納入能力も備えている点は、ポーランド初のK2戦車とK9自走榴弾砲を受注後わずか4カ月で納品したことが実証しており[13]、ロシアの攻撃に対するNATO加盟国の即応能力に寄与している。国の方針でウクライナへの直接の武器供与は禁じられているものの、韓国のNATO加盟国への武器輸出がウクライナの軍備増強に役立っていることは、世界中の識者に理解されている。[14] ロシアが韓国に対してウクライナ武装化支援に関する警告を繰り返し発していることは、軍事能力の増強と侵略国への対抗に向けた米同盟国間の武器協力の重要性を物語っている。[15]

 さらに、共同開発や共同生産による防衛産業の強靱化を目的としたNATO加盟国と韓国の協力も、米同盟国の抑止・防衛能力強化という点で多大な戦略的価値を長期にわたって提供している。ウクライナでの戦争、経済的威圧行為の頻発、朝鮮半島や台湾海峡での緊張の高まりはそのすべてが、単一の武器製造元への行き過ぎた依存がますます危険なものとなっていることを示している。[16] こうした依存は、武器生産を妨げ国家安全保障を危うくしかねない混乱の発生に対し、米国とその同盟国を無防備な状態に陥らせる。こうしたリスクを緩和し生産能力を向上させるためには、武器供給拠点を多様化しインド太平洋地域と欧州という地理的に異なる2戦域それぞれにおいて信頼性の高いパートナーを得ることが役に立つ。

 この点に関し、韓国が推し進める「メイド・イン・NATO」と銘打った取り組みは、単なるマーケティング策の域を超え、米国とその同盟国の安全保障に向けた重要な施策となっている。[17] ポーランドでは、ハンファ・エアロスペースが「ホマールK」と題する計画の下で、多連装ロケットシステム「チョンム」やCGR-080ミサイルの現地化や技術移転を進行中だ。[18] また、ハンファ・オーシャンとHD現代は、ポーランドの次期潜水艦「オルカ」プロジェクトに参加するための、技術移転と共同開発を提案している。[19] こうした協力がNATO加盟国の防衛産業や防衛能力の強化につながることに疑問の余地はない。加えて、韓国の大手武器製造企業が慶尚南道の昌原市に集中し、韓国の武器生産施設を北朝鮮からの攻撃リスクに対して脆弱なものにしていることを考えれば、信頼性の高い欧州パートナーとの共同開発・生産は、北朝鮮に対する防衛・抑止態勢強化にとっても極めて重要となる。

課題と政策への影響

 防衛産業と国家安全保障は本質的につながっているため、NATOと韓国の協力拡大は、軍事・政治関係の強化に向けた両者のコミットメントと能力が高まりつつあることを示すものだ。そしてこれは、ロシア、北朝鮮、および両者のパートナー国に対し、その連帯強化が欧州とインド太平洋地域の安全保障を脅かせば、NATOと韓国はこれまで以上に一丸となって対抗する、という明確なメッセージを送るものでもある。

 とはいえ、NATOと韓国の防衛産業協力はこれまでのところ進展が遅く、数多くの障壁に直面している。こうした障壁は一夜にして解消できるものではなく、長期にわたる持続的な協力関係の構築を難しくしている。中でも根本的な課題は、深く根付いた競争心と保護主義だ。一部の欧州諸国は、欧州防衛産業基盤の構築から域外国を締め出すべきだと主張する。例えば、フランスのエマニュエル・マクロン大統領はその演説の中で「米国製や時として韓国製(の防衛装備品)を調達することは、常に合理性が高い。しかし、欧州は、自身の防衛産業の発展に責任を負わずして、どうやって主権や長期的な自律性を築けるというのか」と述べている。[20] 韓国の防衛企業は国内で激しい競争を繰り広げることがしばしばであり、それが国内外での連携を難しくしている。[21] 特に懸念されるのは、ウクライナでの戦争が終結して武器需要が急減した後の展開だ。長期的な連携が引き続き必要であるにもかかわらず、競争の激化が協力への障壁をさらに高める恐れもある。

 NATO加盟国と韓国の防衛産業協力を2国間と多国間の両方を含めて洗い出すと、協力の選択肢を模索し安全保障や経済面での関心事項を特定する上で効果的な基礎が得られる。2024年10月、米国および韓国や複数のNATO加盟国を含む米同盟国は「インド太平洋における産業基盤強靭化パートナーシップ」(PIPIR)の第1回会合を開き、防衛産業基盤の協力拡大に向けて大きな一歩を踏み出した。この会合では、戦力維持、生産、サプライチェーン強靭性、政策・最適化の4テーマに特化した具体的なプロジェクトを進めるワークストリームが定められた。[22] PIPIRは、防衛産業や新興技術から国際関係や安全保障までの幅広いテーマで、官民有識者間のこれまで以上に深い議論を醸成する場となるはずだ。

産業能力と地政学的要素の両方を反映した具体的な分析データを基にロードマップを作成すれば、各国は自身の産業基盤を相互利益のために活用し、長期的な協力を育むことが可能となる。こうしたロードマップが作られればさらに、対話と協議の深化、より実際的かつ効果的な政策立案の促進、新たな協力機会の発見にもつながるだろう。

(2025/06/27)

*こちらの論考は英語版でもお読みいただけます。
【Cooperation between European and Indo-Pacific Powers in the US alliance system project:Policy Paper Vol. 7】
Navigating the Opportunities and Challenges in NATO–South Korea Defense Industrial Cooperation

脚注

  1. 1 “NATO Industrial Capacity Expansion Pledge,” NATO, July 10, 2024.
  2. 2 High Representative of the Union for Foreign Affairs and Security Policy, A New European Defence Industrial Strategy: Achieving EU Readiness Through a Responsive and Resilient European Defence Industry (European Commission, 2024).
  3. 3 “Introducing the Indo-Pacific Strategy,” Ministry of Foreign Affairs of the Republic of Korea, accessed January 31, 2025.
  4. 4 Yoonjung Seo and Brad Lendon, “South Korea to Mass Produce Lasers That Can Take Out Drones at $1.50 a Hit,” CNN, July 11, 2024.
  5. 5 Oishee Majumdar, “KADEX 2024: South Korea to Acquire Loitering Munitions from WB Group,” Janes, October 2, 2024.
  6. 6 Cheon Jin-yong, Han Yeogn-jin, Kim Min-uk et al., Defense Science and Technology Level Assessment (Korea Research Institute for Defense Technology Planning and Advancement, 2022), 108.
  7. 7 Dongkyu Kim, “Invest 400 Billion This Year in R&D of the Defense Sub-Division . . . Establishment of 36 Billion Won Defense Fund,” Yonhap News Agency, April 17, 2024.
  8. 8 Keonyeong Jeong, Yongseok Seo, and Kyungmoo Heo, “What the Ukraine-Russia War Means for South Korea’s Defense R&D,” Issues in Science and Technology 39, no. 2 (Winter 2023): 21–23.
  9. 9 Jin-yong et al., Defense Science and Technology Level Assessment, 24–25.
  10. 10 Jin-yong et al., Defense Science and Technology Level Assessment, 32.
  11. 11 “NATO and the Republic of Korea Sign Airworthiness Agreement,” NATO, July 15, 2024.
  12. 12 Kang Yoon-seung, “Airbus’ Defense, Space Arm to Launch Research Center in S. Korea,” Yonhap News Agency, May 10, 2024.
  13. 13 “First Delivery of S. Korean Heavy Weapons Comes to Poland,” Associated Press, December 6, 2022.
  14. 14 “Miscalculations, Divisions Marked Offensive Planning by US, Ukraine,” Washington Post, December 4, 2023.
  15. 15 Marni Rose McFall, “Russia Issues Warning to South Korea about Sending Arms to Ukraine,” Newsweek, November 25, 2024.
  16. 16 Assistant Secretary of Defense, National Defense Industrial Strategy (US Department of Defense, 2023).
  17. 17 Koh Young-wook, “[Exclusive] Hanwha Aero ‘Defense Base in Poland . . . Made in NATO,’” Hankyung, March 25, 2024.
  18. 18 “Hanwha Aerospace Signs 2nd Executive Contract for Polish Multiple Rocket Launcher System,” Hanwha Aerospace, April 25, 2024.
  19. 19 Kan Hyeong-woo, “Hanwha, HD Hyundai Vie for Poland’s $2.7b Submarine Program,” Korea Herald, October 27, 2024.
  20. 20 Macron, “Europe—It Can Die. A New Paradigm at the Sorbonne,” speech at Sorbonne University, Paris, April 26, 2024, transcript available from Groupe d’études géopolitiques.
  21. 21 Kim Boram, “HD Hyundai Files Complaint Against Hanwha Ocean for Alleged Defamation in Leak of Military Secrets,” Yonhap News Agency, May 7, 2024.
  22. 22 US Department of Defense, “Under Secretary of Defense for Acquisition and Sustainment Chairs Inaugural Plenary Meeting of Partnership for Indo-Pacific Industrial Resilience,” news release, October 10, 2024.