5月22日のG7サミット中、日本の岸田文雄首相、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領、米国のジョー・バイデン大統領の間で、日米韓協力について短時間の意見交換が行われた。束の間の邂逅ではあったが、今回の交流はこの3カ国間の協力が再び軌道に乗っていることを示した。実際、日米韓はこのところ、インド太平洋の文脈内での共通の価値観に基づく3カ国協力で大きな進展を遂げている。

 本稿ではまず、日米韓3カ国協力の最近の進展について論じ、過去1年間の主な成果を紹介する。ますます複雑化し、予測困難になっている世界情勢を背景に、確かに3カ国の結びつきは強まっている。しかし、こうした成果にもかかわらず、3カ国協力を推進する上で、特に中国の影響力の複雑さへの対処という点で、3カ国の間で内在的なギャップや相違が生じていることを認識しておくべきである。したがって本稿では、こうしたギャップを埋めるための3カ国の努力と、直面している限界についても取り上げる。協力の重要性については共通の認識があるものの、乗り越えなければならない課題や複雑さがあることも確かである。

共有するインド太平洋構想の実現に向けた3カ国協力の成果

 過去1年間の度重なる会合や対話によって、3カ国協力のさらなる進展への道が開かれた。昨年6月下旬に開催されたNATO首脳会議に合わせて、およそ5年ぶりとなる3カ国首脳会談が行われた。この会談は、米国とその東アジアで最も親密な2つの同盟国との間の雰囲気が好転していることを浮き彫りにした[1]。

 数カ月後の11月13日、3カ国の首脳は再びプノンペンに集まり、3カ国がインド太平洋のパートナーとして「包摂的で、強靭で、安全な、自由で開かれたインド太平洋」を追求することを宣言し、「かつてない水準の日米韓の協調」を称賛する歴史的な発表を行った[2]。この共同声明は、3カ国協力における重要なマイルストーンとなるもので、3カ国の首脳は、経済と安全保障の両分野での協力を含む、これまでで最も包括的な協力を約束した。

 2022年末に尹政権が韓国初のインド太平洋戦略を正式に発表したことで、3カ国協力の焦点が東アジアからより広範なインド太平洋地域に移っていることがますます明らかになっている。それ以降、3カ国は北朝鮮のミサイルや核の脅威のほか、経済安全保障上の課題、気候変動、太平洋島嶼国への関与といった主要な問題に関する3カ国協力についても、実質的な議論を深めてきた。

 このように議論の範囲が拡大していることは、「ルールに基づく国際秩序を強化し、インド太平洋の繁栄を推進するための3カ国協力」という包括的なアプローチを反映している。これもまた国内外から大きな注目を集め、3カ国によるインド太平洋パートナーシップの結束と連携を強化するという3カ国の強い決意を示すことにも成功した。

 3カ国協力のもう1つの重要な成果は、共有するインド太平洋構想の実現に向けて、3カ国が言葉での約束を実際の行動に移すための決意と能力を明確に示したことである。昨年8月と9月には、5年間の中断を経て、弾道ミサイル防衛[3]と対潜戦[4]の3カ国訓練がそれぞれ再開された。これは、最近のいくつかの共同訓練とともに、北朝鮮の脅威に対する防衛力強化のために相互運用性を高めるだけでなく、地域の安全を守り、インド太平洋でルールに基づく国際秩序を確保するというコミットメントを示すために実施された[5]。さらに、6月上旬の3カ国閣僚会合を経て、3カ国は年内に北朝鮮のミサイル警戒情報をリアルタイムで共有できる体制を構築することで合意した[6]。

 経済分野におけるプノンペンでの公約実現に向けた最も重要な動きの1つは、3カ国が経済安全保障対話を設置し、2月下旬に第1回会合が成功裏に開催されたことである[7]。この対話は、サプライチェーンの強靭性の構築や、経済安全保障の文脈での技術開発に向けた協調的取り組みを加速させるための有意義な一歩であり、最終的な目的は、ルールに基づく経済秩序を確保し、経済的威圧に対抗することにある。

 こうした取り組みの一環として、日韓両国は経済関係の修復で目覚ましい進展を遂げている。日本政府はこの3月に、半導体やディスプレイの製造に欠かせない3つの化学物質について、韓国への輸出規制を緩和した[8]。その1カ月後、韓国政府は3年間の除外期間を経て日本を貿易優遇国のホワイトリストに再登録し、日本政府は韓国を貿易ホワイト国に戻すことを発表した。さらに、世界最大のメモリ半導体メーカーである韓国のサムスン電子は、日本の横浜市に半導体開発拠点を建設する計画を明らかにした。これにより、半導体産業での日韓協力が進むことも考えられる[9]。

インド太平洋のパートナー間の微妙な違い

 より実践的な運用面での協力の推進という点での最近の成果にもかかわらず、3カ国協力の長期的な持続可能性については疑問が残る。植民地時代と戦時中の歴史問題に関する日韓の認識の違いが解決されていないため、2カ国および3カ国協力の将来は脆弱で予測が困難だ。3カ国は、2016年から2017年にかけて、北朝鮮問題やより広範な地域的・世界的な課題に対処するために、協力強化の取り組みを強めた[10]。また、ミサイル防衛や対潜戦のための共同訓練を開始し、その継続を約束した[11]。しかし、首脳らの約束の言葉や世界的な不安定性の高まりにもかかわらず、歴史論争を主因として日韓関係が最悪の状態に陥ると、安全保障や経済の分野での2カ国・3カ国協力に緊張が生じた。

 日韓の隔たりに加え、米国とその同盟国との間にも、共有する地域構想があるにもかかわらず、地域問題への取り組みに微妙な違いがあることが明らかになっている。3カ国は、北朝鮮がもたらす脅威や、価値観を共有しない国々によるルールに基づく国際秩序への挑戦について、認識を共有している。しかし、特定の問題に対する視点、優先順位、アプローチが同じとは限らないことに注意しなければならない。

 北朝鮮との地理的な近さに応じて、3カ国の北朝鮮に対する脅威認識のレベルは異なる。北朝鮮が核兵器やミサイル開発で著しい進歩を遂げるのに伴い、北朝鮮問題を巡る米国とその同盟国との立場の違いが一段と顕著になっている。北朝鮮が米国本土を攻撃し、第二撃を行う能力を手に入れたことから、米国による拡大抑止の有効性や、地域の安全に対する米国の貢献がどの程度信頼できるかについて、懸念が高まっている[12] 。一方、関係パートナーの間で核兵器を巡る議論が再燃しているため、米国にとっては核兵器の拡散防止がますます重要になっている[13]。

 中国は、3カ国にとってより複雑で微妙な問題だ。米国では、中国の脅威に関して超党派のコンセンサスがあり、中国に対して強硬姿勢を取っている[14]。米国政府は最近の戦略文書で、中国について「国際秩序の変更」を試みる「米国にとって最も重大な地政学的挑戦」と形容した[15]。一方、中国を米国と同じように認識している国はほかにない[16]。米国と価値観や原則を共有する同盟国は、それぞれの国益や地政学的配慮に基づき、中国に対して独自の関係やアプローチを構築している。

 韓国が最近発表したインド太平洋戦略では、中国をインド太平洋における「重要なパートナー」と位置づけ、誰も排除しない包摂的で開放的な政策を繰り返し強調している[17]。日本の最新の国家安全保障戦略も、相互利益に基づく中国との協力の余地を残しており、安全保障上の懸念を警戒しつつ、中国と「建設的な関係」を構築することを目指している[18]。

 実際、中国と地理的に近いことや、中国が経済や安全保障の分野でこの地域に大きな影響力を持っていることから、日本と韓国は中国を脅威とみなすと同時に、重要な地域パートナーであるとも考えている。中国は米国の覇権に深刻な挑戦をもたらし得るが、狭い海域で隔てられているだけの日本や韓国に比べれば、米国本土への直接的な脅威は少ない。中国との意見の相違や対立は、両国のサプライチェーンやエネルギー輸入に直接影響を与えるだろう。同時に、中国との経済的な相互依存関係の深さや、特に北朝鮮を巡る地域の安全に対する中国の影響力の大きさを踏まえ、両国とも中国と協力することの重要性を認識している。

 日韓両政府は一貫して、中国政府との緊密なコミュニケーションを維持し、実務的な協力を深める努力をしてきた。両政府は、有望な市場へのアクセスを失うことや、目下進行中の大国間競争によって地域の緊張が高まることを警戒している。両国とも中国との安定した関係を維持したいと望んでいるため、強硬なアプローチを取るよりも、中国に協力を促すことができるソフトで建設的なアプローチを好んでいる。

 したがって、輸出規制、補助金、税制優遇措置、国内製造要件など、中国を明示的または黙示的に標的にしたバイデン大統領による最近の経済的措置が、米国とその同盟国の間に緊張をもたらしたことは無理もない[19]。日韓にとって中国は最大の貿易相手国であり、重要な市場でもあるため、中国との技術協力を制限または限定するような措置は、日韓両国に大きな影響を及ぼしかねない。さらに、これらの措置が両国の産業競争力や経済環境全体により広範な影響を及ぼし得ることが、懸念を引き起こし、不透明感を生み出している[20]。こうした措置の中には、米国が主権を無視し[21]、パートナーを犠牲にして自国の利益を優先する政策を追求している[22]とさえ受け止められているものもある。

ギャップを埋めるための努力と限界

 幸い、米国はこの地域の安全保障力学の変化に関する同盟国のスタンスの違いや、同盟国との緊密な協議の重要性を認識している。アントニー・ブリンケン米国務長官は、「すべての国が中国について我々とまったく同じ評価をするとは期待していない」と明言した上で、「我々はパートナーと協議し、その意見に耳を傾け、懸念を真摯に受け止め、各国特有の課題や優先事項に対処する解決策を構築している」と付け加えた[23]。

 米国政府は確かに、安全保障と経済の両分野でパートナーを安心させるメッセージを伝えようと絶えず努力してきた。米国は、あらゆる軍事力を駆使して同盟国を守るという「断固たる」コミットメントを強く約束している[24]。同盟国の経済的懸念について、米国は緊密な協議を行う姿勢を強調し、ハイテク分野における新法は米国と同盟国双方にとって互恵的なものであると主張した[25]。米国はその姿勢の証として、日米経済政策協議委員会や韓米次世代核心・新興技術対話などの二国間メカニズムを構築し、日米韓3カ国の経済安全保障対話と合わせ、協議と協調を強化している。

 米国が広範な地域の利益よりも狭い自国の利益を過度に優先することへの日韓の懸念は根強いものの、地域の平和と安全に対する米国の一貫した姿勢を受けて、日韓両国は大切なパートナーとして米国に大きな信頼と支持を寄せるようになった。しかし、米国は安全保障パートナーとしての評価に比べて信頼性に欠ける経済問題について、パートナーの疑念を完全に払拭するには至っていない。留意すべきは、経済分野の懸念に対処するという約束を具体的な行動で実証し、パートナーに実際の利益をもたらすためのリーダーシップと能力を、米国がまだ十分に発揮していないことだ。

 困難やコストが伴うにもかかわらず、日韓は二国間関係の行き詰まりを解消するために実際に大胆な措置を講じ、前例のない世界的な不確実性に直面する中で、米国やその価値観に基づくパートナーとの戦略的連携を発展させてきた。この勢いを持続させるためには、米国がタイムリーかつ断固たる対応を取り、同盟国が負担している多大なコストを認識するとともに、意見の相違を調整し、互恵的なインド太平洋構想を実現すべく、より真剣に取り組むことが重要であろう。

(2023/07/11)

*こちらの論考は英語版でもお読みいただけます。
Mind the gap: Achievements and limitations of Japan-ROK-U.S. cooperation within the Indo-Pacific context

Notes

  1. 1 The White House, “Readout of President Biden’s Trilateral with President Yoon Suk Yeol of the Republic of Korea and Prime Minister Fumio Kishida of Japan”, 29 June 2022(2023年5月25日閲覧).
  2. 2 The White House, “Phnom Penh Statement on US–Japan–Republic of Korea Trilateral Partnership for the Indo-Pacific”, 13 November 2022(2023年5月25日閲覧).
  3. 3 U.S. Department of Defense, “U.S., Republic of Korea, and Japan Participate in Missile Defense Exercise in Hawaii”, 15 August 2022(2023年5月26日閲覧).
  4. 4 防衛省、「日米韓共同訓練について」、2022年9月30日(2023年5月26日閲覧).
  5. 5 United States Navy, “U.S., Japan, Republic of Korea Conduct Trilateral Ballistic Missile Defense Exercise”, 17 April 2023(2023年5月28日閲覧).
  6. 6 U.S. Department of Defense, “United States-Japan-Republic of Korea Trilateral Ministerial Meeting (TMM) Joint Press Statement”, 3 June 2023(2023年6月4日閲覧).
  7. 7 The White House, “Readout of the Trilateral United States–Japan–Republic of Korea Economic Security Dialogue”, 28 February 2023(2023年6月1日閲覧).
  8. 8 Jaewon Kim, “Japan lifts chipmaking export controls on South Korea”, Nikkei Asia, 16 March 2023(2023年5月31日閲覧).
  9. 9 Kotaro Hosokawa, “Samsung to build chip development facility in Japan”, Nikkei Asia, 13 May 2023(2023年5月31日閲覧).
  10. 10 以下を参照:外務省、“FACT SHEET Key Outcomes of the U.S.-Japan-ROK Trilateral Vice Foreign Ministerial Meetings”, 5 January 2017(2023年5月30日閲覧).
  11. 11 U.S. Department of Defense, “United States–Japan–Republic of Korea Defense Ministerial Meeting Joint Press Statement”, 23 October 2017(2023年5月25日閲覧).
  12. 12 Byungki Moon & Sangho Yoon, “Mihawon jeongbowijang “buk, haegtandu sohyeonghwa seong-gong… eogjilyeog gaenyeom jug-eossda” (the U.S. House of Representatives intelligence chief reads as follows: “North Korea has succeeded in miniaturizing nuclear warheads... The concept of deterrence is dead.”)”, The Dong-a Ilbo, 6 June 2023(2023年6月12日閲覧).
  13. 13 Graham Allison, “Why Biden and Yoon’s Agreement Is a Big Deal”, Foreign Policy, 27 April 2023(2023年6月12日閲覧).
  14. 14 Gabriel Dominguez, “Potentially divided U.S. Congress to remain united on at least one issue: China”, The Japan Times, 10 November 2022(2023年5月30日閲覧).
  15. 15 The White House, “National Security Strategy”, 12 October 2022b, pp.8-9.
  16. 16 Brookings, “Reactions to National Security Advisor Jake Sullivan’s Brookings speech”, 2 May 2023(2023年5月22日閲覧).
  17. 17 The government of the Republic of Korea, “Strategy for a free, peaceful, and prosperous Indo-Pacific region”, December 2022, p.11, 14.
  18. 18 内閣官房、「国家安全保障戦略」、2022年12月、pp.13-14.
  19. 19 Edward Alden, “Biden’s ‘America First’ Policies Threaten Rift With Europe”, Foreign Policy, 5 December 2022(2023年6月5日閲覧).
  20. 20 以下を参照:Brad Glosserman, “Saving the planet and picking fights in the process”, The Japan Times, 1 February 2023(2023年5月30日閲覧); 田巻一彦、「コラム:米EV税優遇、日本勢直撃 数年後の大幅円安招くリスク」、ロイター、2023年4月20日(2023年5月30日閲覧)。
  21. 21 Hosuk Lee-Makiyama & Robin Baker, “US chips war hits allies but likely misses long term Chinese strategic target”, East Asia Forum, 11 December 2022(2023年5月29日閲覧).
  22. 22 Jin-woo Shin & Do-ye Ko, “[Dandok] Hanguk-in 83%-miguk-in 44% “mi bandochebeob, han iigdo golyeohaeya” ([Exclusive] 83% of Koreans and 44% of Americans responded that “The U.S. Semiconductor Act should also consider Korean interests”), The Dong-a Ilbo, 31 March 2023(2023年5月31日閲覧).
  23. 23 Antony J. Blinken, “The Administration’s Approach to the People’s Republic of China”, U.S. Department of Defense, 26 May 2022(2023年6月1日閲覧).
  24. 24 U.S. Department of Defense, “Joint Statement on the Extended Deterrence Strategy and Consultation Group Meeting”, 16 September 2022(2023年6月5日閲覧).
  25. 25 The White House, “Remarks by President Biden and President Yoon Suk Yeol of the Republic of Korea in Joint Press Conference”, 26 April 2023(2023年6月1日閲覧).