はじめに
オーストラリア政府は、2025年8月5日、日本の「もがみ型護衛艦」の能力向上型である新型「もがみ型護衛艦」を次期汎用フリゲートとして選定したことを発表した[1]。2016年に日本はオーストラリアとの間での潜水艦の受注契約を結ぶことができなかったこと、またオーストラリア政府がフリゲート11隻のために約100億ドルを計上している大型契約であることから、本契約および納入の成功は今後の日本の防衛装備移転の進展を左右するものとして高く注目されている。
本稿では、これまでの護衛艦とは異なる「もがみ型護衛艦」建造の背景、そしてその強みという点から、なぜオーストラリア政府が選定したのか明らかにする。

「もがみ型護衛艦」建造の背景
日本を取り囲む権威主義国家は、軍事力を継続して増強させている。特に中国は、核・ミサイル戦力、海上戦力、航空戦力、宇宙・サイバー・電磁波の領域での戦力、知能(AI)化および認知戦能力に関し、その能力を大幅に高めている[2]。このような安全保障環境に対処するため安保関連三文書が2022年12月に策定された。そして2024年12月には、「海上自衛隊基本ドクトリン」が齋藤聡海上幕僚長から発出された。その中で「海上自衛隊が達成すべき目標」として、「我が国の領域及び周辺海域の防衛」、「海上交通の安全確保」、「望ましい安全保障環境の創出」を明記している[3]。ドクトリンが示す目標自体はこれまでと変わらないが、安全保障環境の変化や脅威の増大に対処するため、シーパワー・海上防衛力の役割、作戦、そして作戦と不可分の関係にあるロジステックスを取り上げ、海上自衛隊の活動方針について示している。また、海上自衛隊が活動する地理的範囲も拡大している。例えば2017年から開始し継続されている「インド太平洋方面派遣」を見れば、日本周辺海域から東シナ海、南シナ海、南太平洋、インド洋で活動するようになった。
このような高まる脅威や拡大する地理的範囲に対応するため、日本はステルス性、多機能性を備え、かつコンパクト化した「もがみ型護衛艦」を短期間に多数建造している[4]。
「もがみ型護衛艦」の強み
「もがみ型護衛艦」の強みには、➀省人化、➁クルー制の採用(まだ実施されていない)、③多機能化(対機雷戦能力保持を含む)、④高脅威下での作戦が可能なステルス化、高速化、⑤長距離航行能力、そして⑥効率的な建造コストなどを挙げることができる。 技術的な議論にはなるが、順に紹介しておきたい。
「もがみ型護衛艦」では、乗員数を従来の汎用護衛艦の半分以下の約90名とした省人化に成功している[5]。そのため、その運用も自動化、一元化され、例えば従来の汎用護衛艦にあったエンジンなどの機関をコントロールする操縦室がなくなり、戦闘指揮所(CIC)内に統合している。また、艦橋立直員も自動化により約10名から4名で運航している[6]。さらに海上対処能力を長時間、効率的に運用するためクルー制にも対応可能な護衛艦としている。つまり、海上で行動した艦艇が、帰港し、燃料・真水・食料等を再搭載するとともに、乗員をクルー単位で総員入れ替えることにより、同艦は直ちに出港することができ、艦自体を長期に海上で活動させることができる。
また、対潜・対空・対水上戦闘に加え、平時の警戒監視活動から有事における各種作戦まで、幅広い任務に対応できる「多機能性」を備えている。さらに従来の汎用護衛艦にはなかった「機雷戦能力」を初めて備え、機雷敷設能力、水上・水中無人機(USV・UUV)を活用する対機雷戦能力を備えている。これは、専門的対機雷戦艦艇が不在の場合においても少なくとも自艦を機雷から防護できるという強点を有している[7]。
戦闘における攻撃は、捜索、探知、艦種や敵味方の類・識別、そして攻撃の手順となるが、ステルス化によりその手順の最初の探知ができにくいということは、戦闘において大いに有効である。「もがみ型護衛艦」はその形状からも解るとおり、高いステルス性を有していると見積もられる。そしてそのステルス化により敵からの探知を避けながら、敵より先に装備武器の有効射程距離内に進入し敵を攻撃するための高速力(30ノット以上)も伴っている。
図:護衛艦「もがみ」

また従来の汎用護衛艦のような高速航行だけではなく長距離航行にも耐え得る[8]。これはディーゼルエンジンとガスタービンエンジンを組み合わせたCODAG(Combined Diesel and Gasturbine)方式が採用されたことで実現した。従来の汎用護衛艦は日本近海を中心とした戦闘各種戦に対応可能とする高速力を発揮することを優先させたガスタービンエンジンのみを使用したものが海自の主体であった。しかし、「もがみ型護衛艦」では、燃料消費量の少ないディーゼルエンジンと高速力発揮が可能なガスタービンエンジンの大きく異なる回転数を接合するという課題を解決した国産の減速装置を搭載し、長距離航行をも可能としている。
こうした強みの別の視点として、建造コストという点からも優れている。従来の護衛艦の調達は、防衛省が仕様書を示した上での総合評価方式(入札方式)が行われていた。「もがみ型護衛艦」では、事業者からの提案を競合させる企画提案方式(プロポーザル方式)を採用している[9]。その結果、2017年8月に主事業者を三菱重工業(株)、下請負者を三井造船(株)(現三菱重工マリタイムシステムズ(株))とすることを発表した[10]。
この方式の強点は、純粋に調達達成度を求めることができること、さらには、これまでの方式のように防衛省からの「必須要求事項」さえクリアすればよいのではなく、加算方式により、さらに高い性能を付加(例えばステルス性の向上など)することで高得点が得られるというものである。たしかに、企画提案事業者の能力に大きく左右されるという弱点もある。例えば、主事業者に選定された企業の強みが強く前面に出された艦艇となる一方で、不得意分野は「必須要求事項」を満たすレベルに止まる可能性があることである。さらには、部隊運用者の意見がどれほど反映されるのかなどの疑問も残る。しかしながら、独自の運用要求を控えるという傾向は世界的に一般化しつつあり[11]、ガラパゴス化していない護衛艦として防衛装備移転上は有利に働くこととなる。
新型「もがみ型護衛艦」の調達でも同様の契約方式により、2023年8月に防衛省は、主事業者を三菱重工業(株)、下請負者をジャパン マリンユナイテッド(株)とすることを発表している[12]。この方式を採用した結果として、現状2社(3造船所)での建造が可能との強みが誕生している。これは日本以外の防衛装備移転建造にも対応できるという利点も副次的に生んでいる[13]。
オーストラリア政府が新型「もがみ型護衛艦」を選定した理由
オーストラリア政府が、この時期に早急にフリゲートを導入することを決定した主たる理由は次の2つと言われている。1つ目は、2018年に選定されたハンター級フリゲートの建造が、要求仕様の度重なる設計変更などの混乱から納期が大幅に遅れていることがある。その影響から1隻当りの建造費も年を経るごとに雪だるま式に増加し、また調達計画数を9隻から6隻へと削減していた[14]。2つ目は、オーストラリアを取り巻く安全保障環境が「戦後最も厳しく」なっており短期間での海軍力強化の必要性が生じたからである[15]。この2つのギャップを埋めるために新たなフリゲートの導入を決定している[16]。
オーストラリアのリチャード・マーレス副首相兼国防相は、オーストラリア政府が新型「もがみ型護衛艦」を選定した大きな理由として、➀オーストラリアの2023年国防戦略見直し(DSR)に合致し、また海軍が運用する上で最適であったこと(相互運用性が期待できること)、➁次世代の艦艇として、ステルス性を備え、長距離ミサイル発射可能な32基の垂直発射セル、高性能なレーダー、高性能なソナーを装備していること、③多機能能力を備えていること、④大型フリゲートでありながら少人数運用であること(結果として長期的には人件費などのコストパフォーマンスが良くなること)、⑤長距離航行能力を備えていること、⑥納期を守れると見積もられることを挙げている[17]。

またマーレス副首相兼国防相の発言にもあるように、オーストラリア海軍はこれまでアンザック級主力フリゲート8隻を約30年にわたり、警戒監視から攻撃を含む哨戒、さらに戦闘まで多用途に長く使用しており、多機能かつ長期使用に耐え得るフリゲートを望んでいたものと見積もられる。「もがみ型護衛艦」は、上記のステルス性をはじめとする多機能性、高速かつ長距離航行能力などオーストラリア海軍が要求する最新技術を備えている。また最初の3隻を建造実績がある日本の3か所の造船所で建造することが可能であること、さらに日本の造船所の実績から納期遵守の可能性が他競合と比べて高いことから、ハンター級フリゲートの遅延をカバーすることが可能となる。さらに通常長期間を有する設計から建造までの期間の短縮は、最新技術の陳腐化を防ぐ利点ともなる。そしてオーストラリア海軍も少子化の課題を抱えており、省人化された「もがみ型護衛艦」は、こうした問題も解決することができる艦である。
2024年12月、日本の防衛省はオーストラリアから共同開発相手として指名を獲得するための官民合同推進委員会を設置している。委員会には三菱重工業、三菱電機、NEC、日立製作所、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)の5社が参加した[18]。さらに外務省や経済産業省なども加わったことから、官民統合の売込みができたことも選定された大きな要素であった。
おわりに
ここまで「もがみ型護衛艦」の建造の背景、その強みについて分析を行い、オーストラリア政府が選定した理由を論じてきた。
「もがみ型護衛艦」が持つ高い性能と運用能力が、オーストラリア政府が求める技術的な水準を満たしていたことが、今回のオーストラリア政府の選定につながったことがわかる。中谷防衛大臣も記者会見で「自動化・省人化によりまして、従来の護衛艦よりも大幅に少ない乗員数で運用が可能でありまして、正に我が国の防衛産業が有する優れた技術力が結集した、最新鋭の護衛艦であります」と述べ[19]、この技術力の高さが選定につながったとしている。
しかし、技術的な面でもいくつかの課題が明らかになっている。例えば、無人水上艇が全「もがみ型護衛艦」に配備されていないことから、対機雷戦の戦力化が遅れていると見積もられる。少なくともオーストラリアへ1番艦を納入予定の2029年までには戦力化する必要がある。また1隻当りの建造費が当初の整備計画から大幅に増額となっており、オーストラリア海軍のニーズを満たすためにさらなる増額の可能性も否定できない。2026年3月の契約調印までにクリアしておかなければならない課題でもある。
(2025/09/24)
脚注
- 1 「豪 新型フリゲート艦の導入計画“日本の提案を選定”と発表」NHK、2025年8月5日。
- 2 防衛省『令和7年度防衛白書』2025年8月、63-83頁。
- 3 『海上自衛隊基本ドクトリン』海上自衛隊、2024年12月27日。
- 4 同艦艇が建造された背景には、上記のような対外的な理由のみならず国内的問題である日本の少子化を主たる原因とする自衛官の募集難への対応もなされている。
「もがみ型護衛艦」は、2022年3月に就役以来2025年6月現在までに8隻が就役、4隻が建造中である。さらに新型「もがみ型護衛艦」も12隻が計画されている。 - 5 「海上自衛隊装備品水上艦艇「もがみ」型」海上自衛隊、2025年9月21日アクセス。
- 6 「最小3人で運航可能!新護衛艦「もがみ」はどう進化したのか?」MAMOR、2024年1月5日。
- 7 河上康博「新型護衛艦(FFM)ファミリーの未来」、『軍事研究』 2024年9月別冊、74-87頁。
- 8 海上自衛隊は「もがみ型護衛艦」の航続距離を公表していないが、リチャード・マールズ副首相は、選定発表の中で、「もがみ型護衛艦」の航続距離を10,000マイルと述べている。
- 9 企画提案方式とこれまでの総合評価方式は、どちらも技術や企画を評価する点で類似しているが、企画提案方式は提案内容そのものを重視して落札企業を選び、その後交渉を調整するのに対し、総合評価方式は価格と技術点を数値で総合的に評価して落札企業を決定し、原則として契約内容の変更はできない点が主な違いである。
- 10 「新艦艇に係る調達の相手方の決定について」防衛装備庁、2017年8月。
- 11 小野圭司『防衛産業の地政学』かんき出版、2025年、180頁。
- 12 「新型FFM(護衛艦)に係る調達の相手方の決定について」防衛省、2023年8月。
- 13 三菱重工は、2019年にオーストラリアで実施された防衛装備展示会PACIFIC 2019や2023年に日本で開催されたDSEI JAPAN(幕張)において、「将来多任務フリゲート艦ファミリー構想」を発表している。すなわち小型哨戒艦から大型ミサイルフリゲートまで、「もがみ型護衛艦」が様々なニーズに答えられる艦に変更できるという構想である。これは、それぞれの国での事情や所要、そして個々の予算があることを意識した構想となっている。詳細は、河上康博「新型護衛艦(FFM)ファミリーの未来」、83-85頁を参照のこと。
- 14 Australian National Audit Office, “Department of Defence’s Procurement of Hunter Class Frigates”, May 10, 2023.
- 15 Australian Government, National Defence: Defence Strategic Review, Australia Government, 2023, pp.4-9.
- 16 “Press Conference, Canberra,” Defence Ministers, August 5, 2025.
- 17 Ibid.
- 18 「豪州への艦艇輸出向け、官民合同委員会を開催、防衛省」日本経済新聞、2024年12月13日。
- 19 「防衛大臣記者会見」防衛省、2025年8月5日。