はじめに

 本稿は、中東地域において存在感を急速に高めるトルコの国際戦略を取り上げ、トルコが「ミドルパワー」から「自律的な地域大国」へと段階的に進展しつつあることの一端を明らかにすることを目的としている。トルコの国際戦略をめぐっては、さまざまな政策が実行に移されているが、ハードパワーの拡充と、特定陣営に依存しないバランス外交(ソフトパワーを含む)の2つの点に論点を絞って分析を行い、結論では日本とトルコの関係強化の可能性について言及したい。

 よく知られているように、2000年代のトルコは「ゼロ・プロブレム外交」を掲げ、隣国を含む地域秩序の安定に対する貢献を目指す外交を展開していた。その後、2016年にエルドアン政権が誕生すると、トルコは「直接的な影響力の増加を狙った」外交方針へと転換した[1]。こうした外交政策の変化は、2011年3月に始まった「アラブの春」によってシリア内戦が勃発したことが直接的な原因であるが、長期的に見れば、冷戦後の不安定な環境下で、特定の国や勢力への過度な依存が国益に反すると判断し、「ゼロ・プロブレム外交」からの転換を余儀なくされたとみることもできる。エルドアン政権下では、特定の勢力圏に過度に依存しないヘッジング戦略を展開しており、国際社会において自らの立ち位置を確立し、超大国に対して一定の自律性を確保しようとする国際戦略を推進している[2]。

ハードパワーの拡充

 近年のトルコは、高インフレや通貨リラの下落、海外資金への依存などの経済の不安定さを抱えつつも、若い人口構成を背景にした個人消費拡大による内需拡大、欧州市場へのアクセスなど国際市場との結びつきも強まり、高い経済成長を維持してきた[3]。このように経済成長が続く中で、トルコ政府は防衛産業の強化を推進している。トルコ大統領府広報局が作成した資料では、トルコ防衛産業は、国産化率の上昇と対外依存の低下という要因から大きく成長していることが述べられている。従来、トルコは防衛装備品や関連技術の多くを海外に依存していたが、近年では国内企業による研究開発や生産体制の強化を通じて、自立的な防衛産業基盤の構築を進めているとされる[4]。さらに、この資料では、先端技術の生産・開発・輸出能力を有することが、単なる経済的利益にとどまらず、国家安全保障の強化や対外的自立性の向上に直結するとの認識を強調している[5]。

 本稿では紙幅の制約上、詳細な記述は割愛するが、特にUAV(無人航空機)、装甲車、艦艇、ミサイル、レーダー等の開発・製造・運用に至るまで、可能な限り国内の拠点で一貫して担える体制を整備したことで、サプライチェーンの内製化と雇用創出を促し、軍事需要→輸出→研究開発投資の好循環を形成している。こうした政策を推進するために、国防費は財政制約下でも優先度高く配分され、実戦投入と輸出実績が相互に信頼性を補強する形で抑止力と外政影響力のレバレッジが強化されている。

 トルコのハードパワーの拡充政策の中で、核をなすのがUAVの開発と輸出である。2011年には、トルコ防衛産業次官室が「UAVシステムロードマップ2011-2030」を策定し[6]、自国の防衛産業育成の中核にUAV開発を位置づけている。その背景には、1973年から74年におよんだキプロス紛争後に米国がトルコに対して継続的に武器禁輸措置を課したことや、2010年の「ガザ支援船団事件」を契機とするイスラエルとの関係悪化が、トルコを武器輸入への依存から脱却させる決定的な要因となったことがあげられる[7]。

 2010年代には、トルコ国産UAVはシリア北部での軍事作戦で大規模に活用され、新たな軍事ドクトリンを確立したことで、国際的な需要が急増した[8]。また、2020年のナゴルノ・カラバフ紛争におけるアゼルバイジャンへの支援でも、トルコ国産UAVは存在感を見せた。トルコは単にハードウェアを供給しただけでなく、関連技術や運用ノウハウ、戦術思想までをも提供したと言われている[9]。この事実は、トルコの国産UAV戦略が同盟国やパートナー国への軍事・技術の多角的投影手段となっていることを示唆しており、防衛産業育成が外交的影響力に直接に繋がるという国際関係における重要な潮流を表している。

特定の陣営に依存しないバランス外交

 トルコはハードパワーの拡充を進めると同時に、バランス外交にも注力している。近年では、特にアフリカ諸国との関係性強化を進めている。2002年に12カ国であった大使館の数は、2024年夏時点で44カ国にまで増加している[10]。さらにトルコは、政府や民間による充実した奨学金制度を通じて、アフリカからの留学生を積極的に受け入れている[11]。授業料、滞在費、医療保険、往復航空券などを含む全額給付型奨学金は、将来にわたって「親トルコ派」人材を増やすための長期的な投資と見なされる。

 地政学的対立の場においても、トルコは特定陣営に一方的に与することなく、バランス外交を展開し、調停者としての役割を担っている。トルコのバランス外交が注目されたのは、ウクライナ戦争である。ウクライナ戦争では、ロシアとウクライナ双方と緊密な関係を保つ唯一のNATO加盟国として、黒海を通じた穀物輸出合意の仲介に成功し、「グローバル・サウス」と呼ばれる国々を中心とした食料を必要とする国や地域に届け、食料価格の安定や世界の食料安全保障に貢献してきた[12]。トルコはNATOにおいて米国に次ぐ2番目の地上戦力を有し、その軍事力は同盟内で重要な位置を占めている[13]。しかし、ロシアを国際社会から排除することには反対の立場をとり、ロシアとの外交的・経済的関係を維持している[14]。また、ロシアのウクライナ侵攻後初となる両国の外相会談をイスタンブールで実現させるなど、外交的影響力を見せつけた[15]。一方、トルコが常にバランス外交を展開しているわけではない。ロシアの動きを警戒するスウェーデンとフィンランドのNATO加盟申請には当初難色を示し、PKK(クルド労働者党)関係者の活動など自国の安全保障上の懸念を解消することを要求した。これはトルコがNATO加盟国であっても自律的な行動をとり、国益を最優先する姿勢を明確に示した一例である[16]。

 欧州連合(EU)との関係においては、トルコのEU加盟交渉は地理的・宗教的・文化的要因から難航しているが、難民問題に関する「EU・トルコ共同行動計画」を通じて協力関係を維持し、欧州への影響力を確保している[17]。トルコは依然としてEUへの正式加盟を目指す姿勢を維持しているとされるが、同国にとってEU加盟が実際どの程度重要視されているのか、その優先順位についてはさらなる検証が必要である。

 他方、中東地域におけるトルコ外交は、米国との協調と独自路線を併存させる「バランス外交」の性格を有している。イスラエル・パレスチナ問題では、トルコは米国主導のガザ地区復興計画を受け入れず、ガザにおけるイスラエルの軍事行動を「ジェノサイド」と非難したうえで、国際社会による措置を求めている[18]。その一方で、2024年12月の政変後のシリア情勢をめぐっては、地域の安定化を重視し、米国との協調姿勢を示している。2025年5月には、両国がシリアの領土的一体性の維持および地域安全保障の重要性を確認しており、トルコが対米関係を維持しつつ、案件ごとに立場を調整する柔軟な外交を展開していることが示されている[19]。

おわりに

 ここまで論じてきたように、トルコはトルコ国産UAVの展開を中心としたハードパワーの拡充と、特定陣営への過度な依存を避けるバランス外交を軸に、「ミドルパワー」から「自律的地域大国」へと発展を遂げつつある。

 このように「自律的地域大国」へと発展を遂げようとしているトルコは日本にとって、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の実現に向けて連携、アデン湾・ソマリア沖における海賊対処など、さまざまな分野での協力可能性があり、関係性を深化させる意義は大きい。1890年のエルトゥールル号遭難事件を契機とする相互扶助に象徴される、政治的利害を超えた有効の精神を土台に育まれてきた両国の友好関係を[20]、経済、防衛協力、文化交流などへと発展させることができるかが問われている。すなわち「善意の関係」を「機能する関係」へと再設計し、相互補完の具体成果を積み上げることが、日本・トルコ双方の国益を同時に高め、緊迫化する中東・黒海・欧州周縁地域の安定化にも寄与することができるのではないか。そのための実務的かつ実行可能なロードマップの策定が急がれる。

(2026/05/18)

脚注

  1. 1 トルコの国際戦略の転換についてはさまざまな研究があるが、本稿では、今井宏平「トルコ外交の変遷とトルコ・アメリカ関係の現在地」『国際問題』No.702、2021年8月、23-31頁を参照した。
  2. 2 この点については、以下の論考を参照のこと。Can Donduran, “Hedging as a Security Strategy for Restrained Middle Powers: The Case of Türkiye,” Journal of Political Science, Vol.13 Issue 1, March 2025, pp.53- 64.
  3. 3 近年のトルコ経済の概況については、OECD, “OECD Economic Surveys TÜRKIYE,” February 2023, pp.9-13を参照のこと。
  4. 4 Presidency's Directorate of Communications, “From Roots to Horizons: The Story of Turkiye’s Rising Defense Industry,” February 2025, p.12.
  5. 5 Ibid., p.62.
  6. 6 Savunma Sanayii Müsteşarlığı, “Türkiye İnsansız Hava Aracı Sistemleri Yol Haritası 2011–2030,” 2012.
  7. 7 İsmail Demir, “Transformation of the Turkish Defense Industry: The Story and Rationale of the Great Rise,” Insight, Vol. 22, No. 3, Summer 2020, pp.17-40.
  8. 8 Goksel Yildirim, “Bayraktar TB2: Türkiye's flag bearer combat drone,” Anadolu Ajansı, February 26, 2024.
  9. 9 Edward J. Erickson, “The 44-Day War in Nagorno-Karabakh Turkish Drone Success or Operational Art?,” Military Review Online, August 2021, pp.1-5.
  10. 10 Hamza Hasul, “An Overview of Türkiye’s Africa Policy: Historical Background, Strategic Diplomacy, and Future Prospects,” Insight Turkey, Vol. 26 No. 3, 2024, p.276.
  11. 11 Merve Aydogan, “Türkiye opens research center at South African university,” Anadolu Ajansı. January 10, 2013.
  12. 12 外務省「黒海を通じたウクライナからの穀物輸出等に関する4者(国連、トルコ共和国、ウクライナ及びロシア)合意「黒海穀物イニシアティブ」の終了(外務大臣談話)」、2023年7月18日。
  13. 13 NATO, “Secretary General in Türkiye: Strong Turkish defence capabilities contribute to a strong NATO,” November 25, 2024.
  14. 14 Zineb Riboua, “Understanding Turkey’s Role in the Russia-Ukraine War,” Hudson Institute, March 24, 2025.
  15. 15 “Türkiye to host Russia, Ukraine delegations for renewed Istanbul peace talks,” Türkiye Today, July 23, 2025.
  16. 16 Paul Levin, “The Turkish Veto: Why Erdogan Is Blocking Finland and Sweden’s Path to NATO,”Foreign Policy Research Institute, March 2023.
  17. 17 “EU-Turkey joint action plan,” European Commission, October 15, 2015.
  18. 18 “Turkey's Erdogan says U.S. making "wrong calculations" in Mideast,” The Straits Times, February 14, 2025.
  19. 19 “Joint Statement on the U.S.-Türkiye Syria Working Group,” U.S. Department of State, May 20, 2025.
  20. 20 外務省「2010年トルコにおける日本年」2009年9月4日。