【「欧州とインド太平洋の同盟間協力プロジェクト」のポリシーペーパー掲載のお知らせ】
この度、IINA(国際情報ネットワーク分析)では「欧州とインド太平洋の同盟間協力プロジェクト」と提携して、米欧と日韓豪の専門家による欧州とインド太平洋の同盟間協力構築のための情報を日本語と英語で掲載いたします。今後の世界の戦略的中心となるインド太平洋と欧州の米国の同盟国間の協力について少しでもIINA読者の理解にお役にたてれば幸甚です。
エグゼクティブ・サマリー
ウクライナ戦争にもかかわらず、ロシアはバレンツ海からベーリング海峡に至る北極圏開発の取り組みを縮小していない。過去の報告書の分析どおり、北極海航路はロシアと中国を結ぶため、両国がロシアの北極海沿岸のエネルギー開発と海運能力開発で協力する誘因となっている。また、同航路によって、両国は軍事的・戦略的協力を拡大し、経済的利益を享受する一方で、米国とその同盟国に対するハードパワーの脅威を及ぼしている[1]。
北大西洋条約機構(NATO)の作戦地域に近いバレンツ海では、中国はロシアが米国およびその北欧の同盟国に対してハードパワーの脅威を及ぼしやすくするよう、デュアルユースの役割を果たしている。中国は優先度の低い地域において米国の同盟体制に対する新たな側面攻撃を避けてきたが、ロシアは米国およびその地域同盟国に対する核の脅威を維持するよう兵力態勢を構築してきた。その優先事項として、バレンツ海、ノルウェー海およびグリーンランド―アイスランド―英国(GIUK)ギャップにおける海上作戦とバルト海での作戦との連携が挙げられ、北極圏とバルト海地域の戦略的統合につながっている。ロシアと中国はベーリング海地域と北太平洋で軍事協力を強化しており、両地域は戦略的に融合することになった。その結果、日本と韓国は北極圏への関心を高めている。
本報告書は、中国によって助長されたロシアの脅威が、北極圏における米国の全NATO同盟国および北太平洋における同盟国である日本および韓国にとっての自国の安全保障上の懸念を惹起すると論じるものである。しかしながら、北極圏全域に利害を有する北極圏国家は米国のみである。広大で人口の少ないこの地域は過酷な気象条件を特徴としているが、米国とその同盟国は極地対応能力をほとんど有しておらず、軍事的・戦略的脅威が複雑化する中、かかる能力を構築する必要がある。米国は、北極圏全域において抑止力の有効性を確保し、同盟国が本格的な戦争において自衛できるよう、共同作戦計画と調達計画を調整する戦略的な立場にある。
米国のミサイル防衛、無人システムおよび潜水艦部隊は、北極圏における侵略の抑止と、抑止が破綻した場合の北極圏防衛において中核的役割を果たす。しかし米軍は世界各地で多数の要請に直面しているため、北極圏での戦争のあらゆる段階および複数の戦域において同盟国と連携して行動する必要がある。特に米潜水艦部隊への需要は高まるため、同盟国は米国に頼るのではなく、北極圏において同等の能力を提供する必要がある。
一方、ロシアは北極圏において以下の脅威をもたらしている。
- 北極圏の海空域における視界の悪さと監視不足に付け込んだ、米国本土および同盟国に対する信憑性のある核の脅威
- バレンツ海、ノルウェー海およびGIUKギャップにおいて、潜水艦作戦を成功裏に実施できる作戦海域の拡大
- 北極海における係争海域の哨戒・防衛強化
- 北極海およびバルト海地域における海上作戦の連携
- 北極圏および北太平洋地域における中国との共同ハイブリッド作戦構想・共同軍事作戦構想の開発
したがって、作戦構想は以下の任務を達成できるものでなければならない。
- ロシアと中国による軍事的・戦略的作戦の漸進的拡大の抑止
- 北極圏全域における領域認識の提供
- 同盟国の重要民間・軍事インフラおよび能力の強靱性の向上
- バルト海・バレンツ海地域と北太平洋・ベーリング海地域とを統合した北欧・北太平洋における相互運用性の構築
- 航行の自由が脅かされている海域における商業活動および沿岸警備隊の活動を通じた航行の自由の維持
本報告書の提言は以下のとおりである。
- 同盟国は、グリーンランド東部における早期警戒・追跡・迎撃能力の増強、衛星による情報収集・警戒監視・偵察(ISR)・ターゲティングインフラの強化、北大西洋における同盟国の宇宙能力の冗長性向上により、核の脅威を軽減する必要がある。こうした取り組みはマルチドメイン認識を強化しインフラの強靱性を高めるものであり、デンマーク、ノルウェー、日本および韓国はこうした計画において有益なパートナーとなる。
- 同盟国の軍は、ロシアの要塞防衛を突破し、潜水艦の出撃を阻止する無人システムを開発すべきである。これらのシステムはバレンツ海とオホーツク海付近に配備され、ロシアが潜水艦の作戦海域拡大を試みる際のコストを上昇させなければならない。短期的には、ロシアの潜水艦基地近傍および排他的経済水域内での演習が対露抑止力となり、同国を守勢に追い込むだろう。こうした対潜水艦部隊を構築できるのはノルウェー、英国および日本である。
- 同盟国は、北極圏および隣接地域におけるISRの空白を埋め、海洋状況把握能力とインフラの強靱性を強化するため、耐氷哨戒艦艇・対潜艦艇、水中センサーネットワーク、無人潜水艇など、より高密度で信頼性の高い監視能力ネットワークを展開すべきである。この取り組みの鍵となるのはカナダ、デンマーク、日本および韓国である。
- 米国、カナダおよびデンマークは商用・軍事アセットを活用し、北極海およびカナダの北西航路沿いで砕氷艦による哨戒を実施すべきである。こうした活動によりロシアの係争海域での哨戒を抑制し、遠隔海域での同盟国のプレゼンスを示し、海洋状況把握の強化につながる。また、哨戒活動により、係争海域における航行の自由の権利が守られる。
- 米国とその同盟国は、北極海、バルト海および北太平洋における海上軍事作戦を二つの共同調整戦力態勢に統合し、相互運用性と抑止力を強化すべきである。こうした取り組みは、北極圏と二つの戦域を連携させることで、ロシアおよび露中共同の作戦計画に対抗するものである。バルト海ではフィンランド、スウェーデンおよびデンマークが鍵となり、北太平洋ではカナダ、韓国および日本が貢献するだろう。 韓国の極地対応港湾・造船インフラは、北太平洋および北極海航路沿いにデュアルユース・プレゼンスを確立できる。これにより、ロシアと中国がハイブリッド活動と軍事活動を強化している海域における海洋状況把握が改善し、航行の自由の権利を守ることにつながる。
全文はこちら。
※後日、日本語版を公開予定です。
デイビッド・バード(David Byrd)、ブライアン・クラーク(Bryan Clark)、シェーン・デニン(Shane Dennin)、ゼイン・リバーズ(Zane Rivers)、ティモシー・A・ウォルトン(Timothy A. Walton)が本報告書に寄与した。
(2026/03/16)
脚注
- 1 Liselotte Odgaard, “Russian-Chinese Cooperation in the Arctic: Will NATO Step Up to the Challenge?,” ASAN Forum, August 5, 2024; Liselotte Odgaard, “Russia and China’s Cooperation in the Arctic Is a Rising Nuclear Threat,” Politico EU, October 3, 2024; Liselotte Odgaard, “Russia’s Arctic Designs and NATO,” Survival 64 no. 4 (August–September 2022): 89–104.
