【「欧州とインド太平洋の同盟間協力プロジェクト」のポリシーペーパー掲載のお知らせ】
この度、IINA(国際情報ネットワーク分析)では「欧州とインド太平洋の同盟間協力プロジェクト」と提携して、米欧と日韓豪の専門家による欧州とインド太平洋の同盟間協力構築のための情報を日本語と英語で掲載いたします。今後の世界の戦略的中心となるインド太平洋と欧州の米国の同盟国間の協力について少しでもIINA読者の理解にお役にたてれば幸甚です。
IP4パートナー諸国との防衛協力確立を目指すNATOの取り組みは、北大西洋とインド太平洋の両戦域で各国防衛部隊が目下直面している作戦要求に焦点を絞れば、成功の可能性が高まるだろう。NATOが役割を果たし得る分野の1つは、戦力維持機能面での協力だ。紛争地帯を航行して輸送を成功させるためには、兵站業務、サプライチェーン業務、輸送能力が強靱性を有し、敵対的状況下でも実効性ある活動を展開できるようにしなければならない。
自律型無人探査機(AUV)が環大西洋とインド太平洋の両戦域で重要な役割を担っている今、NATOと日韓両国との協力は、協調的な戦力維持戦略の開発というまたとない機会をもたらしている。こうした戦略が実現すれば、北極圏での中露協力が生み出す複雑な核の脅威の緩和に役立つだろう。宇宙ビジネス関連企業の出現によって、一部の国の軍が水上活動の警戒監視に向けてAUVを投入する緊急性は緩和されている。しかし、宇宙ビジネス企業は極地では十分な覆域を提供しないため、AUV等のシステムはもちろん同地を通過するグライダーですら、航行パターンや海軍展開といった活動状況についての貴重な情報源となり得る。AUVはさらに、水中のインフラ、潜水艦活動、環境条件の警戒監視も遂行可能だ。
日本と韓国は長きにわたって北極圏に関与しており、いずれの国も1990年代から北極圏での調査船を運航している。両国は2013年には北極評議会の常任オブザーバー国として承認され、以来、北極圏への関心を正当に追求する機会も増えている。日本も韓国も造船、持続可能性、そしてAI駆動の自律型システムやスマートシステムの開発に関する卓越した専門技能とノウハウを誇り、NATOの加盟国やパートナー国の北極圏での戦略的利益の保護に向けて多大な貢献を果たし得る存在である。
北極海岸線におけるロシアの防衛の防衛拠点は、インフラ開発や作戦展開に対する中国からの支援を受けて拡大を続けている。ロシアがバレンツ海コラ半島に展開する弾道ミサイル潜水艦は、米本土にとっての核の脅威だ。ロシアがAUVに投資すれば、その核兵器発射手段がさらに多様化することになる。
中露両国はこうした脅威を持続すべく、NATOの通信・データインフラ破壊に向けた水中作戦、船舶の航行や衛星通信による情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動の共有といった分野で協力している。ロシアはベーリング海の南に位置するウラジオストク地域に潜水艦基地を構えており、そこには、ユーラシア大陸の反対端のコラ半島にある北方艦隊施設への依存を避けるべく、新たに補強された潜水艦ドックや整備・補修施設が置かれている。中国とロシアは、ベーリング海峡のロシア北極圏沿岸入り口周辺の基地を共有する取り決めを交わすことで相互運用性を高めているほか、共同演習を行いNATOの対応を検証している。両国は2024年には、核搭載可能な爆撃機をそれぞれ2機ずつ派遣し、アラスカ州の防空識別圏(ADIZ)での空中警戒を合同で行った。これは、中露が現在の協力関係を戦略核部隊へと拡張する意志があることを示すものである。
ロシアの北極圏沿岸と中国の一帯一路における北極圏シルクロードの組み合わせは、両国間の協力を円滑化し、中露が北極圏全域で活動することを可能にしている。両国は、ロシアのウラジオストク南西にあるザルビノ港を拡張して北東アジア最大の港とする取り組みにおいても手を組んでおり、ザルビノ港と中国本土の間には直通の鉄道路線もある。2024年には、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社と中国海運会社のHainan Yangpu NewNew Shippingが、通年航行可能なコンテナ船航路の運用に向けた合弁会社設立を発表している。両社は、通年航行可能なコンテナ船航路の運用に向けた輸送面での課題を克服すべく、アイスクラスコンテナ船を5隻建造すること、および北極海航路沿いのインフラに投資することに合意済みだ。中国はロシア北極圏にある港湾の修理・補給施設が利用できるため、同地域沿岸を単独で航行可能となる。同国はすでに、砕氷船に加え、引き揚げ作業を行う半潜水式重量物運搬船も国内で建造済みだ。中国はさらに、ロシアによる北極海航路一帯のデジタル化も支援中だ。ロシアは中国製光ファイバーを用いて「ポーラーエクスプレス」と名付けた海底通信ケーブルを敷設しており、2026年までにはロシア北極圏全域でインターネットが利用可能となる見込みである。
こうした北極圏での中露協力を反映し、NATOも北大西洋とインド太平洋両戦域間の防衛協力を立ち上げるべきだ。NATO加盟国とインド太平洋パートナーの海洋産業では、ドローン技術が着々と進化を遂げている。米国は無人水上艦隊を試験中だ。そして日本は、長距離運用に特化した新型AUVを準備中であり、2027年の完成を予定している。この新型AUVは自律航行ができ、カメラ、ソナー、通信機器を搭載可能だ。北極圏での運用の難しさに対処するためにこれ以外の各種AUVが併用される可能性もあり、多様なシステム群を取り揃える必要性を示唆している。2万4,000キロメートルに及ぶロシア北極圏沿岸には利用可能なインフラがないため、AUVは支援なしで長距離を航行しなければならない。したがって候補となるのは、水中グライダーや水上グライダーのように環境発電で駆動し、艦艇や潜水艦の受動的音響監視を行えるAUVだ。ロシア沿岸以外の北極圏においては、NATOとアジアのパートナー国はAUVを船上や陸地から投入できるため、動力源を備えたAUVに海底の地形やインフラの探査といったより難度の高い任務を委ねることができる。
インド太平洋地域で軍事行動やハイブリッド戦を通じた中国の強硬姿勢が高まり続ける中、日本も豪州もこれに対抗すべく取り組んでいる。AUVを活用した合同ISRネットワークを構築すれば、各国単独では実現できないレベルの海洋情報収集が可能となるだろう。例えば現状、日本は南シナ海と南太平洋で、豪州は東シナ海と西太平洋で、それぞれ情報収集を行っている。両国はすでに相互運用性向上に合意しており、これは中国に対する警戒監視能力の強化につながるだろう。日本は複数のAUVを同時かつ協調的に展開することを目指しており、今後のプロジェクトでは豪州と共同開発を行う可能性もある。
日本がそのAUVを北極圏で運用可能なものとした場合、北極圏のNATO加盟国との協調作戦でも同様に使用することが考えられる。これが実現すれば、北極圏でのISR能力の大幅向上をもたらし、それによってベーリング海峡からバレンツ海を抜けて大西洋にまで至る北極圏沿岸における加盟国の監視・即応面での選択肢も強化されるだろう。加えて、北極圏のNATO加盟国にとっては、東シナ海や西太平洋におけるISRの確保にもつながる。
韓国もまた、長距離運用が可能なAUVを国内で生産すべく開発を進めている。ハンファシステムズと国防部傘下の国防科学研究所は、武器搭載型多目的AUVの開発に向けた契約を締結した。このAUVは韓国海軍によるISRや機雷戦等の水中作戦の単独遂行を可能にするもので、国防科学研究所は試験用の試作機を2027年に完成予定である。韓国海軍も日本と同様、米国海軍との共同作戦を展開するほか、豪州とは戦艦共同開発プロジェクトを協議中だ。韓国のAUVが欧米の同盟国やパートナー国と協調した水中ISR活動に加われば、NATOはこのAUVが黄海から収集した情報を得られるようになる。
日本と韓国は、それぞれの海洋産業の性格上、同じ市場で競争を繰り広げる競合同士である。しかし裏を返せば、産業の性格が同じであるからこそ、両国は北極圏での合同水中作戦ネットワークにとって理想的なパートナーとなるはずだ。この作戦は、中国が支えるロシアの軍備増強に対抗すべく、米同盟国の軍事態勢を強化するものだ。日本も韓国も、中露朝の核能力に関し、同三国による協調的な核攻撃の可能性に対抗すべく、米国と連携している。ユーラシア大陸西側からの核の脅威に直面している欧米の同盟国と、同大陸東側からの核の脅威に直面しているインド太平洋地域の同盟国が協調してAUV作戦を遂行すれば、ユーラシア大陸や北東アジアの敵対国による核の脅威の緩和に向けた米国同盟システムの大幅強化につながろう。韓国の北極圏や海洋における展開は日本と同様であることから、北極圏の米同盟国は協調的AUV作戦に韓国を巻き込み、ベーリング海峡一帯に注力すべきである。なお、ここまで説明した能力は南極圏における同盟国の関心対象にも適用可能だ。豪州、フランス、英国、ノルウェーはいずれも南極の領土権を主張し、南極での中国の存在感増大に脅かされている国々である。
協調的なAUV作戦のためには、北極圏の環境で運用できるAUVの生産が必要だ。これには、長期にわたる長距離航行を支える電池や北極の厳しい気象条件下でのデータ送信を可能にする衛星通信機器の開発も含まれる。米国防総省の「北極戦略2024」は、こうした作戦面の課題を米国とNATO加盟国やパートナー国との協力における優先事項としている。こうした防衛産業の取り組みにおいて、北極でも海洋・防衛産業面でも長年にわたる権益を有する日本と韓国がパートナーとなるのは当然といえる。
NATOとIP4がAUVの開発・作戦面での協調を図る上では、北極圏での共同作戦構想・方針へのAUVシステム統合を後押しする運用枠組みをつくり、これに同システムを組み込むことが必要だ。北極圏で長距離運用可能なAUVの投入に備えるため、NATOはこうした問題の協議を今すぐ始めるべきである。この任務にうってつけなのが、NATOがローマに構えるM&S COE(モデリング・シミュレーション卓越センター)だ。同センターは、領域・学問分野の枠を超えた交流を主要任務の1つとし、そのために(1)自律型システムの作戦シナリオへの統合に向けたモデリングやシミュレーション利用の調査、および(2)連合軍における相互運用性への支援を行っている。NATOの安全保障協力を支える最先端の科学技術がインド太平洋パートナーとの北極圏での協調の基礎を成すよう、ブリュッセルのNATO本部にある最高科学責任者室(Office of the Chief Scientist)関与も必要だ。
最後に、クラウス・ソーレンセン(Klaus Sørensen)、スーン・ルンド(Sune Lund)、ブライアン・クラーク(Brian Clark)の各氏からいただいた貴重な助言とフィードバックに感謝したい。
(2025/06/20)
*こちらの論考は英語版でもお読みいただけます。
【Cooperation between European and Indo-Pacific Powers in the US alliance system project:Policy Paper Vol. 4】
Mirroring Russia-China Strategic Cooperation in the Arctic