【「欧州とインド太平洋の同盟間協力プロジェクト」のポリシーペーパー掲載のお知らせ】

 この度、IINA(国際情報ネットワーク分析)では「欧州とインド太平洋の同盟間協力プロジェクト」と提携して、米欧と日韓豪の専門家による欧州とインド太平洋の同盟間協力構築のための情報を日本語と英語で掲載いたします。今後の世界の戦略的中心となるインド太平洋と欧州の米国の同盟国間の協力について少しでもIINA読者の理解にお役にたてれば幸甚です。


 米国とその同盟国の海軍(以下、米同盟国海軍という)は、さまざまな領域で問題に直面している。海上では、継続的なグレーゾーン攻撃に対処しつつ国際海運をドローン攻撃やミサイル攻撃から守る中で、処理能力は限界に達している。[1] さらに国内では産業や人口動態の制約から、艦隊の乗員確保と維持が難しくなっている。[2]

 資金面や政策面での支援拡大は各国海軍がこうした問題を軽減する手助けとはなるが、そうした支援をもってしても、艦隊の縮小と乗員不足の根本原因の対策とはならない。その根本原因とは、無人システムや機能を絞った艦艇よりも、大型で多目的の有人艦や有人軍用機に重きを置く部隊設計だ。

 米同盟国海軍は、多額の費用がかかる有人プラットフォームの数々を重用しているため、より安価な小型艇や小型軍用機の購入数を増やして艦隊の処理能力を立て直すことができない。三国間安全保障パートナーシップ(AUKUS)をはじめとする米同盟国海軍は、潜在的国に対する優位性を持続すべく次世代駆逐艦や次世代潜水艦を検討中であるが、これらは現行世代のものよりさらに高価で複雑な艦となる。これらを導入すれば、艦隊はますます規模が小さく、適応性の低いものになるだろう。

 米同盟国海軍がこうした悪循環から抜け出すための方策は、より異種混合的な艦隊設計の導入だ。つまり、最新鋭の艦艇や軍用機で編成されてはいるが規模が縮小していく艦隊を維持するのではなく、有人・無人プラットフォームを組み合わせたより規模の大きな艦隊を配置するということである。こうした艦隊は、搭載能力の点でも、複数の領域にわたり、多様に変化する攻撃を一体となって連鎖的に加えることができる能力という点でも、敵側より優位に立てる。同盟国の艦隊は、複雑性を個々の艦艇や軍用機の内部に求めることから艦隊内のキル・チェーン(攻撃者が目標を破壊するために行う識別・武力の指向・決心と命令・破壊などの一連の行動を段階的にモデル化したもの)に求めるように切り替えれば、敵側に対して意思決定面で優位に立つとともに、必要な時に必要な場所で規模や能力を生み出すこともできるのである。

 無人機の活用は今後、より大規模で異種混合的な艦隊を配置する上で欠かすことのできない要素となろう。[3] 多様な無人システムは高烈度紛争で重要な存在となり得るとともに、調達費用のみならず、より重要な維持費用も格段に安い。従来の有人プラットフォームの機能の一部を切り出して無人システムに移せば、有人艦・軍用機の採用と比べ、少ない費用で規模を拡大できる可能性がある。無人システムの中には完全に無人化されていないものもあるとはいえ、有人艦・軍用機とは異なり、隻数や機数に比例して要員数を増やす必要はない。

 米国海軍は無人システムを推進すべく、制服組トップが「ハイブリッド艦隊」と呼ぶシステムの創設に向けた一連の取り組みを加速させている。[4] 中東の第59任務部隊[5]、中南米の第4艦隊[6]、およびインド太平洋地域での統合戦闘課題演習[7]を含むこれらの取り組みは、作戦上の難題に新技術を適用した好例だ。しかし、米同盟国海軍はさらに踏み込んで、無人システムを単なる有人部隊の付け足しとして扱うことをやめるべきである。

 無人プラットフォームや無人機は、適切な指揮統制・通信アーキテクチャの下であれば、キル・チェーンでのいかなる連携をも可能にし得る。無人システムは、より広い範囲でより持続的に運用できる有人プラットフォームの拡張版ではなく、有人艦・軍用機の多くの機能を代替することでオペレーターが意思決定に集中できるようにするものである。

 無人システムを用いた実験や現実の作戦は数多く行われるようになっており、その実効性が実証されている。ウクライナ軍は、(ロシアの)攻撃・捕獲により海軍艦隊に甚大な被害を被った後、無人艇と無人潜水艇の攻撃によりロシア黒海艦隊をクリミア沖まで追いやり、重要海上交通路ヘのアクセスを取り戻した[8]。イエメンの親イラン武装組織フーシ派は、イランから提供されたドローンと巡航ミサイルを併用した船舶攻撃作戦を続けている。[9] 米国海軍の駆逐艦がその大半を打破したものの、紅海における攻撃の脅威は、海上交通路の寸断や欧州・アジア間サプライチェーンの混乱を引き起こしている。

 米国海軍が最近行った統合戦闘課題演習では、ウクライナ軍やイラン代理勢力が展開した作戦を教訓に、中国軍が台湾海峡に侵攻した場合にはそこに「地獄絵図」を作り出すという構想が試された。[10] 部隊輸送艦とその護衛艦を水上ドローン、潜水艇、徘徊型兵器を使って攻撃すれば、大半が無人システムから成るこの部隊によって、侵攻を失速または混乱させ得るのである。こうしたシステムは米国と同盟国の部隊に対し、長距離ミサイルや魚雷で中国艦を破壊するために必要な標的情報と時間を与えるものとなる。

 このような無人部隊は、中国の突然の台湾侵攻を防ぐための短期的な対策ではなく、確率は低いが何もしなければ重大な被害をもたらしかねないシナリオに対する有益なヘッジとなり得るものだ。こうしたヘッジ部隊が今後の防衛計画における潜在的な重要性は、ハドソン研究所の最近の研究によっても強調されている。[11] サミュエル・パパロ米インド太平洋軍司令官の「地獄絵図」構想において、このような部隊が侵攻シナリオの中で最も困難な局面に対処することで、米国海軍は、台湾海峡に対艦ミサイルを撃ち込める潜水艦、駆逐艦、空母の数が限定されるという状況を回避できるようになるかもしれない。[12]

 無人システムは水上戦のみならず警戒監視、ターゲティング、攻撃においても有用であるため、通常時の運用費用を低減させ、戦時規模の制約をなくす可能性も秘めている。各国海軍は対潜戦(ASW)[13] においては、冷戦時代の一連の音響監視システム(SOSUS)からTRAPSと呼ばれる革新的で信頼性の高い音響経路システム[14] 等の展開センサーまで、すでに何十年にもわたって無人システムを活用してきた。直近では、ソノブイ投下海域の管理に向けた無人機MQ-9Bリーパー[15] や、ソナー曳航に向けた中型無人水上艦[16]も使われている。

 対潜戦(ASW)でのキル・チェーンにおける大半のステップを無人システムに担わせれば、米同盟国海軍は最新鋭潜水艦の脅威に対抗するために必要な規模と持続性を実現しつつ、P-8Aポセイドン海洋哨戒機や駆逐艦が紛争地帯の要衝(チョークポイント)付近を航行中に直面するリスクを減じられる可能性もある。また、中国やロシア等の潜水艦保有国との交戦時に無人機をASWでの感知・追尾目的で使用すれば、海洋哨戒機や駆逐艦だけでなく攻撃型潜水艦も、感知・追尾以外の重要任務に注力できるようになる。

 無人システムはまた、相手の水中防衛を抑圧し打ち破ることで、同盟国潜水艦の攻撃作戦遂行能力を高めるものともなる[17]。潜水艦も今後は水上艦と同様に、ロシアや中国等の敵対国が最重要標的の周囲に敷設するソナー群や機雷に対処するため、船外に設置するデコイやジャマー、攻撃機に頼る必要性が高まってくる。

 フーシ派による紅海での航行妨害の成功は、水上戦における無人システムの価値を物語るものだ。一方で、フーシ派のドローンやミサイル脅威への対抗努力もまた、持続可能な防空に向けた新たな手法の必要性を浮き彫りにしている。高精度の巡航・弾道ミサイルに対しては、海軍艦艇は依然としてSM-2や発展型シースパローミサイル(ESSM)等の高性能艦対空ミサイルを使用する必要があるかもしれない。しかし、ドローンや亜音速ミサイルの撃墜が目的である場合には、アンドゥリル・インダストリーズ社のロードランナー[18] やレイセオン・テクノロジーズ社のコヨーテ[19] のような無人軍用機が同盟国海軍の選択肢となる可能性がある。また無人水上艇は、敵のターゲティングを混乱させ接近してくるミサイルを別方向に誘導するおとりにもなり得る。

 各国海軍の兵站業務にとって最も深刻な脅威はおそらく空からと潜水艦からの攻撃であろう。支援対象の部隊や艦艇等がいる激戦地帯に軽防備の船で向かうことが多いためだ。無人システムは、給油・補給任務に必要な人員数を減らすことで、紛争地における兵站業務のリスク低減に役立つ可能性がある。さらに重要なのは、小型無人システムは比較的安価であり多くの台数を導入できるため、兵站業務の分散を通じ、敵の砲撃で特定の輸送船や輸送機を失った場合の影響を低減できることだ。アフガニスタンにおける米海兵隊の支援業務では、K-Max等の無人軍用機が活躍した。[20] 海兵隊では現在、より高機能なドローンや新たな長距離無人水上艇がすでに試験段階にある。[21] これらは陸上の部隊に火力支援を提供すべく武器も搭載可能である。

 上記は、すでに現場での稼働段階または試作品段階にある無人システムが、各国海軍の高性能有人プラットフォームへの依存低減に貢献できることを示す事例の一部にすぎない。ただし、無人システムを忠実な付き添い役[22] でも、補助弾倉[23] でも、無人のチームメート[24] でもなく、自軍の完全な一員として扱うことによって初めて、各国海軍は、将来的なコスト増によって艦隊の縮小や機動性低下が続くという事態を避けることができる。必要な技術の多くはすでに利用可能な状態にあるため、各国海軍はもはや、今後何十年にもわたって続く開発プロジェクトの方向を定めるべく予測分析に頼る必要もない。能力開発の重点はこれに代えて、既存のシステムと戦術の組み合わせによって目前の問題を解決することに置くべきである。[25]

 同盟国にとって優勢はもはや当たり前の状態ではない。こうした状況において米同盟国海軍に必要なのは、作戦の革新という視点に立ち返ることだ。部隊設計も、創造的な問題解決を促進できるだけの柔軟性を備えたものでなければならない。同盟国の効果的なイノベーションを可能とする要素やプロセスの多くは、産業界や軍の研究所、そしてその共同実験から生まれつつある。取り組みを加速させて無人システムがもたらすメリットを実現し、加速させるためには、現行作戦面での問題を解決すべく、軍がよりうまく調整を行い、こうした無人システム導入の活動をより効果的に実行することが不可欠だ。これに失敗した場合、米同盟国海軍は、技術力を備えた相手国に対して永続的な優位性を獲得できる最高の機会を逃す恐れがある。

(2025/06/13)

*こちらの論考は英語版でもお読みいただけます。
【Cooperation between European and Indo-Pacific Powers in the US alliance system project:Policy Paper Vol. 2】
Embracing Hybrid Fleets: Using Uncrewed Systems to Field More Effective and Sustainable Allied Navies

脚注

  1. 1 David Vergun, “DOD Takes Steps to Restore Stability in Red Sea Area,” US Department of Defense, February 27, 2024.
  2. 2 Justin Katz, “Navy Lays Out Major Shipbuilding Delays, in Rare Public Accounting,” Breaking Defense, April 2, 2024.
  3. 3 Dan Patt and Bryan Clark, Unalone and Unafraid: A Plan for Integrating Uncrewed and Other Emerging Technologies into US Military Forces (Hudson Institute, 2023).
  4. 4 Laura Heckmann, “SNA NEWS: Navy Prioritizing Hybrid Manned-Unmanned Fleet,” National Defense, January 10, 2024.
  5. 5 NAVCENT Public Affairs, “Task Force 59 Launches New Unmanned Task Group 59.1,” press release, January 16, 2024.
  6. 6 USNAVSOUTH / 4th Fleet Public Affairs, “Hybrid Fleet Campaign Event Evaluates Technology for Future Operations,” US Southern Command, October 20, 2023.
  7. 7 Gidget Fuentes, “Pacific Battle Problem Tests Expanded Use of Networked Autonomous Warships,” USNI News, May 16, 2023.
  8. 8 Heather Mongilio, “A Brief Summary of the Battle of the Black Sea,” USNI News, November 15, 2023.
  9. 9 Aliza Chasan, “US Military Reports 1st Houthi Unmanned Underwater Vessel in Red Sea,” CBS News, February 18, 2024.
  10. 10 Patrick Tucker, “Navy Envisions ‘Hundreds of Thousands’ of Drones in the Pacific to Deter China,” Defense One, February 16, 2024.
  11. 11 Bryan Clark and Dan Patt, Hedging Bets: Rethinking Force Design for a Post-Dominance Era (Hudson Institute, 2024).
  12. 12 The Department of the Navy and Strategic Competition with the People’s Republic of China (Center for Naval Analyses, 2023).
  13. 13 Bryan Clark, Seth Cropsey, and Timothy A. Walton, Sustaining the Undersea Advantage: Transforming Anti-Submarine Warfare Using Autonomous Systems (Hudson Institute, 2020).
  14. 14 John Keller, “Leidos Gets Navy Go-Ahead to Fabricate TRAPS Deep-Ocean Sonar System Prototypes for Anti-Submarine Warfare (ASW),” Military and Aerospace Electronics, June 25, 2019.
  15. 15 “US Navy Uses MQ-9B SeaGuardian to Support IPB-23,” Naval News, May 20, 2023.
  16. 16 Richard R. Burgess, “Navy’s Unmanned Systems Battle Problem Features All-Domain Sensing,” Seapower, April 26, 2021.
  17. 17 Bryan Clark and Timothy A. Walton, Fighting into the Bastions: Getting Noisier to Sustain the US Undersea Advantage (Hudson Institute, 2023).
  18. 18 Jon Harper, “Anduril Develops New Roadrunner Drones That It Says Can Perform Air Defense Missions,” DefenseScoop, December 1, 2023.
  19. 19 Raytheon, “Coyote,”
  20. 20 Sydney J. Freedberg Jr., “From KMAX to KARGO: Army, Marines Test Out New Support Drone,” Breaking Defense, October 9, 2023.
  21. 21 Jared Keller, “The Marine Corps Now Has Drone Boats Bristling with Loitering Munitions,” Task and Purpose, May 25, 2023.
  22. 22 Mallory Shelbourne, “Navy Buys 2 ‘Loyal Wingman’ XQ-58A Valkyrie Drones for $15.5M,” USNI News, January 3, 2023.
  23. 23 “US Navy Successfully Completes Large Unmanned Surface Vessel Testing Milestone,” Program Executive Office Unmanned and Small Combatants, Naval Sea Systems Command, December 20, 2023.
  24. 24 “US Navy Super Hornet Teams with Unmanned Aerial Vehicles in Flight Demos,” NAVAIR, July 15, 2022.
  25. 25 Patt and Clark, Unalone and Unafraid.