「セウォル号」以降の韓国海洋安全体制の整備

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黄 洗姫,海洋政策研究財団研究員

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はじめに

2014年4月16日、仁川港を出発し済州島へ向かっていた大型旅客船「セウォル号」が全羅南道珍島郡の沖海上で転覆・沈没した。事故発生から209日が過ぎた11月11日、韓国政府は同事故の行方不明者に対する捜索を終了した。捜索終了時点で476名の搭乗者(推定)のうち、生存者は172名、死者295名、行方不明者9名という悲惨な記録を残すことになった。

同事故の収束は2014年の韓国社会の最大懸案となった。老朽船舶の運航延長、過剰な積載とバラスト水の操作が同事故発生の第一原因であったが、船長および船員らの未熟な行動、政府の救援体制の不備等、事項直後の不適切な対応により多くの人命が犠牲になった。今回の事故で、韓国社会では海洋安全体制に対する抜本的な見直しの必要性が提起され、朴槿惠大統領は「内閣全体が原点から『国家改造』に挑むつもりで根本的な対策を考えてほしい」と言明するほどであった 。以降、「沿岸旅客船の安全管理のための革新対策」(2014年9月2日発表)をはじめ、海洋警察の解体や国家安全処の新設など、海洋安全に関する一連の政策が策定、推進されている。

本稿では、同事故がもたらした韓国海洋安全体制の整備を分析する。そのためにまず 従来の海洋安全体制の特徴を明らかにした後、同事故の原因と関わる従来の海洋安全体制の問題点を分析する。そして事故後に行われた韓国海洋安全体制の見直しを概観し、その限界を評価する。

1.「セウォル号」以前の韓国海洋安全体制

海上における安全体制に対する韓国の取り組みは、1988年1月1日より施行された「海上交通安全法」から始まった。同法は船舶の高速化および大型化、海上交通量の増加につれ、海上交通秩序の確立と海難事故の防止を図るために制定された 。同法により管理されてきた海洋安全体制は、2011年に同法が「海事安全法」として全面改正され、大きな転換を迎えた。「海事安全法」への改定は、変化した海上交通環境に対応するためであった。当時の改定理由によると、同法は、「国際海事機関(IMO)の加盟国監査制度が要求する海事安全政策の策定・施行・評価およびフィードバック・システムを確立することにより海事安全政策の実効性を高め、『海洋法に関する国際連合条約』などで沿岸国の権限として規定している領海外海洋施設の安全管理に関する事項および海難事故処理に関する事項等を収容する一方、現行制度の運営上現れた一部の不備点を改善・補完するため」のものであった 。

同法への移行は、海上交通の国際化と2007年にあった、「ヘーベイ・スピリット号」の原油流出事故がその背景にあった。大量の原油流出により西海岸が深刻に汚染され、韓国政府は当該海域が属する地方自治体を特別災難区域と指定した。同事故は大型化する船舶と海上交通の増加につれ、海上事故がもたらす環境への影響を韓国社会に認識させた。

こうした経緯から同法第3条は、韓国の排他的経済水域で難破物を発生させた全ての船舶、および排他的経済水域や大陸棚上にある海洋施設にも同法が適用されるように定めた。従来の「海上交通安全法」が領海と内水のみ適用されており、排他的経済水域で発生した海難事故の処理、または排他的経済水域等に設置された海洋施設の安全管理などのための法的根拠が脆弱な点が指摘されていたからであった。そして同法第6条及び第7条では、国土海洋部長官が5年単位で「国家海事安全基本計画」を策定し、毎年「海事安全施行計画」を策定するようにした。これはIMOが各加盟国に要求する海事安全戦略計画の策定・実施・評価およびフィードバック体制の構築に対応するための取り組みであった。

さらに同法は、大型海上事故の発生が懸念される海域を「交通安全特定海域」と指定し(第10条)、大型船舶、危険貨物の輸送船等が「交通安全特定海域」を航行する場合には必要に応じて航行を管理できるようにした(第11条)。また軽油や重油を運搬する船舶のタンカー通航禁止区域への進入を禁止した従来の法律に加え、原油やこれに準ずる炭化水素油を運搬する船舶もタンカー通航禁止区域への進入を禁止した(第14条)。

以上のような「海事安全法」に基づく韓国の海洋安全体制は、主に大型船舶による海上事故の防止や、それに伴う海洋汚染を予防することに焦点が当てられてきた。同法の施行と関連施策により、海洋汚染防止および海上事故の予防という課題の解決には一定の成果を見せたが、沿岸旅客船の管理体制は長年海洋安全体制の中心的な課題から離れてしまう結果をもたらしたのも事実であった。

2.事故の主要原因と問題点

2014年12月29日に公表された韓国海洋安全審判院の「旅客船『セウォル号』転覆事故に関する特別調査報告書」によると、同事故の原因は以下の通りである。

同事故の原因は、船舶改造により復元性が弱化した同船舶が船舶検査機関の復元性承認条件に満たさないバラスト水の積載と過剰な貨物積載を行い、復元性基準を一部満たさないまま、積載貨物の適切な固定措置を行わなかったため、大角度の急変針時に復元力が喪失される状態で出航し、当職操舵手の不適切な操舵で船体の急激な右舷旋回と同時に発生した過度な左舷船体の横傾斜により貨物が一方に傾き、復元力を消失したため発生したと判断される 。

同報告書は、同船舶の改造事項や船舶構造、船舶検査を始め、同船舶が仁川−済州航路の免許取得と運行の経緯、貨物積載と固定措置、乗客船安全管理、船舶の復元性問題等、船舶の運行に関わる全般を明らかにした。

具体的には第一、同船舶の過度な改造と安全基準を満たさない貨物積載は、同航路を独占していた運航会社「清海鎮海運」の無理な運航にその責任があった。同社は貨物輸送量が多い仁川−済州航路の免許を独占しており、「セウォル号」は2013年3月の就航以降、120余回の航行を行った。清海鎮海運の全体の売上高は、2012年260億ウォンから同船舶が就航した2013年には320億ウォンに跳ね上がった。2013年の売上高のうち乗客は125億ウォン、貨物は194億ウォンで、貨物の割合が特に高かった。このように同船舶は事実上貨物船であったが、旅客船として登録されていたため、貨物船に賦課される入出航料等が免除されてきた 。内航客船の慢性的な赤字が続く中で数少ない黒字路線を独占した同会社の無理な運航は、同事故の第一原因であり、その背景には内航客船管理体制の不備があったことが指摘される。

第二、同事故により明らかにになった従来の海洋安全体制の問題は、二元化された旅客船安全管理体制にあった。外航貨物船および外航客船の場合、国際安全管理規約(ISM Code)を反映した「海事安全法」第46条が定める船舶安全管理体制が求められるが、内航客船は「海運法」第21条および第22条が定める運航管理規定による審査を受け、運航管理および監督を行ってきた 。この違いにより内航客船の安全管理体制は船社→運航管理者(1次検査)→政府(最終指導·監督)など3つのステップで構成され、運航管理者の独立性(利益団体所属)の欠如、政府の間接的な指導・監督、弱い処罰など、指導・監督システムの不良が指摘される。さらには古い船舶の導入、無理な改造、救命設備の不良整備に対する規制·監督が不十分で、船舶の安全確保に限界があった。

第三、海運産業の不況が続く中、船員の専門性欠如および安全教育の不足により、事故直後の迅速な対応に失敗したことは大きな人命被害につながった。事故直後、同船舶の船長は退船命令の指示をしたと主張しているが、この退船命令が客室乗務員へ伝達されず、船が完全に転覆するまで多くの乗客は船内待機を続けた 。「セウォル号」の船長をはじめ(1年契約)、船舶運航の核心業務を担当する船員17名のうち、12名が短期契約により雇用されていた 。一年契約が主流となった船員の勤務条件としても、内航船は外航船より給料が低く(韓国船員福祉雇用センターの2013年船員船舶統計によると、内航船員の平均給料は外航船員の62.6%)、内航船船員の高齢化と人手不足が深刻化する一方であった 。船員船舶統計によると内航船員8,269人のうち60代以上が3,383名(40.9%)で最も多く、50代以上を含めば全体の76%を超えている。人力不足にともなう勤務状況の悪化、そして安全管理体制の不備は、事故発生の危険性と高めたと同時に、事故発生後の対応に失敗する背景となったのである。

第四、海洋警察の対応遅れも人命被害を増大させた原因として指摘できる。事故発生直後、現場へ到着した海洋警察のヘリと救命艇は、船内へ入り乗客へ案内指示を行う代わりに、船舶周辺に滞在しながら消極的な救助に一貫した。その結果、船が完全転覆するまでの47分という時間を無駄にしてしまった。海難事故の対処を担当するはずの海洋警察がこのような救助活動の不備を見せたのは、近年、海洋警察の主な任務が不法操業の取り締まりに集中してきたことに起因する。2001年6月、韓中漁業協定の発効以降、韓国の排他的経済水域に対する中国漁船の不法操業への対処が海洋警察の懸案課題であった。とりわけ、2005年6月、同協定によって定められていた韓国側の暫定水域が韓国の排他的経済水域に編入され、韓国水域内における海洋資源保護の必要性がさらに強化された。海洋警察の持続的な対応により2005年に584件という最高記録を残した不法操業への取り締まりは、年々減少しているものの、依然として年間400件以上を超えている(2013年は487件) 。他にも海上を通じた麻薬・密貿易が増加するなど、国際化した海洋関連の犯罪への捜査機能が強調された。このように海洋警察が不法操業の取り締まりおよび捜査任務に注力した分、海難事故の予防および救援捜索機能の拡充が遅れてしまっていた。

以上の要因を考えると、年々国際化しつつある海洋環境の変化への対応を重視してきた韓国の海洋安全体制の中で時代遅れになっていた、内航客船運行体制の構造的な問題が一気に噴出したのが同事故であったと言えるだろう。 

3.改善策および体制整備の施策

事故以降、韓国政府は海洋安全体制に対する全般的な見直しと改善法案の模索に着手した。5月19日、朴大統領は「セウォル号」事故に対する国民談話を発表し、救助活動に問題があったとして海洋警察庁を解体する法改正案を国会に提出すると表明した。同事故の社会的な関心に相応し、組織改編と一連の法制整備が速やかに行われた。

(1) 沿岸旅客船の安全管理のための革新対策

その具体的な方策として、まず「沿岸旅客船の安全管理のための革新対策」が発表された。セウォル号事故以降、事故現場の珍島港に滞在していたイ・ジュヨン海洋水産部長官は、9月2日、事故以来、初めての閣僚会議に出席して、「セウォル号」事故の再発防止のための同対策を報告・発表した。これにより明らかになった 沿岸旅客船の安全管理の革新対策の主な内容は以下の通りである

① 安全管理指導・監督システムの全面改編

運航管理者を運航組合から完全に分離・独立し、海事安全対策責任者制度を導入することにより、政府が直接指導・監督するシステムを構築することにした。旅客船の安全管理業務を海洋水産部に一本化し、安全規定違反に対する無寛容の原則を適用すると同時に、処罰規定も大幅に強化(課徴金最大3千万ウォン→10億ウォン)する計画である。

② 安全管理関連規制の合理化を推進

船の導入、改造、検査などの過程で安全性を確保するために、旅客船の船齢制限強化、回復力の低下を誘発する客船改造の禁止、政府の検査代行権の開放などを推進する。さらに、 現行の運航管理規定の策定・審査システムは、ISM code基準を反映して改良し、現在試験的に実施中の貨物電算発券制度も10月から全面導入を推進する予定である。

③ 沿岸旅客運送事業の安全性と公共性の確保のためにパラダイム転換を推進

運航船社の劣悪な経営環境等に起因する安全管理上の問題に対する根本的な解決と、立ち遅れた沿岸旅客輸送市場の成長のために、補助航路などの赤字航路を対象とした公営制導入を検討するなど、沿岸旅客船の運営システムの改編も積極的に推進する。また、信頼性の高い船舶の近代化支援制度の導入、沿岸旅客船の近代化5カ年計画などを介して沿岸旅客船が20年周期での新造・代替される好循環構造を定着させるようにした。そして、航路免許制度と運賃制度を改編し、1963年から適用されてきた航路免許への参入基準(輸送収入率)を撤廃して、優れた事業者の市場参入を促進し、民間船社が安全に投資できるように、経営環境の改善を支援することとした。

④ 海洋安全文化の日常化

運航船社最高経営責任者(CEO)向けの安全教育プログラムの設置と船社の安全情報公開などを介して、船社の経営文化を安全中心に変えることにした。また、 乗客参加型の緊急対応訓練実施、学生の安全教育のための「海洋安全教室」の運営、「海洋安全の日」(毎月1日)の指定などを通じて海洋の安全のための教育、広報を強化する計画である。

以上のような対策の中でも、慢性的な赤字経営で苦しむ内航船の運営状況を改善するための公営制の導入が懸案となっている。財政面の限界から公営制の実現を疑う意見もあり、内航船運営の改善に効果的な措置となるかどうかはこれからの課題である。

これらの対策は、9月24日発表された「海洋水産経済活性化法案」にも含まれており、海洋水産部を中心とした統合的な推進が行われる予定である。朴勤恵政権の経済政策方針である「創造経済」に対する海洋水産部次元のフォローアップとして策定された同法案は、海洋水産分野における新たな経済活力を模索するためのものである。同法案が掲げた主要課題の一つが海上交通への不安および利用客の不便の解消であり、「沿岸旅客船の安全管理のための革新対策」の推進が明記されている。また海洋水産部の次年度(2015年)予算編成においても、「セウォル号」の事後対策に関する予算を前年に比べて339億ウォン増額し、1,458億ウォンとした。

(2)海洋警察の解体と国民安全処の新設

海洋安全体制の整備のもう一つの焦点は、救援捜索機能を担当する海洋警察の組織改革であった。前述したように朴大統領が言明した海洋警察庁の解体をめぐり、効果的な海洋管理の側面から解体に反対する意見も多かったが、2014年11月18日、国務会議で政府組織改編案が可決された。今回の組織改編により、海洋水産部傘下機関であった海洋警察庁が廃止され、捜査・情報部門は警察庁へ、海洋警備および海洋安全部門は新設された国民安全処へ移管された。国民安全処は国務総理統括の組織であり、海洋警察庁と消防防災庁が統合されたものである。同処の下で「中央消防本部(消防総監)」と「海洋警備安全本部(治安総監)」 が設置され、各任務を担当することになる。海洋警備安全本部の下には海洋警備安全局、汚染防災局、装備技術局が設置された 。次官級の「中央消防本部」と「海洋警備安全本部」はそれぞれ人事と予算の独自性を行使することにした。また国民安全処とは別途、大統領秘書室の下に災難安全秘書官を新設し、通常緊急事態が発生した際の連携を可能にした。

このような体制整備に相応して、「災難および安全管理の基本法」が一部改正された(2014年12月30日施行)。同法の改正により、大規模な災害発生時に効果的な災害収束のために必要な場合には、総理大臣が中央対策本部長の権限を行使することができるようにした。また、迅速な緊急救助のために災害現場に特殊機動救助隊の投入と緊急救助機関の統合指揮権行使等に関する事項を定めた。そして、国民安全処の長官に災害および安全管理事業の予算編成協議権を与えるなど、災害や安全管理システムを強化することを図った 。

4.整備体制の限界とベーリング海事故で浮上した問題点

以上のように分散されていた災害対応システムを統合し、災害現場での専門性と即応性を強化することが今回の組織改編の狙いである。しかし新設時から、同処の専門性強化に疑問を示す意見が多かった。とりわけ、組織を統括する国民安全処長官に、海軍大将出身のバク・インヨン前合同参謀次長を、次官には陸軍中将出身のイ・ソン安全行政部第2次官を任命したことが批判された。 災害・安全分野のコントロールタワーをそれぞれ海軍と陸軍出身の「作戦・戦術の専門家」に任せたのである。 同人事に際して、ミン・ギョンウク大統領室報道官は、「一線の司令官や戦略、教育など様々なポジションを経験し、組織の管理能力が優れており、汎政府的な災害管理コントロールタワーとして発足する国民の安全先をリードする適任者として期待されて任命した」と説明した 。軍出身者が指揮体系に応じた迅速な対応には強みがあることは否定できないが、事前の予防と点検、安全分野の全体的なシステム再整備と政策の立案と執行面等まで担当するポストを、すべて軍出身者に任せることに対する懸念も多かった。しかも同組織の改編が海洋警察への処罰的な措置から始まったことを考えると、海上安全を担当する海上警察庁出身者の士気低下をより刺激するように見えた。

もっと懸念すべき点は、捜査・情報機能と海洋警備および海洋安全機能が分離されたことである。海上事故への統合的な対応に焦点を当てた今回の組織改編が海難事故や災害への効率的な対処を可能にする仕組みであるものの、近年の海洋安全に主たる脅威である海上不法行為への対応は以前より弱化される可能性が指摘できる。周辺国との境界画定がまだ完了しておらず、海洋主権の強化が各国の主要懸案となった近年の海洋環境に鑑みても、海洋警察が堅持してきた海洋安全保障への効果が低下されたのは明らかである。

以上のような問題点が提起される中、国家安全処の限界を見せる事故が発生した。2014年12月1日、韓国籍遠洋漁船、「501オリョン号」がベーリング海で沈没し、50名以上が死亡・行方不明となる事故が起きたのである。12月1日午後1時40分頃、同船舶の位置と移動経路の送信が中断されたのを最初に把握したのは、国民安全処傘下の海洋警備安全本部海洋安全センターであった。そして午後2時06分頃、遭難信号を受信した海洋安全センターは、信号の真偽確認を経て、午後2時40分頃、外交部を介して、ロシア側に状況を知らせ、救助要請を行った。続いて午後3時30分頃、ロシアの対応状況を問い合わせた 。それ以降の救助および後続対策の策定過程においては、海洋水産部と外交部が主な役割を果たした。事故対策本部は国民安全処ではなく外交部に設置され、事故に伴う事後補償業務は海洋水産部が担当することになった。「災害と安全管理の基本法によると、外国で災害が発生した時は、外交部が主な役目をするように規定している」と、国民安全処の関係者は説明する 。

今回の事故により、海外で発生した国民関連の事故について、政府組織間の業務分担や対応マニュアルの不在が指摘された。国民安全処が発足したばかりだとは言え、領海を越える海洋事故への対応をはじめ、国民安全処が統括する安全管理体制の整備が容易ではない実情が明らかになったのである。

おわりに

グローバル化した海洋環境により、海洋安全に関わる課題が多様化、複雑化したのは韓国だけではない。韓国政府の場合、各事案に対する問題が浮上した際に、速やかに行政および立法活動を行い、比較的な早く体制変換を行うのが従来からの特徴であった。先述した「ヘーベイ・スピリット号」の原油流出事故や中国漁船の不法操業問題等は、このような韓国政府の施策スタイルが働いた事例である。迅速な問題解決型の体制整備は、核心的な問題に対する効果的な改善には役立つものの、限られた財源と人力により運営する全体体制に対する総合的、また構造的な解決から目を逸らしてしまう結果を生み出す。本稿が確認したように、「セウォル号」事故はこうした韓国のダイナミックな海洋安全体制が作り上げた死角において発生した事故であった。同事故後に行われた体制整備も速やかでかつ急激な変化を伴うものであったが、短期間で行った対策措置は今後諸課題に対する詳細な分析が求められる。海洋環境の変化が著しい中、国民安全処を中心とした効果的な体制を完備するまでは、未だかなりの時間を要するだろう。

(2015年1月19日配信【海洋情報特報】より)