2014年上半期の海賊行為と船舶に対する武装強盗事案

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~ReCAAP・IMB報告書から~


上野英詞,海洋政策研究財団研究員

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12014年上半期のアジアにおける海賊行為と武装強盗事案ReCAAP報告書に見る特徴~

アジア海賊対策地域協力協定 (Regional Cooperation Agreement on Combating Piracy and Armed Robbery against Ships in Asia) に基づいて設立された、ReCAAP Information Sharing Centre (ISC) は2014 年7月下旬、2014年上半期(1月1日~6月30日)にアジアで発生した海賊行為と船舶に対する武装強盗事案に関する報告書を公表した。(ReCAAPとはRegional Cooperation Agreement Against Piracyの頭字語である。)

国際海事局(IMB)の同種の報告書が全世界を対象としているのに対して、ReCAAPの報告書は、アラビア海からユーラシア大陸南縁に沿って北東アジアに至る海域を対象としている。また、IMBが民間船舶や船主からの通報を主たる情報源としているのに対して、ReCAAPの情報源は、加盟国と香港の Focal PointとシンガポールにあるInformation Sharing Centre (ISC) とを結び、またFocal Point相互の連結で構成される、Information Sharing Webである。各国のFocal Pointは沿岸警備隊、海洋警察、海運・海事担当省庁あるいは海軍に置かれている(日本の場合は海上保安庁)。そして各国のFocal Pointは、当該国の法令執行機関や海軍、港湾局や税関、海運業界など、国内の各機関や組織と連携している。更に、国際海事機関(IMO)、IMBやその他のデータを利用している。

ReCAAPの加盟国は、インド、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、シンガポール、カンボジア、ラオス、ベトナム、ブルネイ、フィリピン、中国、韓国及び日本の域内14カ国に加えて、域外国からノルウェー(2009年8月)、デンマーク(2010年7月)、オランダ(2010年11月)、英国(2012年5月)、及びオーストラリア(2013年8月)が加盟し、現在、19カ国となっている。なお、マレーシアとインドネシアは未加盟だが、ISCとの情報交換が行われている。

以下は、ReCAAP報告書から見た、2014年上半期のアジアにおける海賊行為と船舶に対する武装強盗事案の態様と傾向である。

1.「海賊」と「船舶に対する武装強盗」についてのReCAAPの定義

「海賊」 (piracy) と「船舶に対する武装強盗」 (armed robbery against ships) とは、ReCAAP ISCの定義によれば、「海賊」については国連海洋法条約(UNCLOS)第101条「海賊行為の定義」に従って、「船舶に対する武装強盗」については、国際海事機関(IMO)が2001年11月にIMO総会で採択した、「海賊行為及び船舶に対する武装強盗犯罪の捜査のための実務コード」(Code of practice for the Investigation of the Crimes of Piracy and Armed Robbery against Ships) の定義に従っている。

2.発生(未遂を含む)件数

報告書によれば、2014年上半期の発生件数は73件(2013年同期61件)で、その内、既遂が69件(同57件)、未遂が4件(同4件)であった。

ReCAAPの定義に従えば、73件の内、18件が海賊襲撃事案で、55件が船舶に対する武装強盗事案であった。2013年同期は、61件中、5件が海賊襲撃事案で、56件が船舶に対する武装強盗事案であった。報告書によれば、船舶に対する武装強盗事案はこの5年間の上半期で最も少なくなっているが、海賊襲撃事案は2013年同期より大幅増となっており、この5年間では2011年同期の19件に次いで多い。18件の海賊襲撃事案の内、15件が南シナ海で発生しており、2件がベンガル湾、そして1件がインド洋での未遂事案であった。

3.発生事案の重大度の評価

ReCAAPの報告書の特徴は、既遂事案の重大度 (Significance of Incident) を、暴力的要素(Violence Factor) と経済的要素 (Economic Factor) の2つの観点から評価し、カテゴリー分けをしていることである。

暴力的要素の評価に当たっては、① 使用された武器のタイプ(ナイフなどよりもより高性能な武器が使用された場合が最も暴力性が高い)、② 船舶乗組員の扱い(死亡、拉致の場合が最も暴力性が高い)、③ 襲撃に参加した海賊 / 武装強盗の人数(この場合、数が多ければ多いほど暴力性が高く、また組織犯罪の可能性もある)を基準としている。

経済的要素の評価に当たっては、被害船舶の財産価値を基準としている。この場合、乗組員の現金が強奪されるよりも、該船が積荷ごとハイジャックされる場合が最も重大度が大きくなる。

以上の判断基準から、ReCAAPは、発生事案を以下の4つにカテゴリー分けしている。
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1は、 以上の暴力的要素と経済的要素から、この5年間の上半期における既遂事案をカテゴリー分けしたものである。

表1:過去5年間の上半期のカテゴリー別既遂事案件数

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出典:ReCAAP 2014年上半期報告書7頁のチャート1より作成

4.石油・燃料油の抜き取り事案

2014年上半期の5件のCAT-1事案で注目されるのは、いずれもタンカーからの積荷の石油や燃料油の「抜き取り (siphoning) 」事案であり、報告書は、過去5年間のCAT-1事案のほとんどが転売を目的としたタグボートのハイジャック事案であったのとは異なっている、と指摘している。抜き取り事案は、目標となったタンカーがハイジャックされたわけではないが、積荷の石油・燃料油が別のタンカーに抜き取られている。襲撃グループが銃器やナイフで武装している点ではタグボートのハイジャック事案と共通するが(もっとも、5件の事案ではいずれも、銃は発砲されていない)、襲撃グループの主たる狙いは積荷の石油・燃料油にある、と報告書は指摘している。

ReCAAP ISC は7月24日、この種の抜き取り事案について、Special Report on Incidents of Siphoning of Fuel/Oil at Sea in Asia と題する報告書を出して、警告している。それによれば、この種の事案は、2に示したように、2011年4月15日の事案が初めてだが、2014年になって異常に増えているところに特徴がある。下表は、2014年7月15日までの既遂事案で、上半期の5件に加えて、7月に新たに2件発生している。未遂事案については、2012年が3件、2013年1件、2014年が1件で、従って、201年~2014年7月までの全発生件数は16件、内、既遂事案が2の通り11件である。

表2:2011年~2014年における石油・燃料油の抜き取り既遂事案

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出典:Special Report on Incidents of Siphoning of Fuel/Oil at Sea in Asia, p.9, Annex Bより作成。

Special Reportによれば、抜き取り事案の発生海域は、11件の既遂事案の内、7件が南シナ海で発生しており、いずれも航行中に事案である。インドネシアでは2件発生しており、1件がスラバヤ北東沖を航行中の事案で、もう1件が東カリマンタン・サマリンダのMuara Berau錨泊地で事案である。マレーシアでは、ポート・クラン沖での航行中の事案が1件とマラッカ海峡で1件発生している。(地図参照)目標となったタンカーは、1,000~2,000GTの小型タンカーである。

2011年~2014年7月半ばまでの既遂・未遂抜き取り事案発生海域
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出典:Special Report on Incidents of Siphoning of Fuel/Oil at Sea in Asia, p.2

Special Reportによれば、襲撃グループの手口は、人数、乗組員の扱い、使用武器、及び乗り込み方法など、似通っている。襲撃グループの人数はほとんどが5人以下だが、最も多かったのは、2014年4月17日にマレーシア東岸の南シナ海でタイ籍船のタンカー、MT Sri Phangnga が襲撃された事案で、16人の海賊の内、8人がショットガン、拳銃、ナイフ(長刀)で武装して乗り込み、錨泊させ、別の小型タンカーを横付けしてMGOを抜き取った。乗組員には怪我はなかったが、船長が軽傷を負った。海賊は、退去する際、乗組員の所持品、船舶備品を奪い、通信設備を破壊し、船名と船社のロゴマークにペンキを塗りつけた。乗組員の扱いについては、船長が軽傷を負ったこの事案と、2012年11月19日の乗組員を救命ボートに放棄した未遂事案を除いて、危害は加えられていないが、脅迫されたり、船室に閉じ込められたりしている。ほとんどの事案では、海賊は、航行中のタンカーに乗り込み、乗組員を船室に閉じ込め、この間、タンカーを制圧し、横付けした別のタンカーやバージに積荷油を抜き取っている。16件の事案中、3件で、襲撃されたタンカーが積荷油の抜き取り中に船名を書き換えられている。

Special Reportは、① 石油・燃料油に対する需要が多いことから、関係政府当局と海運業界が緊密に協力し、犯人逮捕ができない限り、魅力的なビジネスとして抜き取り事案が続くと見られ、② しかも襲撃グループは目標とするタンカーの油種と航行ルートについて知っていると思われ、彼らと乗組員が共謀していた事例があったことなどを指摘し、関係者に以下のような勧告をしている。

(1) 船主に対しては、乗組員の経歴の定期的なチェック、乗組員に対する船舶保安計画の周知、積荷についての情報については「関係者限り」の厳守など。

(2) 船長に対しては、海賊対処マニュアル、BMP (The Best Management Practices) 第4版の履行、全周監視の徹底、襲撃された場合の迅速な通報など。

5.その他の事案の特徴

1のカテゴリー別既遂事案の内、CAT-2事案、21件中、12件が停泊中または錨泊中の事案で、その内、7件がインドネシア、3件がバングラデシュ、各1件がフィリピンとマラッカ・シンガポール海峡での事案である。そして、9件が航行中の事案であった。CAT-3とpetty theft事案、43件は全既遂事案の60%強を占めるが、18件が航行中の事案で、その内15件がマ・シ海峡航行中の事案で、目標となった船舶は、ばら積み船5隻、タンカー5隻、タグボート3隻、コンテナ船と一般貨物船が各1隻となっている。ReCAAP ISCは、沿岸各国と海洋法令執行機関に対して、監視活動の強化とプレゼンスの維持を求めている。

報告書によれば、襲撃された船舶の状況と事案発生場所については、停泊及び錨泊地での事案(通常、CAT-3かpetty theft事案)が全既遂件数に占める割合は、2012年上半期の78%から2014年同期には55%に減少している。これはインドネシアでの発生件数の減少によるもので、停泊及び錨泊地での17件の既遂事案(他に、未遂3件)中、CAT-2事案7件(2013年同期6件)で、1件増となっているが、CAT-3事案3件(同15件)、petty theft事案7件(同16件)で前年同期比大幅減となっている。報告書によれば、これは、2014年1月1日以来、インドネシア海洋警察が全国11カ所の港湾と錨泊地で哨戒活動を強化するとともに、犯人の一部を逮捕したことによる。

航行中の事案では、報告書は、過去3年間で全体に占める割合が22%から45%に増加してきた、と指摘している。それによれば、マ・シ海峡での発生件数は23件で、2013年同期の3件から大幅に増えている。その大部分は分離航行帯の東航ルートでの事案で、貨物を積載した船舶の低速での航行が狙われている。23件の内訳は、CAT-1が1件(2013年同期ゼロ)、CAT-2が7件(同ゼロ)、CAT-3が7件(同2件)、petty theftが8件(同1件)となっている。

一方、南シナ海での航行中の事案は8件(2013年同期5件)で、その内、4件がCAT-1事案(同ゼロ)で、これは前述の抜き取り事案である。報告書によれば、南シナ海での事案は沿岸から離れた沖合での事案で、海賊は比較的大胆で、銃などの武装しており、しかも犯人が捕まっていない。

襲撃に参加した海賊・武装強盗の人数から見れば、既遂事案69件中、1~6人が最も多く47件で、7~9人が5件、9人以上が10件、情報なしが7件であった。7人以上の15件の内、10件が航行中の事案で、南シナ海6件、マ・シ海峡3件、ベンガル湾1件となっている。

使用された武器のタイプでは、既遂事案69件中、26件がナイフ・長刀のみで、8件がナイフと銃器で武装していた。8件中、4件がインドネシア、3件が南シナ海(いずれも航行中の石油・燃料油の抜き取り事案)、1件がフィリピンでの錨泊中の事案であった。半数の35件が非武装か情報なしの事案で、ReCAAP ISCは、船長や船社に対して事案についての詳細な情報提供を呼び掛けている。

乗組員の扱いから見れば、脅迫が3件、人質が10件、襲撃が5件で、負傷者なし1件、行方不明1件、負傷者なし・情報なしが49件であった。報告書によれば、多くの事案では海賊・武装強盗は場当たり的で、乗組員を傷つける意図は持っておらず、見つかれば逃亡する。しかしながら、海賊・武装強盗は、所持する武器で乗組員と脅したり、拘束して通報を阻止したりすることもある。ReCAAP ISCは、海賊・武装強盗に乗り込まれた場合、特に彼らが武装している場合には、抵抗しないよう勧告している。

経済的損失について見れば、積荷が盗まれた事案が8件で、その内、5件が石油・燃料油の抜き取り事案で、3件がバージからのスクラップ金属の盗難であった。ReCAAP ISCは、関係当局に対して、タグ&バージの航行ルート沿いの定期的哨戒活動の強化などを慫慂している。船舶のハイジャック・行方不明事案が1件あった。報告書によれば、これは1月13日の事案で、マレーシア籍船のタグボート、Manyplus 12がコンテナ138個を積んだバージ、Hub 18を曳航して、ボルネオのサラワク州からマラッカ海峡に面したポート・クランに向かって航行中に行方不明になった事案である。Hub 18は、1月24日にフィリピン海軍に発見され、その後の調査で、コンテナの一部の中身が盗まれていた。Manyplus 12の乗組員、11人は1月22日にベトナムの漁船に救助されたが、Manyplus 12は依然、行方不明となっている。

2.2014年上半期の海賊行為と船舶に対する武装強盗事案IMB報告書に見る特徴~

国際海事局 (IMB) は2014年7月下旬、クアラルンプールにある海賊通報センター (Piracy Reporting Centre: PRC) を通じて、2014年上半期(1月1日~6月30日)に世界で起きた海賊行為と船舶に対する武装強盗事案に関する報告書を公表した。以下は、IMB報告書から見た、2014年上半期における海賊行為と船舶に対する武装強盗事案の特徴を取り纏めたものである。

「海賊」 (Piracy) と船舶に対する「武装強盗」 (Armed Robbery) の定義については、IMBは、「海賊」については国連海洋法条約(UNCLOS)第101条「海賊行為の定義」に、「武装強盗」については、国際海事機関(IMO)が2001年11月にIMO総会で採択した、「海賊行為及び船舶に対する武装強盗犯罪の捜査のための実務コード」(Code of Practice for the Investigation of the Crimes of Piracy and Armed Robbery against Ships) の定義に、それぞれ準拠している。

なお、記述の都合上、関係諸表は末尾に掲載した。

1.発生(未遂を含む)件数と発生海域から見た特徴

2014年上半期の通報された発生件数は116件(2013年同期138件)であった。その内、既遂が88件(同107件)で、その内訳は、乗り込み事案が78件(同100件)、ハイジャック事案が10件(同7件)であった。未遂事案は28件(同31件)で、その内訳は発砲事案が7件(同15件)、乗り込み未遂事案が21件(同16件)であった。しかしながら、IMBは、この他に未通報事案があると見ており、船主や船長などに通報を呼びかけている。

2014年上半期の発生件数116件は、2013年同期比で22件少ない。1は、最近6年間の上半期の全発生件数の推移である。2014年上半期の発生件数116件を発生海域別に見れば、全体の70%の79件が以下の5カ所の海域で発生している。即ち、多い順から、インドネシア47件(2013年同期48件)、バングラデシュ10件(同6件)、ナイジェリア10件(同22件)、マレーシア9件(同3件)、シンガポール海峡6件(同4件)であった。2013年同期では、インドネシアとナイジェリアだけで、全件数138件の50%強を占めた。海賊襲撃事案の多発海域という面で見れば、ソマリアの海賊による襲撃事案の激減によって、多発海域からソマリア沖周辺海域が姿を消している。2014年上半期では、ソマリア沖で3件、アデン湾で4件であった。

12に示すように、2012年まで多発海域の上位を独占していたソマリアの海賊による襲撃事案が激減しているが、報告書によれば、2014年上半期には3件の発砲事案を含め10件の未遂事案があった。報告書によれば、ソマリアの海賊による襲撃事案の激減は、各国海軍部隊による活動の強化、航行船舶による海賊対処マニュアル、BMP (The Best Management Practices) 第4版の履行、民間武装警備員 (Privately Contracted Armed Security Personnel: PCASP) の雇用を含む、海上における海賊対処とともに、陸上における国際的努力やソマリアにおける中央政府の努力の総合的成果である、と指摘している。一方で、IMB PRCは、ソマリア沖の状況を引き続きモニターしており、船主や船長に対して警戒を怠らないよう注意している。依然としてソマリアの海賊が襲撃を実行する能力を持っていると見られることから、IMB PRCは、1回でも商船のハイジャックが成功すれば、海賊稼業再開に向けてソマリアの海賊の熱意に火を付けかねない、と懸念している。報告書によれば、2014年6月30日現在、ソマリアの海賊は、身代金を狙って3人の乗組員と共に1隻の船舶を拘留しており、更に38人の乗組員が陸上で拘束されており、他に4人が行方不明となっている。

他方、西アフリカのギニア湾の状況は依然、深刻である。1、表2に示すように、この海域での発生件数は23件(2013年同期31件)で、その内、ハイジャック事案が4件あった。報告書は、ナイジェリア周辺海域は依然危険である、と警告している。

報告書は、東南アジア海域では、6件の小型タンカーが「ハイジャック」され、その内、5件では積荷のディーゼル油などが別の船に抜き取られる事案があり、海賊襲撃事案の新たな傾向として懸念されている、と指摘している。なお、前出のReCAAP上半期報告書では、これらの事案はいずれもCAT-1事案とされているが、「ハイジャック」とはしておらず、「抜き取り (siphoning)」事案として特記している。

東南アジアでは、1に見るように、インドネシアでの発生件数が47件で、依然として群を抜いて多い。港湾、錨泊地では、ジャカルタ・タンジュンプリオク(8件)、スマトラのベラワン(7件)、リアウ諸島のカリムン・ケシル(8件)とプラウ・ビンタン(18件)が多発海域となっている。報告書によれば、タイ籍船の精製品タンカー、MT Orapin 4が5月28日にプラウ・ビンタン北東沖約23カイリの海域を航行中、「ハイジャック」され、その後、該船はタイのシリラチャ港に無事入港し、乗組員も無事だったが、積荷の燃料油を盗まれた。前出のReCAAP上半期報告書が、「抜き取り (siphoning)」事案として特記している事案の1つである。報告書によれば、インドネシア海洋警察は、プラウ・ビンタンでの事案多発を受けて、この海域を重点哨戒海域のリストに加えた。

2に示すように、マラッカ海峡での「ハイジャック」事案1件とマレーシア(東岸沖の南シナ海)での「ハイジャック」事案4件はいずれもタンカーが目標となった事案であるが、マラッカ海峡での事案とマレーシアでの4件中3件は、いずれも前出のReCAAP上半期報告書に言う、「抜き取り (siphoning)」事案である。

2.態様から見た特徴

表3は、未遂を含む全事案における襲撃された時の船舶の状況について、地域毎に示したものである。これらによれば、襲撃件数が激減したとはいえ、ソマリアの海賊による襲撃事案の特徴が良く分かる。ソマリアの海賊による事案は、全て航行中の船舶に対する発砲または乗りこみ未遂事案である。また、ナイジェリアの事案も航行中の事案がほとんどである。一方、東南アジア海域の場合は、2に示すように襲撃の態様としては乗り込み事案がほとんどで、襲撃された時の船舶の状況については、3に見るように、シンガポール海峡を航行中の事案を除いて、錨泊中の事案が多い。バングラデシュやインドの襲撃事案も、ほとんどが錨泊中の事案である。

3.目標船舶の特徴

では、目標となった船舶のタイプではどうか。2014年上半期に襲撃された(未遂事案を含む)116隻の船舶のタイプは15で、表4に示したように、最も多かったのがBulk Carrierで22隻、次いでProduct Tankerで21隻とChemical Tankerで19隻(4では1つのタイプとして40隻と表示)、以下、Tanker Crude Oilが16隻、General Cargoが11隻、Containerが10隻、LPG Tankerが5隻などとなっている。過去6年間を見れば、これら5つのタイプの船舶が目標船舶の大部分を占めている。

一方、襲撃された116隻の船籍を見れば、パナマ籍船が20隻で最も多く、次いでシンガポール籍船18隻、マーシャル諸島籍船14隻、リベリア籍船12隻、香港籍船8隻などとなっている。他方、襲撃された船舶の運用状況を国別に見れば (Countries where victim ships controlled / managed)、最も多かったのはシンガポールで30隻、次いでギリシャが15隻、ドイツ10隻、インド7隻などとなっている。日本関係船舶は3隻であった。

4.人的被害の状況と使用武器の特徴

人的被害の状況について見れば、5に示したように、過去6年間の上半期における乗組員の人質事案が人的被害のほとんどを占めている状況に変わりはない(過去5年間の通年状況も同じである)。2014年上半期の人質事案は200人で、2013年同期より大幅増となっている。これはインドネシアが2013年同期の7人から23人に、マレーシアが同16人から69人に増加したことが大きな要因となっており、他方でソマリアの海賊による人質事案が2013年同期の34人からゼロになったことにもよる。一方、人的被害の発生場所から見れば、6に見るように、人質200人中、全てがインドネシアとマレーシア、そして西アフリカのギニア湾での発生事案によるものである。

7は、最近6年間の上半期の全発生事案で、海賊・武装強盗が使用した武器のタイプを示したものである。これを見れば、銃器とナイフが主要武器である傾向は、ほとんど変化がない(過去5年間の通年状況も同じである)。また、情報なしも依然多い。他方、8に見るように、海賊・武装強盗の使用武器を発生地域毎に見れば、ソマリアの海賊による襲撃事案が激減していることから、銃器使用事案30件中、インドネシア(8件)とマレーシア(4件)、そしてナイジェリア(7件)で3分の2を占めている。報告書は、インドネシアの海賊・武装強盗は通常、銃器やナイフ、長刀で武装している、と指摘している。

表1:最近6年間の上半期のアジア及びその他の多発海域での発生件数(未遂を含む)の推移

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出典:2014年上半期報告書5~6頁の表1から作成。なお、合計件数、通年合計件数は報告書の全ての対象発生海域を含む
注:*;アデン湾、**;紅海、***;ソマリア、オマーン;****いずれもソマリアの海賊による。

表2:2014年上半期の主な発生海域毎の襲撃の態様

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出典:2014年上半期報告書8 頁の表2から作成。なお、合計件数、総計件数は報告書の全ての対象発生海域を含む。
注:*;アデン湾、**;紅海、***;ソマリア、オマーン;****いずれもソマリアの海賊による。

表3:2014年上半期の発生海域毎に見た襲撃時の船舶の状況

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出典:2014年上半期報告書9頁の表4、5から作成。なお、合計件数、総計件数は報告書の全ての対象発生海域を含む。
備考:B = Berthed, A = Anchored, S = Steaming
注:*;アデン湾、**;紅海、***;ソマリア、オマーン;****いずれもソマリアの海賊による。

表4:2014 年上半期の襲撃船舶の主なタイプとそれらの過去6年間の推移

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表5:最近6年間の上半期の乗組員の人的被害状況

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出典:2014年上半期報告書10頁の表8、及び2013年年次報告書11頁の表8から作成。

表6:2014年上半期の人的被害の発生状況

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出典:2014年上半期報告書10頁の表9から作成。

表7:最近6 年間の上半期発生事案で海賊が使用した武器のタイプ

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出典:2014年上半期報告書10頁の表6から作成。

表8:2014年上半期の発生海域に見る使用武器のタイプ

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出典:2014年上半期報告書11頁の表10から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、**;紅海、***;ソマリア、****;オマーンいずれもソマリアの海賊による。

(2014年9月8日配信【海洋情報特報】より)