2013年のアジアにおける海賊行為と武装強盗事案

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~ReCAAP2013年年次報告書から~


上野英詞,海洋政策研究財団研究員

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アジア海賊対策地域協力協定 (Regional Cooperation Agreement on Combating Piracy and Armed Robbery against Ships in Asia) に基づいて設立された、ReCAAP Information Sharing Centre (ISC) は2014 年2月初め、2013年にアジアで発生した海賊行為と船舶に対する武装強盗事案に関する年次報告書を公表した。(ReCAAPとはRegional Cooperation Agreement Against Piracyの頭字語である。)

国際海事局(IMB)の同種の報告書が全世界を対象としているのに対して、ReCAAPの報告書は、アラビア海からユーラシア大陸南縁に沿って北東アジアに至る海域を対象としている。また、IMBが民間船舶や船主からの通報を主たる情報源としているのに対して、ReCAAPの情報源は、加盟国と香港の Focal PointとシンガポールにあるInformation Sharing Centre (ISC) とを結び、またFocal Point相互の連結で構成される、Information Sharing Webである。各国のFocal Pointは沿岸警備隊、海洋警察、海運・海事担当省庁あるいは海軍に置かれている(日本の場合は海上保安庁)。そして各国のFocal Pointは、当該国の法令執行機関や海軍、港湾局や税関、海運業界など、国内の各機関や組織と連携している。更に、国際海事機関(IMO)、IMBやその他のデータを利用している。

ReCAAPの加盟国は、インド、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、シンガポール、カンボジア、ラオス、ベトナム、ブルネイ、フィリピン、中国、韓国及び日本の域内14カ国に加えて、域外国からノルウェー(2009年8月)、デンマーク(2010年7月)、オランダ(2010年11月)、英国(2012年5月)、及びオーストラリア(2013年8月)が加盟し、現在、19カ国となっている。なお、マレーシアとインドネシアは未加盟だが、ISCとの情報交換が行われている。

以下は、ReCAAP報告書から見た、2013年のアジアにおける海賊行為と船舶に対する武装強盗事案の態様と傾向である。

1.「海賊」と「船舶に対する武装強盗」についてのReCAAPの定義

「海賊」 (piracy) と「船舶に対する武装強盗」 (armed robbery against ships) とは、ReCAAP ISCの定義によれば、「海賊」については国連海洋法条約(UNCLOS)第101条「海賊行為の定義」に従って、「船舶に対する武装強盗」については、国際海事機関(IMO)が2001年11月にIMO総会で採択した、「海賊行為及び船舶に対する武装強盗犯罪の捜査のための実務コード」(Code of practice for the Investigation of the Crimes of Piracy and Armed Robbery against Ships) の定義に従っている。

2.発生(未遂を含む)件数

報告書によれば、2013年の発生件数は150件(2012年132件)で、その内、既遂が141件(同123件)、未遂が9件(同9件)であった。ReCAAPの定義に従えば、141件の内、11件が海賊襲撃事案で、139件は船舶に対する武装強盗事案であった。表1に見るように、2013年の発生件数は、前年比13%増加しているが、2011年に比して4%、2010年に比して10%、それぞれ減少している。

表1:過去5年間の地域別発生件数b140214-1
出典:ReCAAP Annual Report (January 1, 2013 – December 31, 2013), p.12, Table 1より作成

表1によれば、17件の既遂事案が発生している。報告書によれば、南アジアの状況は全体として改善されているが、インドでは、港と錨泊地における武装強盗事案が過去4年間に比して増えている。

東南アジアでは、124件の既遂事案があったが、これは前年比ほぼ20%増となっている。この増加は、インドネシア、ベトナム及び南シナ海での事案の増加によるものである。インドネシアでは、83件の既遂事案中、78件が停泊/錨泊中の事案である。その内28件がカリマンタンのマカッサル海峡に面した港と錨泊地での事案で、その他の港と錨泊地では、スマトラのベラワン沖16件、ドゥマイ9件、シンガポール沖のプラウニパ錨泊地12件、ジャカルタのタンジュンプリオク5件、スラバヤのグレシ5件となっている。ReCAAP ISC は、インドネシアの港湾当局と海洋法令執行機関に対して、武装強盗に対する抑止力を強化するため、港と錨泊地における存在感を高めるよう要請している。他に、インドネシアでは、航行中の事案が5件発生している。

3.発生事案の重大度の評価

ReCAAPの報告書の特徴は、既遂事案の重大度 (Significance of Incident) を、暴力的要素(Violence Factor) と経済的要素 (Economic Factor) の2つの観点から評価し、カテゴリー分けをしていることである。

暴力的要素の評価に当たっては、① 使用された武器のタイプ(ナイフなどよりもより高性能な武器が使用された場合が最も暴力性が高い)、② 船舶乗組員の扱い(死亡、拉致の場合が最も暴力性が高い)、③ 襲撃に参加した海賊 / 武装強盗の人数(この場合、数が多ければ多いほど暴力性が高く、また組織犯罪の可能性もある)を基準としている。

経済的要素の評価に当たっては、被害船舶の財産価値を基準としている。この場合、乗組員の現金が強奪されるよりも、該船が積荷ごとハイジャックされる場合が最も重大度が大きくなる。

以上の判断基準から、ReCAAPは、発生事案を以下の4つにカテゴリー分けしている。

b140214-2

表2:過去5年間のカテゴリー別既遂事案件数b140214-3
出典:ReCAAP Quarterly Report (January 1, 2013 – December 31, 2013), p.10, Chart 2より作成。

表3:航行中、停泊/錨泊中事案のカテゴリー別内訳b140214-4
出典:ReCAAP Quarterly Report (January 1, 2013 – December 31, 2013), pp18-27, pp.51-86の記述より作成。

表2表3に見るように、2013年の既遂事案141件の内、CAT-1事案は2件で、いずれも航行中の事案である。航行中の事案の内、CAT-1、CAT-2は14件で、44%を占めている。他方、停泊/錨泊中の場合、CAT-1はゼロで、CAT-2は18件で、15%を占めている。報告書は、航行中の事案の方が停泊/錨泊中の場合よりも重大度が高くなる、と指摘している。航行中の事案を発生場所毎に見れば、マ・シ海峡での発生件数が12件で、その内、CAT-1が1件、CAT-3が2件、Petty Theftが9件であった。航行中の事案で、次に多く発生したのは南シナ海で、10件、未遂1件となっている。これは2012年の既遂7件よりも増えている。10件中、CAT-1が1件、CAT-2が5件、CAT-3が4件であった。

2013年のCAT-1事案2件はいずれも低硫黄燃料油 (MGO) や原油を違法に抜き取る事案で、報告書によれば、こうした事案がReCAAP ISC に最初に報告されたのは2011年4月15日の事案で、CAT-1であった。以来、これまで7件の事案が報告されており、その内、5件がCAT-1、2件がCAT-2事案であった。2013年の2件は、10月10日の南シナ海マレーシア東岸沖でのタイ籍船精製品タンカー、MT Danai 4の事案、11月7日のマ・シ海峡でのパナマ籍船精製品タンカー、MT GPT 21の事案であった。報告書によれば、2件とも手口はほぼ同じである。5人以上のナイフで武装した強盗(マ・シ海峡の事案では1人が拳銃所持)がタンカーを制圧した後、該船のMGOや原油を抜き取るため、別の船を待機させている場所まで該船を移動させる。その際、強盗は、該船の乗組員に移動や抜き取りポンプ操作などの手助けを要求することもある。また、強盗は、逃亡する際、乗組員の持ち物や現金、船の備品などを盗んでいる。MT Danai 4の事案の場合、強盗は、該船の通信設備を破壊した。

目標となった船舶の内、Tug & Barge は22件で、この5年間で初めて、CAT-1のハイジャック事案がなく、8件がCAT-2事案、4件がCAT-3、10件がPetty Theft事案であった。発生海域から見れば、11件がマ・シ海峡で、4件が南シナ海、3件がインドネシア、3件がマレーシア沖、1件がフィリピン沖であった。報告書によれば、Tug & Bargeが目標となった事案は、そのほとんどが2000~0400までの夜間に発生している。通常、5人~10人の武装強盗は、高速ボートでBargeかTugに乗り込み、乗組員の持ち物や現金を盗む。22件の内、2件は銃器とナイフで武装していた。1件は、強盗がTugの乗組員に強要して、燃料油を抜き取らせ、漁船に移した。強盗は、乗組員を縛り、持ち物と船の備品を奪って逃亡した。報告書は、Tug & Bargeは乾舷が低く、速度が遅いことから目標になりやすいとして、厳重な警戒を呼びかけている。

ReCAAP ISC は、Tug Boats and Barges (TaB) Guide against Piracy and Sea Robbery と題するガイドを発行し、各種の対策を提示している。

TaB Guide is available at following URL;
http://www.recaap.org/Portals/0/docs/Tug%20Boats%20and%20Barges%20(TaB)%20Guide%20(Final).pdf

(2014年2月14日配信【海洋情報特報】より)