2013年の海賊行為と船舶に対する武装強盗事案

PDF

~IMB年次報告書に見る特徴~


上野英詞,海洋政策研究財団研究員

Contents

国際海事局 (IMB) は2014年1月17日、クアラルンプールにある海賊通報センター (Piracy Reporting Centre: PRC) を通じて、2013年に世界で起きた海賊行為と船舶に対する武装強盗事案に関する年次報告書を公表した。以下は、IMB年次報告書から見た、2013年における海賊行為と船舶に対する武装強盗事案の特徴を取り纏めたものである。

「海賊」 (Piracy) と船舶に対する「武装強盗」 (Armed Robbery) の定義については、IMBは、「海賊」については国連海洋法条約(UNCLOS)第101条「海賊行為の定義」に、「武装強盗」については、国際海事機関(IMO)が2001年11月にIMO総会で採択した、「海賊行為及び船舶に対する武装強盗犯罪の捜査のための実務コード」(Code of Practice for the Investigation of the Crimes of Piracy and Armed Robbery against Ships) の定義に、それぞれ準拠している。

なお、記述の都合上、関係諸表は末尾に掲載した。

1.発生(未遂を含む)件数と発生海域から見た特徴

通報された2013年の発生件数は264件(2012年297件)であった。その内、既遂が214件(同202件)で、その内訳はハイジャック事案が12件(同28件)、乗り込み事案が202(同174件)であった。未遂事案は50件(同95件)で、その内訳は発砲事案が22件(同28件)、乗り込み未遂事案が28件(同67件)であった。しかしながら、IMBは、この他にかなりの未通報事案があると見ており、船主や船長などに通報を呼びかけている。

2013年の発生件数は、2012年比で33件少なく、1に見るように、最近6年間では、2009年~12年の年間400件を超える発生件数から見れば、この2年間は大幅な減少となっているのが特徴である。

2013年の発生件数264件を発生海域から見れば、75%弱の190件(2012年221件)が以下の7カ所の海域で発生している。即ち、多い順から、インドネシア106件(2012年81件)、ナイジェリア31件(同27件)、インド14件(同8件)、バングラデシュ12件(同11件)、シンガポール海峡9件(同6件)、マレーシア9件(同12件)、ベトナム9件(同4件)となっている。海賊襲撃事案の多発海域という面で見れば、ソマリアの海賊による襲撃事案の激減によって、2013年の多発海域からソマリア沖周辺海域が姿を消していることである。因みに、2013年の襲撃件数は、ソマリア沖7件(2012年49件)、紅海2件(同13件)、アデン湾6件(同13件)となっている。もう1つの特徴は、東南アジア海域での襲撃事案が増えていることである。

2に示すように、毎年多発海域の上位を独占していたソマリアの海賊による襲撃事案が激減しているが、報告書によれば、2013年の15件の襲撃事案の内、ハイジャック事案が2件(アデン湾1件、ソマリア沖1件)で、34人の乗組員が人質となった。アデン湾では漁船が、ソマリア沖ではダウ船がハイジャックされたが、いずれの事案も、付近にいた海軍戦闘艦の対応で船舶、乗組員とも即日解放された。未遂事案の内、発砲事案がソマリア沖で6件、アデン湾で2件、乗り込み未遂事案が、アデン湾で3件、紅海で2件であった。2013年12月末現在、ソマリアの海賊は、2010年4月から2012年3月までにハイジャックした船舶の乗組員64人が人質になっている(2013年第3四半期報告書の記述では、2隻の船舶を拘留し、15人の乗組員が人質になっており、更に49人の乗組員が陸上に拉致されて拘束されており、その内37人は2年以上拘束されている)。

報告書によれば、ソマリアの海賊による襲撃事案の激減は、各国海軍部隊による活動の強化、航行船舶による海賊対処マニュアル、BMP (The Best Management Practices) の効果的な活用や自衛措置、そして民間武装警備員 (Privately Contracted Armed Security Personnel: PCASP) の雇用などによる成果である。また、報告書は、ソマリアにおける中央政府の安定化も、2007年(44件)以来、増えてきた海賊襲撃事案が最も少なくなった要因の1つ、と指摘している。一方で、報告書は、2013年の発砲事案が8件あったことから見ても、依然としてソマリアの海賊が襲撃を実行する能力を持っていると見られることから、海賊多発海域を航行する船舶に対しては、引き続き警戒を怠らないよう注意している。IMB PRCは、1回でも商船のハイジャックが成功すれば、海賊稼業再開に向けてソマリアの海賊の熱意に火を付けかねない、と懸念している。

他方、西アフリカのギニア湾の状況は依然、深刻である。1、表2に示すように、この海域での発生件数は48件(2012年43件)で、その内、ナイジェリアの海賊による襲撃事案が31件で2012年27件から4件に増えている。ハイジャック事案が2件(2012年2件)、乗り込み事案が13件(同11件)で、他に未遂事案が発砲事案13件(同13件)、乗り込み未遂3件(同2件)であった。乗組員1人が殺され、36人(同32人)が拉致され、2008年の40人以来、最も多い人数になった。報告書は、ナイジェリアの海賊が重武装し、暴力的であり、通航船舶は引き続き警戒を怠らないよう注意している。

東南アジア海域についてみれば、1に見るように、インドネシアでの発生件数が106件(2012年81件)で、ここ2年間の大幅増が注目される。インドネシアでは、ジャカルタ・タンジュンプリオク、ドゥマイ(スマトラ)、ベラワン(同)、タボネオ錨泊地(南カリマンタン)、バリッパパン(カリマンタン)、ムアラジャワ(同)、サマリンダ(同)、シンガポール沖のニパ錨泊地が多発海域となっている。報告書は、他にも未通報事案があると見ている。インドネシアの場合、通常、夜間に船舶を襲う船舶強盗で、発見され、警報が鳴らされると、乗組員を襲うことなく逃亡することが多い。2に示すように、ハイジャック事案はなかった。

2に示すように、マラッカ海峡では、2005年7月以来、沿岸国が哨戒活動を実施していることもあって襲撃事案が激減ししているが、ハイジャック事案が1件あり、報告書は、海峡通航船舶に対して引き続き警戒を呼びかけている。シンガポール海峡では、夜間の乗り込み事案が9件あったが、内、7件が航行中のタグ&バージへの乗りこみ事案であった。南シナ海のアナンバス諸島、ナトゥーナ諸島、マンカイ諸島、スビ諸島及びメランダン諸島海域での襲撃事案はこの2年間大幅に減少しているが、2013年の発生件数は乗りこみ事案が4件で、いずれも航行中の事案で、内、3件がタグ&バージ、1件がタンカーであった。報告書は、航行船舶に対して引き続き警戒を呼びかけている。

2.態様から見た特徴

表2はアジア及びその他の多発海域における2013年の襲撃の態様を海域毎に示したものである。3は、未遂を含む全事案における襲撃された時の船舶の状況について、地域毎に示したものである。

これらによれば、襲撃件数が激減したとはいえ、ソマリアの海賊による襲撃事案の特徴が良く分かる。ソマリアの海賊による事案は、未遂を含めて全て航行中 (steaming) の事案であり、ハイジャックしたダウ船や外洋漁船を「母船」として利用し、そこから小型高速ボートで通航船舶を襲撃するソマリアの海賊の特徴を示している。また、ナイジェリアの事案も航行中の事案がほとんどであり、沿岸から約170カイリの海域でも襲撃事案が発生している。

一方、東南アジア海域の場合は、襲撃の態様としては乗り込み事案がほとんどで、襲撃された時の船舶の状況については錨泊中が大部分を占めている。東南アジア海域におけるほとんどの事案は、ナイフや山刀を持って(銃器は稀)夜間、停泊中あるいは錨泊中の船舶に乗り込む強盗事案で、発見されれば何も盗らずに逃亡することが多い。バングラデシュやインドの襲撃事案も、同じである。この海域では、3件のハイジャック事案があったが、マラッカ海峡では5月7日にマレーシアの漁船がハイジャックされ、インドネシア領海内に向かったが、5月25日にインドネシア海洋警察に拘束された。マレーシアの2件の内、1件は、東岸沖を航行中のタイ籍船精製品タンカーが銃で武装した9人の武装強盗にハイジャックされたが、3日後に乗組員の持ち物や船舶備品を盗んで逃亡した。もう1件は、東岸沖を航行中のパナマ籍船のケミカル・タンカーが銃とナイフで武装した10人の武装強盗にハイジャックされた。この事案では、武装強盗は該船を指示した海域まで移動させ、別のタンカーを横付けさせて、積荷の石油を抜き取り、乗組員の持ち物も盗んで逃亡した。

他方、2013年に港と錨泊地において3回以上の襲撃件数が通報されたのは22カ所(2012年18カ所)であった。最も多かったのが、インドネシアのベラワン18件、同ニパ14件、同ドゥマイ12件、バングラデシュのチッタゴン12件、シンガポール海峡9件、インドネシアのタボネオ8件、インドのカンドラ6件、インドネシアのジャカルタ・タンジュンプリオク6件、トーゴのロメ6件、インドネシアのバリッパパンとサマリンダ各5件、ナイジェリアのラゴス5件などとなっている。インドネシアでは、他にアダン湾(カリマンタン)、グレシ(スラバヤ南西)、ムアラ・ベラウ(カリマンタン)及びムアラジャワ各4件となっている。停泊中や錨泊中の船舶に夜間に乗り込む武装強盗が多い、インドネシアの襲撃事案の特徴を示している。

3.目標船舶の特徴

では、目標となった船舶のタイプではどうか。2013年に襲撃された(未遂事案を含む)船舶のタイプは15(2012年23)で、表4に示したように、最も多かったのがChemical Tankerで56隻(2012年54隻)、次いでBulk Carrierが53隻(2012年66隻)、以下、Tanker Crude Oilが39隻(同32隻)、Containerが30隻(同39隻)、Product Tankerが26隻(同22隻)、General Cargoが17隻(同15隻)、Tugが17隻(同17隻)、LPG Tankerが9隻(同10隻)、Offshore Supply Ship(油井プラットフォーム補給船)が5隻(同7隻)、Asphalt Tankerが3隻(同0)などとなっている。油井プラットフォーム補給船に対する襲撃は、いずれもギニア湾での事案である。

一方、襲撃された船舶の船籍を見れば、2013 年の264 隻中、最も多かったのはリベリア籍船43隻(2012年45隻)、次いでシンガポール籍船39隻(同43隻)、パナマ籍船32隻(同49隻)、マーシャル諸島籍船31隻(同21隻)、香港籍船20隻(同17隻)、以下、マレーシア籍船10隻(同12隻)、マルタ籍船8隻(同8隻)、バハマ籍船7隻(同16隻)、アンチグア・バーブーダ籍船7隻(同5隻)、デンマーク籍船6隻(同7隻)、タイ籍船5隻(同1隻)などとなっている。なお、日本籍船はこの6年間では、2008年2隻、2011年1隻のみである。

他方、襲撃された船舶の運用状況を国別に見れば (Countries where victim ships controlled / managed)、最も多かったのはシンガポールで79隻(2012年71隻)、次いでドイツ34隻(同40隻)、以下、ギリシャ20隻(同31隻)、香港16隻(同13隻)、英国13隻(同11隻)、インド11隻(同13隻)、マレーシア11隻(同12隻)、日本7隻(同15隻)、デンマーク7隻(同11隻)、アラブ首長国連邦7隻(同5隻)などとなっている。

4.人的被害の状況と使用武器の特徴

人的被害の状況について見れば、5に示したように、過去5年間、乗組員の人質や拉致事案が人的被害のほとんどを占めている状況に変わりはない。2013年の人質事案は304人で、2012年の585人より激減しているが、拉致事案は26人から36人に増えている。一方、6に見るように、人的被害の発生場所から見れば、人質事案304人中、東南アジアでの事案、ソマリアの海賊による事案及びギニア湾での事案がほとんどを占めている。

7は、最近5年間の全発生事案で、海賊が使用した武器のタイプを示したものである。これを見れば、銃器とナイフが海賊の主要武器である傾向は、ここ5年間ほとんど変化がない。他方、8に見るように、海賊の使用武器を地域毎に見れば、ソマリアの海賊による襲撃事案が激減していることから、銃器使用事案71件中、ギニア湾のナイジェリア26件、トーゴ4件、コートジボアール2件で、全体の半分近くを占めているのが2013年の特徴で、ギニア湾の海賊事案の暴力的特徴を示している。他方、ソマリアの海賊はAK-47強襲ライフル、RPG-7ロケット推進擲弾筒などで武装しているが、襲撃事案の激減でアデン湾6件、ソマリア7件、紅海で1件となっている。東南アジアの場合は、銃器よりもナイフが主流で、ナイフ使用事案81件中、インドネシアが49件で半分強を占めている。一方情報なしも全264件中、109件で、依然多い。

表1:最近6年間のアジア及びその他の多発海域での発生(未遂を含む)件数の推移
b140203-1

出典:2013年年次報告書5~6頁の表1から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、**;紅海、***;ソマリア、いずれもソマリアの海賊による。

表2:アジア及びその他の多発海域における2013年の襲撃の態様b140203-2
出典:2013年年次報告書8 頁の表2から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、**;紅海、***;ソマリア、いずれもソマリアの海賊による。

表3:2013年の海域毎に見た襲撃時の船舶の状況b140203-3
出典:2013年年次報告書9 ~10頁の表4、5から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
備考:B = Berthed, A = Anchored, S = Steaming
注:*;アデン湾**;紅海、***;ソマリア、いずれもソマリアの海賊による。+;他に情報なし1。

表4:2013 年の襲撃船舶のタイプ(5隻以上)とそれらの過去5年間の傾向b140203-4
出典:2013年年次報告書13頁の表11、14頁のチャートDから作成。

表5:最近6年間の乗組員の人的被害状況b140203-5
出典:2013年年次報告書11頁の表8から作成。

表6:2013年の主な多発海域に見る人的被害の状況b140203-6
出典:2013 年年次報告書11頁の表9から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、**;ソマリア、いずれもソマリアの海賊による。

表7:最近5年間の全発生事案で海賊が使用した武器のタイプb140203-7
出典:2013 年年次報告書10頁の表6から作成。

表8:2013年の主な多発海域に見る使用武器のタイb140203-8
出典:2013 年年次報告書12頁の表10から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、**;紅海、***;ソマリア、いずれもソマリアの海賊による。

(2014年2月3日配信【海洋情報特報】より)