2013年第3四半期の海賊行為と船舶に対する武装強盗事案

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〜IMB・ReCAAP報告書から〜


上野英詞,海洋政策研究財団研究員

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1.2013年第3四半期までの海賊行為と船舶に対する武装強盗事案~IMB報告書に見る特徴~

国際海事局 (IMB) は10月17日、2013年第3四半期(2013年1月1日~9月30日)までに世界で起きた海賊行為と船舶に対する武装強盗事案に関する報告書を公表した。以下は、IMBの報告書から見た、2013年第3四半期までの海賊行為と船舶に対する武装強盗事案の特徴を取り纏めたものである。

IMBは、「海賊」 (Piracy) と船舶に対する「武装強盗」 (Armed Robbery) の定義については、「海賊」については国連海洋法条約(UNCLOS)第101条「海賊行為の定義」に、「武装強盗」については、国際海事機関(IMO)が2001年11月にIMO総会で採択した、「海賊行為及び船舶に対する武装強盗犯罪の捜査のための実務コード」(Code of Practice for the Investigation of the Crimes of Piracy and Armed Robbery against Ships) の定義に、それぞれ準拠している。

なお、記述の都合上、関係諸表は末尾に掲載した。また、参考資料として、2010年以降の「アデン湾・ソマリア沖のハイジャック事案の状況」を添付した。

1.発生(未遂を含む)件数と発生海域から見た特徴

通報された2013年第3四半期までの発生件数は188件で、2012年同期の233件に比して、大幅減となった。因みに、IMBが1991年から世界の海賊襲撃事案をモニターし始めてから、第3四半期までの発生件数としてはどの年よりも多かった、2011年同期の352件からは半分近くに減少している。最近6年間の各第3四半期までの状況は、1に示すとおりである。2に示すように、188件の内、既遂が150件(2012年同期149件)で、その内訳はハイジャック事案が10件(同24件)で、乗り込み事案が140件(同125件)であった。人質となった乗組員は266人(同458人)で、1人(同6人)が殺された。一方、未遂事案は38件(同84件)で、その内訳は発砲事案が17件(同26件)、乗り込み未遂事案が21件(同58件)であった。しかしながら、IMBは、この他にかなりの未通報事案があると見ており、船主や船長などに通報を呼びかけている。

2013年第3四半期までの発生件数を発生海域から見れば、188件中、約3分の2の128件が以下の6カ所の海域で発生している。多い順に見れば、インドネシア68件(2012年同期51件)、ナイジェリア29件(同21件)、バングラデシュ10件(同9件)、トーゴ7件(同11件)、エジプト7件(同6件)、インド7件(同6件)となっている。

2013年第3四半期の特徴は、毎年多発海域の上位を独占していたソマリアの海賊による襲撃事案が激減していることである。即ち、1に示すように、2012年第3四半期にはソマリア沖(インド洋を含む)が44件であったのに対して、2013年同期は4件、紅海が同13件に対して2件、アデン湾が同13件に対して4件に減少している。その結果、2012年第3四半期には、アデン湾、ソマリア沖(インド洋を含む)及び紅海でのソマリアの海賊による襲撃件数が70件で、全発生件数233件の3分の1弱を占めていたのに対して、2013年同期は10件に過ぎない。報告書によれば、10件の襲撃事案の内、ハイジャック事案が2件(アデン湾1件、インド洋を含むソマリア沖1件)で、34人の乗組員が人質となった。未遂事案の内、発砲事案がソマリア沖で3件、乗り込み未遂事案が紅海で2件であった。9月末現在、ソマリアの海賊は2隻の船舶を拘留しており、15人の乗組員が人質になっている。更に、49人の乗組員が陸上に拉致されて拘束されており、その内37人は2年以上拘束されている。

報告書によれば、ソマリアの海賊による襲撃事案の減少は、各国海軍部隊による不審な小型ボートや海賊の陸上拠点への先制攻撃などの活動の強化、航行船舶による海賊対処マニュアル、BMP (The Best Management Practices) の効果的な活用や通航船舶の自衛措置、そして民間武装警備員 (Privately Contracted Armed Security Personnel: PCASP) の雇用などの成果である。一方で、報告書は、依然として海賊による襲撃の脅威が存在することから、海賊多発海域を航行する船舶に対しては、最新のBMPの効果的な活用、通航船舶の自衛措置、PCASP の雇用増大などを慫慂するとともに、引き続き警戒を怠らないよう注意している。

他方、西アフリカのギニア湾の状況は依然、深刻である。2に示すように、この海域での発生件数は43件(2012年同期34件)で、7隻がハイジャックされ、132人が人質となった。ナイジェリアでは、襲撃事案が2012年同期の21件から29件に増えており、ハイジャック事案が2件(2012年同期4件)、乗り込み事案が11件(同2件)で、他に未遂事案が発砲事案13件(同7件)、乗り込み未遂3件(同1件)であった。他に、この海域での襲撃事案は、コートジボワールでハイジャック事案が2件(同0件)、乗りこみ事案が2件(同3件)、トーゴでハイジャック事案が2件(同3件)、乗りこみ事案が1件(同2件)、未遂事案が乗りこみ未遂3件(同6件)、発砲事案1件(同0件)、ガボンで乗りこみ事案とハイジャック事案が各1件あった。更に、5に示すように、ナイジェリアでは32人、トーゴでは2人の乗組員が拉致されている。

報告書によれば、ギニア湾でのハイジャック事案7件中、6件がタンカーで、1件が補給船 (Offshore Supply Vessel) であった。トーゴ沖では、7月16日、マーシャル諸島籍船の精製品タンカー、MT Ocean Centurionが2隻の小型ボートに乗り、自動火器とナイフで武装した海賊に乗り込まれて、ハイジャックされ、25人の乗組員が人質となった。海賊はその後、乗組員の持ち物を奪い、タンカーをトーゴ・ベニン国境沖合12カイリの海域まで航行させ、高速ボートで逃亡した。この事案について、報告書は、ギニア湾の海賊がこの海域を自由に動き回れることを示している、と指摘している。報告書は、ナイジェリア、ベニン及びトーゴの各海域の海賊が重武装し、暴力的であり、通航船舶は引き続き警戒を怠らないよう注意している。

東南アジア海域についてみれば、1に見るように、インドネシアでの発生件数がインドネシア68件(2012年同期51件)で、2010年から4年連続の増加になっているのが注目される。インドネシアでは、ジャカルタ・タンジュンプリオク、ドゥマイ(スマトラ)、ベラワン(同)、タボネオ錨泊地(南カリマンタン)、バリッパパン(カリマンタン)、ムアラジャワ(同)、サマリンダ(同)、シンガポール沖のプラウニパ錨泊地が多発海域となっている。他にマラッカ海峡では、2005年7月以来、沿岸国が哨戒活動を実施していることもあって、襲撃事案が激減ししているが、マレーシアの漁船のハイジャック事案が1件あり、報告書は、海峡通航船舶に対して引き続き警戒を呼びかけている。シンガポール海峡では、夜間の乗り込み事案が5件あったが、内、4件が航行中のタグ&バージへの乗りこみ事案であった。南シナ海のアナンバス諸島、ナトゥーナ諸島、マンカイ諸島、スビ諸島及びメランダン諸島海域での襲撃事案はこの2年間大幅に減少しているが、2013年第3四半期までの発生件数は乗りこみ事案が4件で2012年同期の1件より増加している。いずれも航行中の事案で、内、3件がタグ&バージ、1件がタンカーであった。報告書は、航行船舶に対して引き続き警戒を呼びかけている。しかし、23に見るように、東南アジア海域におけるほとんどの事案は、ナイフや山刀を持って(銃器は稀)夜間、停泊中あるいは錨泊中の船舶に乗り込む強盗事案で、発見されれば逃亡する。

2.態様から見た特徴

表2はアジア及びその他の多発海域における2013年第3四半期までの襲撃の態様を海域毎に示したものである。3は、未遂を含む全事案における襲撃された時の船舶の状況について、地域毎に示したものである。

これらによれば、ソマリアの海賊による襲撃事案の特徴が良く分かる。ソマリアの海賊によるアデン湾・紅海、アラビア海及びインド洋を含むソマリア沖での事案は、未遂を含めて全て航行中 (steaming) の事案であり、「母船」や小型高速ボートで通航船舶を襲撃するソマリアの海賊の特徴を示している。また、ナイジェリアの事案も、航行中の事案がほとんどである。

一方、東南アジアの場合は、襲撃の態様としては乗り込み事案が多く、襲撃された時の船舶の状況については錨泊中が多いのが特徴である。マラッカ海峡では5月7日にマレーシアの漁船がハイジャックされ、インドネシア領海内に向かったが、5月25日にインドネシア海洋警察に拘束された。

他方、2013年第3四半期までに港と錨泊地において3回以上の襲撃件数が通報されたのは19カ所(2012年同期11カ所)で、計96件(同63件)であった。報告書によれば、インドネシアのベラワンとバングラデシュのチッタゴンが各10件で最も多く、次いで、インドネシアのドゥマイとニパが各8件、インドネシアのタボネオとトーゴのロメが各6件、インドネシアのバリッパパンとナイジェリアのラゴスが各5件、インドネシアのジャカルタ・タンジュンプリオク、ムアラジャワ、ペルーのタララが各4件などであった。インドネシアの港と錨泊地における襲撃事案の多さが目立っており、ここでの襲撃事案の特徴を示している。

2013年第3四半期までに襲撃された(未遂事案を含む)船舶のタイプでは、未遂事案も含めて最も多かったのは、ばら積船で41隻(2012年同期49隻)、次いでケミカル・タンカー39隻(同43隻)、以下、コンテナ船22隻(同33隻)、原油タンカー22隻(同26隻)、精製品タンカー16隻(同16隻)、一般貨物船15隻(同11隻)、タグ10隻(同13隻)、LPGタンカー5隻(同0隻)、補給船5隻(同5隻)などとなっている。

襲撃された船舶の船籍を見れば、2013年第3四半期までに最も多かったのは、リベリア籍船33隻(2012年同期37隻)、次いでシンガポール籍船29隻(同39隻)、パナマ籍船22隻(同36隻)、マーシャル諸島籍船21隻(同16隻)、香港籍船16隻(同13隻)、マレーシア籍船7隻(同8隻)、アンチグア・バーブーダ籍船6隻(同4隻)、マルタ籍船6隻(同7隻)などとなっている。なお、日本籍船は過去6年間の第3四半期までで、2008年2隻、2011年1隻が襲撃されたのみである。

他方、襲撃された船舶の運用状況を国別に見れば (Countries where victim ships controlled / managed)、最も多かったのはシンガポールで56隻(2012年同期58隻)、次いでドイツ28隻(同33隻)、ギリシャ13隻(同26隻)、香港11隻(同11隻)、マレーシア8隻(同8隻)、英国8隻(同11隻)、インド7隻(同9隻)などとなっている。なお、日本の船社運航の襲撃された船舶は5隻(同6隻)であった。

3.人的被害の状況と使用武器の特徴

人的被害の状況について見れば、4に示したように、過去6年間、乗組員の人質や拉致事案が人的被害のほとんどを占めている状況に変わりはない。2013年第3四半期までの人質事案は266人で、2012年同期の458人より激減しているが、拉致事案が7人から34人に大幅増となっている。一方、5に見るように、人的被害の発生場所から見れば、人質事案266人中、東南アジアでの事案、ソマリアの海賊による事案及びギニア湾での事案がほとんどを占めている。

6は、最近6年間の各第3四半期までの全発生事案で、海賊が使用した武器のタイプを示したものである。これを見れば、銃器とナイフが海賊の主要武器である傾向は、ここ6年間ほとんど変化がない。他方、海賊の使用武器を地域毎に見れば、ソマリアの海賊による襲撃事案が激減していることから、銃器使用事案59件中、ギニア湾のナイジェリア24件、トーゴ4件、コートジボアール2件で、全体の半分を占めているのが2013年第3四半期の特徴で、ギニア湾の海賊事案の暴力的特徴を示している。他方、ソマリアの海賊はAK-47強襲ライフル、RPG-7ロケット推進擲弾筒などで武装しているが、襲撃事案の激減でアデン湾4件、ソマリア4件、紅海で1件となっている。東南アジアの場合は、銃器よりもナイフが主流で、ナイフ使用事案55件中、インドネシアが31件で半分強を占めている。一方情報なしも全188件中、72件で、依然多い。

表1:最近6年間の各第3四半期までのアジア及びその他の多発海域での発生(未遂を含む)件数の推移

1-1

出典:2013年第3四半期報告書5~6頁の表1から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、**;紅海、***;ソマリア、いずれもソマリアの海賊による。

表2:アジア及びその他の多発海域における2013年第3四半期までの襲撃の態様

1-2

出典:2013 年第3四半期報告書8 頁の表2から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、**;紅海、***;ソマリア、いずれもソマリアの海賊による。

表3:2013年第3四半期までの海域毎に見た襲撃時の船舶の状況

1-3

出典:2013年第3四半期報告書9 ~10頁の表4、5から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
備考:B = Berthed, A = Anchored, S = Steaming
注:*;アデン湾**;紅海、***;ソマリア、いずれもソマリアの海賊による。

表4:最近6年間の各第3四半期までの乗組員の人的被害状況

1-4

出典:2013年第3四半期報告書11頁の表8から作成。

表5:2013年第3四半期までの主な多発海域に見る人的被害の状況

1-5

出典:2013 年第3四半期報告書11 ~12頁の表9から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、**;ソマリア、いずれもソマリアの海賊による。

表6:最近6年間の各第3四半期までの全発生事案で海賊が使用した武器のタイプ

1-6

出典:2013 年第3四半期報告書11頁の表6から作成。

表7:2013年第3四半期までの主な多発海域に見る使用武器のタイプ

1-7

出典:2013 年第3四半期報告書12頁の表10から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、**;紅海、***;ソマリア、いずれもソマリアの海賊による。

 

2.2013年第3四半期までのアジアにおける海賊行為と武装強盗事案~ReCAAP報告書から~

アジア海賊対策地域協力協定 (Regional Cooperation Agreement on Combating Piracy and Armed Robbery against Ships in Asia) に基づいて設立された、ReCAAP情報共有センター(ISC)は10月21日、2013年第3四半期(2013年1月1日~9月30日)までにアジアで発生した、海賊行為と船舶に対する武装強盗事案に関する報告書を公表した。(ReCAAPとはRegional Cooperation Agreement Against Piracyの頭字語である。)

国際海事局(IMB)の同種の報告書が全世界を対象としているのに対して、ReCAAPの報告書は、アラビア海からユーラシア大陸南縁に沿って北東アジアに至る海域を対象としている。また、IMBが民間船舶や船主からの通報を主たる情報源としているのに対して、ReCAAPの情報源は、加盟国と香港の Focal PointとシンガポールにあるInformation Sharing Centre (ISC) とを結び、またFocal Point相互の連結で構成される、Information Sharing Webである。各国のFocal Pointは沿岸警備隊、海洋警察、海運・海事担当省庁あるいは海軍に置かれている(日本の場合は海上保安庁)。そして各国のFocal Pointは、当該国の法令執行機関や海軍、港湾局や税関、海運業界など、国内の各機関や組織と連携している。更に、国際海事機関(IMO)、IMBやその他のデータを利用している。

ReCAAPの加盟国は、インド、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、シンガポール、カンボジア、ラオス、ベトナム、ブルネイ、フィリピン、中国、韓国及び日本の域内14カ国に加えて、域外国からノルウェー(2009年8月)、デンマーク(2010年7月)、オランダ(2010年11月)、英国(2012年5月)、及びオーストラリア(2013年8月)に加盟し、現在、19カ国となっている。なお、マレーシアとインドネシアは未加盟だが、ISCとの情報交換が行われている。

以下は、ReCAAP報告書から見た、2013年第3四半期までのアジアにおける海賊行為と船舶に対する武装強盗事案の態様と傾向である。

1.「海賊」と「船舶に対する武装強盗」についてのReCAAPの定義

「海賊」 (piracy) と「船舶に対する武装強盗」 (armed robbery against ships) とは、ReCAAP ISCの定義によれば、「海賊」については国連海洋法条約(UNCLOS)第101条「海賊行為の定義」に従って、「船舶に対する武装強盗」については、国際海事機関(IMO)が2001年11月にIMO総会で採択した、「海賊行為及び船舶に対する武装強盗犯罪の捜査のための実務コード」(Code of practice for the Investigation of the Crimes of Piracy and Armed Robbery against Ships) の定義に従っている。

2.発生(未遂を含む)件数と発生海域から見た特徴

報告書によれば、2013年第3四半期までの発生件数は90件(2012年同期95件)で、その内、既遂が86件(同90件)で、内、6件が海賊事案で、残り80件が武装強盗事案で、未遂が4件(同5件)であった。1は、過去5年間の各第3四半期までのReCAAPの対象海域における発生件数を示したものである。

表1:過去5年間の各第3四半期までの地域別発生件数

2-1

出典:ReCAAP Quarterly Report (January 1 – September 30, 2013), p.15, Table 1 より作成

1によれば、東南アジアでは、インドネシアでの発生事案は増える傾向にあり、2013年第3四半期の事案が55件で、発生件数81件の3分の2を占めている。報告書によれば、インドネシアでは、シンガポール沖のプラウニパ錨泊地での事案が増えており、7件発生している。内、1件を除いて、6件は0200~0530の夜間に発生している。1件は、錨泊地から最も遠く離れた場所で昼間に発生した、タンカーへの乗り込み事案であった。この錨泊地周辺海域の強盗は通常、4人~5人のグループで行動している。彼らは通常、乗組員との直接対決を避ける傾向にあり、7件中、4件の事案で、警報が鳴らされたり、乗組員に発見されたりして、何も盗らずに逃亡している。報告書は、インドネシアにおける停泊中及び錨泊中の船舶に対して、警戒措置の強化を慫慂している。

3.発生事案の重大度の評価

ReCAAPの報告書の特徴は、既遂事案の重大度 (Significance of Incident) を、暴力的要素(Violence Factor) と経済的要素 (Economic Factor) の2つの観点から評価し、カテゴリー分けをしていることである。

暴力的要素の評価に当たっては、① 使用された武器のタイプ(ナイフなどよりもより高性能な武器が使用された場合が最も暴力性が高い)、② 船舶乗組員の扱い(死亡、拉致の場合が最も暴力性が高い)、③ 襲撃に参加した海賊 / 武装強盗の人数(この場合、数が多ければ多いほど暴力性が高く、また組織犯罪の可能性もある)を基準としている。

経済的要素の評価に当たっては、被害船舶の財産価値を基準としている。この場合、乗組員の現金が強奪されるよりも、該船が積荷ごとハイジャックされる場合が最も重大度が大きくなる。

以上の判断基準から、ReCAAPは、発生事案を以下の4つにカテゴリー分けしている。

2-1-2

表2:過去5年間の各第3四半期までのカテゴリー別既遂事案件数

2-2

出典:ReCAAP Quarterly Report (January 1 – September 30, 2013), p.13, Chart 2より作成。

2は、過去5年間の各第3四半期までの既遂事案をカテゴリー分けしたものである。過去4年間のCAT-1事案はいずれも航行中の事案であった。

2013年第3四半期までにはCAT-1事案は発生していない。報告書によれば、2013年第3四半期までは、過去4年間に比して暴力的要素が少ない。この間の事案を見れば、86件の内、半分以上が襲撃に参加した海賊・武装強盗の人数が1人~6人であった。7人以上の事案は16件で、内、11件がCAT-2事案であった。人数について、通報なしが86件中、23件もあり、ReCAAP ISCは、被害船舶の船長や乗組員に通報を呼びかけている。

使用武器について見れば、武装した襲撃事案が約50%の43件で、10件が銃器とナイフ、33件がナイフと山刀で武装していた。

船舶乗組員の扱いを見れば、人質事案が10件、行方不明が1件で、大部分の65件が乗組員に負傷なしか、通報なしであった。

経済的要素については、乗組員の現金や持ち物(16件)船舶の備品(38件)やエンジン部品(9件)の強奪が大部分であった。

また、報告書によれば、90件の全事案中、約80%の事案は船舶が停泊中か錨泊中であった。ReCAAP ISCは、関係各国に対して、港湾警備の強化を慫慂している。

 

参考資料:アデン湾・ソマリア沖のハイジャック事案の状況(作成:上野英詞・海洋政策研究財団研究員)

1.2013年のハイジャック事案の状況(9月30日現在)

3-1

出典:”Piracy And Armed Robbery Against Ships: Report for the Period, 1 January – 30 September, 2013,” ICC International Maritime Bureau (IMB), October 17, 2013, pp.45-46., EU NAVFOR Somalia HP., 及びその他の報道資料から作成。

備考1:Positionについては、(A) は紅海を含むアデン湾、(Ar) はアラビア海、(O) はオマーン沖、(Y) はイエメン沖でのハイジャック事案を示す。インド洋海域については、(S) はソマリア沿岸東方沖、(K) はケニア沖、(M) はマダカスカル沖、(Sy) はセイシェル近海、(T) はタンザニア沖周辺でのハイジャック事案、(I) はこれら海域より遠隔のインド洋でのハイジャック事案を示す。
備考2:Boarded は、海賊が乗り込みに成功しても、乗組員の多くは船内の “citadel”(安全区画)に鍵をかけて閉じ籠もるなどの自衛措置をとることによって、乗り込んだ海賊がハイジャックを諦めて逃亡した事案である。その後、該船は付近を哨戒中の各国海軍戦闘艦に救出されている。一方、海賊が逃亡しなかった場合には、武力による解放に繋がるケースもある。

注*:インド沿岸警備隊巡視船、ICGS Varuna は6月23日、インド南西のラクシャドウィープ諸島西方沖250カイリ余の海域で、ソマリア海賊に放棄されたイランの漁船、FV Al Husaini の乗組員16人(イラン人13人とパキスタン人3人)を救出した。イランのチャーバハール港を出港した漁船は、5月16日にスコトラ島沖でソマリアの海賊にハイジャックされた。海賊は、漁船を25日間母船として使用した後、6月10日に燃料と食料を奪って下船し、漁船を放棄した。インド沿岸警備隊は6月21日に救援を要請され、ICGS Varuna が現場海域に向かった。また沿岸警備隊は、コーチンから航空機を発進させ、6月21日に漁船を発見した。ICGS Varunaは6月22日までに現場海域に到着し、乗組員を救出した後、コーチンまで漁船を護衛した。(The Times of India, June 23, 2013)
**:EU艦隊所属のスウェーデン海軍フリゲート、HSWMS Carlskronaは6月5日、NATO艦隊所属のオランダ海軍フリゲート、HNLMS Van Speijkと共に、6月5日朝にアデン湾でソマリアの海賊にハイジャックされたインドのダウ船、Shahe Faize Nooriを救出した。ダウ船の船長が6月5日朝に12人の海賊に襲撃されているとの救難信号を発し、付近の海域にいたHSWMS Carlskronaがダウ船を発見し、同じく付近にいたNATO艦隊のHNLMS Van Speijkと共にダウ船の追尾を開始した。HSWMS Carlskronaの艦載ヘリが上空から監視する中、海賊は逃亡するためにダウ船の船長にソマリア沿岸近くへ航行するよう命じ、夜陰に紛れて逃亡した。14人の乗組員は全員無事で負傷者はいなかった。(EUNAVFOR, Somalia, June 6, 2013)

2.2012年のハイジャック事案中、未解放事案の状況(2013年9月30日現在)

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出典:”Piracy And Armed Robbery Against Ships: Report for the Period, 1 January – 31 December 2012,” ICC International Maritime Bureau (IMB), January 16, 2013, pp.56-58., EU NAVFOR Somalia HP.,及びその他の報道資料から作成。
備考:Position、Boardedについては、前記表1の備考1、2に同じ。

注*:EUNAVFORによれば、2010年11月26日にハイジャックされた、マレーシア籍船のコンテナ船、MV Albedoは2013年7月8日、ソマリア沿岸沖で荒波の中、沈没した。EUNAVFORの戦闘艦と艦載ヘリが行方不明者を捜索していたが、7月17日、沈没したMV Albedo の船尾上部構造物とオマーンの漁船、FV Naham 3 がロープで繋がれているのを発見。ヘリからの写真によれば、FV Naham 3の上甲板に武装した者がおり、該船は海賊に拘束下にあることが確認されたが、MV Albedo とFV Naham 3の乗組員は見当たらなかった。(EUNAVFOR, Somalia, July 18, 2013) EUNAVFORの艦載ヘリは7月27日、FV Naham 3がソマリア沖を自力で北に向っていることを確認した。EUNAVFORの最新写真では、FV Naham 3はソマリア中部のガルムドゥグ沖に錨泊している。人質となっている乗組員の解放交渉が続けられていると見られているが、人質の居場所は確認されていない。(EUNAVFOR, Somalia, July 28, 2013)

3.2011年のハイジャック事案中、未解放事案の状況(2013年9月30日現在)

3-3

出典:”Piracy And Armed Robbery Against Ships: Report for the Period, 1 January – 31 December 2011,” ICC International Maritime Bureau (IMB), January 19, 2012, pp.60-71., Worldwide Threat to Shipping Report (Office of Naval Intelligence Civil Maritime Analysis Department, U.S. Navy)., EU NAVFOR Somalia HP., and Somalia Report. 及びその他の報道資料から作成。
備考:Position、Boardedについては、前記表1の備考1、2に同じ。

4.2010年のハイジャック事案中、未解放事案の状況(2013年9月30日現在)

3-4

出典:”Piracy And Armed Robbery Against Ships: Report for the Period, 1 January – 31 December 2010,” ICC International Maritime Bureau (IMB), January 17, 2011, pp.57-65., Somali Marine & Coastal Monitor (Ecottera International)., Worldwide Threat to Shipping Report (Office of Naval Intelligence Civil Maritime Analysis Department, U.S. Navy)., EU NAVFOR Somalia HP., List of Ships Hijacked (U.S. Department of Transportation Maritime Administration)., and Somalia Report. 及びその他の報道資料から作成。
備考:Positionについては、前記表1の備考1に同じ。

注*:EUNAVFORは2013年7月9日、該船が7月7日、ソマリア沿岸沖で荒波の中、沈没したと発表した。ハラルデーレを拠点とする海賊からの通報によれば、該船は1週間前から徐々に沈み始め、7日に完全に沈没し、乗組員4人と海賊7人が死亡したという。彼の話によれば、該船の船長は既に死亡しており、4人の乗組員は該船から離れていた、残りの14人の行方は不明という。 (EUNAVFOR Somalia, July 9, Colombo Gazette.com, Reuters, July 9, 2013) EUNAVFORの戦闘艦と艦載ヘリが捜索・救助活動を行っていたが、7月17日、沈没したMV Albedo の船尾上部構造物と2012年3月26日にハイジャックされた、オマーンの漁船、FV Naham 3 がロープで繋がれているのを発見。ヘリからの写真によれば、FV Naham 3の上甲板に武装した者がおり、該船は海賊に拘束下にあることが確認されたが、MV Albedo とFV Naham 3の乗組員は見当たらなかった。(EUNAVFOR, Somalia, July 18, 2013)
**:ソマリア政府の2013年1月11日の発表によれば、2010年12月以来ソマリアの海賊に拘束されていた、該船の乗組員の内、3人のシリア人が身代金なしに解放された。残りの乗組員3人は依然拘束されている。2012年8月には、身代金支払いが遅れていることを理由に乗組員1人が海賊により射殺されている。(Qurbejoog.com, AP, January 12, and The Maritime Executive, January 14, 2013)

(2013年11月5日配信【海洋情報特報】より)