2013年第1四半期の海賊行為と船舶に対する武装強盗事案

〜IMB・ReCAAP報告書から〜


上野英詞,海洋政策研究財団研究員

Contents

1.2013年第 1四半期の海賊行為と船舶に対する武装強盗事案( IMB・2013年第 1四半期報告書から)

国際海事局(IMB)は4月16日、クアラルンプールにある海賊通報センター(Piracy Reporting Centre)を通じて、2013年第 1四半期(2013年 1月 1日〜3月 31日)に世界で起きた海賊行為と船舶に対する武装強盗事案に関する報告書を公表した。以下は、 IMB報告書から見た、2013年第 1四半期の海賊行為と船舶に対する武装強盗事案の特徴を取り纏めたものである。(なお、記述の都合上、関連諸表は文末に纏めて掲載した。)

「海賊」 (Piracy) と船舶に対する「武装強盗」 (Armed Robbery) の定義については、IMBは、「海賊」については国連海洋法条約( UNCLOS)第 101条「海賊行為の定義」に、「武装強盗」については、国際海事機関( IMO)が 2001年 11月に IMO総会で採択した、「海賊行為及び船舶に対する武装強盗犯罪の捜査のための実務コード」 (Code of Practice for the Investigation of the Crimes of Piracy and Armed Robbery against Ships) の定義に、それぞれ準拠している。

1.発生(未遂を含む)件数と発生海域から見た特徴

通報された 2013年第 1四半期の発生件数は 66件(2012年同期 102件、通年 297件)であった。月間発生件数を見れば、 1月が 17件、2月が 28件で最も多く、3月が 21件となっている。その内、既遂が 55件(2012年同期 56件)で、その内訳はハイジャック事案が 4件(同 11件)で、乗り込み事案が 51件(同 56件)であった。未遂事案は 11件(同 46件)で、その内訳は発砲事案が 7件(同 14件)、乗り込み未遂事案が 4件(同 32件)であった。しかしながら、 IMBは、この他にかなりの未通報事案があると見ており、船主や船長などに通報を呼びかけている。

2013年第 1四半期の発生件数 66件は、2012年同期の 102件に比し大幅に減少している。最近 6年間の各第 1四半期の発生件数は、表 1に示す通りである。発生海域から見れば、 66件中、50%を超える 36件がインドネシア(25件)とナイジェリア(11件)で発生している。一方、ソマリアの海賊による襲撃件数はずか 5件で、アデン湾で 2件(2012年同期 8件)、ソマリア沖で 3件(同 28件)となっており、2012年同期に比して激減している。この間、ソマリアの海賊によるハイジャック事案は 1件(同 9件)のみであった。

ソマリアの海賊について、報告書は、広範な海域における船舶航行を脅かす能力を依然保持していると警告している。第 1四半期の襲撃事案には、モガディシュ東方 400カイリの海域での襲撃事案があった。報告書によれば、2013年 3月 31日現在、ソマリアの海賊は、ハイジャック船 5隻、乗組員 60人を勾留しており、更に 17人の乗組員を拉致し、陸上で拘束している。ソマリアの海賊による襲撃事案が激減してきているが、報告書は、その要因として各国海軍部隊のプレゼンスの重要性を指摘している。報告書によれば、第 1四半期ではイラン漁船が 3月 28日にソマリア中部沖合でハイジャックされたが、付近の海域にいた海軍戦闘艦に同日救出された。また、各国海軍部隊は、出撃前の海賊襲撃グループに対する攻撃も実施している。更に、航行船舶が海賊対処マニュアル(BMP)による海賊対策を講じていることに加えて、民間武装警備員(PCASP)の雇用も襲撃事案の減少に繋がっている。しかしながら、報告書は、襲撃の脅威が依然なくなったわけでなく、従って各船舶は BMPの遵守と警戒を怠らないよう、注意喚起している。

ソマリアの海賊による襲撃事案が激減しているが、一方で西アフリカのギニア湾での事案は増えている。ギニア湾では 15件の襲撃事案があり、その内、ハイジャック事案が 3件あった。ギニア湾では、ナイジェリアで 11件の事案があり、その内、少なくとも 9件では銃器が使われた。15人乗り組みの航洋補給船 1隻がハイジャックされた。また、航行中の 4隻の船舶から 14人の船員が拉致された。ギニア湾西方のアイヴォリーコーストでも 3件の事案があり、2隻の原油・精製品タンカーがハイジャックされた。報告書によれば、ソマリアの海賊は身代金が支払われるまで 6カ月から 8カ月以上も船舶と乗組員を勾留するのに対して、ギニア湾のハイジャック事案は、航行中の精製品タンカーを目標とし、石油精製品や乗組員の貴重品を盗むのが狙いで、通常 5日から 10日後に船舶と乗組員を解放している。ギニア湾での襲撃はハイジャックが狙いではなく、積荷、乗組員の貴重品あるいは船舶の航行通信装備などを略奪する武装強盗(AK-47強襲ライフルや拳銃で武装)である。

他方、表 1に見るように、アジアでは、インドネシアでの発生件数は 25件(乗り込み事案 24件、乗り込み未遂事案 1件)で、2012年同期の 18件から大幅増となっている。しかし、ほとんどの事案が夜間の停泊中あるいは錨泊中の船舶への乗り込みで、銃器、ナイフあるいは長刀などで武装しているが、見つかれば逃亡する強盗事案である。バングラデシュではチッタゴンの錨泊地での強盗事案がほとんどだが、当局の努力によってここ数年発生事案が少なくなっている。

2.態様から見た特徴

表 2はアジア及びその他の多発海域における 2013年第 1四半期の襲撃事案の態様を海域毎に示したものである。表 3は、未遂を含む全事案における襲撃された時の船舶の状況について、地域毎に示したものである。

これらによれば、ソマリアの海賊による襲撃事案の特徴が良く分かる。ソマリアの海賊による事案は、未遂を含めて全て航行中 (steaming) の事案であり、「母船」や小型高速ボートで通航船舶を襲撃するソマリアの海賊の特徴を示している。一方、アジアの場合は、襲撃の態様としては乗り込み事案が多く、襲撃された時の船舶の状況については錨泊中 (anchored)が多いのが特徴である。

他方、2013年第 1四半期で、港と錨地において 3回以上の襲撃件数が通報されたのは 4カ所で、計 18件であった。報告書によれば、4カ所は、インドネシアのドゥマイ 6件、バリクパパン 5件、ベラワン 3件、バングラデシュのチッタゴン 4件であった。

2013年第 1四半期に襲撃された(未遂事案を含む)船舶のタイプでは、未遂事案も含めて最も多かったのは、ばら積船で 16隻、次いでケミカル・タンカー12隻、原油タンカー8隻、コンテナ船 7隻、精製品タンカー 5隻、補給船 4隻、LPGタンカー3隻、タグ 2隻、冷凍船、漁船各 1隻となっている。

襲撃された船舶の船籍を見れば、2013年第 1四半期の全事案 66件中、最も多かったのはリベリア籍船 15隻、次いでパナマ籍船 9隻、以下、マーシャル諸島籍船 7隻、シンガポール籍船 6隻、香港籍船 4隻、セント・ビンセント&グレナディーンズ籍船 3隻、マルタ籍船 3隻などとなっている。なお、日本籍船は過去 6年間、2011年同期に 1隻あったのみである。

他方、襲撃された船舶の運用状況 (Countries where victim ships controlled / managed)を国別に見れば、最も多かったのはシンガポール 14隻、次いでドイツ 9隻、英国、ギリシャ各 5隻、香港 4隻、アラブ首長国連邦、ナイジェリア、マレーシア、中国各 3隻などとなっている。日本関係船は、2隻であった。

3.人的被害の状況と使用武器の特徴

人的被害の状況について見れば、表 4に示したように、乗組員が人質となる事案が人的被害のほとんどを占めている。2013年第 1四半期は 75人で、主としてソマリアの海賊によるハイジャック事案の減少に伴って、2012年同期の 212人から大幅に減少している。一方、人的被害の発生場所から見れば、75人の人質の内、ソマリア 20人(2012年同期 118人、他に同アデン湾 34人)に対して、ナイジェリア 15人、アイヴォリーコースト 31人であり、ギニア湾の事案が半分以上を占めている。

表 5は、最近 6年間の各第 1四半期上半期における全発生事案で、海賊が使用した武器のタイプを示したものである。これを見れば、銃器とナイフが海賊の主要武器である傾向は、ここ 6年間ほとんど変化がない。他方、海賊の使用武器を地域毎に見れば、銃器使用事案 20件中、ソマリア 3件、アデン湾 2件に対して、ナイジェリア 9件、アイヴォリーコースト 2件で半分を超えている。ここでも、最近のギニア湾の武装強盗の危険性が窺える。アジアの場合は、銃器よりもナイフが主流で、全 19件中、インドネシアが 10件となっている。

表1:最近 6年間の各年第四半期におけるアジア及びその他の多発海域での発生(未遂を含む)件数の推移

出典:2013年第 1四半期報告書 5頁の表 1から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、 **;紅海、 ***;アラビア海、 ****;インド洋、いずれもソマリアの海賊による。

表2:アジア及びその他の多発海域における 2013年第 1四半期の襲撃の態様

出典:2013年第 1四半期報告書 8頁の表 2から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾はソマリアの海賊による。

表3:2013年第 1四半期における海域毎に見た襲撃された時の船舶の状況

出典: 2013年第 1四半期報告書 9頁の表 4、5から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
備考:B = Berthed, A = Anchored, S = Steaming
注:*;アデン湾はソマリアの海賊による。+;アイヴォリーコーストでは他に 1件の態様不明の襲撃既遂事案があり、計 3件となる。

表4:最近 6年間の各第 1四半期における乗組員の人的被害状況

出典:2013年第 1四半期報告書 10頁の表 8から作成。

表5:最近 6年間の各第 1四半期における全発生事案で海賊が使用した武器のタイプ

出典:2013年第 1四半期報告書 9頁の表 6から作成。

2.2013年第 1四半期のアジアにおける海賊行為と武装強盗事案( ReCAAP・ 2013年第 1四半期報告書から)

アジア海賊対策地域協力協定 (Regional Cooperation Agreement on Combating Piracy and Armed Robbery against Ships in Asia) に基づいて設立された、ReCAAP Information Sharing Centre (ISC) は 2013年 4月、2013年第 1四半期(2013年 1月 1日〜3月 31日)にアジアで発生した海賊行為と船舶に対する武装強盗事案に関する報告書を公表した。

国際海事局( IMB)の同種の報告書が全世界を対象としているのに対して、 ReCAAPの報告書は、アラビア海からユーラシア大陸南縁に沿って北東アジアに至る海域を対象としている。また、 IMBが民間船舶や船主からの通報を主たる情報源としているのに対して、 ReCAAPの情報源は、加盟国と香港の Focal Pointとシンガポールにある Information Sharing Centre (ISC) とを結び、また Focal Point相互の連結で構成される、Information Sharing Webである。各国の Focal Pointは沿岸警備隊、海洋警察、海運・海事担当省庁あるいは海軍に置かれている(日本の場合は海上保安庁)。そして各国の Focal Pointは、当該国の法令執行機関や海軍、Port Authorityや税関、海運業界など、国内の各機関や組織と連携している。更に、国際海事機関(IMO)、IMBやその他のデータを利用している。

ReCAAPの加盟国は、インド、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、シンガポール、カンボジア、ラオス、ベトナム、ブルネイ、フィリピン、中国、韓国及び日本の域内 14カ国に加えて、域外国からノルウェー(2009年 8月)、デンマーク(2010年 7月)、オランダ( 2010年 11月)、及び英国( 2012年 5月 2日)が加盟しており、現在、 18カ国となっている。なお、マレーシアとインドネシアは未加盟だが、 ISCとの情報交換が行われている。

以下は、ReCAAP報告書から見た、 2013年第 1四半期にアジアで発生した海賊行為と船舶に対する武装強盗事案の態様とその特徴である。

1.発生(未遂を含む)件数

報告書によれば、2013年第 1四半期の発生件数は 28件で、その内、既遂が 27件、未遂が 1件であった。月間発生件数を見れば、 1月既遂 7件、2月既遂 11件未遂 1件、3月既遂 9件であった。表1は最近 5年間の地域別発生件数を示したもので、2011年の 48件から 2年連続で減少しおり、2013年第 1四半期の発生件数は 2012年同期の 40件から大幅減となっている。

表1:過去 5年間の各第 1四半期における地域別発生件数

出典:ReCAAP Quarterly Report (January 1, 2013 − March 31, 2013), p.16.

表 1によれば、南アジアでは発生件数の減少が顕著で、報告書は、これはバングラデシュの停泊地や錨泊地での状況改善によるものと評価している。一方、東南アジアでも、インドネシアを除いて、発生件数が大幅に減少している。インドネシアでは、発生事案が増える傾向にある。

2.発生事案の重大度の評価

ReCAAPの報告書の特徴は、既遂事案の重大度 (Significance of Incident) を、暴力的要素 (Violence Factor) と経済的要素 (Economic Factor)の 2つの観点から評価し、カテゴリー分けをしていることである。

暴力的要素の評価に当たっては、①使用された武器のタイプ(ナイフなどよりもより高性能な武器が使用された場合が最も暴力性が高い)、②船舶乗組員の扱い(死亡、拉致の場合が最も暴力性が高い)、③襲撃に参加した海賊 / 武装強盗の人数(この場合、数が多ければ多いほど暴力性が高く、また組織犯罪の可能性もある)を基準としている。

経済的要素の評価に当たっては、被害船舶の財産価値を基準としている。この場合、乗組員の現金が強奪されるよりも、該船が積荷ごとハイジャックされる場合が最も重大度が大きくなる。

以上の判断基準から、ReCAAPは、発生事案を以下の 4つにカテゴリー分けしている。

表2:過去 5年間の各第 1四半期におけるカテゴリー別既遂事案件数

出典:ReCAAP Quarterly Report (January 1, 2013 − March 31, 2013), p.15.

報告書によれば、2013年第 1四半期の既遂事案 27件中、武装強盗の人数から見れば、1〜人が 10件、4〜6人が 4件、7〜9人が 3件で、報告なしが 10件であった。また、使用武器で見れば、銃器とナイフが 3件、ナイフのみが 10件、残りの 14件が武装していないかあるいは所持武器が不明であった。乗組員の扱いについて見れば、22件が負傷なしか、状況不明で、人質事案が 2件で、襲撃事案が 2件、脅迫事案が 1件であった。経済的損失についてみれば、最も多かったのは、船舶備品の強奪で 16件、エンジン部品の強奪が 5件、乗組員の現金や所持品の強奪が 1件、被害なしか情報なしが 5件であった。

インドネシアの事案については、報告書によれば、ドゥマイの錨泊地で 4件の事案があったが、CAT-2事案が 1件、CAT-3事案が 1件、残り 2件が PT事案となっている。また、東カリマンタンのバリクパパン周辺海域では 9件の事案が発生しているが、CAT-2事案が 1件、CAT-3事案が 5件、残り 3件が PT事案となっている。

(2013年5月8日配信【海洋情報特報】より)