2012年第3四半期までの海賊行為と船舶に対する武装強盗事案

〜IMB・ReCAAP報告書から〜


上野英詞,海洋政策研究財団研究員

Contents

1.2012年第 3四半期までの海賊行為と船舶に対する武装強盗事案 〜IMB報告書に見る特徴〜

国際海事局 (IMB) は 10月 22日、2012年第 3四半期( 2012年 1月 1日〜9月 30日)までに世界で起きた海賊行為と船舶に対する武装強盗事案に関する報告書を公表した。以下は、IMB第 3四半期報告書から見た、2012年第 3四半期までの海賊行為と船舶に対する武装強盗事案の特徴を取り纏めたものである。なお、記述の都合上、関係諸表は末尾に掲載した。また、参考資料として、海洋政策研究財団作成の、 2010年以降の「アデン湾・ソマリア沖のハイジャック事案の状況」を添付した。

IMBは、「海賊」 (Piracy) と船舶に対する「武装強盗」 (Armed Robbery) の定義については、「海賊」については国連海洋法条約( UNCLOS)第 101条「海賊行為の定義」に、「武装強盗」については、国際海事機関(IMO)が 2001年 11月に IMO総会で採択した、「海賊行為及び船舶に対する武装強盗犯罪の捜査のための実務コード」(Code of Practice for the Investigation of the Crimes of Piracy and Armed Robbery against Ships) の定義に、それぞれ準拠している。

1.発生(未遂を含む)件数と発生海域から見た特徴

通報された 2012年第 3四半期までの発生件数は 233件で、2011年同期の 352件に比して、大幅減となった。因みに、 2011年同期の 352件は、第 3四半期までの発生件数としては、IMBが 1991年から世界の海賊襲撃事案をモニターし始めてから、どの年よりも多い件数であった。最近 6年間の各第 3四半期までの状況は、表 1に示すとおりである。表 2に示すように、233件の内、既遂が 149件(2011年同期 173件)で、その内訳はハイジャック事案が 24件(同 35件)で、乗り込み事案が 125件(同 138件)であった。人質となった乗組員は 448人で、少なくとも 6人が殺された。一方、未遂事案は 84件(同 179件)で、その内訳は発砲事案が 26件(同 90件)、乗り込み未遂事案が 58件(同 89件)であった。しかしながら、 IMBは、この他にかなりの未通報事案があると見ており、船主や船長などに通報を呼びかけている。

2012年第 3四半期までの発生件数を発生海域から見れば、233件中、約 3分の 2の 153件が以下の 6カ所の海域で発生している。多い順に見れば、インドネシア 51件、ソマリア沖(インド洋を含む)44件、ナイジェリア 21件、紅海 13件、アデン湾 13件、そしてトーゴ 11件となっている。暴力的な襲撃事案やハイジャック事案が西アフリカのギニア湾で増大している。

これによれば、アデン湾、ソマリア沖(インド洋を含む)及び紅海でのソマリアの海賊による襲撃件数が 70件(2011年同期 199件)となり、全発生件数の半分弱を占め、依然としてソマリアの海賊による襲撃事案の多さが際立っている。報告書によれば、ソマリアの海賊による 70件の襲撃事案の内、ハイジャック事案が 13件(アデン湾・紅海 4件、インド洋を含むソマリア沖 9件)、乗り込み事案が 1件(ソマリア沖)で、 217人の乗組員が人質となり、1人が負傷し、2人が死亡した。報告書によれば、 9月末現在、ソマリアの海賊に依然 11隻が拘留され 167人の乗組員が身代金目当ての人質となっている。更に、21人の乗組員が拉致され、ソマリア本土で拘束されている。IMBは、これら人質の内、20人以上が 30カ月を超えて拘留されていると伝えている。70件の内、未遂事案は 56件で、その内、乗り込み未遂事案が 37件(アデン湾 5件、紅海 13件、インド洋を含むソマリア沖 19件)で、乗り込み未遂事案が 19件(アデン湾 4件、インド洋を含むソマリア沖 15件)であった。

報告書によれば、ソマリアの海賊による襲撃海域は、西は紅海南部から東は東経 76度まで、北はオマーン沖とアラビア海の北緯 22.5度まで、南は南緯 22度にまで及んでいる。これらの海域では、ソマリアの海賊は、ハイジャックした、商船、外航型漁船及びダウ船を「母船」として使用し、母船から小型ボート (skiff) を発進させ、航行中の船舶を襲撃する。報告書は、「母船」を使うことで、ソマリアの海賊による襲撃海域に限界がなくなった、と指摘している。もっとも、小型ボートの航行が不可能な南西モンスーンによる悪天候で、第 3四半期(7月〜9月)には、襲撃事案(未遂)が紅海での 1件しか発生していない。

報告書によれば、ソマリアの海賊による襲撃事案の減少は、各国海軍部隊による不審な小型ボートや海賊の陸上拠点への攻撃などの活動の強化、航行船舶による海賊対処マニュアル、BMP (The Best Management Practices) の効果的な活用や通航船舶の自衛措置、そして民間武装警備員(Privately Contracted Armed Security Personnel: PCASP) の雇用などの成果である。IMBは、海賊多発海域を航行する船舶に対しては、引き続き警戒を怠らないよう、慫慂している。

他方、西アフリカのギニア湾では、次第に危険な状況になってきている。この海域での発生件数は、2011年同期の 30件から、34件に増加し、しかも発生海域がベナンから西隣のトーゴに拡大している。報告書によれば、襲撃は暴力的かつ計画的で、市場で簡単に売却できる石油精製品が狙われている。海賊は、ハイジャックに成功すれば、該船の通信設備や、時には航法システムを破壊することもある。特にトーゴ沖では、 2011年同期の 6件から 11件に倍増し、ハイジャック事案が 3件、乗り込み事案が 2件、未遂事案が 6件であった。ナイジェリア沖では、 21件の襲撃事案中、ハイジャック事案が 4件、乗り込み事案が 9件、発砲事案が 7件、未遂事案が 1件であった。報告書は、ギニア湾沿岸諸国はいずれも、洋上で海賊に対処できるような海軍力を持っていない、と指摘している。

東南アジア海域についてみれば、表 1と表 2に見るように、インドネシアでの発生件数が 51件で、2011年同期の 30件、2011年通年合計の 46件よりも多くなっているのが注目される。インドネシアでは、ジャカルタ・タンジュンプリオク、ドゥマイ及びベラワン(スマトラ)、タボネオ(南カリマンタンのマルタブラ沖錨泊地)、ムアラジャワ水道が多発海域となっている。ほとんどの事案は、ナイフや山刀などで武装した停泊中あるいは錨泊中の船舶への夜間の乗り込み強盗事案である。他に東南アジアでは、マラッカ海峡 2件、マレーシア 8件、フィリピン 3件、シンガポール海峡 6件、南シナ海 1件となっている。

2.態様から見た特徴

表 2はアジア及びその他の多発海域における 2012年第 3四半期までの襲撃の態様を海域毎に示したものである。表 3は、未遂を含む全事案における襲撃された時の船舶の状況について、地域毎に示したものである。

これらによれば、ソマリアの海賊による襲撃事案の特徴が良く分かる。ソマリアの海賊によるアデン湾及びインド洋を含むソマリア沖での事案は、未遂を含めて全て航行中 (steaming) の事案であり、「母船」から発進する小型ボートで航行船舶を襲撃するソマリアの海賊の特徴を示している。

一方、東南アジアの場合は、襲撃の態様としては乗り込み事案が多く、襲撃された時の船舶の状況については錨泊中 (anchored) が多いのが特徴である。航行中の事案は、インドネシア 5件、マラッカ海峡 2件、マレーシア 3件、フィリピン 1件、シンガポール海峡 5件、南シナ海 1件であった。この内、3件のハイジャック事案があり、マラッカ海峡では漁船が、マレーシア周辺海域と南シナ海ではタグ&バージがハイジャックされた。

他方、2012年第 3四半期までに、港と錨地において 3回以上の襲撃件数が通報されたのは 11カ所で、計 63件であった。これは 2011年同期の 12カ所、計 68件から見れば、場所も件数もわずかに少ない。最も多かったのがインドネシアのドゥマイとトーゴのロメで各 11件、次いでバングラデシュのチッタゴン 8件、ナイジェリアのラゴス 7件、インドネシアのベラワン 5件、エジプトのアルデケイラ、ジャカルタ・タンジュンプリオク及びコンゴのポアント・ノアール各 4件、インドネシアのバタム、同タボネオ及びコートジボアールのアビジャン各3件であった。ベナンのコトヌーは 2011年同期が18件で最も多かったが、ゼロであった。

他方、2012年第 3四半期までに襲撃された(未遂事案を含む)船舶のタイプでは、未遂事案も含めて最も多かったのは、ばら積船で 46隻、次いでケミカル・タンカー43隻、以下、コンテナ船 33隻、原油タンカー 26隻、精製品タンカー 16隻、タグ 13隻、一般貨物船 11隻、LPGタンカー9隻、タグボート、港内補給船及びダウ船各 5隻などとなっている。ソマリアの海賊が襲撃した船舶には、一般貨物船、ばら積船、各種タンカー、ローロー船、コンテナ船、漁船、外航ヨット、漁船、タグあるいはダウ船など、あらゆるタイプの船舶が含まれており、報告書は、彼らの襲撃が場当たり的であることを示している、と指摘している。

襲撃された船舶の船籍を見れば、2012年第 3四半期までの全事案 233件中、最も多かったのはシンガポール籍船で 39隻、次いでリベリア籍船 37隻、以下、パナマ籍船 36隻、マーシャル諸島籍船 16隻、香港籍船 13隻、バハマ籍船 12隻などとなっている。なお、日本籍船は、2011年同期は 1隻であったが、今期はゼロであった。

他方、襲撃された船舶の運用状況を国別に見れば (Countries where victim ships controlled / managed)、最も多かったのはシンガポールで 58隻、次いでドイツ 33隻、以下、ギリシャ 26隻、英国及び香港各 11隻、インド 9隻などとなっている。なお、日本は 6隻であった。

3.人的被害の状況と使用武器の特徴

人的被害の状況について見れば、表 4に示したように、2008年以降、乗組員が人質となる事案が大幅に増え、人的被害のほとんどを占めている。 2012年第 3四半期までは人的被害 503人中、458人となっている。表 5は主な多発海域における人的被害の状況を示したものである。人的被害の発生場所から見れば、人質事案 458人中、アデン湾が 38人、ソマリアが 179人で、ソマリアの海賊による半分近くを占めている。また死亡が 2人で、人的被害の面からも、乗組員を人質に身代金要求事案が多い、ソマリアの海賊による襲撃事案の特徴を示している。一方、死亡事案 6人の内、4人がナイジェリア、また拉致 7人が全てナイジェリアの事案で、ナイジェリアの事案の暴力的特性を示している。

表 6は、最近 6年間の各第 3四半期までの全発生事案で、海賊が使用した武器のタイプを示したものである。これを見れば、銃器とナイフが海賊の主要武器である傾向は、ここ6年間ほとんど変化がない。他方、表 7に示すように、海賊の使用武器を地域毎に見れば、銃器使用事案 93件中、アデン湾 12件、紅海 6件、ソマリア 33件で、ソマリアの海賊による事案がほとんどを占めている。ここでも、 AK-47強襲ライフル、RPG-7ロケット推進擲弾筒などで武装する、ソマリアの海賊の危険性が窺える。他に、銃器使用事案が多いのは、ナイジェリアの 21件、トーゴの 5件で、ギニア湾の海賊の暴力的特徴を示している。東南アジアの場合は、銃器よりもナイフが主流で、ナイフ使用事案 56件中、インドネシアが 22件で突出している。一方情報なしも全 233件中、79件と多く、ここでもインドネシアの 21件が最も多く、次いでソマリアが 11件、紅海が 7件となっている。

(文責 上野英詞・海洋政策研究財団研究員)

表1:最近 6年間の各第 3四半期までのアジア及びその他の多発海域での発生(未遂を含む)件数の推移

出典:2012年第 3四半期報告書 5〜6頁の表 1から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、 **;紅海、 ***;アラビア海、 ****;インド洋、 *****;オマーン、いずれもソマリアの海賊による。

表2:アジア及びその他の多発海域における 2012年第 3四半期までの襲撃の態様

出典:2012年第 3四半期報告書 8 頁の表 2から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、**;紅海、いずれもソマリアの海賊による。

表3:2012年第 3四半期までの海域毎に見た襲撃時の船舶の状況

出典: 2012年第 3四半期報告書 9 〜10頁の表 4、5から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
備考:A = Anchored, B = Berthed, S = Steaming
注:*;アデン湾はソマリアの海賊による。

表4:最近 6年間の各第 3四半期までの乗組員の人的被害状況

出典:2012年第 3四半期報告書 11頁の表 8から作成。

表5:2012年第 3四半期までの主な多発海域に見る人的被害の状況

出典: 2012年第 3四半期報告書 11〜12頁の表 9から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾はソマリアの海賊による。

表6:最近 6年間の各第 3四半期までの全発生事案で海賊が使用した武器のタイプ

出典:2012年第 3四半期報告書 11頁の表 6から作成。

表7:2012年第 3四半期までの主な多発海域に見る使用武器のタイプ

出典:2012年第 3四半期報告書 12-13頁の表 10から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、**;紅海、いずれもソマリアの海賊による。

2.2012年第 3四半期までのアジアにおける海賊行為と武装強盗事案〜ReCAAP報告書から〜

アジア海賊対策地域協力協定 (Regional Cooperation Agreement on Combating Piracy and Armed Robbery against Ships in Asia)に基づいて設立された、ReCAAP情報共有センター(ISC)は 10月 22日、2012年第 3四半期( 2012年 1月から 9月末)までにアジアで発生した海賊行為と船舶に対する武装強盗事案に関する報告書を公表した。(ReCAAPとは Regional Cooperation Agreement Against Piracyの頭字語である。)

国際海事局(IMB)の同種の報告書が全世界を対象としているのに対して、ReCAAPの報告書は、アラビア海からユーラシア大陸南縁に沿って北東アジアに至る海域を対象としている。また、 IMBが民間船舶や船主からの通報を主たる情報源としているのに対して、 ReCAAPの情報源は、加盟国と香港の Focal PointとシンガポールにあるInformation Sharing Centre (ISC) とを結び、また Focal Point相互の連結で構成される、Information Sharing Webである。各国の Focal Pointは沿岸警備隊、海洋警察、海運・海事担当省庁あるいは海軍に置かれている(日本の場合は海上保安庁)。そして各国の Focal Pointは、当該国の法令執行機関や海軍、Port Authorityや税関、海運業界など、国内の各機関や組織と連携している。更に、国際海事機関(IMO)、IMBやその他のデータを利用している。

ReCAAPの加盟国は、インド、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、シンガポール、カンボジア、ラオス、ベトナム、ブルネイ、フィリピン、中国、韓国及び日本の域内 14カ国に加えて、域外国からノルウェー(2009年 8月)、デンマーク(2010年 7月)、オランダ( 2010年 11月)、及び英国(2012年 5月 2日)が加盟しており、現在、18カ国となっている。なお、マレーシアとインドネシアは未加盟だが、ISCとの情報交換が行われている。

以下は、ReCAAP報告書から見た、 2012年第 3四半期までのアジアにおける海賊行為と船舶に対する武装強盗事案の態様と傾向である。

1.「海賊」と「船舶に対する武装強盗」についての ReCAAPの定義

「海賊」(piracy) と「船舶に対する武装強盗」 (armed robbery against ships) とは、ReCAAP ISCの定義によれば、「海賊」については国連海洋法条約( UNCLOS)第 101条「海賊行為の定義」に従って、「船舶に対する武装強盗」については、国際海事機関( IMO)が 2001年 11月に IMO総会で採択した、「海賊行為及び船舶に対する武装強盗犯罪の捜査のための実務コード」(Code of practice for the Investigation of the Crimes of Piracy and Armed Robbery against Ships) の定義に従って、それぞれ ReCAAP協定第 1条で規定している。

2.発生(未遂を含む)件数と発生海域から見た特徴

報告書によれば、2012年第 3四半期までの発生件数は 95件(2011年同期 121件)で、その内、既遂が 90件(同 102件)で、未遂が 5件(同 19件)である。表 1は、過去 5年間の各第 3四半期までの ReCAAPの対象海域における発生件数を示したものである。これによれば、2010年同期、2011年同期に比して発生件数は 20%の減少となった。特に、未遂事案は、過去 5年間で最少を記録した。

表1:過去 5年間の各第 3四半期までの地域別発生件数

出典: ReCAAP Quarterly Report (January 1, 2012 − September 30, 2012), p.11, Table 1より作成

表 1によれば、東南アジアでは、発生件数が 78件で、過去 3年間で最も低くなっているが、インドネシアでの発生事案は大幅に増え、過去 5年間で最も多くなっている。また、バングラデシュの発生件数も増えている。報告書は、バングラデシュとインドネシアにおける停泊中及び錨泊中の船舶に対して、警戒措置の強化を慫慂している。

3.発生事案の重大度の評価

ReCAAPの報告書の特徴は、既遂事案の重大度 (Significance of Incident) を、暴力的要素 (Violence Factor) と経済的要素 (Economic Factor) の 2つの観点から評価し、カテゴリー分けをしていることである。

暴力的要素の評価に当たっては、①使用された武器のタイプ(ナイフなどよりもより高性能な武器が使用された場合が最も暴力性が高い)、②船舶乗組員の扱い(死亡、拉致の場合が最も暴力性が高い)、③襲撃に参加した海賊 / 武装強盗の人数(この場合、数が多ければ多いほど暴力性が高く、また組織犯罪の可能性もある)を基準としている。

経済的要素の評価に当たっては、被害船舶の財産価値を基準としている。この場合、乗組員の現金が強奪されるよりも、該船が積荷ごとハイジャックされる場合が最も重大度が大きくなる。

以上の判断基準から、ReCAAPは、発生事案を以下の 4つにカテゴリー分けしている。

表2:過去 5年間の各第 3四半期までのカテゴリー別既遂事案件数

出典: ReCAAP Quarterly Report (January 1, 2012 − September 30, 2012), p.7, Chart 1より作成。

表 2は、過去 5年間の各第 3四半期までの既遂事案をカテゴリー分けしたものである。 CAT-1事案はいずれも航行中の事案で、2012年第 3四半期の CAT-1事案は 2件で、過去 5年間で最も少ない。2件はいずれもハイジャック事案で、4月 17日にマレーシアのサラワク州沖 35カイリの南シナ海で発生したタグ&バージのハイジャック事案、7月 27日にマレーシアのサバ州沖合で発生したタグ&バージのハイジャック事案であった。報告書によれば、いずれの事案でも、海賊は、乗組員を救命ボートに乗せ、海に下ろした。その後、漂流中のボートは通航中の船舶に救助された。

4.襲撃時の船舶の状況

報告書によれば、74件の既遂事案中、20件は船舶が航行中の事案で、54件は停泊中か錨泊中であった。航行中の事案の内、2件は CAT-1事案で、 13件が CAT-2事案、5件が CAT-3事案と Petty Theft事案であった。一方、54件の停泊中・錨泊中事案の内、16件が CAT-2事案、54件が CAT-3事案と Petty Theft事案であった。16件の停泊中・錨泊中事案の内、 7件がインドネシア(バリクパパン、ベラワン、ドゥマイ、プラウ・バタム及びサマリンダ)で、2件がバングラデシュ(チッタゴン)、2件がインド(カキナダ、ムンバイ)、2件がマレーシア(タンジュン・ピアイ)、2件がベトナム(カリラン、ハイフォン)、及び1件がフィリピン(マニラ)の港湾と錨泊地で発生した。これらの事案における武装強盗の人数はほとんど 4人から 9人のグループで、ナイフや山刀あるいは銃器で武装していた。これらの事案では、武装強盗は通常、船内の備品や積荷、エンジン部品、現金、乗組員の持ち物などを盗んでいく。

参考資料:アデン湾・ソマリア沖のハイジャック事案の状況(海洋政策研究財団作成資料)

1.2012年のハイジャック事案の状況( 10月 31 日現在)

出典: “Piracy And Armed Robbery Against Ships: Report for the Period, 1 January − 30 September 2012,” ICC International Maritime Bureau (IMB), October, 2012, pp.48-50., Worldwide Threat to Shipping Report (Office of Naval Intelligence Civil Maritime Analysis Department, U.S. Navy)., EU NAVFOR Somalia HP., and Somalia Report. 及びその他の報道資料から作成。

備考 1:Positionについては、 (A) は紅海を含むアデン湾、(Ar) はアラビア海、(O)はオマーン沖、(Y)はイエメン沖でのハイジャック事案を示す。インド洋海域については、 (S) はソマリア沿岸東方沖、(K) はケニア沖、(M) はマダカスカル沖、(Sy) はセイシェル近海、(T) はタンザニア沖周辺でのハイジャック事案、(I) はこれら海域より遠隔のインド洋でのハイジャック事案を示す。

備考 2:Boarded は、海賊が乗り込みに成功しても、乗組員の多くは船内の “citadel”(安全区画)に鍵をかけて閉じ籠もるなどの自衛措置をとることによって、乗り込んだ海賊がハイジャックを諦めて逃亡した事案である。その後、該船は付近を哨戒中の各国海軍戦闘艦に救出されている。一方、海賊が逃亡しなかった場合には、武力による解放に繋がるケースもある。

注:以下の注記は、特異なハイジャック事案や武力解放事案、あるいはハイジャック船のその後の情報(「母船」として使用)などを示したものである。なお、注記の順序は、該船の解放時の日付に従っている。

1.該船は、海賊の母船として使用されていた。(Somalia Report, February 7, 2012)

2.MV Eglantine (63,400DWT) は、イラン海軍特殊部隊によって武力解放された。解放作戦は、3月30日から31日にかけて36時間にわたり、12人の海賊を拘束した。(gCaptain, April 3 and The Tehran Times, April 4, 2012)イラン海軍により解放された際、フィリピン人乗組員 2人が死亡した。1人は射殺され、1人はエンジン室に逃げ込み窒息死した。イラン海軍特殊部隊と海賊の銃撃戦になった際、海賊が乗組員を縛り、人間の盾にしたという。 (PhilStar.com, April 11, 2012) 更に、イラン海軍特殊部隊は 4月 6日、在テヘラン中国大使館の要請を受けて、中国の南京遠洋運輸が運航する、 MV Xiang Hua Menがハイジャックされた数時間後、該船を急襲し、中国人乗組員 28人を救出するとともに、9人の海賊を拘束した。(Somalia Report, April 6, 2012)

3.この襲撃で、海賊は別の漁船を「母船」として利用した。海賊は、該船の 24人の乗組員の内、4人のみを該船に拘束し、残りをソマリア沿岸に送った。このことは、海賊が該船を「母船」として利用することを示唆している。ソマリアの海賊は現在、 12隻のハイジャックした漁船(ダウ船)を「母船」として利用している。 (Somalia Report, April 23, 2012)

2.2011年のハイジャック事案とその後の状況( 2012年 10 月 31日現在)

出典: “Piracy And Armed Robbery Against Ships: Report for the Period, 1 January − 31 December 2011,” ICC International Maritime Bureau (IMB), January 18, 2012, pp.60-71., Worldwide Threat to Shipping Report (Office of Naval Intelligence Civil Maritime Analysis Department, U.S. Navy)., EU NAVFOR Somalia HP., and Somalia Report. 及びその他の報道資料から作成。

備考:Position、Boardedについては、前記表 1の備考 1、2に同じ。

注:以下の注記は、特異なハイジャック事案や武力解放事案、あるいはハイジャック船のその後の情報(「母船」として使用)などを示したものである。なお、注記の順序は、該船の解放時の日付に従っている。

1.韓国合同参謀本部によれば、海賊対処部隊の海軍特殊戦旅団要員は 2011年 1月 21日未明、MT Samho Jewelryに突入し、該船を解放した。乗組員 21人は全員救出されたが、海賊 8人が射殺され、5人が拘束された。また、該船の船長が負傷した。 (BBC News, January 21, 2011) その後、この武力解放は、ソマリアの海賊の人質となった韓国人船員に影響を及ぼす。ソマリアの海賊は 11月 30日、4月 30日にケニア東方沖でハイジャックしたシンガポール籍船のケミカルタンカー、MT Gemini (29,871DWT) を解放した。該船の乗組員は 25人だが、21人が解放されたのみで、韓国人船長と韓国人船員 3人は、韓国海軍が 1月 21日に精製品タンカー、MT Samho Jewelryを武力解放した際に 5人を拘束し、韓国で拘留している代償として、未解放となっている。(Maritime Bulletin, December 2, 2011)

2.該船の身代金は1,350万米ドルといわれ、これまで最高額である。 (Somalia Report, April 18, 2011)

3.4人米国人が乗ったヨット、SV Questが 2011年 2月 18日、オマーン沖 240カイリの海域でソマリアの海賊にハイジャックされた。その後、米海軍は、戦闘艦 4隻と無人偵察機でヨットを監視してきた。翌、 22日朝、ヨットから約 600ヤード離れていた同艦に向けてロケット推進擲弾が発射された。米第 5艦隊によれば、擲弾は命中しなかったが、直後に、ヨットから小銃の発射音が聞こえた。米海軍特殊部隊がヨットに近づくと、海賊は船首に集まり、降伏した。その際、特殊部隊は、2人の海賊を射殺した。ヨットからも 2人の海賊の死体が発見された。また、ヨットに乗っていた 4人の米国人は致命傷を負っており、死亡した。(CBS News, February 23, 2011)

4.多国籍海賊対処部隊、CTF-151に属する米海軍誘導ミサイル駆逐艦、USS Bulkeley (DDG 84) は 2011年 3月 5日未明、商船三井が運航する日本関係船のタンカー、MV Guanabara (57,400DWT)を海賊の襲撃から救助するとともに、降伏した海賊容疑者 4人を拘束した。米海軍によれば、襲撃された時、乗組員は船内の安全区画( “citadel”)に避難していた。 (Combined Maritime Forces, Press Release, March 6, 2011)

5.該船はアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ国営石油所有のばら積船で、UAE特殊部隊は 2011年 4月 2日、該船を急襲し、解放した。(The National, April 3, 2011) UAEは 2012年5月、この時拘束した 10人のソマリア人海賊容疑者に終身刑を言い渡した。(The maritime Executive, May 22, 2012)

6.NATO艦隊所属の米海軍誘導ミサイル駆逐艦、USS Stephen W. Grovesは 2011年 4月 26日、ソマリア沿岸約 100カイリの海域を哨戒中、2010年 3月 31日にハイジャックされ海賊の母船として使用されている台湾の漁船、FV Jih Chun Tsai 68に遭遇した。FV Jih Chun Tsai 68は 2隻の無人の小型ボートを曳航しており、FV Jih Chun Tsai 68自体は MV Rosalia D’Amatoに曳航されていた。また、近くに 3月 28日にハイジャックされた、アラブ首長国連邦籍船のタンカー、MV Zirkuもいた。米艦は、 MV Rosalia D’Amatoから海賊母船を切り離すよう命令したが、海賊が従わなかったので、警告射撃を行った。これも無視されたので、2隻の小型ボートを破壊した。その後、米艦が MV Rosalia D’Amatoに接近したところ、海賊が発砲してきたので、自衛のため反撃した上で、該船の人質の安全のために該船から離れた。ハイジャックされた 2隻の商船は海賊の根拠地に向かっていった。 (Allied Maritime Command Headquarters Northwood, News Release, April 26, 2011)

7.オマーン国防省の発表によれば、同国海軍戦闘艦は 2011年 9月 6日早朝、該船を武力解放した。ソマリアの海賊は、該船を母船に改造していた。武力解放の過程で、インド人乗組員 12人の内、2人が死亡し、6人が負傷した。ソマリアの海賊も 1人、死亡した。海賊は、発見された時、乗組員を「人間の盾」として利用し、逃亡を図ったが、船首部を銃撃され、降伏した。(Gulf News.com, September 7, 2011)

8.イタリア外務省が 11日に明らかにしたところによれば、NATO艦隊所属の米英海軍の 2隻の戦闘艦は 2011年 10月 11日、ソマリアの海賊にハイジャックされた該船を強襲し、乗組員を解放するとともに、ソマリア人海賊容疑者 11人を拘束した。該船の乗組員は、海賊が該船に乗り込んできた時、船内の安全区画 (citadel) に閉じ籠もった。海賊は全ての通信手段を遮断したため、乗組員は舷窓から安全区画に閉じ籠もっているとのメッセージを入れた瓶を投下した。回収されたメッセージは、乗組員を危険に曝すことなく、救出作戦が遂行できることを伝えるものであった。救出作戦は、NATO艦隊司令官のイタリア海軍提督の統制下で、米英海軍の 2隻の戦闘艦、RFA Fort Victoria、USS De Wertで実施された。 (AP, October 11, 2011) この 8日後の 10月19日、NATO艦隊所属の英海軍フリゲート、 HMS Somersetと艦隊補給艦、RFA Fort Victoriaは、ソマリア沿岸に向かって航行中のダウ船を発見し、停船させた。臨検によって、船内から多くの武器と海賊装備類が発見された。臨検終了後、パキスタン人乗組員はダウ船と共に解放され、 4人のソマリアの海賊は、 MV Montecristoを強襲した海賊容疑者 11人と共に、イタリア当局に引き渡された。 (Allied Maritime Command, News Release, October19, 2011)

9.米海軍情報部 (ONI) が 2012年 1月 19日に発した警報によれば、該船は、ソマリア沿岸を離れ、恐らく母船として利用するためにアデン湾に向かっている。ONIは、該船には、武器と襲撃用の小型高速ボートが積載されていると見ている。(gCaptain, January 19, 2012) EU艦隊が 2012年 1月 20日付で公表したところによれば、EU艦隊所属のドイツ海軍フリゲート、FGS Luebeckは 1月 19日、海賊の母船となっていたインド籍ダウ船が 18人の乗組員を人質としている MT Enrico Ievoliと会同するのを発見した。会同後、ダウ船の海賊容疑者は、負傷した彼らがタンカーに乗り移るのを阻止するために軍事行動をとれば、 MV Enrico Ievoliの 18人を含む、全ての人質に危害を加えると脅迫してきた。 FGS Luebeckは、上空から監視し、彼らが乗り移った後、臨検チームがダウ船に乗り込み、 15人のインド人乗組員を保護した。全員無事であった。MV Enrico Ievoliは、負傷した海賊容疑者を乗せて、ソマリア沿岸に向かった。(EU NAVFOR Public Affairs Office, Press Release, January 20, 2012)

3.2010年のハイジャック事案中、 2011年 1月以降の解放状況( 2012年 10月 31日現在)

出典: “Piracy And Armed Robbery Against Ships: Report for the Period, 1 January − 31 December 2010,” ICC International Maritime Bureau (IMB), January 2010, pp.57-65., Somali Marine & Coastal Monitor (Ecottera International)., Worldwide Threat to Shipping Report (Office of Naval Intelligence Civil Maritime Analysis Department, U.S. Navy)., EU NAVFOR Somalia HP., List of Ships Hijacked (U.S. Department of Transportation Maritime Administration)., and Somalia Report.及びその他の報道資料から作成。

備考:Positionについては、前記表 1の備考 1に同じ。

注:以下の注記は、特異なハイジャック事案や武力解放事案、あるいはハイジャック船のその後の情報(「母船」として使用)などを示したものである。なお、注記の順序は、該船の解放時の日付に従っている。

1.Iceberg 1の 24人の乗組員の内、イエメン人 1人が 2010年 10月に海中に飛び込んで溺死した。(Somalia Report, June 3, 2011) 2012年 6月現在、船体と乗組員の状況は不明で、該船の勾留期間はこれまでのハイジャック船で最長といわれる。 (gCaptain, April 2, and Somalia Report, June 26, 2012)

2.インド海軍の発表によれば、インド海軍と沿岸警備隊は 2011年 2月 6日早朝、ラクシャドウィープ諸島沖のインド領海内で、ソマリアの海賊の「母船」として利用されていたタイのトロール漁船に乗った海賊と銃撃戦の末、28人の海賊容疑者を拘束し、漁民 24人を救出した。この「母船」は、2010年 4月 18日にインド洋でハイジャックされた 3隻のタイの漁船、FV Prantalay 11、FV Prantalay 12、FV Prantalay 14の内、ナンバーから FV Prantalay 11と判明した。(Deccan Herald, February 6, and Indian Navy Press Release, February 6, 2011) 2011年 12月 20日付の EU艦隊のプレスリリースによれば、FV Prantalay 12は、他の 2隻と共にソマリア海岸に遺棄されており、潜在的な海洋汚染源となっている。(EU NAVFOR Public Affairs Office, Press Release, December 20, 2011)

3.該船は、「母船」として使用されていた。(RTT News, February 2, 2011)

4.マダカスカル当局によれば、2010年 11月 3日にハイジャックされたコモロ籍船の小型客船、MV Aly Zulfecarの船長と 2人の海賊容疑者を含む 6人が 2011年 2月 24日、小型ボートで同国北部のアンツィラナナ港に着き、救助を求めた。(AFP, February 24, 2011) マダカスカル海軍は 2月 27日、MV Aly Zulfecarを確保し、アンツィラナナ港に曳航した。海軍によれば、該船は燃料切れで漂流していた。(AFP, February 28, 2011)

5.日本の日之出郵船が運航する日本関係船、 MV Izumiは、「母船」として利用されていたようである。2010年 11月 8日付けの EU NAVFOR Public Affairs Office, Press Releaseによれば、スペイン海軍コルベット、 SPS Infanta Cristinaは 11月 6日夜、アフリカ連合ソマリア平和維持部隊がチャーターしたモガディシュへの食料運搬船、MV Petra 1を護衛中、MV Izumiに乗った海賊から銃撃された。同艦は、人質となっている該船乗組員(フィリピン人 20人)を危険にさらさないために、反撃を最小限の自衛措置に止めた。MV Izumiは逃走した。また、 EU艦隊によれば、ソマリア近海で 11月 5日、海賊襲撃グループが MV Izumiから小型ボートに乗り換え、航行中の船舶を襲撃したのが確認されたという。

6.インド海軍によれば、インド海軍高速艇、INS Kalpeniは 2011年 3月 12日夜、インド西岸約 600カイリのアラビア海で、「母船」として利用されていた、漁船、 FV Vega 5を拘束した。インド海軍によれば、哨戒機が追跡していた、FV Vega 5を臨検に向かった INS Kalpeniが、該船より発進した 2隻の小型ボートから銃撃された。INS Kalpeniが限定的な反撃を行ったところ、該船が炎上した。乗っていた 74人は海に飛び込んだが、ミサイル・コルベット、INS Khukriに救出された。この内、13人が漁船員で、61人の海賊容疑者が拘束された。漁船を臨検したところ、海賊容疑者は、約 80から 90丁の小型火器と数丁の重火器を保持していた。(NDTV.com, March 14, 2011)

7.該船の乗組員は15人だが、該船と共に解放されたのは 8人である。ソマリアの海賊は 2011年 4月 16日、インドに拘束されている仲間の海賊が解放されるまで、インド人船員を拘束しておく、と語った。この海賊はロイター通信に対して、「インド人は解放しないというのが我々の間での共通の了解である。インドは、我々に戦争を仕掛けてきているばかりでなく、我々の仲間の生命を危険に曝している」と語った。 (EU NAVFOR Public Affairs Office, Press release, April 16, and Reuters, April 16, 2011)

2011年 10月 28日付の Somalia Reportによれば、ソマリアの海賊は、インドで収監されているソマリア人海賊容疑者の釈放をインド政府に強要するため、特にインド人船員を標的にしている。海賊は、ハイジャック船や陸上で拘束している 300人近くの船員の中から、インド人船員を捜し出している。例えば、MT Asphalt Venture は、2011年 4月 15日に 350万米ドルの身代金を支払って解放されたが、15人の乗組員の内、7人のインド人船員は解放されず、2011年 10月現在でも拘束されたままである。ソマリア中部のハーラーデーレで彼らを拘束している海賊は、Somalia Reportに、以下のように語っている。「我々は、ハイジャック船からインド人船員を捜し出しており、インド政府が収監している我々の仲間を釈放しない限り、インド人船員を解放しない。我々は今後も、身代金を受け取れば、ハイジャック船を解放するが、インド人船員については、身代金を受け取っても解放しない。」

2011年 10月現在ソマリアの海賊が拘束中のインド人船員
MV Iceberg 1:乗組員 24人中インド人船員 6人(2010年 3月 18日、ハイジャック)
MV Albedo:23人中 2人(2010年 11月 26日、ハイジャック)
MV Savina Caylyn:22人中 17人(2011年 2月 8日、ハイジャック)
MV Fairchem Bogey:21人中 21人(8月 20日、ハイジャック)
MT Asphalt Venture:ハーラーデーレで 7人拘束中
(Somalia Report, October 28, 2011)

8.NATO艦隊所属の米海軍誘導ミサイル駆逐艦、USS Stephen W. Grovesは 2011年 4月 26日、ソマリア沿岸約 100カイリの海域を哨戒中、海賊の母船として使用されている該船に遭遇した。該船は 2隻の無人の小型ボートを曳航しており、自らはこの 3日前の 4月 21日にハイジャックされたイタリア籍船、MV Rosalia D’Amatoに曳航されていた。米艦は、 MV Rosalia D’Amatoから海賊母船を切り離すよう命令したが、海賊が従わなかったので、警告射撃を行った。これも無視されたので、2隻の小型ボートを破壊した。その後、米艦が MV Rosalia D’Amatoに接近したところ、海賊が発砲してきたので、自衛のため反撃した上で、該船の人質の安全のために該船から離れた。(Allied Maritime Command Headquarters Northwood, News Release, April 26, 2011)

9.2011年 12月 20日付の EU艦隊のプレスリリースによれば、該船は、タイ漁船、FV Prantalay 12を含む、他の 2隻と共にソマリア海岸に遺棄されており、潜在的な海洋汚染源となっている。(EU NAVFOR Public Affairs Office, Press Release, December 20, 2011)

10.2012年 5月、EU艦隊は、該船のハイジャッカーの中部ソマリア沿岸にある拠点を攻撃した。ハイジャッカーは、MV Ornaを 3度、母船として利用している。(Somalia Report Weekly Report, May 29, 2012)該船は2012年10月19日に解放されたが、乗組員 19人の内、 13人が解放されたが、6人は依然拘束中と見られる。2012年 9月初めに海賊が 1人を殺害したと報道されたが、運航社の Sirago Ship Managementは、解放された乗組員の話として、 19人全員生存していると述べた。(Lloyd’s List, October 22, 2012)

11.中国外務省が2012年 7月 17日に明らかにしたところによれば、中国海軍ソマリア沖派遣部隊は 7月 17日、ソマリアの海賊に抑留されていた台湾漁船の乗組員を救出した。乗組員は 26人で、中国人 13人、ベトナム人 12人そして台湾人 1人である。台湾外交部は、中国側の謝意を表明したが、身代金が支払われたかどうかについては言及を避けた。7月 19日付の Somalia Reportによれば、海賊側は 300万米ドルの身代金を受け取ったという。なお、2011年 12月 20日付けの EU艦隊のプレスリリースによれば、FV Shiuh Fu No 1(旭富壱號)は、他の 2隻のハイジャック船とともにソマリア海岸に遺棄されており、潜在的な海洋汚染源となっている。(EU NAVFOR Public Affairs Office, Press Release, December 20, 2011)

(2012年11月30日配信【海洋安全保障情報特報】より)