2012年の海賊行為と船舶に対する武装強盗事案

〜IMB・ReCAAP報告書から〜


上野英詞,海洋政策研究財団研究員

Contents

1.2012年の海賊行為と船舶に対する武装強盗事案(IMB2012年次報告書から)

国際海事局 (IMB) は 2013年 1月 16日、クアラルンプールにある海賊通報センター (Piracy Reporting Centre: PRC) を通じて、2012年に世界で起きた海賊行為と船舶に対する武装強盗事案に関する年次報告書を公表した。以下は、IMB年次報告書から見た、2012年における海賊行為と船舶に対する武装強盗事案の特徴を取り纏めたものである。

「海賊」(Piracy) と船舶に対する「武装強盗」 (Armed Robbery) の定義については、IMBは、「海賊」については国連海洋法条約( UNCLOS)第 101条「海賊行為の定義」に、「武装強盗」については、国際海事機関(IMO)が 2001年 11月に IMO総会で採択した、「海賊行為及び船舶に対する武装強盗犯罪の捜査のための実務コード」(Code of Practice for the Investigation of the Crimes of Piracy and Armed Robbery against Ships) の定義に、それぞれ準拠している。(なお、記述の都合上、関連諸表は文末に纏めて掲載した。)

1.発生(未遂を含む)件数と発生海域から見た特徴

通報された 2012年の発生件数は 297件(2011年 439件)であった。その内、既遂が 202件(同 221件)で、その内訳はハイジャック事案が 28件(同 45件)、乗り込み事案が 174(同 176件)であった。未遂事案は 95件(同 218件)で、その内訳は発砲事案が 28件(同 174件)、乗り込み未遂事案が 67件(同 105件)であった。しかしながら、IMBは、この他にかなりの未通報事案があると見ており、船主や船長などに通報を呼びかけている。

2012年の発生件数は、2011年比で 142件も少なく、表 1に見るように、最近 5年間では 2008年の 293件とほぼ同じで、過去 3年間の 400件を超える発生件数から見れば大幅な減少となっているのが特徴である。2012年の発生件数 297件を発生海域から見れば、75%弱の 221件(2011年 331件)が以下の 8カ所の海域で発生している。即ち、ソマリア沖 49件(2011年 160件)、紅海 13件(同 39件)、アデン湾 13件(同 37件)、インドネシア 81件(同 46件)、マレーシア 12件(同 16件)、バングラデシュ 11件(同 10件)、ナイジェリア 27件(同 10件)、トーゴ 15件(同 6件)となっている。因みに、 2011年の上位 7カ所に入っていた南シナ海が 2011年の 13件から 2件に、ベナンが 20件から 2件に大幅減になっている。

表1に見るように、ソマリアの海賊による襲撃件数は 75件で、2011年の 239件から激減している。全発生件数に占める割合も約 25%で、2011年の約 54%から大幅減となっている。ソマリアの海賊による襲撃事案の大幅な減少は、 2012年における際立った特徴となっている。しかも襲撃海域は、報告書によれば、紅海南部からアラビア海を含むソマリア東方沖と南方沖に止まっており、このことも 2012年の大きな特徴である。

表2に見るように、ソマリアの海賊による襲撃件数 75件の内訳は、アデン湾での襲撃事案が 13件で、2011年の 37件からは大幅に減少している。その内、ハイジャック事案は 4件で、2011年と同じだが、未遂事案については発砲事案が 4件で、2011年の 19件から、また乗り込み未遂事案も 5件で同 13件からそれぞれ大幅に減少している。紅海では、乗り込み未遂事案が 13件のみで、2011年の乗り込み事案 4件、発砲事案 13件、乗り込み未遂事案 22件から大幅減となっている。ソマリア沖では、49件の襲撃事案の内、乗り込み事案が 2件(2011年 15件)、ハイジャック事案が 10件(同 23件)で、未遂事案については発砲事案が 16件(同 78件)、乗り込み未遂事案が 21件(同 44件)となっている。いずれも、2011年に比して大幅減となっている。ソマリアの海賊による襲撃事案 75件中、乗り込み事案が 2件(2011年 20件)、ハイジャック事案が 14件(同 28件)で、既遂事案が 16件(同 48件)となり、 2012年の既遂事案(成功率)は約 21%で、2011年の 20%と変わらず、2010年の約 30%からは大幅に低下している。

報告書によれば、2012年 12月 31日現在で、ソマリアの海賊は、身代金目的で 8隻の船舶を拘留しており、これらの船舶に人質として出身国の異なる 104人の乗組員を拘束している。更に、23人の乗組員が拉致され、陸上で拘束されている。

では、何故、ソマリアの海賊による襲撃事案が激減しているのか。報告書によれば、これは、各国の海軍戦闘艦による海賊不審船に対する積極的な攻撃、陸上の海賊拠点に対する攻撃に加えて、航行船舶の海賊対処マニュアル、 BMP 4に基づく航行船舶の自衛措置や民間武装警備員の雇用(Privately Contracted Armed Security Personnel: PCASP)の成果である。報告書は、各国の海軍戦闘艦の継続的な展開がソマリアの海賊による襲撃事案の激減をもたらしていると指摘し、もし各国の海軍戦闘艦が引き上げれば、こうした減少傾向は簡単に逆転するであろうと警告している。また IMBは、襲撃事案の減少を歓迎すべき減少としながらも、海賊の脅威は依然大きく、海賊多発海域を航行する船舶に対して、 BMP4に基づいて警戒を怠らないように警告している。

報告書は、PCASPを襲撃事案減少要因の 1つとしているが、2012年 12月 29日付けの NATO Shipping Centreの報告によれば、ソマリアの海賊は最近、襲撃目標船舶に PCASPが添乗しているかどうかを予め確かめる、「ソフト・アプローチ」戦術をとっていると警告している。それによれば、海賊の小型ボートがまず 1隻で目標船舶に接近し、(乗船していればあるであろう)PCASPからの反応を確かめることが多い。そして目標船舶から反応がない場合、目標船舶に対する襲撃を続けるために再び近寄ってくるが、その場合もう1隻の小型ボートを伴っていることが多いという。この戦術は、成功の見込みが低い襲撃で、不必要に弾薬等を費消したり、人的被害を出したりすることを回避することに狙いがあると見られる。しかしながら、紅海南部、バブエルマンデブ海峡そしてインド西岸 50カイリ沖合までの海域では、多数の漁船が操業している。漁船は、漁網などを護るために、商船に近寄ることもある。インドの漁民は、 4〜6人乗りの船外機付きの小型漁船で延縄を使って操業している。また、漁民が小火器を携行していることもある。そのため、NATOは、これらの海域を航行する船舶の船長に対して、漁船と海賊不審船とを確実に区別するよう求めている。

一方、東南アジア海域での状況はどうか。表1、2に見るように、インドネシアでの発生件数は 81件で、2011年の 46件、2010年の 40件に比し、倍増している。81件中、73件が乗りこみ事案で、8件が乗りこみ未遂事案である。スマトラのドゥマイとベラワンでの多発場所で、停泊中や錨泊中の船舶に夜間に乗り込む武装強盗であるが、発見されれば、逃亡する。南シナ海では 2件のハイジャック事案があったが(2011年 1件)、2011年と同様、いずれも航行中のタグ&バージであった。他にマラッカ海峡ではハイジャック事案が 1件で(同 1件)、航行中のマレーシアの漁船であった。ハイジャック事案はマレーシアでも 1件あり(同 1件)、航行中のタグ&バージであった。

他方、西アフリカのギニア湾海域での発生件数の増加が注目される。 2012年のギニア湾海域での発生件数は 58件で、2011年の 46件から 10件増加している。内、ハイジャック事案が 10件で、207人の乗組員が人質となった。この海域の海賊は特に暴力的で、少なくとも 37件で銃器が使用されている。表1、表2に見るように、ベナン沖での襲撃事案の件数は 2011年の 20件(内、ハイジャック事案 8件)から 2012年には 2件(内、ハイジャック事案 1件)に例外的に減少している。ナイジェリアでは 27件(内、ハイジャック事案 4件)で、 2011年の 10件(内、ハイジャック事案 2件)から 3倍近く増加している。また、トーゴも 2011年の 5件から 2012年には 15件(内、ハイジャック事案 4件)と 3倍に増えている。コートジボアール沖では、 5件(2011年 1件)発生しており、 10月 5日には、バハマ籍船の精製品タンカーが首都、アビジャン沖で錨泊中にナイジェリアの海賊にハイジャックされた。報告書によれば、これは、コートジボアール沖での初めてのハイジャック事案で、ナイジェリアの海賊の活動海域が拡がっていることを示している。

2.態様から見た特徴

表3は、未遂を含む全事案における襲撃された時の船舶の状況について、地域毎に示したものである。これによれば、襲撃された時の船舶の状況については、 2012年の既遂事案 202件の内、停泊中 (berthed)が 15件、錨泊中 (anchored) が 130件、航行中 (steaming) が 57件であった。また、未遂事案 95件の内、停泊中が 3件、錨泊中が 20件、航行中が 72件であった。

表3によれば、ソマリアの海賊による未遂を含む襲撃事案は全て航行中の事案であり、機関銃やロケット推進擲弾筒で武装し、「母船」から発進する小型高速ボートで航行船舶を襲撃するソマリアの海賊の特徴を示している。一方、アジアの海賊事案の特徴は、錨泊中の乗り込み事案が大部分を占めていることである。ベトナム、バングラデシュ及びインドでは、全てが港や錨地における乗り込み事案である。

また、2012年において、3回以上の襲撃件数が通報された港と錨地は 18カ所(2011年 17カ所)であった。最も多かったのが、インドネシアのベラワン 14件(2011年 5件)、トーゴのロメ 14件(同 5件)であった。次いで多かったのが、バングラデシュのチッタゴン 11件(同 10件)、インドネシアのドゥマイ 11件(同 13件)、ジャカルタ・タンジュンプリオク 7件(同 6件)、タボネオ 7件(同リストになし)、ナイジェリアのラゴス 7件(同 4件)、シンガポール海峡 6件(同 11件)、コートジボアールのアビジャン 5件(同リストになし)などとなっている。インドネシアでは、他にアダン湾(カリマンタン)4件、ムアラ・ベラウ(同) 4件、バリッパパン(同)、バタム各 3件となっている。停泊中や錨泊中の船舶に夜間に乗り込む武装強盗が多い、インドネシアの特徴を示している。

3.目標船舶の特徴

では、目標となった船舶のタイプではどうか。2012年に襲撃された(未遂事案を含む)船舶のタイプは 23(2011年 25タイプ)で、表4に示したように、最も多かったのが Chemical / Product Tankerで 76隻(2011年 100隻)、次いで Bulk Carrierで 66隻(2011年 100隻)、以下、Containerが 39隻(同 62隻)、Tanker Crude Oilが 32隻(同 61隻)、Offshore Tugが23隻(同 32隻)、General Cargoが 15隻(同 35隻)、LNG Tankerが 10隻(同 6隻)、Supply Ship(油井プラットフォーム補給船)8隻(同 1隻)、Trawler / Fishingが 5隻(同 11隻)、 Dhowが 5隻(同 1隻)などとなっている。油井プラットフォーム補給船に対する襲撃は、いずれもギニア湾での事案である。

襲撃された船舶の船籍を見れば、2012年の 297 隻中、最も多かったのはパナマ籍船で 49隻(2011年 71隻)、以下、 10隻以上襲撃された船籍別順位は、リベリア籍船 45隻(同 57隻)、シンガポール籍船 43隻(同 32隻)、マーシャル諸島籍船 21隻(同 45隻)、香港籍船 17隻(同 21隻)、バハマ籍船 16隻(同 11隻)、マレーシア籍船 12隻(同 14隻)となっている。なお、日本籍船はこの 5年間では、2008年 2隻、2011年 1隻のみである。

他方、襲撃された船舶の運用状況を国別に見れば (Countries where victim ships controlled / managed)、最も多かったのはシンガポールで 71隻(2011年 65隻)、次いでドイツが 40隻(同 64隻)、以下、ギリシャ 31隻(同 58隻)、日本 15隻(同 19隻)、インド 14隻(同 14隻)、香港 13隻(同 27隻)、マレーシア 12隻(同 17隻)、デンマーク 11隻(同 12隻)、英国 11隻(同 12隻)などとなっている。

4.人的被害の状況と使用武器の特徴

人的被害の状況について見れば、表5に示したように、乗組員が人質となる事案が人的被害のほとんどを占めている。2012年に人質となったのは 585人である。人質の数は、ピーク時の 2010年に比べれば、半減している。一方、人的被害の発生場所から見れば、表6に見るように、2012年の人質事案中、ソマリアの海賊による事案がアデン湾で 38人(2011年 47人)、ソマリアで 212人(同 402人)となっており、人質事案に占める割合は 2011年の約 56%弱に比して約 43%となっている。死亡事案は 6人で、2011年の 8人からは減少しており、いずれもソマリアの海賊によるものであった 2011年と異なり、4人はナイジェリアの海賊、2人はソマリアの海賊によるものであった。ソマリアの海賊による人質事案の減少は、ハイジャック事案が 2011年の 28件に比して、14件と半減したことによると見られる。拉致(kidnap)事案は、2012年は 26人で、いずれもナイジェリア(2011年ゼロ)の海賊によるものである。ソマリアの海賊による拉致は 2011年には 10人であったが、 2012年はゼロであった。

表7は、2012年の全発生事案で、海賊が使用した武器のタイプを海域ごとに示したものである。銃器とナイフが海賊の主要武器である傾向は、ここ 5年間ほとんど変化がない。他方、海賊の使用武器を海域ごとに見れば、表7に見るように、銃器使用事案 113件(2011年 245件)中、アデン湾 12件(同 33件)、紅海 6件(同 32件)、ソマリア 38件(同 135件)で、ソマリアの海賊によるものが 56件(同 201件)で、全体の約半分を占めている。ここでも、AK-47強襲ライフル、RPG-7ロケット推進擲弾筒などで武装する、ソマリアの海賊の危険性が窺える。また、ナイジェリア 27件(同 29件)、トーゴ 6件(同ゼロ)、ギニア 3件(同 4件)、ベナン 2件(同 19件)など、ギニア湾海域での海賊事案も銃器の使用が多い、暴力的な事案が特徴である。

表1:最近 5年間のアジア及びその他の多発海域における発生(未遂を含む)件数の推移

出典:IMB2012年年次報告書 5〜6頁の表 1から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、**;;紅海、***:アラビア海、****;インド洋、*****;オマーン、いずれの海域もソマリアの海賊による。

表2:アジア及びその他の多発海域における 2012年の襲撃事案の態様

出典: IMB2012年年次報告書 8頁の表 2から作成。なお、合計、総計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、**;紅海、いずれの海域もソマリアの海賊による。
備考: Boardedは、海賊が乗り込みに成功しても、乗組員の多くは船内の “citadel”(安全区画)に鍵をかけて閉じ籠もるなどの自衛措置をとることによって、乗り込んだ海賊がハイジャックを諦めて逃亡した事案である。その後、該船は付近を哨戒中の各国海軍戦闘艦に救出されている。一方、海賊が逃亡しなかった場合には、武力による解放に繋がるケースもある。

表3:2012年の海域毎に見た未遂事案を含む襲撃された時の船舶の状況

出典:IMB2012年年次報告書 9〜10頁の表 4、表 5から作成。なお、合計、総計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
備考:B = Berthed, A = Anchored, S = Steaming.
注:*;アデン湾、**紅海、いずれの海域もソマリアの海賊による。

表4:2012年の襲撃船舶のタイプ( 5隻以上)とそれらの過去 5年間の傾向

出典:IMB2012年年次報告書 13〜14頁の表 11、14頁のチャート Dから作成。

表5:最近5年間の乗組員の人的被害状況

出典:IMB2012年年次報告書 11頁の表 8から作成。

表6:2012年のアジア及びその他の多発海域における人的被害の状況

出典:IMB2012年年次報告書 11頁の表9から作成。なお、合計、総計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、ソマリアの海賊による。

表7:2012年のアジア及びその他の多発海域における武器使用の状況

出典: IMB2012年年次報告書 12頁の表 10から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、**;紅海、いずれの海域もソマリアの海賊による。

2.2012年のアジアにおける海賊行為と武装強盗事案(ReCAAP2012年年次報告書から)

アジア海賊対策地域協力協定 (Regional Cooperation Agreement on Combating Piracy and Armed Robbery against Ships in Asia) に基づいて設立された、ReCAAP Information Sharing Centre (ISC) は 2013年 1月、2012年にアジアで発生した海賊行為と船舶に対する武装強盗事案に関する年次報告書を公表した。(ReCAAPとは Regional Cooperation Agreement Against Piracyの頭字語である。)

国際海事局(IMB)の同種の報告書が全世界を対象としているのに対して、ReCAAPの報告書は、アラビア海からユーラシア大陸南縁に沿って北東アジアに至る海域を対象としている。また、 IMBが民間船舶や船主からの通報を主たる情報源としているのに対して、 ReCAAPの情報源は、加盟国と香港の Focal PointとシンガポールにあるInformation Sharing Centre (ISC) とを結び、また Focal Point相互の連結で構成される、Information Sharing Webである。各国の Focal Pointは沿岸警備隊、海洋警察、海運・海事担当省庁あるいは海軍に置かれている(日本の場合は海上保安庁)。そして各国の Focal Pointは、当該国の法令執行機関や海軍、Port Authorityや税関、海運業界など、国内の各機関や組織と連携している。更に、国際海事機関(IMO)、IMBやその他のデータを利用している。

ReCAAPの加盟国は、インド、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、シンガポール、カンボジア、ラオス、ベトナム、ブルネイ、フィリピン、中国、韓国及び日本の域内 14カ国に加えて、域外国からノルウェー(2009年 8月)、デンマーク(2010年 7月)、オランダ( 2010年 11月)、及び英国(2012年 5月 2日)が加盟しており、現在、18カ国となっている。なお、マレーシアとインドネシアは未加盟だが、ISCとの情報交換が行われている。

以下は、ReCAAP報告書から見た、 2012年のアジアにおける海賊行為と船舶に対する武装強盗事案の態様と傾向である。

1.「海賊」と「船舶に対する武装強盗」についての ReCAAPの定義

「海賊」(piracy) と「船舶に対する武装強盗」 (armed robbery against ships) とは、ReCAAP ISCの定義によれば、「海賊」については国連海洋法条約( UNCLOS)第 101条「海賊行為の定義」に従って、「船舶に対する武装強盗」については、国際海事機関( IMO)が 2001年 11月に IMO総会で採択した、「海賊行為及び船舶に対する武装強盗犯罪の捜査のための実務コード」(Code of practice for the Investigation of the Crimes of Piracy and Armed Robbery against Ships) の定義に従って、それぞれ ReCAAP協定第 1条で規定している。

2.発生(未遂を含む)件数

報告書によれば、2012年の発生件数は 132件(2011年 155件)で、その内、既遂が 123件(同 133件)、未遂が 9件(同 22件)であった。 132件の内、7件が南シナ海で発生した海賊襲撃事案で、125件は船舶に対する武装強盗事案であった。表1に見るように、発生件数は、2010年の 167件をピークに、2年連続で減少してきている。

表1:過去 5年間の地域別発生件数

出典:ReCAAP Annual Report (January 1, 2011 − December 31, 2012), p.12, Table 2.

表 1によれば、南アジアでは、アラビア海の派生件数がゼロとなり、またバングラデシュでの発生件数も減少している。ReCAAP ISCは、インドとバングラデシュ当局による警戒措置の強化を評価している。一方、東南アジアでも、インドネシアを除いて、状況が改善されてきている。

3.発生事案の重大度の評価

ReCAAPの報告書の特徴は、既遂事案の重大度 (Significance of Incident) を、暴力的要素 (Violence Factor) と経済的要素 (Economic Factor) の 2つの観点から評価し、カテゴリー分けをしていることである。

暴力的要素の評価に当たっては、①使用された武器のタイプ(ナイフなどよりもより高性能な武器が使用された場合が最も暴力性が高い)、②船舶乗組員の扱い(死亡、拉致の場合が最も暴力性が高い)、③襲撃に参加した海賊 / 武装強盗の人数(この場合、数が多ければ多いほど暴力性が高く、また組織犯罪の可能性もある)を基準としている。

経済的要素の評価に当たっては、被害船舶の財産価値を基準としている。この場合、乗組員の現金が強奪されるよりも、該船が積荷ごとハイジャックされる場合が最も重大度が大きくなる。

以上の判断基準から、ReCAAPは、発生事案を以下の 4つにカテゴリー分けしている。

表2:過去 5年間のカテゴリー別既遂事案件数とインドネシアでの発生事案(内数)

出典:ReCAAP Quarterly Report (January 1, 2012 − December 31, 2012), p.7, Chart 1 and p.18 Chart 3より作成。

表2に見るように、 2012年の既遂事案 123件の内、CAT-1事案は 4件で、その内、3件がハイジャック事案である。内、2件が Tug & Bargeのハイジャックで、南シナ海とマレーシアのサラワク沖を航行中の事案で、1件は南シナ海を航行中の Chemical Tankerがハイジャックされた事案である。これらの事案では、いずれも乗組員は該船を放棄して、救命艇に乗り移り、その後航行中の船舶に救助されている。 Tug & Bargeは、1隻を除いて発見され、取り戻された。Chemical Tankerの 11人のハイジャッカーは、該船に乗り込んだベトナム海軍特殊部隊に拘束された。残りの 1件は錨泊中の事例で、シンガポール籍船のタンカーがインドネシアのサマリンダ(カリマンタン)のムアラ・ベラウに錨泊中、夜間に拳銃と長刀で武装した 8人の武装強盗に 80メートルトンの原油を Bargeに抜き取られた事案である。強盗は乗組員の持ち物も盗んで逃亡した。

CAT-2事案の内、マラッカ・シンガポール海峡での 6件と南シナ海での 5件は、いずれも航行中の事案である。報告書は、 CAT-2事案の 58%が停泊中 /錨泊中の事案であることに注目している。表3に見るように、 CAT-2事案に占める停泊中/錨泊中事案の割合がこの 5年間で増える傾向にある。停泊中 /錨泊中事案 23件中、10件がインドネシアでの事案であり、襲撃された船舶の乗組員は、脅迫されたり、人質に取られたり、あるいは負傷されられたりした。10件中、2件の事案では強盗は銃とナイフで武装していた。

表3:過去 5年間の CAT-2事案に占める停泊中 /錨泊中事案の割合

出典:ReCAAP Annual Report (January 1, 2011 − December 31, 2012), p.9, Table 1.

2012年の CAT-3と Petty Theft事案は 79件で、約 3分の 2の 52件がインドネシアの停泊地/錨泊地で発生している。これらの事案は、暗夜に 2〜4人のグループによる行為で、彼らは通常、武装しておらず、乗り込んだ船舶の甲板倉庫、塗料倉庫あるいはエンジン・ルームに向い、部品を盗む。見つかれば、乗組員と争うことなく、盗品を持って、時には何も持たずに逃亡する。ReCAAP ISCは、停泊地/錨泊地での見張りの強化を呼びかけている。

参考資料:アデン湾・ソマリア沖のハイジャック事案の状況(海洋政策研究財団作成資料)

1.2012年のハイジャック事案の状況( 12月 31 日現在)

出典: “Piracy And Armed Robbery Against Ships: Report for the Period, 1 January − 31 December 2012,” ICC International Maritime Bureau (IMB), January, 2013, pp.56-58., Worldwide Threat to Shipping Report (Office of Naval Intelligence Civil Maritime Analysis Department, U.S. Navy)., EU NAVFOR Somalia HP., and Somalia Report. 及びその他の報道資料から作成。

備考 1:Positionについては、 (A) は紅海を含むアデン湾、(Ar) はアラビア海、(O)はオマーン沖、(Y)はイエメン沖でのハイジャック事案を示す。インド洋海域については、 (S) はソマリア沿岸東方沖、(K) はケニア沖、(M) はマダカスカル沖、(Sy) はセイシェル近海、(T) はタンザニア沖周辺でのハイジャック事案、(I) はこれら海域より遠隔のインド洋でのハイジャック事案を示す。

備考 2:Boarded は、海賊が乗り込みに成功しても、乗組員の多くは船内の “citadel”(安全区画)に鍵をかけて閉じ籠もるなどの自衛措置をとることによって、乗り込んだ海賊がハイジャックを諦めて逃亡した事案である。その後、該船は付近を哨戒中の各国海軍戦闘艦に救出されている。一方、海賊が逃亡しなかった場合には、武力による解放に繋がるケースもある。

注:以下の注記は、特異なハイジャック事案や武力解放事案、あるいはハイジャック船のその後の情報(「母船」として使用)などを示したものである。なお、注記の順序は、該船の解放時の日付に従っている。

1.該船は、海賊の母船として使用されていた。(Somalia Report, February 7, 2012)

2.MV Eglantine (63,400DWT) は、イラン海軍特殊部隊によって武力解放された。解放作戦は、3月30日から31日にかけて36時間にわたり、12人の海賊を拘束した。(gCaptain, April 3 and The Tehran Times, April 4, 2012)イラン海軍により解放された際、フィリピン人乗組員 2人が死亡した。1人は射殺され、1人はエンジン室に逃げ込み窒息死した。イラン海軍特殊部隊と海賊の銃撃戦になった際、海賊が乗組員を縛り、人間の盾にしたという。 (PhilStar.com, April 11, 2012) 更に、イラン海軍特殊部隊は 4月 6日、在テヘラン中国大使館の要請を受けて、中国の南京遠洋運輸が運航する、 MV Xiang Hua Menがハイジャックされた数時間後、該船を急襲し、中国人乗組員 28人を救出するとともに、9人の海賊を拘束した。(Somalia Report, April 6, 2012)

3.この襲撃で、海賊は別の漁船を「母船」として利用した。海賊は、該船の 24人の乗組員の内、4人のみを該船に拘束し、残りをソマリア沿岸に送った。このことは、海賊が該船を「母船」として利用することを示唆している。ソマリアの海賊は現在、 12隻のハイジャックした漁船(ダウ船)を「母船」として利用している。 (Somalia Report, April 23, 2012)

4.該船は11月 17日、セメントの不法投棄でソマリアのプントランド自治政府当局に拘束されていたが、該船を警備していた 10人余の警備兵が 12月 18日夜、33人の乗組員とともに該船をハイジャックした。しかし、数時間の航海後、ハイジャッカー間の意見の対立やプントランド当局による説得の結果、当局の管理下に戻りボサーソ港に戻った。(gCaptain, Reuters, December 19, and All Africa, December 19, 2012)

2.2011年のハイジャック事案とその後の状況( 2012年 12 月 31日現在)

出典: “Piracy And Armed Robbery Against Ships: Report for the Period, 1 January − 31 December 2011,” ICC International Maritime Bureau (IMB), January 18, 2012, pp.60-71., Worldwide Threat to Shipping Report (Office of Naval Intelligence Civil Maritime Analysis Department, U.S. Navy)., EU NAVFOR Somalia HP., and Somalia Report. 及びその他の報道資料から作成。

備考:Position、Boardedについては、前記表 1の備考 1、2に同じ。

注:以下の注記は、特異なハイジャック事案や武力解放事案、あるいはハイジャック船のその後の情報(「母船」として使用)などを示したものである。なお、注記の順序は、該船の解放時の日付に従っている。

1.韓国合同参謀本部によれば、海賊対処部隊の海軍特殊戦旅団要員は 2011年 1月 21日未明、MT Samho Jewelryに突入し、該船を解放した。乗組員 21人は全員救出されたが、海賊 8人が射殺され、5人が拘束された。また、該船の船長が負傷した。 (BBC News, January 21, 2011) その後、この武力解放は、ソマリアの海賊の人質となった韓国人船員に影響を及ぼす。ソマリアの海賊は 11月 30日、4月 30日にケニア東方沖でハイジャックしたシンガポール籍船のケミカルタンカー、MT Gemini (29,871DWT) を解放した。該船の乗組員は 25人だが、21人が解放されたのみで、韓国人船長と韓国人船員 3人は、韓国海軍が 1月 21日に精製品タンカー、MT Samho Jewelryを武力解放した際に 5人を拘束し、韓国で拘留している代償として、未解放となっている。(Maritime Bulletin, December 2, 2011)

2.該船の身代金は1,350万米ドルといわれ、これまで最高額である。 (Somalia Report, April 18, 2011)

3.4人米国人が乗ったヨット、SV Questが 2011年 2月 18日、オマーン沖 240カイリの海域でソマリアの海賊にハイジャックされた。その後、米海軍は、戦闘艦 4隻と無人偵察機でヨットを監視してきた。翌、 22日朝、ヨットから約 600ヤード離れていた同艦に向けてロケット推進擲弾が発射された。米第 5艦隊によれば、擲弾は命中しなかったが、直後に、ヨットから小銃の発射音が聞こえた。米海軍特殊部隊がヨットに近づくと、海賊は船首に集まり、降伏した。その際、特殊部隊は、2人の海賊を射殺した。ヨットからも 2人の海賊の死体が発見された。また、ヨットに乗っていた 4人の米国人は致命傷を負っており、死亡した。(CBS News, February 23, 2011)

4.多国籍海賊対処部隊、CTF-151に属する米海軍誘導ミサイル駆逐艦、USS Bulkeley (DDG 84) は 2011年 3月 5日未明、商船三井が運航する日本関係船のタンカー、MV Guanabara (57,400DWT)を海賊の襲撃から救助するとともに、降伏した海賊容疑者 4人を拘束した。米海軍によれば、襲撃された時、乗組員は船内の安全区画( “citadel”)に避難していた。 (Combined Maritime Forces, Press Release, March 6, 2011)

5.該船はアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ国営石油所有のばら積船で、UAE特殊部隊は 2011年 4月 2日、該船を急襲し、解放した。(The National, April 3, 2011) UAEは 2012年5月、この時拘束した 10人のソマリア人海賊容疑者に終身刑を言い渡した。(The maritime Executive, May 22, 2012)

6.NATO艦隊所属の米海軍誘導ミサイル駆逐艦、USS Stephen W. Grovesは 2011年 4月 26日、ソマリア沿岸約 100カイリの海域を哨戒中、2010年 3月 31日にハイジャックされ海賊の母船として使用されている台湾の漁船、FV Jih Chun Tsai 68に遭遇した。FV Jih Chun Tsai 68は 2隻の無人の小型ボートを曳航しており、FV Jih Chun Tsai 68自体は MV Rosalia D’Amatoに曳航されていた。また、近くに 3月 28日にハイジャックされた、アラブ首長国連邦籍船のタンカー、MV Zirkuもいた。米艦は、 MV Rosalia D’Amatoから海賊母船を切り離すよう命令したが、海賊が従わなかったので、警告射撃を行った。これも無視されたので、2隻の小型ボートを破壊した。その後、米艦が MV Rosalia D’Amatoに接近したところ、海賊が発砲してきたので、自衛のため反撃した上で、該船の人質の安全のために該船から離れた。ハイジャックされた 2隻の商船は海賊の根拠地に向かっていった。 (Allied Maritime Command Headquarters Northwood, News Release, April 26, 2011)

7.オマーン国防省の発表によれば、同国海軍戦闘艦は 2011年 9月 6日早朝、該船を武力解放した。ソマリアの海賊は、該船を母船に改造していた。武力解放の過程で、インド人乗組員 12人の内、2人が死亡し、6人が負傷した。ソマリアの海賊も 1人、死亡した。海賊は、発見された時、乗組員を「人間の盾」として利用し、逃亡を図ったが、船首部を銃撃され、降伏した。(Gulf News.com, September 7, 2011)

8.イタリア外務省が 11日に明らかにしたところによれば、NATO艦隊所属の米英海軍の 2隻の戦闘艦は 2011年 10月 11日、ソマリアの海賊にハイジャックされた該船を強襲し、乗組員を解放するとともに、ソマリア人海賊容疑者 11人を拘束した。該船の乗組員は、海賊が該船に乗り込んできた時、船内の安全区画 (citadel) に閉じ籠もった。海賊は全ての通信手段を遮断したため、乗組員は舷窓から安全区画に閉じ籠もっているとのメッセージを入れた瓶を投下した。回収されたメッセージは、乗組員を危険に曝すことなく、救出作戦が遂行できることを伝えるものであった。救出作戦は、NATO艦隊司令官のイタリア海軍提督の統制下で、米英海軍の 2隻の戦闘艦、RFA Fort Victoria、USS De Wertで実施された。 (AP, October 11, 2011) この 8日後の 10月19日、NATO艦隊所属の英海軍フリゲート、 HMS Somersetと艦隊補給艦、RFA Fort Victoriaは、ソマリア沿岸に向かって航行中のダウ船を発見し、停船させた。臨検によって、船内から多くの武器と海賊装備類が発見された。臨検終了後、パキスタン人乗組員はダウ船と共に解放され、 4人のソマリアの海賊は、 MV Montecristoを強襲した海賊容疑者 11人と共に、イタリア当局に引き渡された。 (Allied Maritime Command, News Release, October19, 2011)

9.米海軍情報部 (ONI) が 2012年 1月 19日に発した警報によれば、該船は、ソマリア沿岸を離れ、恐らく母船として利用するためにアデン湾に向かっている。ONIは、該船には、武器と襲撃用の小型高速ボートが積載されていると見ている。(gCaptain, January 19, 2012) EU艦隊が 2012年 1月 20日付で公表したところによれば、EU艦隊所属のドイツ海軍フリゲート、FGS Luebeckは 1月 19日、海賊の母船となっていたインド籍ダウ船が 18人の乗組員を人質としている MT Enrico Ievoliと会同するのを発見した。会同後、ダウ船の海賊容疑者は、負傷した彼らがタンカーに乗り移るのを阻止するために軍事行動をとれば、 MV Enrico Ievoliの 18人を含む、全ての人質に危害を加えると脅迫してきた。 FGS Luebeckは、上空から監視し、彼らが乗り移った後、臨検チームがダウ船に乗り込み、 15人のインド人乗組員を保護した。全員無事であった。MV Enrico Ievoliは、負傷した海賊容疑者を乗せて、ソマリア沿岸に向かった。(EU NAVFOR Public Affairs Office, Press Release, January 20, 2012)

3.2010年のハイジャック事案中、 2011年 1月以降の解放状況( 2012年 12月 31日現在)

出典: “Piracy And Armed Robbery Against Ships: Report for the Period, 1 January − 31 December 2010,” ICC International Maritime Bureau (IMB), January 2010, pp.57-65., Somali Marine & Coastal Monitor (Ecottera International)., Worldwide Threat to Shipping Report (Office of Naval Intelligence Civil Maritime Analysis Department, U.S. Navy)., EU NAVFOR Somalia HP., List of Ships Hijacked (U.S. Department of Transportation Maritime Administration)., and Somalia Report.及びその他の報道資料から作成。

備考:Positionについては、前記表 1の備考 1に同じ。

注:以下の注記は、特異なハイジャック事案や武力解放事案、あるいはハイジャック船のその後の情報(「母船」として使用)などを示したものである。なお、注記の順序は、該船の解放時の日付に従っている。

1.ハイジャック時、Iceberg 1の乗組員は 24人だったが、その後、2010年 10月にはイエメン人 1人が海に飛び込んで自殺し、もう 1人(船長とみられる)は 2011年に海賊に殺害されたといわれる。ソマリアのプントランド海洋警察部隊 (PMPF) は 2012年 12月 10日夜、MV Iceberg 1で人質となっている乗組員の救出作戦を行ったが、失敗した。 PMPFは、引き続き該船を包囲し、海賊に降伏するよう呼びかけていた。そして、 2012年 12月 23日にプントランド自治政府が明らかにしたところによれば、ソマリアの海賊は、 MV Iceberg 1の乗組員 22人を解放した。自治政府の声明は、「人質となっていた乗組員は、2年 9カ月間に及ぶ勾留で、拷問を受けた後があり、病んでいる。彼らは現在、医療ケアを受けている」と述べている。解放に当たって、身代金が支払われたかどうかは不明である。 (gCaptain, December 23, 2012)

2.インド海軍の発表によれば、インド海軍と沿岸警備隊は 2011年 2月 6日早朝、ラクシャドウィープ諸島沖のインド領海内で、ソマリアの海賊の「母船」として利用されていたタイのトロール漁船に乗った海賊と銃撃戦の末、28人の海賊容疑者を拘束し、漁民 24人を救出した。この「母船」は、2010年 4月 18日にインド洋でハイジャックされた 3隻のタイの漁船、FV Prantalay 11、FV Prantalay 12、FV Prantalay 14の内、ナンバーから FV Prantalay 11と判明した。(Deccan Herald, February 6, and Indian Navy Press Release, February 6, 2011) 2011年 12月 20日付の EU艦隊のプレスリリースによれば、FV Prantalay 12は、他の 2隻と共にソマリア海岸に遺棄されており、潜在的な海洋汚染源となっている。(EU NAVFOR Public Affairs Office, Press Release, December 20, 2011)

3.該船は、「母船」として使用されていた。(RTT News, February 2, 2011)

4.マダカスカル当局によれば、2010年 11月 3日にハイジャックされたコモロ籍船の小型客船、MV Aly Zulfecarの船長と 2人の海賊容疑者を含む 6人が 2011年 2月 24日、小型ボートで同国北部のアンツィラナナ港に着き、救助を求めた。(AFP, February 24, 2011) マダカスカル海軍は 2月 27日、MV Aly Zulfecarを確保し、アンツィラナナ港に曳航した。海軍によれば、該船は燃料切れで漂流していた。(AFP, February 28, 2011)

5.日本の日之出郵船が運航する日本関係船、 MV Izumiは、「母船」として利用されていたようである。2010年 11月 8日付けの EU NAVFOR Public Affairs Office, Press Releaseによれば、スペイン海軍コルベット、 SPS Infanta Cristinaは 11月 6日夜、アフリカ連合ソマリア平和維持部隊がチャーターしたモガディシュへの食料運搬船、MV Petra 1を護衛中、MV Izumiに乗った海賊から銃撃された。同艦は、人質となっている該船乗組員(フィリピン人 20人)を危険にさらさないために、反撃を最小限の自衛措置に止めた。MV Izumiは逃走した。また、 EU艦隊によれば、ソマリア近海で 11月 5日、海賊襲撃グループが MV Izumiから小型ボートに乗り換え、航行中の船舶を襲撃したのが確認されたという。

6.インド海軍によれば、インド海軍高速艇、INS Kalpeniは 2011年 3月 12日夜、インド西岸約 600カイリのアラビア海で、「母船」として利用されていた、漁船、 FV Vega 5を拘束した。インド海軍によれば、哨戒機が追跡していた、FV Vega 5を臨検に向かった INS Kalpeniが、該船より発進した 2隻の小型ボートから銃撃された。INS Kalpeniが限定的な反撃を行ったところ、該船が炎上した。乗っていた 74人は海に飛び込んだが、ミサイル・コルベット、INS Khukriに救出された。この内、13人が漁船員で、61人の海賊容疑者が拘束された。漁船を臨検したところ、海賊容疑者は、約 80から 90丁の小型火器と数丁の重火器を保持していた。(NDTV.com, March 14, 2011)

7.該船の乗組員は15人だが、該船と共に解放されたのは 8人である。ソマリアの海賊は 2011年 4月 16日、インドに拘束されている仲間の海賊が解放されるまで、インド人船員を拘束しておく、と語った。この海賊はロイター通信に対して、「インド人は解放しないというのが我々の間での共通の了解である。インドは、我々に戦争を仕掛けてきているばかりでなく、我々の仲間の生命を危険に曝している」と語った。 (EU NAVFOR Public Affairs Office, Press release, April 16, and Reuters, April 16, 2011)

2011年 10月 28日付の Somalia Reportによれば、ソマリアの海賊は、インドで収監されているソマリア人海賊容疑者の釈放をインド政府に強要するため、特にインド人船員を標的にしている。海賊は、ハイジャック船や陸上で拘束している 300人近くの船員の中から、インド人船員を捜し出している。例えば、MT Asphalt Venture は、2011年 4月 15日に 350万米ドルの身代金を支払って解放されたが、15人の乗組員の内、7人のインド人船員は解放されず、2011年 10月現在でも拘束されたままである。ソマリア中部のハーラーデーレで彼らを拘束している海賊は、Somalia Reportに、以下のように語っている。「我々は、ハイジャック船からインド人船員を捜し出しており、インド政府が収監している我々の仲間を釈放しない限り、インド人船員を解放しない。我々は今後も、身代金を受け取れば、ハイジャック船を解放するが、インド人船員については、身代金を受け取っても解放しない。」

2011年 10月現在ソマリアの海賊が拘束中のインド人船員
MV Iceberg 1:乗組員 24人中インド人船員 6人(2010年 3月 18日、ハイジャック)
MV Albedo:23人中 2人(2010年 11月 26日、ハイジャック)
MV Savina Caylyn:22人中 17人(2011年 2月 8日、ハイジャック)
MV Fairchem Bogey:21人中 21人(8月 20日、ハイジャック)
MT Asphalt Venture:ハーラーデーレで 7人拘束中
(Somalia Report, October 28, 2011)

8.NATO艦隊所属の米海軍誘導ミサイル駆逐艦、USS Stephen W. Grovesは 2011年 4月 26日、ソマリア沿岸約 100カイリの海域を哨戒中、海賊の母船として使用されている該船に遭遇した。該船は 2隻の無人の小型ボートを曳航しており、自らはこの 3日前の 4月 21日にハイジャックされたイタリア籍船、MV Rosalia D’Amatoに曳航されていた。米艦は、 MV Rosalia D’Amatoから海賊母船を切り離すよう命令したが、海賊が従わなかったので、警告射撃を行った。これも無視されたので、2隻の小型ボートを破壊した。その後、米艦が MV Rosalia D’Amatoに接近したところ、海賊が発砲してきたので、自衛のため反撃した上で、該船の人質の安全のために該船から離れた。(Allied Maritime Command Headquarters Northwood, News Release, April 26, 2011)

9.2011年 12月 20日付の EU艦隊のプレスリリースによれば、該船は、タイ漁船、FV Prantalay 12を含む、他の 2隻と共にソマリア海岸に遺棄されており、潜在的な海洋汚染源となっている。(EU NAVFOR Public Affairs Office, Press Release, December 20, 2011)

10.2012年 5月、EU艦隊は、該船のハイジャッカーの中部ソマリア沿岸にある拠点を攻撃した。ハイジャッカーは、MV Ornaを 3度、母船として利用している。(Somalia Report Weekly Report, May 29, 2012)該船は2012年10月19日に解放されたが、乗組員 19人の内、 13人が解放されたが、6人は依然拘束中と見られる。(gCapatin, October 21, 2012) ソマリア政府の 2013年 1月 11日の発表によれば、2010年 12月以来ソマリアの海賊に拘束されていた、該船の乗組員の内、3人のシリア人が身代金なしに解放された。残りの乗組員 3人は依然拘束されている。2012年 8月には、身代金支払いが遅れていることを理由に乗組員 1人が海賊により射殺されている。 (Qurbejoog.com, AP, January 12, and The Maritime Executive, January 14, 2013)

11.中国外務省が2012年 7月 17日に明らかにしたところによれば、中国海軍ソマリア沖派遣部隊は 7月 17日、ソマリアの海賊に抑留されていた台湾漁船の乗組員を救出した。乗組員は 26人で、中国人 13人、ベトナム人 12人そして台湾人 1人である。台湾外交部は、中国側の謝意を表明したが、身代金が支払われたかどうかについては言及を避けた。7月 19日付の Somalia Reportによれば、海賊側は 300万米ドルの身代金を受け取ったという。なお、2011年 12月 20日付けの EU艦隊のプレスリリースによれば、FV Shiuh Fu No 1(旭富壱號)は、他の 2隻のハイジャック船とともにソマリア海岸に遺棄されており、潜在的な海洋汚染源となっている。(EU NAVFOR Public Affairs Office, Press Release, December 20, 2011)

(2013年2月22日配信【海洋安全保障情報特報】より)