2013年上半期の海賊行為と船舶に対する武装強盗事案

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〜IMB・ReCAAP報告書から〜


上野英詞,海洋政策研究財団研究員

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1.2013年上半期の海賊行為と船舶に対する武装強盗事案
~IMB報告書から~

国際海事局 (IMB) は7月15日、2013年上半期(2013年1月1日~6月30日)に世界で起きた海賊行為と船舶に対する武装強盗事案に関する報告書を公表した。

「海賊」 (Piracy) と船舶に対する「武装強盗」 (Armed Robbery) の定義については、IMBは、「海賊」については国連海洋法条約(UNCLOS)第101条「海賊行為の定義」に、「武装強盗」については、国際海事機関(IMO)が2001年11月にIMO総会で採択した、「海賊行為及び船舶に対する武装強盗犯罪の捜査のための実務コード」(Code of Practice for the Investigation of the Crimes of Piracy and Armed Robbery against Ships) の定義に、それぞれ準拠している。

以下は、IMB報告書から見た、2013年上半期の海賊行為と船舶に対する武装強盗事案の特徴を取り纏めたものである。なお、巻末に、参考資料として、最近4年間のソマリアの海賊によるハイジャック事案を取り纏めた表を添付した。

1.発生(未遂を含む)件数と発生海域から見た特徴

通報された2013年上半期の発生件数は138件(2012年同期177件)であった。その内、既遂が107件(同100件)で、その内訳はハイジャック事案が7件(同20件)で、乗り込み事案が100件(同80件)であった。未遂事案は31件(同77件)で、その内訳は発砲事案が15件(同25件)、乗り込み未遂事案が16件(同52件)であった。しかしながら、IMBは、この他にかなりの未通報事案があると見ており、船主や船長などに通報を呼びかけている。

2013年上半期の発生件数138件は、2012年同期の発生件数177件(通年297件)から39件の減少で、2年続けての減少となった。最近6年間の各上半期の状況は、表1に示すとおりである。発生海域から見れば、138件中、70% に当たる98件が以下の7カ所で発生している。多い順に見れば、インドネシア48件(同32件)、ナイジェリア22件(同17件)、インド6件(同4件)、バングラデシュ6件(同6件)、コロンビア6件(同2件)、エジプト5件(同5件)、トーゴ5件(同5件)となっている。ここでは、インドネシアとナイジェリアでの事案がほとんどである。これは、2013年第1四半期からの傾向である。

この間、ソマリア沖(インド洋を含む)4件(2012年同期44件)、アデン湾4件(同13件)、紅海0件(同12件)で、ソマリアの海賊による「アフリカの角」周辺海域のアデン湾、紅海及びソマリア沖(インド洋を含む)での発生件数はわずかに8件で、2012年同期の69件から激減している。報告書によれば、8件の襲撃事案の内、ハイジャック事案が2件(アデン湾1件、インド洋を含むソマリア沖1件)で、34人(2012年同期217人)の乗組員が人質となった。未遂事案の内、発砲事案がソマリア沖で3件、乗り込み未遂事案がアデン湾で1件であった。6月末現在、依然4隻が拘留され、57人の乗組員が人質になっている。更に、11人の乗組員が人質として陸上に拉致されており、その内、4人は2010年4月以来、7人は2010年9月以来、拉致拘束されている。

報告書は、ソマリアの海賊による襲撃海域は、西は紅海南部から東は東経76度まで、北は北緯25度のオマーン湾から南は南緯22度にまで及んでいたが、大幅に縮小しつつあるようであると述べている。しかし、依然としてソマリアの海賊は広範な海域で、商船やその他の船舶を脅かす能力を持っていると見ている。これらの海域では、ソマリアの海賊は、ハイジャックした外航漁船やダウ船を「母船」を使用し、目標船舶に対して小型ボートを発進させる。

報告書によれば、ソマリアの海賊による襲撃事案の減少は、各国海軍の戦闘艦の展開、海賊対処マニュアル、BMP (The Best Management Practices) の効果的な活用、通航船舶の自衛措置、民間武装警備員 (Privately Contracted Armed Security Personnel: PCASP) の雇用増大、更には、EU艦隊などによるソマリア海賊の陸上拠点への攻撃などの成果である。報告書は、2013年上半期にソマリアの海賊がハイジャック船2隻をソマリア沿岸に曳航する前に付近にいた海軍部隊に救出された事例を挙げ、こうしたことができるのは海軍部隊だけであるとして、ソマリアの海賊による襲撃事案の激減を担保している各国海軍の展開の重要性を強調している。

他方、西アフリカのギニア湾の状況は依然、深刻である。この海域での発生件数は32件(2012年同期32件)、ナイジェリア沖では、2012年同期の17件から22件に増えており、ハイジャック事案が1件(2012年同期3件)、乗り込み事案が9件(同7件)で、他に未遂事案が発砲11件(同6件)、乗り込み未遂が1件(同1件)であった。他にこの海域でのハイジャック事案はコートジボワールで2件(同0件)、トーゴで1件(同1件)であった。報告書によれば、襲撃船舶が多様化していることに加えて、4月にハイジャックされた2隻のコンテナ船の内、1隻は沿岸から170カイリも離れた海域での事案であり、ギニア湾の海賊もハイジャックした小型の石油基地補給船などを母船として使用している。2013年上半期には、56人の乗組員が人質となり(同86人)、30人が陸上に拉致され(同3人)、1人が死亡し(同2人)、また少なくとも5人が負傷した(同2人)。報告書は、拉致事案が増えていることを懸念している。

東南アジア海域についてみれば、表1に見るように、インドネシアでの発生件数が48件で、2011年同期の32件から大幅に増加しており、4年連続の増加になっているのが注目される。インドネシアでは、ドゥマイ、ベラワン、バリッパパンが多発海域となっている。しかし、表2表3に見るように、ほとんどの事案が停泊中あるいは錨泊中の船舶への夜間の乗り込み強盗事案で、発見されれば逃亡する、報告書は、未通報事案が多くあると見ている。他にマラッカ海峡では、2005年7月以来、沿岸国が哨戒活動を実施していることもあって襲撃事案が激減ししているが、2013年上半期には漁船のハイジャック事案が1件あり、報告書は海峡通航船舶に対して引き続き警戒を呼びかけている。シンガポール海峡では、航行中の船舶と錨泊中の船舶に対する夜間の乗り込み事案が4件あった。南シナ海のアナンバス諸島、ナトゥーナ諸島、マンカイ諸島、スビ諸島及びメランダン諸島海域でのこの2年間大幅に減少しているが、報告書は航行船舶に対して引き続き警戒を呼びかけている。

2.態様から見た特徴

表2はアジア及びその他の多発海域における2013年上半期の襲撃の態様を海域毎に示したものである。表3は、未遂を含む全事案における襲撃された時の船舶の状況について、地域毎に示したものである。

これらによれば、ソマリアの海賊による襲撃事案の特徴が良く分かる。ソマリアの海賊によるアデン湾・紅海、アラビア海及びインド洋を含むソマリア沖での事案は、未遂を含めて全て航行中 (steaming) の事案であり、「母船」や小型高速ボートで通航船舶を襲撃するソマリアの海賊の特徴を示している。また、ナイジェリアの事案も、航行中の事案がほとんどである。

一方、東南アジアの場合は、襲撃の態様としては乗り込み事案が多く、襲撃された時の船舶の状況については錨泊中 (anchored) が多いのが特徴である。マラッカ海峡では5月7日にマレーシアの漁船がハイジャックされ、インドネシア領海内に向かったが、5月25日にインドネシア海洋警察に拘束された。

他方、2013年上半期で、港と錨地において3回以上の襲撃件数が通報されたのは13カ所(2012年同期7カ所)で、計60件(同33件)であった。報告書によれば、インドネシアのドゥマイとベラワンが各8件で最も多く、次いで、バングラデシュのチッタゴン6件、インドネシアのバリッパパンとタボネオ(南カリマンタンのマルタブラ沖錨泊地)及びトーゴのロメの各5件、インドネシアのムアラジャワ、ペルーのタララの各4件、インドネシアのジャカルタ・タンジュンプリオク、アダン湾(東カリマンタン)、ニパウ(ロンボク島)、コロンビアのブエナベントゥラ、エクアドルのグアヤキルの各3件であった。インドネシアの港と錨地における襲撃事案の多さが目立っており、ここでの襲撃事案の特徴を示している。

2013年上半期に襲撃された(未遂事案を含む)船舶のタイプでは、未遂事案も含めて最も多かったのは、ばら積船で31隻(2012年同期39隻)、次いでケミカル・タンカー28隻(同33隻)、以下、コンテナ船17隻(同26隻)、原油タンカー16隻(同22隻)、一般貨物船14隻(同8隻)、精製品タンカー9隻(同13隻)、タグ7隻(同6隻)、補給船5隻(同5隻)、LPGタンカー4隻(同6隻)などとなっている。

襲撃された船舶の船籍を見れば、2013年上半期で最も多かったのはリベリア籍船27隻(2012年同期33隻)、次いでシンガポール籍船19隻(同24隻)、パナマ籍船16隻(同26隻)、マーシャル諸島籍船13隻(同9隻)、香港籍船12隻(同11隻)、アンチグア・バーブーダ籍船6隻(同2隻)などとなっている。なお、日本籍船は過去6年間の上半期では、2007年1隻、2008年2隻、2011年1隻が襲撃されたが、2012年と2013年上半期にはなかった。

他方、襲撃された船舶の運用状況を国別に見れば (Countries where victim ships controlled / managed)、最も多かったのはシンガポールで36隻(2012年同期37隻)、次いでドイツ23隻(同25隻)、ギリシャ11隻(同25隻)、香港9隻(同10隻)、マレーシア6隻(同4隻)、英国6隻(同8隻)などとなっている。なお、日本の船社が運航する襲撃された船舶は3隻(同3隻)であった。

3.人的被害の状況と使用武器の特徴

人的被害の状況について見れば、表4に示したように、過去6年間、乗組員の人質や拉致事案が人的被害のほとんどを占めている状況に変わりはないが、2013年上半期は157人で、2012年同期の337人より激減しているが、拉致事案が3人から30人に10倍増となっている。一方、表5に見るように、人的被害の発生場所から見れば、人質事案127人中、ソマリアの海賊による事案とギニア湾での事案が全体の7割を占めている。また、2013年上半期の拉致事案30人はナイジェリアとトーゴの事案で、特にナイジェリアが2012年同期の3人から28人に激増している。

表6は、最近6年間の各上半期における全発生事案で、海賊が使用した武器のタイプを示したものである。これを見れば、銃器とナイフが海賊の主要武器である傾向は、ここ6年間ほとんど変化がない。他方、海賊の使用武器を地域毎に見れば、銃器使用事案44件中、ギニア湾のナイジェリア18件、トーゴ3件、コートジボアール2件で、半分強を占めているのが、2013年上半期の特徴で、ギニア湾の海賊事案の暴力的特徴を示している。他方、ソマリアの海賊はAK-47強襲ライフル、RPG-7ロケット推進擲弾筒などで武装しているが、襲撃事案の激減でアデン湾4件、ソマリア4件となっている。東南アジアの場合は、銃器よりもナイフが主流で、ナイフ使用事案39件中、インドネシアが22件で半分を占めている。一方情報なしも全138件中、53件で、依然、多い。

表1:最近6年間の各年上半期におけるアジア及びその他の多発海域での発生(未遂を含む)件数の推移

IMB表1

出典:2013 年上半期報告書5~6頁の表1から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾、**;紅海、***;アラビア海、****;インド洋、*****;オマーン、いずれもソマリアの海賊による。

表2:アジア及びその他の多発海域における2013年上半期の襲撃の態様

IMB表2

出典:2013年上半期報告書8頁の表2から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
注:*;アデン湾はソマリアの海賊による。

表3:2013年上半期における海域毎に見た襲撃された時の船舶の状況

IMB表3

出典:2013年上半期報告書9、10頁の表4、5から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。
備考:B = Berthed, A = Anchored, S = Steaming
注:*;アデン湾はソマリアの海賊による。+;コートジボアールでは他に1件の態様不明の襲撃既遂事案があり、計3件となる。

表4:最近6年間の各上半期における乗組員の人的被害状況

IMB表4

出典:2013 年上半期報告書11頁の表8から作成。

表5:最近6年間の各上半期における海域毎に見た乗組員の人的被害状況

IMB表5

出典:2013 年上半期報告書11頁の表9から作成。なお、合計件数は報告書の全ての対象海域を含む。

表6:最近6年間の各上半期における全発生事案で海賊が使用した武器のタイプ

IMB表6

出典:2013年上半期報告書10頁の表6から作成。

 

2.2013年上半期のアジアにおける海賊行為と武装強盗事案
~ReCAAP報告書から~

アジア海賊対策地域協力協定 (Regional Cooperation Agreement on Combating Piracy and Armed Robbery against Ships in Asia) に基づいて設立された、ReCAAP情報共有センター(ISC)は7月下旬、2013年上半期(2013年1月から6月末まで)にアジアで発生した海賊行為と船舶に対する武装強盗事案に関する報告書を公表した。(ReCAAPとはRegional Cooperation Agreement Against Piracyの頭字語である。)

国際海事局(IMB)の同種の報告書が全世界を対象としているのに対して、ReCAAPの報告書は、アラビア海からユーラシア大陸南縁に沿って北東アジアに至る海域を対象としている。また、IMBが民間船舶や船主からの通報を主たる情報源としているのに対して、ReCAAPの情報源は、加盟国と香港の Focal PointをシンガポールにあるInformation Sharing Centre (ISC) と結び、またFocal Point相互の連結で構成される、Information Sharing Webである。各国のFocal Pointは沿岸警備隊、海洋警察、海運・海事担当省庁あるいは海軍に置かれている(日本の場合は海上保安庁)。そして各国のFocal Pointは、当該国の法令執行機関や海軍、港湾管理庁や税関、海運業界など、国内の各機関や組織と連携している。更に、国際海事機関(IMO)、IMBやその他のデータも利用している。

ReCAAPの加盟国は、インド、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマー、タイ、シンガポール、カンボジア、ラオス、ベトナム、ブルネイ、フィリピン、中国、韓国及び日本の域内14カ国に加えて、域外国からノルウェー(2009年8月)、デンマーク(2010年7月)、オランダ(2010年11月)、及び英国(2012年5月2日)が加盟している。また、オーストラリアが2013年8月3日に加盟し、現在、19カ国となっている。なお、マレーシアとインドネシアは未加盟だが、ISCとの情報交換が行われている。

以下は、ReCAAP報告書から見た、2013年上半期のアジアにおける海賊行為と船舶に対する武装強盗事案の態様と傾向である。

1.「海賊」と「船舶に対する武装強盗」についてのReCAAPの定義

「海賊」 (piracy) と「船舶に対する武装強盗」 (armed robbery against ships) とは、ReCAAP ISCの定義によれば、「海賊」については国連海洋法条約(UNCLOS)第101条「海賊行為の定義」に従って、「船舶に対する武装強盗」については、国際海事機関(IMO)が2001年11月にIMO総会で採択した、「海賊行為及び船舶に対する武装強盗犯罪の捜査のための実務コード」(Code of Practice for the Investigation of the Crimes of Piracy and Armed Robbery against Ships) の定義に従って、それぞれReCAAP協定第1条で規定している。

2.発生(未遂を含む)件数と発生海域から見た特徴

報告書によれば、2013年上半期の発生件数は57件(2012年同期64件)で、その内、既遂が54件(同59件)で、未遂が3件(同5件)であった。表1は、過去5年間の各上半期におけるReCAAPの対象海域における発生件数を示したものである。

表1:過去5年間の各上半期における地域別発生件数

ReCAAP表1

出典:ReCAAP Half-Yearly Report (January 1, 2013 – June 30, 2013), Table 1, p.16.より作成

表1によれば、南アジアでは発生件数の減少が顕著で、この5年間で最少件数となっている。報告書は、これはバングラデシュのチッタゴンの停泊地や錨泊地での状況改善によるもので、チッタゴン港湾当局とバングラデシュの海洋法令執行機関の努力を評価している。ここでは、2013年上半期に2件の事案が発生しているが、これは過去5年間で最少件数である。一方、東南アジアでも、インドネシアを除いて、発生件数が減少している。マラッカ・シンガポール海峡では、2011年上半期の14件をピークに減少しているが、報告書は、沿岸各国の協調哨戒活動と関係各国の海洋法令執行機関の情報共有ネットワークによるものと評価している。しかしながら、インドネシアでは、発生事案が増える傾向にあり、38件の発生件数はこの5年間で最も多い。ReCAAP ISC は、特に、東カリマンタンのバリッパパンとサマリンダ、南カリマンタンのタボネオ(マルタブラ沖錨泊地)の停泊地と錨泊地における警戒監視の強化を関係当局に要請している。

2.発生事案の重大度の評価

ReCAAPの報告書の特徴は、既遂事案の重大度 (Significance of Incident) を、暴力的要素(Violence Factor) と経済的要素 (Economic Factor) の2つの観点から評価し、カテゴリー分けをしていることである。

暴力的要素の評価に当たっては、① 使用された武器のタイプ(ナイフなどよりもより高性能な武器が使用された場合が最も暴力性が高い)、② 船舶乗組員の扱い(死亡、拉致の場合が最も暴力性が高い)、③ 襲撃に参加した海賊 / 武装強盗の人数(この場合、数が多ければ多いほど暴力性が高く、また組織犯罪の可能性もある)を基準としている。

経済的要素の評価に当たっては、被害船舶の財産価値を基準としている。この場合、乗組員の現金が強奪されるよりも、該船が積荷ごとハイジャックされる場合が最も重大度が大きくなる。

以上の判断基準から、ReCAAPは、発生事案を以下の4つにカテゴリー分けしている。

ReCAAP

表2:過去5年間の各上半期におけるカテゴリー別既遂事案件数

ReCAAP表2

出典:ReCAAP Half-Yearly Report (January 1, 2013 – June 30, 2013), Chart 6, p.15.より作成

表2によれば、2013年上半期では、CAT-1事案がこの5年間で初めてゼロになっており、また、CAT-2事案も最少件数となっている。インドネシアの事案は、ほとんどがCAT-3事案である。

報告書によれば、2013年上半期における既遂事案54件中、武装強盗の人数から見れば、1~6人が31件、7~9人が3件、9人以上が2件で、報告なしが18件であった。1~6人の31件については、そのほとんどが1~3人のグループであった。報告なしが18件あったことについて、ReCAAP ISC は、発生事案の重要度の分析に支障が生じることから、船長と乗組員に対して、できる限り詳細な報告を求めている。

使用武器で見れば、銃器とナイフが7件、ナイフとナタのみが23件、残りの24件が不明であった。武装強盗は、これらの武器で乗組員を脅迫し、現金や所持品を奪っており、負傷させることはあまりない。

乗組員の扱いについて見れば、40件が負傷なしか、状況不明で、人質事案が7件で、襲撃事案が1件、脅迫事案が6件であった。

経済的損失について見れば、最も多かったのは、船舶備品の強奪で28件、エンジン部品の強奪が8件、乗組員の現金や所持品の強奪が7件、船舶行方不明が1件、被害なしか情報なしが10件であった。

船舶行方不明は、4月13日、マレーシアのタンジュンアヤム(マレー半島東南端沖)の錨泊地で錨泊中のシンガポール籍船の平甲板貨物バージ、Eng Tou 266 が不審なタグボートで盗まれた事案で、6月30日現在も、バージの所在は不明である。報告書によれば、これは、隣に錨泊していたバージの乗組員からEng Tou 266 が不審なタグボートで南方に曳航されているとの通報があった事案で、乗組員が知らない間に平甲板貨物バージが盗まれた初めての事案である。

2013年上半期でバージが関わった事案が4件あった。その内、3件がタグボートで曳航中の事案で、他の1件は錨泊中の事案であった。報告書は、バージは通常、積荷の有無にかかわらず、曳航中でも錨泊中でも無人で、武装強盗が乗り込みやすく、また荷物を盗んだ後、逃亡しやすい、と指摘している。報告書によれば、錨泊中無人だったEng Tou 266 は船齢6年で、全面的な整備補修が完了したばかりで、狙われた可能性があるという。

このため、ReCAAP ISC は、Tug Boats and Barges (TaB) Guide against Piracy and Sea Robbery と題するガイドを発行し、船主、船長、後組員などに、錨泊中、特に闇夜や監視の手薄な時に、見張りを立てたり、予防措置を講じたりしておくことを勧告している。

TaB Guide is available at following URL;
http://www.recaap.org/Portals/0/docs/Tug%20Boats%20and%20Barges%20(TaB)%20Guide%20(Final).pdf

 

参考資料:アデン湾・ソマリア沖のハイジャック事案の状況(作成:上野英詞・海洋政策研究財団研究員)

1.2013年のハイジャック事案の状況(7月31 日現在)

参考資料1

出典:”Piracy And Armed Robbery Against Ships: Report for the Period, 1 January – 30 June, 2013,” ICC International Maritime Bureau (IMB), July 15, 2013, pp.41., EU NAVFOR Somalia HP., 及びその他の報道資料から作成。

備考1:Positionについては、 (A) は紅海を含むアデン湾、(Ar) はアラビア海、(O) はオマーン沖、(Y) はイエメン沖でのハイジャック事案を示す。インド洋海域については、(S) はソマリア沿岸東方沖、(K) はケニア沖、(M) はマダカスカル沖、(Sy) はセイシェル近海、(T) はタンザニア沖周辺でのハイジャック事案、(I) はこれら海域より遠隔のインド洋でのハイジャック事案を示す。
備考2:Boarded は、海賊が乗り込みに成功しても、乗組員の多くは船内の “citadel”(安全区画)に鍵をかけて閉じ籠もるなどの自衛措置をとることによって、乗り込んだ海賊がハイジャックを諦めて逃亡した事案である。その後、該船は付近を哨戒中の各国海軍戦闘艦に救出されている。一方、海賊が逃亡しなかった場合には、武力による解放に繋がるケースもある。

注*:インド沿岸警備隊巡視船、ICGS Varuna は6月23日、インド南西のラクシャドウィープ諸島西方沖250カイリ余の海域で、ソマリア海賊に放棄されたイランの漁船、FV Al Husaini の乗組員16人(イラン人13人とパキスタン人3人)を救出した。イランのチャーバハール港を出港した漁船は、5月16日にスコトラ島沖でソマリアの海賊にハイジャックされた。海賊は、漁船を25日間母船として使用した後、6月10日に燃料と食料を奪って下船し、漁船を放棄した。インド沿岸警備隊は21日に救援を要請され、ICGS Varuna が現場海域に向かった。また沿岸警備隊は、コーチンから航空機を発進させ、21日に漁船を発見した。ICGS Varunaは22日までに現場海域に到着し、乗組員を救出した後、コーチンまで漁船を護衛した。(The Times of India, June 23, 2013)

**:EU艦隊所属のスウェーデン海軍フリゲート、HSwMS Carlskronaは6月5日、NATO艦隊所属のオランダ海軍フリゲート、HNLMS Van Speijkと共に、5日朝にアデン湾でソマリアの海賊にハイジャックされたインドのダウ船、Shahe Faize Nooriを救出した。ダウ船の船長が5日朝に12人の海賊に襲撃されているとの救難信号を発し、付近の海域にいたHSwMS Carlskronaがダウ船を発見し、同じく付近にいたNATO艦隊のHNLMS Van Speijkと共にダウ船の追尾を開始した。HSwMS Carlskronaの艦載ヘリが上空から監視する中、海賊は逃亡するためにダウ船の船長にソマリア沿岸近くへ航行するよう命じ、夜陰に紛れて逃亡した。14人の乗組員は全員無事で負傷者はいなかった。(EUNAVFOR, Somalia, June 6, 2013)

2.2012年のハイジャック事案中、未解放事案の状況(2013年7月31 日現在)

参考資料2

出典:”Piracy And Armed Robbery Against Ships: Report for the Period, 1 January – 31 December 2012,” ICC International Maritime Bureau (IMB), January, 2013, pp.56-58., EU NAVFOR Somalia HP.,及びその他の報道資料から作成。
備考:Position、Boardedについては、前記表1の備考1、2に同じ。

注*:EUNAVFORによれば、2010年11月26日にハイジャックされた、マレーシア籍船のコンテナ船、MV Albedoは2013年7月8日、ソマリア沿岸沖で荒波の中、沈没したが、EUNAVFORの戦闘艦と艦載ヘリが行方不明者を捜索していたが、7月17日、沈没したMV Albedo の船尾上部構造物とオマーンの漁船、FV Naham 3 がロープで繋がれているのを発見。ヘリからの写真によれば、FV Naham 3の上甲板に武装した者がおり、該船は海賊に拘束下にあることが確認されたが、MV Albedo とFV Naham 3の乗組員は見当たらなかった。(EUNAVFOR, Somalia, July 18, 2013) EUNAVFORの艦載ヘリは7月27日、FV Naham 3がソマリア沖を自力で北に向っていることを確認した。EUNAVFORの最新写真では、FV Naham 3はソマリア中部のガルムドゥグ沖に錨泊している。人質となっている乗組員の解放交渉が続けられていると見られているが、人質の居場所は確認されていない。(EUNAVFOR, Somalia, July 28, 2013)

3.2011年のハイジャック事案中、未解放事案の状況(2013年7月31 日現在)

参考資料3

出典:”Piracy And Armed Robbery Against Ships: Report for the Period, 1 January – 31 December 2011,” ICC International Maritime Bureau (IMB), January 18, 2012, pp.60-71., Worldwide Threat to Shipping Report (Office of Naval Intelligence Civil Maritime Analysis Department, U.S. Navy)., EU NAVFOR Somalia HP., and Somalia Report. 及びその他の報道資料から作成。
備考:Position、Boardedについては、前記表1の備考1、2に同じ。

4.2010年のハイジャック事案中、未解放事案の状況(2013年7月31 日現在)

参考資料4
出典:”Piracy And Armed Robbery Against Ships: Report for the Period, 1 January – 31 December 2010,” ICC International Maritime Bureau (IMB), January 2011, pp.57-65., Somali Marine & Coastal Monitor (Ecottera International)., Worldwide Threat to Shipping Report (Office of Naval Intelligence Civil Maritime Analysis Department, U.S. Navy)., EU NAVFOR Somalia HP., List of Ships Hijacked (U.S. Department of Transportation Maritime Administration)., and Somalia Report. 及びその他の報道資料から作成。
備考:Positionについては、前記表1の備考1に同じ。

注*:EUNAVFORは2013年7月9日、該船は7月8日、ソマリア沿岸沖で荒波の中、沈没したと発表した。ハラルデーレを拠点とする海賊からの通報によれば、該船は1週間前から徐々に沈み始め、8日に完全に沈没し、乗組員4人と海賊7人が死亡したという。彼の話によれば、該船の船長は既に死亡しており、4人の乗組員は該船から離れていた、残りの14人の行方は不明という。 (EUNAVFOR Somalia, July 9, Colombo Gazette.com, Reuters, July 9, 2013)
EUNAVFORの戦闘艦と艦載ヘリが捜索・救助活動を行っていたが、7月17日、沈没したMV Albedo の船尾上部構造物と2012年3月26日にハイジャックされた、オマーンの漁船、FV Naham 3 がロープで繋がれているのを発見。ヘリからの写真によれば、FV Naham 3の上甲板に武装した者がおり、該船は海賊に拘束下にあることが確認されたが、MV Albedo とFV Naham 3の乗組員は見当たらなかった。(EUNAVFOR, Somalia, July 18, 2013)

EUNAVFORの艦載ヘリは7月27日、FV Naham 3がソマリア沖を自力で北に向っていることを確認した。EUNAVFORの最新写真では、FV Naham 3はソマリア中部のガルムドゥグ沖に錨泊している。人質となっている乗組員の解放交渉が続けられていると見られているが、人質の居場所は確認されていない。(EUNAVFOR, Somalia, July 28, 2013)

**:ソマリア政府の2013年1月11日の発表によれば、2010年12月以来ソマリアの海賊に拘束されていた、該船の乗組員の内、3人のシリア人が身代金なしに解放された。残りの乗組員3人は依然拘束されている。2012年8月には、身代金支払いが遅れていることを理由に乗組員1人が海賊により射殺されている。(Qurbejoog.com, AP, January 12, and The Maritime Executive, January 14, 2013)

(2013年8月15日配信【海洋情報特報】より)