我が国における海洋安全保障への取り組みと今後の課題

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―第2期海洋基本計画の評価を機縁として―


小森雄太, 笹川平和財団海洋政策研究所 研究員

1.はじめに

 2007427日に制定された海洋基本法は、「地球の広範な部分を占める海洋が人類をはじめとする生物の生命を維持する上で不可欠な要素であるとともに、海に囲まれた我が国において、海洋法に関する国際連合条約その他の国際約束に基づき、並びに海洋の持続可能な開発及び利用を実現するための国際的な取組の中で、我が国が国際的協調の下に、海洋の平和的かつ積極的な開発及び利用と海洋環境の保全との調和を図る新たな海洋立国を実現することが重要であることにかんがみ、海洋に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにし、並びに海洋に関する基本的な計画の策定その他海洋に関する施策の基本となる事項を定めるとともに、総合海洋政策本部を設置することにより、海洋に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって我が国の経済社会の健全な発展及び国民生活の安定向上を図るとともに、海洋と人類の共生に貢献すること」(第1条)を目的としている。

 この目的を達成するために、海洋基本法は「政府は、海洋に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、海洋に関する基本的な計画(以下「海洋基本計画」という。)を定めなければならない。」(第16条第1項)と規定し、具体的な内容として、「海洋に関する施策についての基本的な方針」や「海洋に関する施策に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策」、「前二号に掲げるもののほか、海洋に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項」を挙げている(第16条第2項)。また、「内閣総理大臣は、海洋基本計画の案につき閣議の決定を求めなければならない。」(第16条第3項)と規定するとともに、「内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、海洋基本計画を公表しなければならない。」(第16条第4項)と規定し、政府全体として積極的に実施することも規定している。

 そして、「政府は、海洋に関する情勢の変化を勘案し、及び海洋に関する施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね五年ごとに、海洋基本計画の見直しを行い、必要な変更を加えるものとする。」(第16条第5項)と規定するとともに、「政府は、海洋基本計画について、その実施に要する経費に関し必要な資金の確保を図るため、毎年度、国の財政の許す範囲内で、これを予算に計上する等その円滑な実施に必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」(第16条第7項)と規定し、時代の変化に対応した計画であるための取り組みを政府に義務付けている。

 本稿は、現行の海洋基本計画(以下「第2期海洋基本計画」とする)が20134月の改訂からまもなく5年を迎え、海洋基本法に規定されている改訂時期が差し迫っていることを踏まえ、第2期海洋基本計画が策定された20134月以降に実施された施策について、政府が毎年発表している「海洋の状況及び海洋に関して講じた施策(以下「年次報告」とする)をもとに概観するとともに、笹川平和財団海洋政策研究所が20171月に実施した第2期海洋基本計画評価作業の報告(以下「評価作業報告」とする)をもとに検討を行い、第2期海洋基本計画における海洋安全保障に関する取り組み状況を考察し、第3期海洋基本計画の策定に向けた課題と展望を考察する[1]

2.第2期海洋基本計画における海洋安全保障

2-1.第2期海洋基本計画の概要

 海洋基本法における規定を踏まえ、20083月に策定されたのが海洋基本計画(以下「第1期海洋基本計画」とする)である。第1期海洋基本計画は、総論において、「海洋と我々との関わり」や「我が国の海洋政策推進体制」、「本計画における政策目標及び計画期間」を明示するとともに、第1部(海洋に関する施策についての基本的な方針)において、「海洋の開発及び利用と海洋環境の保全との調和」や「海洋の安全の確保」、「科学的知見の充実」、「海洋産業の健全な発展」、「海洋の総合的管理」、「海洋に関する国際的協調」という基本方針を掲げている。また、第2部(海洋に関する施策に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策)において、政府が具体的に実施すべき施策として、「1 海洋資源の開発及び利用の推進」、「2 海洋環境の保全等」、「3 排他的経済水域等の開発等の推進」、「4 海上輸送の確保」、「5 海洋の安全の確保」、「6 海洋調査の推進」、「7 海洋科学技術に関する研究開発の推進等」、「8 海洋産業の振興及び国際競争力の強化」、「9 沿岸域の総合的管理」、「10 離島の保全等」、「11 国際的な連携の確保及び国際協力の推進」、「12 海洋に関する国民の理解の増進と人材育成」を挙げるとともに、第3部(海洋に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要なその他の事項)において、海洋政策を実施するために必要な取り組みとして、「1 海洋に関する施策の効果的な実施」や「2 関係者の責務及び相互の連携・協力」、「3 施策に関する情報の積極的な公表」を挙げている。

 第1期海洋基本計画は、策定から約4年を経た2012年頃から改定に向けた検討が行われ、民間団体からの政策提言等も多数発表された[2]。政府においても、内閣官房の総合海洋政策本部に「海洋に関する施策に係る重要事項を審議し、総合海洋政策本部長に意見を述べる。」(総合海洋政策本部令第1条第2項)ことを目的として、「優れた識見を有する者」(同令第1条第4項)から構成される参与会議を設置し、第2期海洋基本計画策定に向けた検討を実施した。検討の結果については、「新たな海洋基本計画の策定に向けての意見」として取りまとめられ、20121127日に当時の野田佳彦内閣総理大臣に提出された。

 これらの知見に加え、20083月に閣議決定された第1期海洋基本計画の実施状況、「東日本大震災等を踏まえたエネルギー戦略の見直しや防災対策強化の動き」や「海洋の開発・利用への期待の高まり」、「海洋権益保全等をめぐる国際情勢の変化」、「その他社会情勢等の変化」をはじめとする「海洋をめぐる社会情勢等の変化」を踏まえ、20134月に閣議決定されたのが第2期海洋基本計画である。

 第2期海洋基本計画は、総論と第1部から第3部までの構成となっており、総論においては、「国際協調と国際社会への貢献」や「海洋の開発・利用による富と繁栄」、「『海に守られた国』から『海を守る国』へ」、「未踏のフロンティアへの挑戦」といった「海洋立国日本の目指すべき姿」や「海洋基本計画策定の意義」が述べられている。また、第1部においては、本計画を含む「海洋に関する施策についての基本的な方針」として、「海洋政策をめぐる現状と課題」や「本計画において重点的に推進すべき取組」、「本計画における施策の方向性」が規定され、第2部においては、「海洋に関する施策に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策」として、「1 海洋資源の開発及び利用の推進」や「2 海洋環境の保全等」、「3 排他的経済水域等の開発等の推進」、「4 海上輸送の確保」、「5 海洋の安全の確保」、「6 海洋調査の推進」、「7 海洋科学技術に関する研究開発の推進等」、「8 海洋産業の振興及び国際競争力の強化」、「9 沿岸域の総合的管理」、「10 離島の保全等」、「11 国際的な連携の確保及び国際協力の推進」、「12 海洋に関する国民の理解の増進と人材育成」が第1期海洋基本計画と同様に規定されている。そして、第3部においては、「海洋に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項」として、「1 施策を効果的に推進するための総合海洋政策本部の見直し」や「2 関係者の責務及び相互の連携」、「3 施策に関する情報の積極的な公表」が規定されている。

2-2.第2期海洋基本計画における海洋安全保障と策定後の取り組み

 前述のような構成となっている第2期海洋基本計画において、海洋安全保障に関する規定と考えられるのは、「3 排他的経済水域等の開発等の推進」、「5 海洋の安全の確保」及び「10 離島の保全等」である。これらの事項について、第2期海洋基本計画においては、それぞれ下記のように規定している【表1】

【表1】第2期海洋基本計画における海洋安全保障に関する取り組みの規定

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 上記のような第2期海洋基本計画における規定を具体化するために、第2期海洋基本計画が策定された20134月以降、下記の取り組みが実施されている【表2】

【表2】につきましては、PDF版をご参照下さい)

 このように、第2期海洋基本計画の策定後も海洋安全保障に関する取り組みは、各省庁において、改善の余地あるいは実施スピードの差異はあるものの、精力的に実施されている。これらの取り組みについて、海洋政策に精通した有識者がどのように評価したのかについて、以下で概観する。

3.第2期海洋基本計画の評価

3-1.評価作業報告の意義

 前述のように、第2期海洋基本計画が閣議決定された20134月に先立ち、官民問わず、さまざまな組織あるいは有識者から第1期海洋基本計画における取り組みの評価やそれを踏まえた第2期海洋基本計画の策定に向けた政策提言や研究報告が発表された。一方、現在策定が進められている第3期海洋基本計画について、その基礎的作業である第2期海洋基本計画の評価が十分に行われているとは言い難いのが実情である。

 しかしながら、本稿冒頭で述べたように、海洋基本法は、「政府は、海洋に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、海洋に関する基本的な計画(以下「海洋基本計画」という。)を定めなければならない。」(第16条第1項)ことを規定するとともに、「政府は、海洋に関する情勢の変化を勘案し、及び海洋に関する施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね五年ごとに、海洋基本計画の見直しを行い、必要な変更を加えるものとする。」(第16条第5項)と規定し、この規定に基づき、201112月から検討作業が始まり、20134月には初めての改訂が行われ、第2期海洋基本計画が閣議決定されている。そのため、その改訂作業の基礎的な知見である第2期海洋基本計画に基づく取り組みの評価を得ることは、第2期海洋基本計画の策定において必須である。

3-2.評価作業報告の概要

 前述のような背景を踏まえ、第3期海洋基本計画の策定に学術的な貢献を行うべく、笹川平和財団海洋政策研究所は、最初の改訂の時期を踏まえ、2018年春頃に2回目の改訂が行われることを想定し、笹川平和財団海洋政策研究所が設置している総合的海洋政策研究委員会の助言と指導の下、その改訂作業における基礎的作業となり得る第2期海洋基本計画の評価に係るアンケート調査を20171月に実施した[3]

※第2期海洋基本計画評価アンケート調査(概要)

①時期・対象:評価作業は以下の要領で実施した。なお、送付した調査票等については、本資料別紙(第2期海洋基本計画評価シート)を参照されたい。

実施時期:2017113日(金)発送、同年131日(火)締切

調査対象:笹川平和財団海洋政策研究所主催研究委員会(ワーキンググループを含む)

委員(65名)

②評価方法:予備調査票、回答票、自由記入票および参考資料(平成28年版海洋の状況及び海洋に関して講じた施策)を配布し、以下の基準に従い、順次回答する方式を採用した(回答者の専門分野または関心分野についても併せて回答を求め、それ以外の設問に対しては、回答を求めないものとした)。なお、採点基準については、下記を参照されたい。

調査票採点基準

1:ほとんど取り組まれていない

2:あまり取り組まれていない

3:ある程度取り組まれている

4:十分取り組まれている

③回収総数/回収率:送付機関数および回答返送機関数(201732日現在)は下記を参照されたい。なお、全体の回収率は43.1%であった。

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 調査においては、第2期海洋基本計画に規定されている12の基本的施策に対して、「専門家である」、「専門家ではないが関心がある」、「専門家ではなく関心もない」という予備的な質問を回答者に行っているが、この作業を加えることにより、回答者の属性毎の分析を可能としたことが大きな特徴である。この調査結果をグラフにしたものが下記「施策毎の評価」および「施策毎の回答数」である(【図1】および【図2】)。

【図1】および【図2】につきましては、PDF版をご参照下さい)

 また、各施策において規定されている項目についても質問を行い、取りまとめたものが「施策項目毎の評価」および「施策項目毎の回答数」である(【図3】および【図4】)。

【図3】および【図4】につきましては、PDF版をご参照下さい)

3-3.海洋安全保障に関する取り組みへの評価

 【図1】を見ると、「3 排他的経済水域等の開発等の推進」に関する取り組みについて、関心がある有識者から高い評価を得ているが、「5 海洋の安全の確保」や「10 離島の保全等」に関する取り組みについて、専門家から高い評価を得ていることが明らかとなる。

 この傾向のうち、「3 排他的経済水域等の開発等の推進」に関しては、【表2】を見ると明らかなように、大陸棚での資源開発やそれに関する周辺国との外交交渉、外国漁船による違法・無報告・無規制(IUU)漁業への対応などといったマスメディアで取り上げられやすい、或いは一般的に認知されやすい施策が多く、その結果として、関心のある有識者からの評価が高かったと考えられる[4]

 一方、「5 海洋の安全の確保」や「10 離島の保全等」については、「3 排他的経済水域等の開発等の推進」と比較すると、一般的に認知されているとは言い難い施策が多い。これについて、同様の傾向が見られる「9 沿岸域の総合的管理」の評価結果に対し、「有識者調査で特に専門家からの評価点が高く、関心ある回答者から低い評価を得ていた施策について、実施事例が十分に認知されていないことが原因となっている可能性が示唆された。」という指摘が既になされていることを踏まえると、同様の理由であると考えられる[5]

 また、本調査においては、「第2期海洋基本計画評価作業報告(自由記述概要)」として、個々の設問に関する自由記述の概要が掲載されており、「5 海洋の安全の確保」については、「東アジア・東南アジア海域における対応や海賊・海上武装強盗に対する対応は着実に進められているが、Oil Lineとなるペルシア湾・インド洋での「有事」対応や予防的方策についての対応が不可欠。」や「いわゆる「グレーゾーン事態」におけるシームレスな対応のための海上安全保障のシステム構築が必要。」、「北極問題について海上安全保障の観点が欠如している。」といった意見が、「10 離島の保全等」については、「遠隔離島について、「利用」(水産資源、海底鉱物資源開発)が前面に出ているが、「保全」を前面に出して、その上でその持続可能な利用をはかることが望ましい。」という意見がそれぞれ寄せられている。これらの回答を踏まえると、取り組みの背景や実態を把握している専門家は、厳しい指摘を寄せているものの、個々の施策を高く評価していると結論付けられる(「3 排他的経済水域等の開発等の推進」に関する記述は記載なし)。

4.おわりに

 本稿は、現行の海洋基本計画(以下「第2期海洋基本計画」とする)が20134月の改訂からまもなく5年を迎え、海洋基本法に規定されている改訂時期が差し迫っていることを踏まえ、第2期海洋基本計画における海洋安全保障に関する取り組み状況を概観し、我が国における海洋安全保障の課題と今後の展望を考察することを目的として検討を行ってきた。

 その結果、「3 排他的経済水域等の開発等の推進」に関する取り組みについては、関心がある有識者から、「5 海洋の安全の確保」や「10 離島の保全等」に関する取り組みについては、専門家から高い評価を得ていることを明らかにし、その要因として個々の施策の認知度合いが挙げられることを指摘した。これらの知見を踏まえ、今後取り組むべき海洋安全保障に関する取り組みについて、若干の私見を述べたい。

 201747日に開催された第16回総合海洋政策本部会合において、第3期海洋基本計画策定に向けての方向性が提示された。同会合においては、2017330日に安倍晋三内閣総理大臣に手交された『総合海洋政策本部参与会議意見書』の内容を踏まえた検討が行われたが、安倍総理大臣より「本日、次期海洋基本計画の策定に向けた検討を始めることとしました。海洋基本法制定から10年がたちます。周辺海域での外国公船等の領海侵入など、我が国の海洋を巡る情勢は一層厳しさを増しています。 我が国が海洋国家として、平和と安全、海洋権益を守り、開かれた安定した海洋を維持・発展させていくためには、時代や環境の変化に目を凝らしながら、固い決意をもって、長期的、体系的な対策を講じていかなければなりません。次期海洋基本計画では、海洋の安全保障を幅広く捉えて取上げ、領海警備、治安の確保、災害対策等の課題への取組を強化していきます。 海上保安体制の強化はもとより、様々な脅威・リスクの早期察知に資する海洋状況把握(MDA)体制の確立や、国境離島の保全・管理に万全を期してまいります。エネルギー・資源の安定供給を確保するため、メタンハイドレートなどの海洋資源開発の商業化に向けて取り組むとともに、海洋環境の保全や人材育成等に取り組みます。各閣僚は、こうした課題について、連携して具体的な検討を進めてください。本日は、有人国境離島法に基づく基本方針を了承しました。各閣僚はこの方針に基づき、当該離島地域で転入が転出を上回るよう、連携して、効果的な施策を講じてください。」という意見が表明され[6]、第3期海洋基本計画において、海洋安全保障を重視することが明示された。

 また、同会合で配布された資料1(次期海洋基本計画の策定について)の別添1(次期海洋基本計画の策定に当たっての基本的考え方について(総合海洋政策本部参与会議意見書概要))において、第3期海洋基本計画における主要テーマ案として、「海洋の安全保障(海洋に関する広義の安全保障)」や「海洋の産業利用の促進」、「海洋環境の維持・保全・海洋人材の育成等」、「その他(海洋観測、海洋科学技術、国際連携・国際協力、北極政策等)」が挙げられるとともに、第3期海洋基本計画の検討体制案も提示された【図5】

【図5】次期計画の検討体制案

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 そして、「次期計画策定に当たって考慮すべき事項(計画の構成、書き方等)」として、「海洋に親しみやすい内容を盛り込み、分かりやすい記述とする。計画の構成も、主要テーマに沿って、分かり易いものとする。」ことや「現行計画に関する評価を盛り込み、また、計画期間の5年を超えた例えば10年先といった長期的視点や、普遍的な理念・方向性にも留意する。」こと、「計画に定める施策については、具体的な目標を設定。」することが提示された。

 このように、第3期海洋基本計画においては、海洋安全保障に重点を置くという方向性が提示されたが、その意味するところは、軍事的安全保障に代表される伝統的安全保障よりも非伝統的安全保障を重視するということであり、特に第3期海洋基本計画策定に向けた実務を担う総合海洋政策本部参与会議を構成する参与のうち、伝統的安全保障に精通した有識者が1名(古庄幸一元海上幕僚長)であることを踏まえると、この傾向は顕著である[7]。また、海洋安全保障の確立において、軍事的安全保障を第一義的に担う防衛省や自衛隊のより積極的な関与も重要な課題であるが、最新の『平成29年版防衛白書』においても、「5 海洋安全保障の確保に向けた取組(第3部第1章第2節)」や「3 アジア太平洋地域における取組(第3部第2章第2節)」において言及されるのみで、各省庁による有機的な連携はまだまだ発展の余地があるというのが現状である。そして、朝鮮半島における政治情勢の変化をはじめとする、東アジア地域における安全保障環境の変容に対応することも急務である。

 そのため、第3期海洋基本計画策定においては、非伝統的安全保障への対応のみならず、伝統的安全保障にも配慮することが我が国内外の情勢に確実に対応するためには必須である。これについて、海洋問題世界委員会(IWCOIndependent World Commission on the Oceans)副会長を務めたエリザベス M. ボルゲーゼ(Elisabeth Mann Borgese)が「国連海洋法条約と海軍は離婚した状態にある。健全な海軍力による貢献なくして海洋の平和はあり得ない」と海洋安全保障の重要性を指摘しているように[8]、この課題は第3期海洋基本計画に限った課題ではなく、我が国を含む世界の海洋政策の基盤である国連海洋法条約自体が孕んでいる重要な課題でもある。第3期海洋基本計画がこの重要な課題を解決するための処方箋或いは羅針盤となることを期待したい。

付記:本稿脱稿後の20171218日に総合海洋政策本部参与会議より「第3期海洋基本計画策定に向けた総合海洋政策本部参与会議意見書」と題した意見書が提出された。本意見書においては、第3期海洋基本計画において「主要テーマとして取り上げる事項」として、「(1)海洋の安全保障」を挙げるとともに、「時宜を得た主要テーマ及び継続的に重要性を持つテーマとして取り上げる事項」として、「離島の振興」や「排他的経済水域等の開発等」を挙げ、安全保障を重視した海洋基本計画とすべきであると主張されている。しかし、全体としては伝統的安全保障よりは非伝統的安全保障を重視すべきというこれまでの取り組みを発展させることに主眼を置いた内容となっているため、今後も海洋安全保障における伝統的安全保障のあり方については、検討を行う必要があると思料する。



[1] 2期海洋基本計画に基づく取り組みに対する評価について、日本沿岸域学会が学会誌『沿岸域学会誌』第29巻第4号において、「海洋基本計画の改訂に向けて」と題した特集論文を掲載し、多様な視点からの現計画の評価と次期計画に向けた提言や論点を提示している。また、日本海洋政策学会が設置した課題研究グループ(研究課題名:旧新海洋基本計画および各年次報告の内容に関する研究―国により講じられた海洋関連施策の多面的検討―)においても、年次報告を基に有識者による評価作業が実施され、その成果に基づく政策提言が2017711日に発表されている。日本海洋政策学会課題研究「新旧海洋基本計画および年次報告に関する研究」グループ「第3期海洋基本計画の策定に関する提言」http://oceanpolicy.jp/jsop/1top/201707-sinnkyuukihonkeikaku-teigen.pdf2017731日検索)。

[2] 1期海洋基本計画の改定に際し、発表された政策提言等としては、海洋基本法戦略研究会「次期海洋基本計画に盛り込むべき施策の重要事項に関する提言」(2012831日)や国土交通省海洋政策懇談会「国土交通省海洋政策懇談会報告書―真の海洋国家を目指して―」(20123月)、文部科学省科学技術・学術審議会海洋開発分科会「次期海洋基本計画策定に向けた検討(中間まとめ)―海洋の持続的利用に向けた海洋フロンティア開拓戦略」(2012823日)、日本経済団体連合会「新たな海洋基本計画に向けた提言」(20127月)、東京大学政策ビジョン研究センター及び同海洋アライアンス「海洋基本計画の見直しに向けた提言」(2012913日)などが挙げられる。原井直子(20133月)「我が国の海洋基本計画の見直し」国立国会図書館調査及び立法考査局『海洋開発をめぐる諸相(科学技術に関する調査プロジェクト調査報告書)』所収27-51頁。

[3] 本調査の詳細については、下記を参照されたい。笹川平和財団海洋政策研究所(20173月)『2016年度総合的海洋政策の策定と推進に関する調査研究 我が国における海洋政策の調査研究報告書』。また、本調査の概要については、下記を参照されたい。海洋政策研究所ブログ(20175月)「海のジグソーピース No.30 <第2期海洋基本計画の評価作業> 」(http://blog.canpan.info/oprf/archive/1666)。

[4] ただし、【図2】を見ると明らかなように、「3 排他的経済水域等の開発等の推進」と「5 海洋の安全の確保」や「10 離島の保全等」の回答数が大きく異なっていることも評価の数値に影響を与えた可能性として考慮する必要はある。

[5] 古川恵太他(20177月)「第2期海洋基本計画の評価から見えてきた沿岸域の総合的管理の推進に関する今後の課題」平成29年度日本沿岸域学会研究討論会講演原稿集。

[6] 首相官邸ウェブサイト(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaiyou/kaisai.html)(2017731日検索)。

[7] 201741日現在の総合海洋政策本部参与は下記の通り(古庄参与を除く)。宮原耕治一般社団法人日本経済団体連合会前副会長(参与会議座長)、髙島正之横浜港埠頭株式会社顧問(参与会議座長代理)、浦環九州工業大学社会ロボット具現化センター長、兼原敦子上智大学法学部教授、佐藤愼司東京大学大学院教授、前田裕子国立研究開発法人海洋研究開発機構監事/京都府立医科大学特任教授、水本伸子株式会社IHI執行役員調達企画本部長、大和裕幸国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所理事長、鷲尾圭司国立研究開発法人水産研究・教育機構理事(水産大学校代表)、尾形武寿公益財団法人日本財団理事長(参与会議特別委員)。

[8] 高井晉他(19986月)「海上防衛力の意義と新たな役割―オーシャンピース・キーピングとの関連で―」『防衛研究所紀要』第1巻第1 106-129頁。