再考:米国の大戦略の今後

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~ミアシャイマー・ウォルト論文から~


関根 大助,日本安全保障戦略研究所 研究員

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はじめに

筆者が『海洋安全保障情報季報』第13号に寄稿した「米国の大戦略の今後を考える」(以下、第13号拙稿)では、米国の大戦略(grand strategy)の類型の一つであるオフショア・バランシング(offshore balancing、広義では、米軍の海外の軍事プレゼンスを縮小し、安全保障に関して同盟国により大きな負担をさせ、状況によっては米国が積極的に他地域に軍事介入するような大戦略と考えることができる)を中心に取り上げ、米国の今後の外交・安全保障政策が過去と比較して予測し難いため、それに柔軟に対応する必要性を論じた。一方、第13号拙稿が発表されたのとほぼ同じ時期に、米国の国際政治学者であるシカゴ大学特別功労教授ジョン・ミアシャイマー(John Mearsheimer)とハーバード大学教授スティーブン・ウォルト(Stephen Walt)によって書かれた"The Case for Offshore Balancing: A Superior U.S. Grand Strategy"と題する論文が、米誌『フォーリン・アフェアーズ』(Foreign Affairs July/August 2016)において発表された。この論文の内容は、二人の学者による今まで米国が実行してきた大戦略の評価、オフショア・バランシングに対する基本的な考え、そして、今後オフショア・バランシングをどのように実行するべきかについて包括的に論じ、リアリストの大戦略であるオフショア・バランシングがいかに優れたものであるかについて説明を試みたものである。

ミアシャイマーとウォルトの二人は、リアリストの中でも、国際関係の分析アプローチとして、パワーの分布によって定義される国際システムの構造によって、国家行動を説明するネオリアリズム(neorealism:構造的リアリズム(structural realism))を用いる学者である。ミアシャイマーは、オフェンシブ・リアリズム(offensive realism、国家はパワーの最大化を目指し、覇権の達成が最終的な目標となると考える理論)とオフショア・バランシングを論じた『大国政治の悲劇』を執筆している。他方、ウォルトは、オフショア・バランシングについてミアシャイマーと比較すると詳細に論じているわけではないが、様々な媒体で述べられている米大戦略とオフショア・バランシングに対する彼の見解は、ミアシャイマーの解釈と似ているものだった。米大戦略に関する各専門家の見解は多様だが、今回両者が連名で論文を発表したことにより、オフショア・バランシングの解釈については二人の見解がほぼ一致することが明確になった。そして、世界的に著名なリアリスト二人が、注目度が非常に高いフォーリン・アフェアーズで、保守派からも進歩派からも何かと批判される傾向にあるオフショア・バランシングの採用を主張する論文を発表したため、すぐさま専門家たちの反応を呼んだ。

米大統領候補の話題が尽きないこの時期を狙ったかのように発表された彼らの論文だが、この戦略に関する議論はわかりづらい上に、背景もやや複雑である。したがって、次期米政権の外交・安全保障政策を検討する上でも、あらためてオフショア・バランシングを論じて見識を深めることには意義がある。ミアシャイマー・ウォルト論文とそれをめぐる議論を通じて、オフショア・バランシングに関する議論に象徴される国内外の情勢の変化に対する米国の姿勢について理解し、そのうえで、米国にとってより有効な大戦略について考察することが本稿の目的である。

本稿では、内容を大きく三つに分ける。一つ目は、ミアシャイマー・ウォルト論文の内容に焦点を当て、この論文のオフショア・バランシングに関する説明の要点を抜粋・編集してまとめる。

二つ目に、オフショア・バランシング論が活発になったことに象徴される、国内外の情勢の変化に対応することへの米国の葛藤に焦点を当てる。そこではまず、オフショア・バランシング的な戦略には、ミアシャイマーやウォルトの主張とは異なる、他の専門家による多様な意見が存在することを説明し、それらに対する米国内での主な批判を紹介する。次に、リアリストの戦略であるオフショア・バランシング的戦略の米国での受け止められ方について論じる。最後に、米国内において価値判断が錯綜しているため、現在、国家全体としては外交姿勢に迷いがあることを論じる。

三つ目に、米国の立場から、ミアシャイマーとウォルトのオフショア・バランシング論の修正を試み、米大戦略にとってのグローバル・コモンズの重要性と他国との間における持続的な相互関与の必要性を論じる。

Ⅰ ミアシャイマー・ウォルト論文におけるオフショア・バランシング論

1 「リベラル・ヘゲモニー」の失敗

論文の冒頭で、ミアシャイマーとウォルトは、米国人が過去四半世紀の米国の大戦略に嫌気がさしていることを説明している。二人によると、それは、現在までの米大戦略が失敗して、アジア、ヨーロッパ、中東の情勢を悪化させ、米国によるその強引なやり方は、人権と国際法の守護者としての米国のイメージを傷つけたからである。

冷戦終結までの1世紀近く、オフショア・バランシングは、危険な地域覇権国の登場を防ぎ、米国の安全保障を強化するグローバルな勢力均衡を維持したが、この戦略から逸脱し、米国に重要な利益が無かったベトナムで戦争を行ったのは大きな失敗であった、と二人は指摘している。そして、オフショア・バランシングを放棄した冷戦後の湾岸戦争後のアプローチは、二人にとっては米国による外交・安全保障政策の失敗の歴史である。

彼らによると、冷戦後ヨーロッパにおいては、米国は、着実にその軍事プレゼンスを減らし、ロシアとの友好関係を深め、ヨーロッパの安全保障をヨーロッパ人に引き渡すべきだった。そうはせずに、米国はNATOを拡大し、ロシアの利害関係を無視し、ロシアを追い詰めてしまった。

そして、中東において、米国は、湾岸戦争後にオフショアに後退し、イランとイラクをお互いにパワーの均衡を保つようにさせるべきだったが、クリントン政権は、イランとイラクを同時に抑制するために「二重の封じ込め」(dual containment)政策を採用した。さらに、ブッシュ(ジュニア)政権は、「リージョナル・トランスフォーム」(regional transform)と呼ばれる野心的な戦略によって、アフガニスタンとイラクで犠牲の大きい失敗を引き起こした。オバマ政権も、リビアのカダフィ政権の転覆を支援した時、そして、シリアでの混乱を悪化させた時、その誤りを繰り返してしまった。

そして、これらの誤りは、米国が長年追求してきた、「リベラル・ヘゲモニー」(liberal hegemony)というグローバルな問題の解決を目的としただけでなく、米国の価値観に基づいた世界秩序を促進することも目的としてパワーを用いる、見当違いの大戦略が原因であると二人は強調する。そして、そのような強引な民主主義の普及はほとんど機能せず、平和を推進するよりもむしろ、米国は結局終わりのない戦争を戦うことになると二人は述べている。そして、もし米国の人々が、自由民主主義の普及を奨励したいならば、米国がよい手本を示し、他の国々が、米国を豊かで自由な社会だと判断すれば、彼らは、米国を今より見習うようになると説明している。

この論文では、米大戦略の類型として、リベラル・ヘゲモニーや選択的関与(selective engagement、この論文の中の説明では、単にトラブルが発生することを防ぐために、ヨーロッパ、北東アジア、ペルシャ湾に大規模な米軍を保持する大戦略)の問題点について取り上げている。リベラル・ヘゲモニーではなく、選択的関与を採用しても、米国の指導者は民主主義を広める誘惑に激しく駆られるため、結局、それはリベラル・ヘゲモニーになってしまい、この二つの大戦略は、現実では区別が無くなると述べている。また、選択的関与によって世界中に米軍を配備しても、同盟国の無謀な行動やその米軍自身によって多くの争いに巻き込まれるとしている。

2 オフショア・バランシングの目的

ミアシャイマーとウォルトが説明するオフショア・バランシングの目的をまとめると以下のようになる。

①オフショア・バランシングの主たる関心事は、正に米国を可能な限りパワフルでこの世界で支配的な国家のままにすることであり、とりわけ西半球における覇権を維持することが重要である。

②平和の推進は望ましいものだが、この大戦略の目的には含まれない。

③世界の秩序を守るわけではないが、それは、世界で唯一の超大国であるという米国の地位を放棄する、または「アメリカ要塞」(Fortress America)へと後退することを意味しない。むしろ、米国の力を節約することによって、オフショア・バランシングは、遥か未来まで米国の優位を維持し、本国での自由を守る。

④孤立主義者とは異なり、オフショア・バランサーは、西半球の外側には、防衛する価値のある地域が存在すると考える。この戦略を実行することによって、ワシントンは、米国の西半球の支配と、ヨーロッパ、北東アジア、ペルシャ湾における潜在覇権国に対抗するという本当に重要な問題に専念する。

⑤ヨーロッパと北東アジアでの主な関心事は、その地域を支配する地域覇権国の台頭である。このような国家は、豊かな経済力、高度な兵器類を開発する能力、世界中に戦力投射を行う潜在的な能力などをもつ。そして、西半球の諸国家と同盟を結び、米国の国土の近くに干渉する可能性すらある。したがって、西半球に手を出せないようにするためこれらの地域の勢力均衡を維持する。

⑥一方で、ペルシャ湾においては、米国は、石油の取引を妨げ、世界経済と米経済に悪影響を与える可能性のある覇権国の台頭を阻止することに関心がある。

3 オフショア・バランシングの方法

13号拙稿で説明したように、ミアシャイマーのオフショア・バランシングは状況によって直接的なバランシングとバック・パッシング(buck-passing、責任を押し付ける)を使い分ける戦略である(しかし、この二人の論文では、バック・パッシングという用語は使われていない)。この二人の論文で説明されたオフショア・バランシングの方法をまとめると以下のようになる。

①基本的にオフショア・バランシングにおいては、米国は、台頭する大国を、他国が率先して阻止するように仕向け、必要な場合のみ米国自ら介入する戦略である。本質的には、この目的は、可能な限りオフショアのままでいることであるが、時折オンショアでバランシングを行う必要性も認識している。ただし、その場合は、米国は、その同盟国にできる限り困難な仕事をやらせ、自国の軍はできるだけ早く移動させるべきである。

②オフショア・バランシングに基づいて、米国は、ヨーロッパ、北東アジア、ペルシャ湾という重要な地域におけるパワーの分布に従って軍事的態勢を調整する。潜在覇権国の危険性が切迫していなければ、地上軍または空軍をそこに配備する理由はなく、本国における多くの軍事施設の必要性はほとんどない。いずれかの国がその地域を支配する能力を獲得するためには年月が必要なため、ワシントンはそれを察知し対応するための時間がある。

③潜在覇権国の対応については、当該地域の軍隊に頼るべきであり、それらにその地域の勢力均衡を維持させるようにする。当該地域国が制圧される危険がある場合は、米国は支援を保証することができるが、海外で大規模な米軍を配備することは控えるべきである。海外の若干のアセットを維持する価値が時折あるかもしれないが、一般的には、その地域の国々が大きな利害をもっているため、ワシントンは、地域の大国に責任を押し付けるべきである。

④しかし当該地域国が、潜在覇権国を抑えることができない場合、米国はその地域の勢力均衡を望ましいものに変更するため、十分な軍隊を配備する。

⑤場合によっては、戦争が起こる前から、軍隊を派遣する場合もある。例として、冷戦時代に米国が、西ヨーロッパ諸国がソ連を封じこめることができないと考えて、ヨーロッパに多数の地上軍および空軍を駐屯させたことが挙げられる。

⑥また、二度の世界大戦の時のように、どちらか一方が地域覇権国として登場する可能性があるように思える場合は、米国は、戦争が始まってから介入のタイミングを待つこともある。

4 オフショア・バランシングの実行

ミアシャイマーとウォルトは、現在重要地域の覇権を狙う可能性があるのは北東アジアの中国のみで、ヨーロッパとペルシャ湾では米国の軍事プレゼンスは必要ないとしている。二人の主張するオフショア・バランシング論を実行に移すと以下のようになる。

①ヨーロッパでは、ロシアを含めてどの国家も現在潜在覇権国にはなれないため、米国は、その軍事プレゼンスを終了し、ヨーロッパ人にNATOを任せる。

②アジアでは、中国が目を見張るような台頭を継続させる場合、当該地域の覇権を求める可能性があるため、米国は、それを防ぐために大きな取り組みを行うべきである。できればワシントンは、中国に対する封じ込めについて、当該地域の大国をあてにしたいけれども、これは機能しない恐れがある。なぜなら、中国が、近隣諸国よりも強力である可能性が高いだけではなく、これらの国々は、お互い離れて位置しているため、効果的なバランシング・コアリションを形成することを難しくしている。したがって、米国が彼らの取り組みを調整し、彼らを支援するためにその大きな影響力を利用する必要があるかもしれない。

③ペルシャ湾では、当該地域の大国は、現在地域を支配する立場にはない。よって、米国は、その軍隊の多くを水平線の向こうへと後退させることができる。ISISIslamic States in Iraq and Syria)に関しては、米国は、地域の大国にこの集団に対処させ、兵器、情報および軍事訓練の供与にその取り組みを制限するべきである。シリアでは、米国は、ロシアに主導権を握らせるべきである。もしこの内戦が続く場合、ワシントンは、政治的和平調停に進んで力を貸すべきだが、それは主にモスクワの問題である。

④今のところ、米国は、イランとのより良い関係を追求するべきである。米国による攻撃を恐れる可能性がより高くなる結果、テヘランが原子力協定を放棄することおよび核武装に向かって急ぐことはワシントンの利益にはならない。

⑤これらの措置は、その防衛支出を著しく減らすことを可能にする。アジアでは米軍はとどまるが、ヨーロッパおよびペルシャ湾からの撤退によって、数十億ドルを確保することになる。

5 オフショア・バランシングの利点

この二人の論文では明確に触れられていないが、仮に、彼らの主張通りに米国がオフショア・バランシングを上手く機能させることができれば、争いを避けて自国の国力を蓄えつつ、大国同士を潰し合わせて、高みの見物を決め込み、他国が弱体化することによって、自国の国力を相対的に高めることが可能である。この点はこの大戦略の象徴的な特徴として知っておくべきだろう。

リベラル・ヘゲモニーと比較して、ミアシャイマーとウォルトが説明したオフショア・バランシングの利点をまとめると以下のようになる。

消費する資源と犠牲者を減らす:米軍が防衛にコミットする領域を制限し、他国に彼らの役割を果たすよう強いることによって、ワシントンが防衛のために使用する資源を減らし、本国でのより大きな投資と消費を可能にする。そして、危険な状況にさらされる米国人が少なくなる。たとえば、アフガニスタンとイラクでの戦争の費用は、4兆ドルから6兆ドルの間で、7千人近くの米軍兵士が死亡し、5万人以上が負傷した。これらの紛争の兵役経験者は、うつ病と自殺の発生率の高さを示しているが、米国は彼らの犠牲をほとんど明らかにしていない。

思い出すべきは、米国は、対外戦争に関わらずにワールド・クラスの経済を構築することによって大国となったことだ。西半球で守られている立場を考えると、米国は、利益になる機会が存在するならどこであっても貿易を行い投資することが自由にできる。すべての国は、このような活動において共有できる利益をもっているため、ワシントンは、他国に経済的に関与し続けるために世界の警察を演じる必要はない。

テロ被害のリスクを減らす:オフショア・バランシングにおいては、重要な地域に位置する国家が覇権を望む国家によって脅かされている時にだけ、米軍は国外地域に駐留する。その脅威が対処されたら即座に、米軍は水平線の外側へ戻ってそこに留まらず、現地の政治に干渉しない。ソーシャル・エンジニアリングを控え、米国の軍事拠点を最小限に抑えることによって、オフショア・バランシングは反米テロの可能性を低くする。テロのような国境を越えた問題に対する長期的な解決は、有能なローカル・ガバナンスのみであり、米国による強引な取り組みではない。

核兵器拡散の緩和:米国に攻撃されることを恐れて、国家は核兵器を求めるため、レジーム・チェンジへの米国の取り組みは、このような懸念を高めるだけである。一方で積極的な介入を行わないオフショア・バランシングは、国家が核武装する動機を与えにくい。そもそも、核拡散は懸念であり続けるけれども、1945年以来核保有国は増え続けているが、世界は滅茶苦茶にはなっていない。

Ⅱ オフショア・バランシングをめぐる議論に象徴される米国の葛藤

1 オフショア・バランシング的戦略論の多様な見解

本稿では最初にミアシャイマーとウォルトの論文におけるオフショア・バランシング論の要点をまとめたが、このようなオフショア・バランシング的戦略の支持者たちの主張を具体的に見ると、この戦略の解釈や実行すべき政策については、大なり小なり違いがある。ミアシャイマーとウォルトは、二人の論文で幅広くオフショア・バランシングについて論じているが、一つ一つの事柄や、他者のオフショア・バランシング論との違いを懇切丁寧に説明しているわけではない。また、オフショア・バランシング的戦略論が論評される際は、オフショア・バランシングという呼び方だけでなく、海外の米軍を縮小または後退させる戦略ということで、まとめて「縮小戦略」(retrenchment)と呼ばれる場合も多い。

他の識者から、このような戦略論を提唱していると見なされている専門家の見解の例として、ミアシャイマーとウォルトのほかに、テキサスA&M大学特別教授クリストファー・レイン(Christopher Layne)、シカゴ大学教授ロバート・ペイプ(Robert Pape)、マサチューセッツ工科大学教授バリー・ポーゼン(Barry Posen)、ケイトー研究所国防・外交政策担当部長クリストファー・プレブル(Christopher Preble)ケイトー研究所上級研究員ダグ・バンドウ(Doug Bandow)のものを以下にまとめる。

オフショア・バランシング的戦略(縮小戦略)を支持する専門家の主な主張

ミアシャイマー・ウォルト

  • オフショア・バランシングの対象となる重要な地域は、あくまでヨーロッパ、北東アジア、ペルシャ湾である(米大戦略の対象地域として専門家に比較的語られることが多い「東アジア」や「中東」ではない)。
  • バック・パッシングと直接的なバランシングを状況によって使い分ける。状況によっては、冷戦期のように平時でも海外での大規模な軍事プレゼンスを維持する。
  • 中国に対しては、米国が主導してバランシング・コアリションを構築し、「封じ込め」を行うことを想定している。
  • ウォルトは以前、アジアでは、十分な海軍と空軍を維持すべきと述べている。

レイン

  • ユーラシア大陸の重要地域での勢力均衡の維持のために、多極化とバック・パッシングを主な方法として行う。軍事介入によるバランスの回復は極めて慎重に判断して行う。冷戦期のような平時における軍事プレゼンスは、オフショア・バランシングとみなさない。
  • オフショア・バランシングを現在の米国が実行する場合、海外の米軍を同盟国と相談しながら徐々に撤退させ、他国との同盟は最終的には破棄する。
  • 場合によっては米国の管理の下、日本、ドイツおよび韓国の核兵器の保有を容認する。
  • 米国の衰退と中国の台頭は不可避であり、当該地域の周辺国へのバック・パッシングによって中国に対応する。

ペイプ

  • 大規模なオンショアの戦闘力よりも、軍事同盟ならびにオフショアの空軍、海軍および即応展開が可能な地上軍を頼りにして、重要な地域での外交政策的利益の獲得を求める戦略が、オフショア・バランシングである。
    • 現在のオバマ政権は、中東でISISに対抗するために、大規模な米軍を地上に展開せずに、エアパワーとシーパワーを「オーバー・ザ・ホライズン」(over the horizon、海岸線からの有視界外・レーダー射程外で開始する作戦構想)によって行使し、また、ISISと戦うローカル・グループに能力を与えることによってオフショア・バランシングを実行している。

ポーゼン

ポーゼンが提唱する大戦略の名称は、「抑制戦略」(restraint)であるが、オフショア・バランシング的な戦略論を主張する専門家としてみなされる場合が多い。

  • 海外の軍事プレゼンスを段階的に削減し、同盟国の自助を促す。
  • ユーラシア大陸の勢力均衡の維持、核拡散の管理および米国を標的にするテロリストという三つの課題に対応する。
  • 望ましい勢力均衡を当該地域の国々が維持できない場合は、米国が救いに向かう。
  • 非国家主体が、核兵器や核関連物質を入手できないように管理する。多国間核軍備管理レジームを新たに立ち上げる。
  • 抑制戦略は、海洋軍事戦略によって最も良く機能する。海洋戦略に重心を置いた「コマンド・オブ・コモンズ」(command of the commons、コモンズの支配)を重視する。
  • 中国に対しては、将来はわからないが、現時点では封じ込めを行う時期ではなく、過度に刺激しない。同盟国に自国の防衛に責任をもつよう促す。
  • アジアにおいては、韓国の陸軍と沖縄の海兵隊を撤退させ、海軍と空軍はゆっくりと減らしていく。
  • 抑制戦略では、GDP2.5%以上の国防費を必要としない。

プレブル

プレブルは、自分のことを「ある種のオフショア・バランシング提唱者」としている。

  • オフショア・バランシング的戦略に関して、ミアシャイマーとウォルト二人の見解と異なる点は、どの程度のバランシングが必要か、そして、オフショア・バランシングの要件を満たすためにどの程度オフショアになり得るかについてである。例として、オーバー・ザ・ホライズンをオフショアと見なすといった点で彼らと異なる。
  • ミアシャイマーとウォルトが主張する、できる限りオフショアにいて、必要な時だけオンショアになるという方法によって、地域の均衡を回復する必要がある例は米国にとって非常に少ない。
  • 同盟国との不公平な協定は好ましくない。海外の基地に多くの米軍を前方展開させると戦争に巻き込まれる。恒久的なプレゼンスを減らし、他国に自国の防衛を促す。
  • 以下に焦点を当てた戦略を提案する。

集中的な海軍:世界中で攻撃的な作戦に関与することを想定した海軍ではなく、恒久的なプレゼンスではない、ローカル・アクターが脅威に取り組むことができない場合に集中的な展開が可能な海軍にする。各海上交通路のコントロールの任務は、その付近の国家が行い、米国は主に西半球を重点的に取り扱う。多数の空母の建造については再考する。

小規模だが、確実な核抑止:米国は、核兵器、そして戦略爆撃機、大陸間弾道ミサイルおよび潜水艦発射弾道ミサイルのトライアドに過剰な投資をしている。潜水艦ベースの小規模な核抑止で十分である。弾道ミサイル搭載潜水艦をすべて破壊できる敵勢力はいない。

柔軟性があり、機動性のある地上軍:能力のある即応予備役を増やすことにより、陸軍と海兵隊の現役の兵士を減らす。小規模な軍にして慎重に用いる。イラクやアフガニスタンで行ったようなネイション・ビルディング(nation building)には取り組まない。

バンドウ

バンドウは、東アジアで「米国は、オフショア・バランサーと類似の政策に移行すべきである」(おそらくレインのオフショア・バランシングを指す)と主張している。

  • 米国は、他国への公式な安全保障コミットメントを、紛争の対応に関する自由な裁量を残し、拠点へのアクセス、情報の共有および共同演習を規定する、より公式ではない協力協定に取り換えるべきである。この地域の国々に、平和の維持と自分たちの防衛を、最も重要な義務として引き受けさせるべきである。
  • 日本、韓国および台湾は、自分たちの軍に投資せず、米国の保護に頼っている。
  • 「米国の本土への攻撃」を抑止または失敗させることと、「アジアの覇権的な支配」を防ぐことは、米国の安全保障上の重要な利益だが、現在はまだ、そういった危機の可能性は現れていない。
  • 米国にとって、次第にこの地域への軍事的な介入が難しくなるが、中国はすべての近隣諸国を占領する、または脅す能力に欠ける。
  • 米国は「世界の核の警察」にはなれない。日本と韓国による核兵器の保有は米国の利益にかなう。
  • 米国から離れた海で永久に優位を保つことはできない。そして、他国の様々な領土・領海争いは、米国を紛争に巻き込むリスクを生む。この地域の海のコントロールは、米国の最優先事項ではない。

彼らの中で、ウォルト、レインおよびポーゼンは、ネオリアリズムを提唱したケネス・ウォルツ(Kenneth Waltz)の教え子である。一方で、レインは、ネオリアリズムでは米国の大戦略に関する行動を説明することはできないため、国際システムのパワーの分布に加えて「歴史的コンテキストと独自性」に注意を払い「国内の政治力学」を重視するネオクラシカル・リアリズム(neoclassical realism)を用いる必要があると述べている。そして、ポーゼンは、「オフェンシブ・リアリストたち」による中国に対する封じ込めの考え方は、米国にとってコストとリスクが重いと評している。

レインとバンドウ以外は、基本的に米国の同盟関係を維持する一方、米地上軍の海外でのプレゼンスを大幅に縮小するという考え方が似ている。レインは、平時の同盟を最終的には破棄するとし、バンドウは、東アジアに限らず、米国の同盟関係の必要性に懐疑的である。バンドウの主張は孤立主義的であり、核拡散の考え方を含めて、彼らの中では、レインの主張に似ている。プレブルとバンドウが所属するケイトー研究所は、リバタリアン(libertarian)系のシンクタンクとして知られている。そして、ペイプや、ここでは挙げていない他のオフショア・バランシング支持派の多くは、主に中東について論じている。

レインの考えるような、平時において、同盟関係をもたない、および軍の前方展開を行わないものと異なり、ミアシャイマーやウォルトが提唱するようなオフショア・バランシングは、平時での長期的で大規模な米軍の前方展開を方法として含める。一方で、一部の識者は、レインが提唱する孤立主義に近いものとは異なる、平時の海外での軍事プレゼンスを維持するオフショア・バランシング的戦略を、本当のオフショア・バランシングではなく、「より選択的形態の選択的関与」(more selective form of selective engagement)、または「より選択的な関与」(more-selective engagement)ではないかと疑問を呈している。

このように、実際はオフショア・バランシング的戦略を提唱する専門家たちの間にも主張の違いがあるが、他者によって一括りにされる場合も多く、混乱を招くことがある。また、無論彼らの主張は状況によって今後変わっていく可能性がある。

2 オフショア・バランシング的戦略論への批判

こういったオフショア・バランシング的戦略論に対する米国内での批判、反論および疑問は多い。そのような例をまとめると、以下のようなものが挙げられる。

オフショア・バランシング的戦略(縮小戦略)論への主な批判

  • 米軍の撤退によって節約できるコストを過大評価している。
  • 水平線の外側に米軍を後退させても、介入の誘惑を断ち切れない。
  • 米軍が後退した場合、当該地域の周辺国が強国にバンドワゴニング(bandwagoning:勝ち馬に乗る)を行う可能性がある。
  • 一度後退した大規模な米軍を、他地域に展開し直すのは容易ではない。
  • イスラム国家での軍事プレゼンスだけが、米国がテロの標的となる理由ではない。
  • 米国の攻撃をかわすことだけが、国家が核武装を求める理由ではない。
  • 核保有国の数が増えれば予期せぬ危機が高まる。
  • 海上交通路および海洋の治安をどのようにして守るのか。
  • 未実験のリアリズムに基づいて、評判の良い秩序を自発的に分解し均衡を乱すという、古典的リアリストならば尻込みしたであろう試みを提案している。
  • 仮にヨーロッパにおいて、リベラルな政府や西ヨーロッパの政府が覇権国になった場合も米国への深刻な脅威となるのか、むしろパートナーにはならないのか。
  • 米軍のプレゼンスが減少したため、イラクは広い地域にわたって不安定になり、ISISが登場した。

介入主義・リベラル国際主義に対する批判への主な反論

  • 海外での軍事プレゼンスが、覇権を狙う国家の拡大路線と紛争が起きるリスクを抑えることができる。
  • 海外での軍事プレゼンスによって同盟国を牽制し、紛争に巻き込まれるリスクを低下させることができる。
  • 国防費は、GDP比で冷戦期のピーク時から基本的に減少し続けており、冷戦後も一貫して低い。米国の過去の歴史からすれば、現在の国防費は過大なものではない。
  • 米国の価値観が広まれば、その地域の平和と国際経済が安定し、米国の利益につながる。
  • 軍事力や軍事同盟が、米国の経済的リーダーシップとドルを支え、経済利益を生む。
  • 同盟関係が国際協調をまとめる。

このような批判や反論に関しては、根本的な考え方や価値観が異なるため、堂々巡りになるような論点も多い。そして、論評する側が、上に挙げたような支持派と見なされる専門家たちの見解を十把一絡げにして評することもある。その場合、縮小的な戦略論の各提唱者の立場になって考えると、議論が噛み合っていないということがある。

3 オフショア・バランシングとリアリズムへの風向き

(1) 米国でのリアリズムとリベラリズム

ミアシャイマーもウォルトも世界的にその名が知られ、その言論活動が注目を集める学者であるが、その主張は、米国内で厳しい批判にさらされることがある。その背景の一つには、米国内におけるリアリズムとリベラリズムの関係がある。その関係性の様態が、オフショア・バランシング的な戦略が実際の米国の政策として反映されるかどうかに影響を与えることが考えられる。

米国の国際政治学におけるリアリストたちは、長年にわたりその言論活動において、人々の目を非常に気にしてきたといえる。70年以上前に、リムランドの重要性を唱えて米国によるヨーロッパとアジアへの介入の必要性を訴えた、英米系地政学の基礎を築いた一人である米国の国際政治学者ニコラス・スパイクマン(Nicholas Spykman)もその一人である。彼は、パワーの本質を研究したり、その強弱を検証したりすることは、人々から軽蔑の目で見られると述べている。そして、リベラル派や、理想主義者を自認する人々は「国際政治の中のパワーの要素について語るのは道徳に反している」と信じる傾向が強いとしている。一方で、スパイクマンは、「ところが実際のところ、軍事力に基盤を持たない政治理想とヴィジョンというものが生き残る価値は、ほとんどないように見える」「確実に言えるのは、我々の西洋の民主制度は、自分たちの力、もしくは同盟国などの助けによって、パワーが効率よく使われてきたおかげで今まで維持・存続されてきた」と言い放っている。こうした論調によって垣間見える国際政治における主義・思想をめぐる反目は、現在の米社会にも存在する。

ミアシャイマーは、『大国政治の悲劇』の中で、スパイクマンが述べたような「前置き」を書き、こういった事象の背景に関連して、米社会には楽観主義と道徳主義が強く根付いていることを説明している。そして、米国人は、人間や政治は常に良い方向へ進歩すると考え、道徳を制度化すると述べている。また、リベラリズムと相性の良い米国人は、戦争はなくなるべきと考えるが、市場経済と自由民主性を評価し、そういった米国の価値観のための戦争を正当化するとしている。ミアシャイマーによると、そんなリベラリズムの価値観をもつ人間は、国家を善と悪で分類し、高潔な国家である米国を他国が見習うようになれば、世界は善の国家で占められることになり、国際紛争は終結すると考えるという。

このようなリベラル色の強い国家観と世界観をもつ多くの米国人が、基本的に、性悪説的に考え、争いが起こるのは必然と考えるリアリズムと相性が悪いのは当然なことであろう。そのような理由が元になって、リアリズムの考え方が基盤となっているオフショア・バランシング論を批判または無視する人々が米国には多く存在する。

(2)「風向き」の変化

米国では冷淡な目で見られがちな、リアリズムに基づいたオフショア・バランシング的戦略だが、国内外の情勢の変化とともに、人々のその戦略論に対する姿勢も変質していった。中国の国力の伸長に対しては楽観的で、米国の衰退に対しては悲観的な予測をしている前述のレインは、1997年にオフショア・バランシングを提唱した論文を発表している。ミアシャイマーが詳細にオフショア・バランシングについて論じた『大国政治の悲劇』の初版が米国で出版されたのは2001年である。国際政治の将来に対して非常に楽観視し、海外への介入に積極的だったこの時期の米国人に、レインとミアシャイマーの主張は水を差した形になった。しかし、国際政治を悲観的に考えるリアリストは、米国では絶滅危惧種のように見なされており、彼らの主張が米社会に受け入られることは容易ではなかった。

ところが、その後リアリストたちが激しい批判を行った米国によるイラク戦争の戦況が悪化したため、「風向き」が変わり始めた。そして、オフショア・バランシングに関する議論が活発になり始める。アフガニスタンとイラクでの戦争による犠牲者、コストおよび後遺症、米投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻が引き金になった世界的な金融危機、さらに、終わりの見えない対テロ戦争という米国にとっての苦しい年月を経た結果、オフショア・バランシング論は支持者を徐々に増やしていった。

そして、201111月にウォルトが、"Offshore balancing: An idea whose time has come"(オフショア・バランシング:今まさに最適のアイデア)、翌月に"A bandwagon for offshore balancing?"(オフショア・バランシングへのバンドワゴン?)と題するコラムを書いて、依然としてリベラリストや介入主義者の勢力は大きいけれども、その中の一部の専門家たちが、オフショア・バランシングを現実のアプローチとして支持するようになったことを書いている。そして、20121月には、レインが、"The (Almost) Triumph of Offshore Balancing"(オフショア・バラシングの(ほぼ)勝利)という論説を発表した。これは、同月発表されたオバマ政権の新しい国防戦略指針(Defense Strategic GuidanceDSG)が、戦後から続いてきた「パックス・アメリカーナの終焉」を見据えた最初の対応であるとして、この新しい指針が「アカデミックの世界から、実際に政策が立案されるワシントンの現実の世界に飛び出してきたことを反映している」と書いたのだ。彼は、オフショア・バランシング支持派といわれる専門家の中でも米国が「オフショアであること」に強くこだわるリアリストであり、彼の戦略論と現実の政策との隔たりは大きいが、自分が長年主張してきた方向性に現実の戦略が転換したことを強調したのだった。

しかし、現在に至るまでリアリズムに基づいたオフショア・バランシング的戦略論への批判は多く、この風向きは決して追い風とは言い切れない。依然として米国の外交路線は不安定であり、今後どのように推移するかが注目される。

4 錯綜する人々の価値判断

確かに米国は、紛争で挫折を味わい、国家財政を悪化させ、金融危機も経験し、絶頂期と比較して相対的な国力は低下しているだろう。一方で、単純に外側から見れば、米国の経済は他国と比較しても現在好調で、その人口は増え続け、新しい天然資源であるシェールオイルの埋蔵量は莫大である。米国衰退論に関しては様々な意見があるが、介入主義的・覇権主義的な国家としての米国の有り方を考えた場合、明らかに変化したのは、不安定になった米国民の意識や意志ではないだろうか。

ミアシャイマー・ウォルト論文では、20164月に米国のピュー・リサーチ・センターが(Pew Research Center)が行った世論調査を取り上げている。その調査の結果では、米国人の57%が、米国は自国の問題に取り組み、他国には、彼ら自身の問題を、彼らにできる限り取り組ませるべき、ということに賛成したということだ。そして、ミアシャイマーとウォルトは、米大統領民主党予備選挙の候補者の一人だった民主党のバーニー・サンダース(Bernie Sanders)と共和党大統領候補になったドナルド・トランプ(Donald Trump)は、民主主義を推進し、同盟国の防衛を支援し、そして軍事的に介入する米国の傾向に対して異議を唱えるが、民主党大統領候補になったヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)だけが、現状を擁護していると述べている。したがって、ミアシャイマー・ウォルト論文に対する論評でも、「トランプへのチュートリアル」として評価するものもあれば、クリントンの政治的傾向を直接的に否定していると評するものもある。一方で、米国の軍事情報専門サイト『ミリタリー・タイムズ』(Military Times)が20165月に行った調査によると、現役の米兵士、予備兵士および州兵の間での次期米大統領候補の支持率は、トランプ対クリントンでは54%25%、トランプ対サンダースでは51%38%だった。また、米国の政治専門紙『ザ・ヒル』(The Hill)の報道によると、20167月に行われたある調査において、次期米大統領候補の中で、現役の米兵士から最も支持率が高かったのは、非介入主義のリバタリアン党大統領候補ゲーリー・ジョンソン(Gary Johnson)で(38.7%)、次にトランプ(30.9%)、最も低いのがクリントン(14.1%)だった。これらの調査結果から考えると、一般米国民と米兵士が、他地域への介入について積極的だとはいえないだろう。

現在の米国は、国内外の情勢に対して様々な立場の人々の価値判断が複雑に入り乱れているように見える。続けざまに苦い挫折を味わうことによって暗澹たる国家の将来が予見されたが、経済はもち直して富裕層が救われた。そして、あらためて米社会の格差が大きくなり、米国の庶民が不満を募らせたことが、他国・他地域のことよりも米国の庶民の利益や生活を重視すると主張するサンダースやトランプが支持を集めた背景の一つとなっている。

多くの米国民の間で、その国家観や世界観が変化してきたことは事実であるが、一方でエスタブリッシュメントや影響力のある人々の考えが、実行される戦略策定の鍵を握っている。前述のプレブルは、米国の上院軍事委員会で、国民が期待していることと国家の指導者が彼らに与えているものに大きな断絶があると証言している。彼は、最近出席した会合で、多くのエリートたちが、米国民が遠く離れた紛争に関わることに嫌気がさしていることに対して嘆いていたと述べている。

オバマ外交はオフショア・バランシング的戦略の方向性へと少しずつ変わってきたが、党派を超えた介入主義者たちは、それに対して不満を抱いている。ミアシャイマーとウォルトのオフショア・バランシング論は、支持者もいるが、現実主義者からも批判されている。現実の挫折とリベラル的理想、経済の回復と大衆の不満、一般国民とエスタブリッシュメントの感覚の違いなど、様々な要素が複雑に絡まり合った末に、実際の米国の政策が決定されることになる。

Ⅲ ミアシャイマーとウォルトのオフショア・バランシング論の修正

今後の米大戦略がどのようになるかは未知数であるが、ここでは、ミアシャイマーとウォルトが主張するオフショア・バランシングの目的の達成のために、その方法が適切なのかどうかを考えてみたい。パワーと国益の観点から、彼らの戦略論の見直しを行い、どのような大戦略が必要になるかについて論じる。

事実として、リベラルな傾向にある多くの米国人と相性が良いとはいえないミアシャイマーとウォルトのオフショア・バランシング論だが、一部のリアリストや軍関係者たちからも様々な批判を受ける。これはおそらく、二人のネオリアリズムの理論を基にしたオフショア・バランシング論が、理論偏重かつその戦略の展開の仕方について楽観的過ぎるきらいがあるというのが大きな理由として考えられる。

1 理論の本質的限界性

米大戦略の研究で知られる国際政治学者ロバート・アート(Robert Art)が、米国が現在実行可能な大戦略として挙げるのが、孤立主義、オフショア・バランシング(アートは、孤立主義に近いものと、平時の海外での軍事プレゼンスを含むものの二種類のオフショア・バランシングがあることを認識している)、そして選択的関与の三つである。

このうち選択的関与は、米国の財政・国防費の問題や国民の気力を考えると実行は決して容易ではないだろう(アートは選択的関与を採用すべきと考えているが、特に彼の解釈による選択的関与は、ヨーロッパ、東アジア、ペルシャ湾の三つの地域に多くの目的をもって関与するものである)。一方、大洋と強大な海軍、そして核抑止力に守られている米国は、孤立主義を大戦略として実行することができる。しかし、その場合は、米国の国際的な影響力が著しく低下するだろう。そして、孤立主義と選択的関与の間に位置するオフショア・バランシング的な戦略だが、ネオリアリズムの理論を基本としたミアシャイマーとウォルトの戦略論を想定した場合、彼らが主張するように、この戦略の実行によって米国が実際に可能な限り将来もパワフルであり続けることができるだろうか。

ここで、理論というものの本質について考えてみたい。戦略理論は、戦争や戦略が支配する複雑な領域を理解するうえでの概念的基盤、そして戦争や平和をめぐる事象の分析に用いる道具を提供することができる。さらに、その理論や共通の言葉は、関係者の意思疎通のために重要であり、理論を発達させて、建設的な議論を可能にする。しかし、戦略理論は、解答やそれを導くための公式ではなく、あくまで参考的なものである。こういった主張を、『戦争論』を書いたプロイセン王国の将軍カール・フォン・クラウゼヴィッツ(Carl von Clausewitz)や、そのクラウゼヴィッツから強い影響を受けた英国の戦略思想家ジュリアン・コルベット(Julian Corbett)をはじめとした古今の戦略研究家たちが主張している。

実際に、ミアシャイマーも、理論には限界があり、理論と矛盾する出来事が起きることを認め、枠組みの大きな理論には、それを補完するためのきめ細かな理論が必要であることを述べている。彼のいうきめ細かな理論かどうかは定かでないが、現実の戦略の策定においては、単純化された理論を参考にする一方で、広い視野、状況ごとの特性、不確実性、曖昧性などの現実の複雑性を考慮して修正していくことが必要になる。

2 グローバル・コモンズと相互関与のためのネットワークの必要性

ネオリアリズムという大きな理論の枠組みを基にしたミアシャイアーとウォルトのオフショア・バランシング論の修正を、以下の四つの点から考える。

米国の力のネットワーク:第一に、米国の力の根源について考えると、それは、人口、人材、工業力、天然資源など、その西半球の大陸規模の国土に存在するものだけではなく、力と富を生み出すネットワークに依るものが大きい。米国は、大英帝国の流れを汲む時間をかけて形成されたグローバルなアングロサクソン・シーパワーと関係が深い、海上交通路をコントロールする力、貿易への影響力、グローバルな戦力投射能力、世界言語である英語の影響力、情報収集・発信力、金融市場への支配力などをもつ。そして、それらはグローバル・コモンズと密接に関係している。米国の孤立主義時代は、英国のシーパワーの影響下にあったが、現在は米国自身がシーパワーにおける覇権的国家である。したがって、米国は海洋国家としての原点に戻り、その総体的なネットワークや、パワーの流れる様々な領域とその集束点を重視すべきである。海洋国家の国力の増減や全体像は、複眼的かつ非常に長期的に俯瞰しなければ把握できない。

多様化する脅威:米国が海外に軍事プレゼンスをもたなかったフリー・ハンド(free hand、自由に行動できる)の時代(1789年から1945年)と比較して、現在は多くの国や勢力が様々な攻撃手段をもっている。今後さらにグローバル化が進み、そして、従来の兵器が大きく進歩することや、宇宙やサイバーといった新しい領域で革新的な攻撃や脅しの手段が生まれる可能性は高い。脅威のグローバル化・多元化・多様化が進み、高度な技術が拡散するにつれて、国家主体または非国家主体に関係なく、反米勢力が西半球に害をなすことが可能になる状況が多く生まれるだろう。過去にもすでに、911同時多発テロによって米国は本土に多くの犠牲者を出し、紛争へと突入することになった。その後、大きな挫折を経験し、米国が内向きになるきっかけを作った。そして、テロリストが米国を攻撃する理由が、海外での軍事プレゼンスだけとは思えない。ミアシャイマーとウォルトが戦略の目的として挙げているように、米国がこの世界で支配的な立場を将来も維持するならば、多くの勢力の標的にされることは避けられないだろう。テロリストたちは現在も様々な手段で影響力を拡大しており、また、彼らが大量破壊兵器を獲得する可能性は常に大きな懸念とされている。さらに、たとえば、中国は、米国の強大なパワーを相殺するための弾道ミサイル、戦略ミサイル原子力潜水艦、衛星攻撃兵器、サイバー戦能力などの開発に勤しんでいる。そして、このような新しく生まれた手段が様々な勢力に拡散するかもしれない。前述のスパイクマンが、ヨーロッパとアジアへの米国による介入の必要性を訴えた時代よりも、西半球の安全性は薄れている。戦略において地理を考慮するという重要性は変わらないが、技術の進歩によって地理の意味が変わる可能性については、スパイクマンや現代における地政学の権威である英国のコリン・グレイ(Colin Gray)も強調している。時代や科学技術の変化によって生まれる脅威が米国の影響力を削ぐことによって、国際関係を変容させるかもしれない。いずれにしても将来の予測は困難であり、これらの脅威の拡散や不確実性には、世界的な安全保障ネットワークを構築しなければ対応は難しいだろう。

グローバル・コモンズのコントロールをめぐる現代戦:現代においては、技術の進歩と拡散により、潜在覇権国がオフショア・バランサーの軍事的介入を妨害するための手段も多様化している。かつての制海権のように、グローバル・コモンズの全面的な支配権を米国が保有していた時代と異なり、現代は米国も重要な地点のグローバル・コモンズのコントロールのレベルを上げる、または永続的・全面的ではなくともコントロールを奪うために敵と争わなければならない時代である。たとえば、ミアシャイマーの主張する、英国や米国がかつてオフショア・バランサーだったという時代においては、今でいうA2ADAnti-Access/Area Denial、接近阻止・領域拒否)戦略のようなものは存在しなかった。今後このような戦略を構成する技術が様々な国々に拡散する可能性もある。したがって、現代において米国が戦時に他地域に介入する際は、その地域におけるグローバル・コモンズのコントロールの十分な確保を目的とした即応性の高い戦闘力・戦力投射能力および拠点が必要になるだろう。

不規則なアクターの行動:重要地域における関係諸国の対応について考えると、米国によるバック・パッシングや直接的バランシングが、何の障害も妨害もなく順調に行うことができるのかは疑問である。また、周辺国が潜在覇権国に対してバランシングを行うのか、またはバンドワゴニングを行うのかという問題はよく議論される。関係するアクターの予測を超えた行動は、しばしば起こり得る戦略の領域における特徴である。ミアシャイマーによると、正しい理論通りに行動しない国家には負の効果がもたらされるということだが、各国は、主に歴史経験、地理環境および政治文化を起因とするそれぞれの戦略文化(strategic culture)をもち、それがどのように国家の行動に作用するかによって状況の予測が困難になる。バランシング、バック・パッシングおよびバンドワゴニングを説明するための例として、ヨーロッパにおけるかつてのドイツや冷戦期のソ連に対する外交政策がよく挙げられるが、たとえば、北東アジアにおける現在の安全保障環境と比較すると、関係する国家の独自性や地理環境がもたらす影響がそれらの状況と異なる面がある。ネオリアリズムに基づく理論は、戦略を考える上での基準として参考になり、その予測通りにアクターが行動する可能性はあるが、常に担保のようなものは必要であろう。関係国が常に理論通りに行動するかは未知数であり、直接的なバランシングが必要な地域かどうかは関係なく、ある程度その影響力を浸透させることを狙って、平時から他地域への米国自身による確実な関与が必要ではないだろうか。そして、その米国自身が、軍事介入がもたらす自国民の犠牲をどれほど受け入れることができるかは、最大の懸念の一つである。同盟国は平時から、各戦略レベルの争いに備えて、米政府と米軍をその密接なパートナーとして引き込むように取り組む一方、万が一に備えて自立した安全保障に関する能力を高めていくべきだろう。米国と同盟国が持続的に相互関与を深めておかなければ、然るべく時にバランシング・コアリションが構築できない、または機能しない可能性がある。

以上のように、力のネットワークを維持し、多様な脅威に対応し、他地域に軍事介入するためには、米国は、グローバル・コモンズによって織り成されるネットワークに依存することが不可避である。そして、米国を含めたアクターによる理論とは懸け離れた不規則な行動を抑えるためには、米国と他地域の国々による持続的な相互関与が必要である。そのため、多様な脅威や不測の事態を想定して調整された同盟関係と海外での米軍のプレゼンスによって構成されるグローバルなネットワークの存在が、これらの問題に対応し、米国の地位を守り続ける戦略の手段として現実的ではないだろうか。

歴史を紐解くと、強大な大陸国家対強大な海洋国家のライバル関係において、強大な海洋国家は、敵対する強大な大陸国家とは別の大陸国家や他の海洋国家との同盟関係やコアリションを構築することに関して優位に立つ場合が多い。それにはいくつかの理由があるが、間違いなく大きいのは、海洋の利便性とそれをコントロールするコアリションを主導する海洋国家の能力である。つまり海洋国家の盟主によるグローバル・コモンズへの多大な影響力こそが大陸国家・海洋国家混交のコアリションを繋ぐ外交力となる。グローバル・コモンズの支配と他のアクターをコントロールする力は大きく重なり合う面があるといえる。

どのような大戦略が米国にとって最良かを見極めることは困難だが、少なくともグローバル・コモンズのコントロールを重視することがその目的に含まれるものになるべきである。こういった戦略の考えは、米国防大学上級研究員フランク・ホフマン(Frank Hoffman)が提唱した大戦略であるフォワード・パートナリング(Forward Partnering、そして、前述のオフショア・バランシング支持派の中ではポーゼンの抑制戦略と比較的似ている。このような大戦略でも、同盟国に大きな役割を与えることによって国防費を減らせると、ホフマンもポーゼンも考えている。

つまり、他地域における戦略の主目的として、望ましい勢力均衡の維持だけでなく、グローバル・コモンズのコントロールを加えることにより、持続的なグローバルなネットワークの構築は不可欠のものとなる。そして、それを通して多様な脅威へ適切に対応すると同時に、持続的に関係諸国との相互関与を深めることによって、米国と他地域の国々がお互いに「負の効果をもたらす」不穏な行動を取らないように抑止していく戦略となる。


ホフマンの説明では、この大戦略はオフショア・バランシングと選択的関与を混ぜ合わせたものである。大規模な海外での軍事プレゼンスは維持しないが、重要な地域の安定を維持するために同盟国と友好国に広く関与していく戦略で、グローバル・コモンズにおける重要な国益と、ルールを基盤とした国際システムの維持を重視する。そして、民主主義的価値観を支援し、同盟国とともに紛争の発生を事前に防ぐとしている。一部のオフショア・バランシング支持派は、この大戦略を選択的関与と非常に近いものとみなすかもしれないが、この大戦略ではグローバル・コモンズを重視し、米国の同盟国により大きく依存する。事実として、国防費を減らしつつ、オフショア・バランシングよりも米軍を後方に下げないこの大戦略を、実際の落とし所として評価する声もある。

おわりに日本の負担増は不可避

オフショア・バランシング的戦略論の大きな焦点は、同盟国の負担を増やすことである。米国の状況や、不可知に変化する可能性がある安全保障環境の将来を考慮すると、同盟国は自国のためにも、米国と交渉しつつそれに適切に対応すべきだろう。同盟国の変化なくしては、最終的には双方に有益な大戦略は完成しないと考えるべきである。

日本列島そのものの米国にとっての価値を考えると、仮に米国が、日本列島に存在する燃料、弾薬、レーダー、整備施設を含む在日米軍基地を失えば、米軍の世界戦略に大きな支障をきたすことになる。しかし、日本とは異なり、日米同盟の存在は、米国にとって国家の運命をただちに直接的に左右するものではない。このことから同盟の価値が日米にとって等価であるとは言い難く、両国がそれを重要視していても、東京とワシントンの間で同盟に対する温度差があることを認めなくてはならない。

海上交通路と海洋資源にその経済活動が大きく依存し、中国の海洋進出に大きな影響を受けるリムランドのすぐ外側に位置しているのが日本である。東アジアの地域大国として認識されている日本が、グローバル・コモンズと地域の安定に大きく貢献することは、オフショア・バランシング支持派を含む他国の関係者に当然のことと思われている。現在、クリントンやトランプが主張する「同盟国との関係強化」という言葉は「同盟国により大きな負担を求める」という意味であり、日本は、特に中国の戦略に対処するための、より自立した総合的な安全保障の能力を大至急高めていかなければならない。一方で、米国がもつ他地域への介入に対する葛藤、そして、それによって、大戦略レベルだけでなく、軍事戦略レベル以下でのバック・パッシング的な方法を米国が行う可能性を考慮し、自ら関与を深めることによって米国を各戦略レベルでコントロールしていくように取り組む必要がある。

死後に戦略思想家として評価が高まっている米海軍少将だったJ.C.ワイリー(J.C. Wylie)は、「確実なこと」を想定して戦略を策定することは、数多くの軍事戦略の失敗の中でも最悪のものに分類されると述べている。つまり思い込みは、無残な失敗を生む可能性があるということだ。たとえば、次期米大統領選挙の行方、米大戦略の今後の変化、いざという時の米軍の行動など、誰が何を予測するのかはその人の自由だが、不可知な将来に対して日本人が手を拱いているわけにはいかない。基盤となる自立した強固な防衛力と、事態に柔軟に対応することができる体制の構築が、日本にとっては急務である。

13号拙稿と今回の特報論文の主要参考文献リスト

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