ロシアによる新たな大陸棚延長申請について

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丹下博也,前海上保安大学校基礎教育講座 講師(ロシア語)

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はじめに

ロシア連邦(以下、「ロシア」という)が、北極海における自国の大陸棚の外側の限界を確保するため国連大陸棚限界委員会(以下、「大陸棚限界委員会」という)に対し大陸棚延長の申請を2001年に行ったものの同委員会により却下されたことは周知の事実である。また、報道資料によるならば、同国は今年の8月4日に再申請を行ったとのことであったが[1]、今回、その申請の内容のレジュメを国連のサイトより入手した[2]。従って、本稿では、これまでの申請(以下、「旧申請」という)と新たなる申請(正式名称は「北極海におけるロシア連邦大陸棚に関する大陸棚限界委員会へのロシア連邦の部分的再検討の申請書」(ЧАСТИЧНОЕ ПЕРЕСМОТРЕННОЕ ПРЕДСТАВЛЕНИЕ РОССИЙСКОЙ ФЕДЕРАЦИИ В КОМИССИЮ ПО ГРАНИЦАМ КОНТИНЕНТАЛЬНОГО ШЕЛЬФА В ОТНОШЕНИИ КОНТИНЕНТАЛЬНОГО ШЕЛЬФА РОССИЙСКОЙ ФЕДЕРАЦИИ В СЕВЕРНОМ ЛЕДОВИТОМ ОКЕАНЕ)であるが、以下、「新申請」という)を比較し、ロシアの大陸棚延長申請がどのような変化を遂げたのかを把握したうえで、同申請が有する特徴は何であるのか、また、同申請に関連した今後はどのようなものになるのかを考えてみたい。なお、本稿における議論は筆者個人の見解であり、筆者が所属する組織、つまりは海上保安庁の見解とは一切関係ないことを注記しておく。

1.旧申請と新申請を比較して

本章では、旧申請と新申請、その双方の区域図を比較し、その主な相違点と類似点を列挙のうえ、それらが如何にして生じたのかに言及する。対象となる二つの図は、次のとおりである。

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図1 旧申請におけるロシアの大陸棚の区域(200海里以遠の斜線部)
(出典:http://www.un.org/Depts/los/clcs_new/submissions_files/rus01/RUS_CLCS_01_2001_LOS_2.jpg)

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図2 新申請におけるロシアの大陸棚の区域(200海里以遠の部分)
(出典は新申請の図1による[3])

これら二つの図を概観するならば、旧申請に比較して、新申請ではまず、バレンツ海に存在した区域がなくなったことが分かる。また、その他の区域については、ナンセン海盆付近に存在する区域にあまり変化が認められないものの、ナンセン・ガッケル海嶺以東のものについては、西側に200海里(破線)の限界までに達することとなる区域の拡大、北極点付近における区域の拡大が認められる。申請する区域の東側の限界が、ほぼ西経169°の線となっていることに変化は認められないと考えてよいであろう。

では次に、今まで述べた相違点と類似点が如何にして生じたのかを、新申請の内容に基づき見てゆくこととする。

バレンツ海に存在した区域がなくなったことについては、新申請における区間I(図2参照。ただし、この図において同区間は部分的なものとなっており、本来区間Iの線は、コラ半島に達するまでバレンツ海に存在する線である)に関する記述に記されていることにより分かる[4]。つまりは、2010年9月に「バレンツ海及び北極海における海洋境界画定及び協力に関するロシア連邦とノルウェー王国の間の条約」(Договор между Российской Федерацией и Королевством Норвегия о разграничении морских пространств и сотрудничестве в Баренцевом море и Северном Ледовитом океане)が、この両国により署名され、海洋境界が画定されたことにより、旧申請において申請の対象となっていた区域が係争の対象ではなくなったということなのであろう。

ナンセン・ガッケル海嶺以東の区域について、西側に200海里の限界までに達することとなる区域の拡大が認められることに関しては、新申請の図6によるならば[5]、ロシアがこの区域について、自国の大陸縁辺部が領海の幅を測定するための基線から200海里を超えて延びていることを証明するに足る地質学的データを得たと判断したためと考える。また、同区域において北極点付近における区域の拡大が認められる件については、新申請における区間VI(図2参照)に関する記述によるならば、国連海洋法条約第76条第4項の(a)の(ⅱ)と同条第5項に基づくものであることが分かる[6]

最後に、申請する区域の東側の限界が、ほぼ西経169°の線となっていることについては、新申請における区間VII(図2参照)に関する記述によるならば、この線が、国内法令に関しては1979年2月1日付けソ連邦最高会議幹部会令第8908号、国際条約に関しては1990年に署名された「海洋境界画定線に関するソ連邦と米国との間の条約」(Договор между СССР и США о линии разграничения морских пространств.以下、「1990年の条約」という。しかし、本来この公的文書は「協定」(Соглашение)であり、このような表現となった経緯については不明である)に基づくものとのことであり[7]、これら二つの公的文書の時期を考慮することにより、旧申請も、新申請と同じ線を採用していたものと考えられるのである。

ちなみに、ロシア側の資料によるならば、旧申請において申請された区域は約150万平方キロメートルであったとの解釈が可能であり[8]、新申請において申請された区域は119万1347平方キロメートルと小さくなったものの[9]、双方の申請において、北極点に至るまで自国の大陸棚は延長しているとするロシアの主張に変化はないものと判断してよいであろう。

2.ロシアの大陸棚延長申請が有する特徴について

本章を結論から述べるならば、ロシアの大陸棚延長申請が有する特徴は、セクター理論の適用にあると考える。「セクター理論」、つまりは「極を頂点とし、2本の経度線と1本の緯度線により囲まれた地表上の球面三角形内の全域にわたる陸地及び島嶼又は全域そのものに対する主権が、当然に一定国に帰属する」という理論を、この申請においてロシアは適用しようとしているものと筆者は考えるのである。この推測の正しさを証明することとなるのは、新申請における区間VIIに関する記述において、この区間の線が「セクター線」(секторальная линия)と記されている事実である[10]。旧申請の図となる図1において区間VIIの線に相当する線が「隣接国との交渉を要する条件付きの線」と表現されていたことを考えるならば(ちなみにこの表現は、バレンツ海側の線にも用いられていた)、ここに、北極海へのロシアによるセクター理論の適用の考えは、公的に明確化されたと言えるであろう。また、区間VIIに関する記述によるならば、前章で述べたソ連邦最高会議幹部会令第8908号は、1926年の「北極海に存在する陸地及び島嶼がソ連邦領域であることの表明に関する」ソ連邦中央執行委員会幹部会決定(Постановление Президиума Центрального Исполнительного Комитета СССР "Об объявлении территорией СССР земель и островов,расположенных в Северном Ледовитом океане".以下、「1926年の決定」という)に代わるものとのことであるが[11]、同決定は、ロシア(当時はソ連)がセクター理論を北極に対して適用した嚆矢と一般的には解されているのである。このことも、筆者の前述の考えの正しさを補足するものと考える。更に、注8の資料によるならば、セクター理論は、既に旧申請の段階で適用されていたものと解釈されるが[12]、新旧二つの申請とも、北極点を申請する区域に含めていることは、この理論の適用が前提となるのであれば当然のことと言えるであろう。

続いて、この北極点に関し、旧申請における区域がこの点を起点とするものであったのに対し、新申請における区域がこの点を包含するものとなっていることについて考えてみたい。セクター理論を純粋に適用するとした場合、必要となるのは「極」、つまりは「点」であるが、現実問題として、そのような幾何学的な図形に基づく区域を一国は管理できるであろうか。これが、同理論を適用するとした場合に行き着く疑問であろう。やはり、極点を管理するからには、そのための活動を実施する目的からある程度の面積を有する区域が必要となるはずであり、ロシアもその結論に達したに違いない。確かに同国に言わせるならば、区間VIの線の設定は、地質学的な調査の結果に基づくものであったのかもしれない。しかし、是が非でも北極点を自国の管理下に置きたいとロシアが考えたとしたならば、この点周辺の区域は、その管理のためのものであったと筆者は考える。2007年、ロシアが北極点となる海底に自国のチタン製国旗を設置した事実を思い返すたびに、その実感を強くするのである。

最後に、セクター理論に関するこれまでの考察の中で同理論が対象としていたのは「主権」であるのに対し、国連海洋法条約上、大陸棚に適用されるのは「資源開発に対する主権的権利」であり(第77条)、この差異はどのように説明されるのかという疑問が残ることとなるが、これに関して筆者は次のように考えている。つまりそれは、ロシアは、究極的には北極における主権を確立したいと考えており、主権的権利は、前述の主権を確立するため同国により同海域の占有を目的として行使される権利であるというものである。その論拠については、詳述が必要となるため、以前の拙稿を御一読いただきたい[13]。ロシア側としては、セクター理論の適用に際して、同国の解釈によるならば、主権的権利を主権に相当すると拡張解釈したところなのであろうが、その解釈が類推解釈とはならないのか、国際法学上妥当であるかについては論議の余地ありと考える。また、セクター理論の原則を考えるならば、「2本の経度線と1本の緯度線」との定義は、今回の場合どのように解釈されるのかという問題も生じるが、この件に関しては、大陸棚延長という現実から、セクター線以外、とにかく経緯度線に相当すると考えられる線、換言するならば権利の境界となる線で対応しようとロシア側がこの定義を、やはり『拡張解釈』したためと考える。もしこの推測が現実であったとしたならば、その考え方についても論議の余地ありということになるであろう。

3.ロシアによる大陸棚延長申請に関連した今後について

本章における考察を進めるにあたり、まず、旧申請において、大陸棚限界委員会が、ロシアに対して示した条件を見てみたい。それは、次のようなものであった。

①バレンツ海についてはノルウェーとの、ベーリング海については米国との海洋境界画定条約がそれぞれ発効した場合における、当該境界線を示す海図及び座標データの提出。

②中央北極海については、大陸棚限界委員会の勧告に含まれる所見に基づいて申請書の改訂を行うこと。

③オホーツク海については、その北部海域について、より精密な根拠にもとづく部分申請を行うこと。更に、当該部分申請を行うためにロシアは(境界画定に関し)日本との合意に至るため最善の努力を尽くすこと。

これらのうち、①におけるノルウェーとの海洋境界画定条約が発効したことについては、第1章で既に述べたところであり、米国との条約については、やはり第1章で述べた1990年の条約をロシアが未だ批准していないその現状が、新申請の中に記されている[14]。③については、オホーツク海に関する部分申請が大陸棚限界委員会により承認されたとの報がある[15]。つまりは②を除き、隣接国との関係が問われていたことが理解できるのであるが、その観点に立ち新申請を見ると、ロシアは、海洋境界画定に関して、新たにデンマーク、更にはカナダ(ちなみに同国も、セクター理論の適用を支持しているとされる)との間に問題を有するようになったことに気付く。前者については、アムンゼン海盆、ロモノーソフ海嶺、マカーロフ海盆、ポドヴォードニキ海盆、メンデレーエフ海嶺における水域が対象とのことであり、後者については、マカーロフ海盆とメンデレーエフ海嶺における水域が対象とのことであるが[16]、この二国との関係について、新申請の中では、区間VIIの線が交渉の対象となるであろうと記されているのである[17]。更に、同申請の附属書によるならば、区間VIの線も、これら二国との交渉の対象となるとのことであり[18]、問題の根の深さが理解できる。そして、その原因となるのは、申請する区域がロシアとデンマークでは、また、ロシアとカナダでは重複するためと新申請には記されているのであるが[19]、デンマークとカナダが大陸棚限界委員会に対し申請をいつ行ったのかを確認した結果、前者については2014年に[20]、後者については2013年に申請を行ったことが判明した[21]。従って、今回のこの『火種』を抱えたロシアの再申請から理解される同国の考え方とは、次の二つになると考える。

まずはその一つ目、それは、前章で述べた1926年の決定に端を発するロシア(かつてはソ連)のセクター理論適用に対する積極的な考え方である。歴史的に見て、同国が同理論を積極的に支持してきたことは明らかであるが[22]、今回係争の対象となっている区間VIの線が北極点を取り囲むものであること、更には区間VIIの線がセクター線であることも、この推測が全く根拠のないものではないことの証左となるであろう。更に踏み込むならば、このセクター線は第1章で述べたとおり、1990年の条約にも基づくものであるが、知る限りでは米国は、セクター理論を支持してはおらず、ロシアが同協定に基づく線を「セクター線」と称することに米国は反発するものとも考える。そして、このように考えるのならば、ロシアが、今回の申請にとって必要であった1990年の条約の批准を未だ行っていない(一方、米国は既に批准している)という事実は、米国に対する同国の対決の姿勢の表れではないかとも推測するのである。

次に二つ目の考え方、それは、前述の米国に関する件にも関連することとなるが、ロシアが大陸棚限界委員会からの申請承認をもはや最重要視しなくなったのではないかということである。かつては同委員会からの勧告に従ってノルウェーとの海洋境界画定を実現し、オホーツク海に対する部分申請が承認されたロシアではあるが、根本的な方向転換をしたということなのであろう。同国がこのように、大陸棚限界委員会からの、ひいては国連海洋法条約からの、更には国連からの精神的な脱却へと変化したと考えられる根拠とは、基本的には最近(2015年7月)プーチン大統領により承認された新たなる海洋ドクトリンにおいて、旧ドクトリンには法的基盤として存在した同条約がほぼ消滅した事実であるが[23]、とにかく今回の申請は、ロシアにとっては、承認を受けることを目的としたというよりは、あくまで意思表示をしたに過ぎないように筆者には感じられる。ならば、何故そのような内容となったのであろうか、それは、次のような理由によるものであろう。つまりは、自国にとって新たなる『火種』が出てきたものの、他国と同じ立場に立たせる国連の枠内で行動していたのでは、大陸棚、換言するならば資源開発に対する自らの海洋権益(ロシアはこれを「国益」(националрные интересы)と称する)を守ることができないと判断したため、申請承認からの、究極的には国連からの精神的な脱却をロシアは決意したのではないか、そのように考えるのである。これまで述べた物事の順番からすると、この推測には無理がなく、注23の拙稿で述べた前述の根拠の筋道となり得るものと判断する。そして、ここまで考察を進めたならば、国連から脱却したと考えられるロシアは、何を拠り所にして大陸棚に対する自国の権利を確立しようとしているのかという疑問も生じてくることとなるが、私見ではそれは、やはり前述の拙稿にも記したが、慣習法としての国際法の遵守であると考える。新申請の序文では、国連海洋法条約第77条に基づく大陸棚に対する沿岸国の権利に言及があるが、同文によるならばこの権利は「ipso facto и ab initio」(当然にかつ最初から)存在するものとのことであり[24]、ラテン語のこの字句が、この推測の正しさをある程度証明することとなるであろう。なお、この慣習法としての国際法の遵守に関する具体的措置とは何かと問われるならば、今のところ筆者は、それは「実効支配」(эффективная оккупация)ではないかと考えている。また、前に述べた新たなる海洋ドクトリンにおいて、第3章第1節「国家海洋政策の機能的方針」の一つである「海軍活動の実行」の一環とされる第42条には「海軍は、世界の海洋におけるロシア連邦及びその同盟者達の国益の武力手段による保護を使命とする」と定められており、第3章第2節「国家海洋政策の地域的方針」の一つである「北極における地域的方針」の一環とされる第60条には、当該方面における国家海洋政策の基礎を構成するものの一つとしてб項に「ロシア連邦の海軍潜在力の強化、北洋艦隊の勢力(軍)の発展」が定められている。従って、前述の実効支配に、海洋権益、つまりは同国が言うところの国益保護の目的から海軍が積極的に関与してくる可能性があるとも考えるのである。新申請の冒頭には同申請の準備に責任を有した組織名が列記されているが[25]、その中に国防省があること、そして、昨年からプーチン大統領が北極圏における軍事化政策を推進しているという事実は、今述べた考えが全く根拠のないものではないことの証左となるであろう。特に、軍事化政策の推進が開始された時期が、本章で述べたデンマークとカナダの申請時期と重なることが気になるところである。ちなみに、新たなる海洋ドクトリンでは、「北極における地域的方針」に関して解決される長期的課題が第61条に列挙されており、その一つとしてб項には「北極大陸棚を含め、海洋空間の境界画定のための北極海沿岸諸国との、国際法の規範に基づく積極的な協力の実施、これにはロシア連邦の利益を考慮した相互の合意が伴わなければならない」と定められているが、これまで述べたことを前提とするのであれば、同項においては境界画定に関して基づくべき法的基盤が「国際法の規範」であり、国連海洋法条約ではないことに留意すべきと考える。また、続いてв項には「北極海におけるロシア連邦の大陸棚の外側境界の法的強化」と定められているが、やはり、これまで述べたことを前提とするのであれば、その強化は、大陸棚限界委員会からの申請承認によってではなく、実効支配により行われることになるものと考える。では、その実効支配はどのようにして行われるのか。このことについては、可能性の一つとして原子力推進による艦船、特に核ミサイルを搭載した原子力潜水艦による海域の継続的な支配が挙げられるであろう。つまりは他国がこの支配を実力により排除しようとした場合、とりわけ兵装を使用した場合、被害はロシアに及ぶのみならず自国にも及ぶこととなるという理論の適用である。しかもこの支配の方法は、係争の相手国となっているデンマークとカナダにとっては知る限りでは採ることができず、採ることができるのは米国のみであり、このこともロシアにとっては有利に作用することになると考えるのである。

以上、本章におけるこれまでのことをまとめるならば、ロシアによる大陸棚延長申請に関連した今後とは、セクター理論を適用することによる同国と隣接諸国、つまりはデンマーク、カナダ、更には米国との大陸棚を巡る係争のエスカレーションということになる。そして、それらの係争の全面的な解決への道のりは、漠然とした推測ではあるが、長いものとなるように思えてならない。

おわりに

本稿の考察によるならば、ロシアは、大陸棚延長申請に際してセクター理論を適用しているということになるが、特にその適用の対象となると考えられる区間VIと区間VIIに対して大陸棚限界委員会がどのように対応するのかを注視してゆきたい。何故ならば、同委員会がこの二つの区画の線を基本的に承認した場合、それは、現在、国際法学において肯定的に解釈されているとは言い難いこの理論を国連が認めたという可能性が出てくるからである。前章で述べたとおり、最近プーチン大統領は、新たなる海洋ドクトリンを承認したばかりであるが、今回、前述の申請が時期をほぼ同じくしたことは、同大統領の指示の下、ロシアの海洋政策が大きく動き出したことを意味するものと解釈する。

最後に、「北極海季報」、「海洋情報季報」等にこれまで掲載させていただいた筆者の調査研究をまとめてみたい。今までの調査研究によるならば、北極海に関するロシアの海洋政策について、注目すべきは「北極海航路」、「主に大陸棚における資源開発」、「国家防衛」の三つとなる。そして、北極海航路を通じロシアが求めるものは「北極セクターにおける主権」と考えるが[26]、大陸棚における資源開発を通じ同国が求めるものが、本稿によるならば究極的にはやはり同じものとなることに注目すべきではなかろうか。更に、主権が存在するところを守るという行為は国家防衛ということになるので、前述の三つは、重なり合うものであることが理解できるのである。ならば、北極セクターにおける主権の確立とその防衛、これこそが、前述の政策の本質と言えるのであろう。そのように考える次第である。

(平成27年11月14日脱稿)

[1] 参照:http://www.mk.ru/politics/2015/08/04/rossiya-vnov-podala-v-oon-zayavku-na-kontinentalnyy-shelf-v-afrike.html
(アクセス日,2015年8月18日).

[2] 参照:http://www.un.org/Depts/los/clcs_new/submissions_files/rus01_rev15/2015_08_03_Exec_Summary_Russian.pdf
(アクセス日,2015年10月24日).

[3] 前掲注2,7頁.

[4] 前掲注2,28頁.

[5] 前掲注2,21頁.

[6] 前掲注2,30頁.

[7] 前掲注2,31頁.

[8] Агафонов Г.Д.,ПРАВОВЫЕ АСПЕКТЫ ПРОБЛЕМ МОРЕПОЛЬЗОВАНИЯ В АТР И ИХ ВЛИЯНИЕ НА МОРСКУЮ ДЕЯТЕЛЬНОСТЬ РОССИИ,Институт Дальнего Востока,2004,38頁.

[9] 前掲注2,22頁.

[10] 前掲注2,31頁.

[11] 前掲注2,31頁.

[12] 前掲注8,38頁.

[13] 拙稿「2020年までの期間におけるロシア連邦北極帯発展及び国家安全保障の戦略」に関して」,海洋情報季報,創刊号(2013).

[14] 前掲注2,10頁.

[15] 参照:http://jp.sputniknews.com/japanese.ruvr.ru/2014_03_18/269771413/
(アクセス日,2015年10月29日).

[16] 前掲注2,9頁.

[17] 前掲注2,31頁.

[18] 前掲注2,34頁.

[19] 前掲注2,11頁.

[20] 参照:http://www.un.org/depts/los/clcs_new/submissions_files/submission_dnk_76_2014.htm
(アクセス日,2015年10月29日).

[21] 参照:http://www.un.org/Depts/los/clcs_new/submissions_files/submission_can_70_2013.htm
(アクセス日,2015年10月29日).

[22] 拙稿「北極へのセクター理論の適用について」,北極海季報,第7号(2010).

[23] 拙稿「ロシア連邦の海洋ドクトリン」,海洋情報特報.
参照:/oceans/analysis_ja02/b150902.html (アクセス日,2015年9月2日).

[24] 前掲注2,5頁.

[25] 前掲注2,2頁.

[26] 拙稿「北極海航路に関するロシアの新たなる連邦法について」,北極海季報,第15号(2012).