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論考シリーズ | No.153 | 2024.6.13
アメリカ現状モニター

【特別シリーズ】
2024年台湾総統選挙とアメリカ①
アイオワと台北「選挙日程の政治学」

渡辺 将人
慶應義塾大学総合政策学部准教授

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■「特別シリーズ②」に続く

選挙イヤー1年の始点にして1年がかりの米大統領選挙

今年は「選挙イヤー」とされる年である。アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)/ 地経学研究所の「2024年の主な選挙日程一覧」1ではそのことが一目瞭然に理解できる。複数の選挙は相互に影響を与え合う。特にアメリカの大統領選挙は関係国や地域に直接、間接のインパクトを及ぼす。アメリカに安全保障を依存し、世論戦においてアメリカの動向が中国との絡みでも大きな関心事となる台湾はその好例である。

アメリカの大統領選挙の場合、本選は11月で選挙イヤー終盤戦だが、指名獲得競争(党員集会・予備選)は本年は1月にキックオフした。キャンペーンを省いた純粋な投票だけでもほぼ1年がかりで選挙をしている上に、指名獲得競争の趨勢が後続の各国選挙に微妙な影響を与える。アメリカの予備選挙が他国の候補者の主張やメディア報道、有権者心理を左右する。

トランプ現象以降、アメリカの外交政策の持続性が内政や選挙に振り回される度合いが、SNS効果も相まって高まっている。これまで外交が焦点になることが少ないアメリカの選挙で、海外の事情それも他国の選挙が話題になることは少なかったが、2024年1月はアイオワの党員集会前日にFOX Newsなど米メディアで台湾総統選挙が話題化した。頼清徳勝利へのバイデン大統領のオンレコの反応がニュース化したからだが、実は、歴史的に異例の日程の重なりが起きたことが前提にある。

台湾総統選挙とアメリカの予備選をめぐる日程の政治的な力学

台湾の直接総統選は1996年の開始以降3月に行われていたが、2012年以降1月に前倒しされている。いずれも土曜日である。一方、アメリカ大統領選指名争いのキックオフであるアイオワ州党員集会は、1月か2月に概ね行われているが全国委員会やニューハンプシャー州との神経戦で決まるので、毎回日が定まっていない。今年は制度変更で民主党の初戦州からアイオワが離脱したので、共和党側への影響が絡み、さらに日程が錯綜した。

台湾総統選は2012年まではアイオワ州党員集会より遅かったし、2008年まではスーパーチューズデーより後だった。そのため多くの場合、台湾で選挙が開催される時点で、アメリカで指名獲得の趨勢は出尽くしていた。2008年に例外的に民主党のオバマとヒラリーが接戦で結果不明だった程度だ。一転、2016年以降、台湾総統選がアイオワ州党員集会よりも先に開催されるようになった。蔡英文以降の総統は、アメリカの二大政党の候補者が誰になるか不確実な状況下でのキャンペーンを余儀なくされている。

次のアメリカの大統領候補者が誰であるか概ね見えている状態で選挙戦の論戦を戦わせるのは、見えてない場合と比べると雲泥の差がある。安全保障をアメリカに依存する台湾にとって、どういう対中政策の人物が予備選で勝利しているか、優勢であるかは、あらゆる演説や政策の根幹に関わるし、敵対政党からのネガティブ攻撃の材料になるからだ。

今年はニューハンプシャーが前倒しを強行すれば、アイオワ共和党は1月15日よりもさらに前倒す可能もあった。トランプ単独過半数の結果が出てから台湾総統選が行われるとなると、トランプ再選の可能性濃厚という報道に世論が規定される。時期が離れていれば良いが、直前なら有権者心理に影響を与える。「トランプになればウクライナを見捨てる、そして台湾も見捨てるかもしれない」という「擬米論」(アメリカの台湾防衛を疑う論調)を加速させ、具体的には国民党、民衆党(前台北市長・柯文哲の政党)を利して、対中関係で過剰に融和策をとらない民進党に不利に働く可能性も排除できなかった。だからこそ、台湾総統選とアイオワ党員集会の順番、日程の離れ方具合は大いに焦点だった。

結果、台湾の有権者は、「トランプが優勢らしいが、デサンティスとヘイリーのどちらが2位につけるか不明。そもそもバイデン再選かもしれず、トランプ再選は杞憂かも」という程度の感覚のままで総統選を迎えた。これは民進党には救いの神であったと言える。

「表」台湾総統選挙とアメリカ大統領選挙予備選挙の日程・指名獲得進捗表(筆者作成)

年 台湾総統選挙 アイオワ州党員集会 スーパーチューズデー
1996 3/23 李登輝勝利 2/12 共和党ドール26% 3/12 ドール vs.クリントン(現職)構図固まる
2000 3/18 陳水扁勝利 1/24 共和党ブッシュ息子41% /民主党ゴア63% 3/7 ブッシュvs.ゴア構図
固まる
2004 3/20 陳水扁再選 1/19 民主党ケリー 38% 2/3
3/2
ブッシュ(現職)vs.ケリー構図固まる
2008 3/22 馬英九勝利 1/3 共和党ハッカビー34%
民主党オバマ38%
2/5 マケイン候補固まる
オバマ・ヒラリー接戦
2012 1/14 馬英九再選 1/3 共和党サントラム24.56% 3/6 ロムニー vs. オバマ構図固まる
2016 1/16 蔡英文勝利 2/1 共和党クルーズ28% /
民主党ヒラリー49.8%
3/1
3/1
 
トランプ優勢
ヒラリー・サンダース
接戦
2020 1/11 蔡英文再選 2/3 民主党ブデジェッジ
26.2%
3/3 バイデン優勢
2024 1/13 頼清徳勝利 1/15 共和党トランプ51% 3/5 トランプ圧勝

注)2004年と2016年はスーパーチューズデーの開催州が2つの日程に分散した。

史上初の隣接日程

筆者は2008年から4年に1回のアイオワ党員集会だけは一度も現地調査を欠かしたことがない。アイオワ大学で党員集会を専門にする研究者たちと現場観察で協働してきた。現地紙などローカルメディアに「4年に1回来訪する日本人」として取材を受けるうちに、アメリカの全国メディアの記者に党員集会の制度や歴史を説明する役目をさせられることまであった。

2024年は民主党で制度変更があったものの、共和党では依然としてアイオワが初戦州の地位を維持した。トランプ一強の今年、初戦アイオワでの趨勢は例年にも増して重要性を帯びていた。しかし、これまでの慣例に反して筆者は現地入り断念を余儀なくされた。台湾との日程重複である。2019年度から2サイクルをまたぐ総統選挙調査は2021年コロナ禍を含み断続的に2023年度まで継続しており2024年1月の現地調査は外せなかった。

総統選翌日に桃園発エバー航空に搭乗できればシカゴ着後翌日便でアイオワ入りが可能で党員集会に間に合う計画だったが、アイオワが豪雪で小型機が飛ばない可能性が浮上し、共和党アイオワ州幹部に逐一情勢や現場の様子を入れてもらうことで「遠隔観察」という異例措置に踏み切った。現地の共和党関係者からは「むしろ台湾の選挙の様子を知りたい」という要望もあり(これ自体はこれまでにない珍しい反応)、オンラインでの情勢交換に切り替えた。そのため、アイオワから報告するつもりで事前に引き受けていた党員集会の結果談話(全国紙と通信社)を、台北から発信する羽目になった。

過去ここまで台湾総統選とアイオワ党員集会の日程が近接した例はないため、「選択」を迫られる事態がアメリカ人のジャーナリストらにも生じた。

「ソフトパワー」としての選挙:陣営CMの域を超越した台湾PR広告

台湾外交部は、ワシントンで国内報道に一定の影響を持つジャーナリストやシンクタンク研究者に目をつけ、連邦議会スタッフとは別の類型で影響力を考慮して台湾の選挙に招くことがある。百聞は一見にしかず。台湾の選挙キャンペーンの盛り上がりを見せることで、戒厳令時代の台湾のイメージ払拭、台湾の民主化成熟の対米強調になった。

現在では、台湾の選挙は、選挙過程の透明化や選挙デモクラシーという「ソフトパワー」の国際アピールを広く兼ねている。狭義の候補者や政党の宣伝を超越した「民主主義PR」のような選挙CMは台湾独特である。とりわけ民進党好みの定番は「世界と台湾」的なPRビデオで、海外ロケと凝った編集に腕を振う。台湾の有権者だけでなく世界の人に見てもらえるように動画をアップロードしている(例えば「2024年の『世界的台湾』」2)

筆者のアメリカ予備選調査仲間に、ニクソン時代からホワイトハウスに出入りする保守系メディアの古参記者がいるが、今回は彼にまで台北での選挙観察の声がかかっていたのにはさすがに舌を巻いた。アジア駐在歴のない典型的な国内政治記者だからだ。しかし、共和党内には隠然たる影響力がある。

しかし、トランプ独走の行方をアイオワで確認するために、彼らの多くが台北行きを断念したのは2024年の台湾にとっては不運だった。予備選は直前1週間、特に数日前からの候補者集会の雰囲気(参加者の熱狂、地元有力者の反応、陣営地方事務所の活気)に鍵があり、これが観察できないのならテレビ(今ならYouTube)で演説を聞けばいいだけで、現地にいる意味は半減するからだ。アメリカの内政記者は党の指名争い開幕試合と台湾の二択なら前者を選ぶ。現場主義のジャーナリストはコラムニストでも事が選挙だと現地取材なしには書きたがらない。選挙を梃子にした対米広報戦としては、日程重複は台湾にとって思わぬ痛手だった。

ポンペオ訪台演説とアメリカへの疑念

他方、米台連携のアピールをめぐる元政府高官など要人の訪台には選挙日程の影響は少ない。選挙2日後にはスタインバーグ元国務副長官(オバマ政権)、ハドリー元大統領補佐官(ブッシュ息子政権)が台北で頼清徳副総統(当時)と会談し、民進党支持者にも蔓延しつつあった「対米不信」を一定程度払拭する効果はあった。

5月20日の頼清徳新総統就任式にも、アメリカから超党派の代表団が列席した。民主党筋からは、バイデン政権のディーズ元国家経済会議(NEC)委員長(2008年のヒラリー陣営を皮切りに途中でオバマ派に乗り換えるなど政治嗅覚にも優れる)のほか、アメリカの対台湾窓口機関のアメリカ在台協会(AIT)系統から古参の台湾専門家としてブルッキングス研究所のリチャード・ブッシュ、現AIT理事長でヒラリーの外交顧問だったローラ・ローゼンバーガーなど現政権に影響力を持つ政策通が顔を揃えた。他方、共和党系はアーミテージ元国務副長官が主役かと思いきや、当初発表には名前がなかったポンペオ元国務長官の「個人参加」の参列がサプライズ効果をもたらした。

このポンペオのアメリカの予備戦後初となる訪台は台湾にとってはトランプ政権の再来への「保険」として注目された。ポンペオはトランプ再出馬で自ら退いた「大統領選挙キャンペーン」を台北で「一時再開」したかのように、台北で自著の「回顧録」宣伝を意気揚々と行った。米要人の訪台では表敬など公式行事以外に何をするかに鍵がある。今回のポンペオの訪台の目玉は講演会で、「今こそアメリカは、台湾を主権を持つ独立国として承認すべき時」といういつものポンペオ節を繰り出した。さらに「ここで私がとりわけ指摘したいのは、アジア太平洋地域の平和と安全保障に対するアメリカのコミットメントは、ヨーロッパや中東を含む世界のどの地域よりも強いということだ」とまで言ってのけた。

ヘイリー以外はほとんど全ての予備選の共和党候補者が孤立主義に近い非介入派で、ウクライナやイスラエルをアメリカ外交が抱える中、台湾防衛に不安が増大しているだけに、ここまで豪語すれば対米不信(トランプ不安と同義でもある)の「疑米論」には「一時的」な安心材料になると見られた。サンフランシスコの米中首脳会談以降米中対立が一時休戦の棚上げ化されているだけに、軍事的エスカレーションは選挙時にも総統就任でも起きにくいと読んでの発言だったとの観測もある。ただ、現実にはペローシ訪台時と同様の台湾を取り囲む中国の軍事演習が就任3日後に起きている。アメリカの政治関係者が訪台したときだけ勇ましいことを言えば緊張が高まり、両岸危機への不安から国民党の民進党批判が正当性を増す流れにむしろ火をつける逆作用も他方で確実に存在する。

ポンペオの講演は民進党色の強い放送局「民視」で2時間ライブ配信された。後半には識者や若手政治家とのパネルデスカッションが組まれたが、最後はポンペオの「回顧録」プロモーションのような雰囲気になって終わった。興味深かったのはポンペオの発言がアメリカ的な文脈で極めて党派的だったことだ。

「アジアで最もプログレッシブな国として知られる台湾は、西洋のリベラルな意味でのプログレッシブだけでなく包括的である。台湾はグリーン・アジェンダを受け入れ、強固な法的枠組みでLGBTQの権利を支持し、アジアでいち早く同性婚を合法化した。しかし、台湾はフォルモサ・リパブリカン・アソーシエーション(筆者注:ポンペオ台北講演会の主催団体)のような保守的な声も尊重し、多元的民主主義の模範を示している」

民進党政権の社会政策は、ジェンダーやセクシュアリティの問題でも環境問題でもアメリカのリベラル派に実は近い。反共や対中強硬以外で共和党保守派と波長が合わなくなる危険をポンペオなりに事前修復するかのような強引な物言いだった。台湾の政党をアメリカ流の「保守」と「リベラル」で仕分けることは困難であるし危険である。少なくとも安全保障や対中政策は国内の社会文化政策を切り分けないと「米台保守同盟」のようなものは成立し得ない。米メディアが頼清徳新総統を「独立派総統」と単純化して報じることが、台湾のデモラクシーや民進党理解にはむしろミスリーディングであることに気がついているアメリカの外交専門家も少なくないが、コミュニケーション系の「内政屋」が権限を握るキャンペーン陣営内にはこのニュアンスへの配慮は存在しない。

ところで、ポンペオが親分トランプに配慮して息を潜めていた予備選挙中、肝煎りの対中カードで台湾を争点化することを試みつつ、2023年秋以降の国際情勢の大転換の不運からそれに失敗したのがニッキー・ヘイリーだった(②に続く)。

■「特別シリーズ②」に続く

(了)

  1. 「2024年の主な選挙日程一覧」(アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)/ 地経学研究所)<https://apinitiative.org/election-year-2024/> accessed on May 30, 2024. ※日本語で参照できるカレンダーでは最も体系的で包括的。(本文に戻る)
  2. 《世界的台灣》-2024 賴清德 蕭美琴|總統競選 <https://www.youtube.com/watch?v=Uxyzscza_yk> accessed on February 13, 2024.(本文に戻る)

「SPFアメリカ現状モニター」シリーズにおける関連論考

  • アメリカ現状モニター「米国選挙(中間選挙・大統領選挙)関連論考などまとめ」
  • 渡辺将人「2024年、予備選はあってなきが如し?: 本選は異例の『大統領』同士のリマッチ(再対戦)に」
  • 渡辺将人「2024年予備選挙目前報告④ 共和党編その2:大統領経験者としてのトランプと共和党候補者たち」
  • 渡辺将人「2024年予備選挙目前報告③ 共和党編その1:党内4派トランプ評、対イスラエル攻撃『before』『after』」
  • 渡辺将人「2024年予備選挙目前報告② 民主党編:バイデン再選戦略:『トランプ頼み』の党内結束」
  • 渡辺将人「2024年予備選挙目前報告① 民主党『党員集会』消滅とポスト・コロナ時代の余波」
  • 渡辺将人「2020年台湾総統選挙と米台関係」

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