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日中有識者対話・北朝鮮の核危機と北東アジア情勢の行方②

「北朝鮮による核の危機の日中両国関係に対する影響と解決の道」

周永生氏 (外交学院国際関係研究所教授)

2017.11.07


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 北朝鮮は6度目の核実験後にも大陸間弾道ミサイルの開発の手を緩めず、国際社会に脅威をもたらしています。国際社会は協力してこの問題の解決に尽力しなければなりません。日中両国にとっても、安全保障上の障害になっている一方で、これを契機に両国の関係が改善される一つのチャンスとなるでしょう。日本は北朝鮮の核攻撃の脅威にさらされており、中国は核汚染の脅威を懸念しております。両国に及ぼす脅威には度合いの違いがあるとはいえ、やはり同じ脅威であります。ですから、北朝鮮の核問題において、日中両国は共通の利益を持っており、関係改善のチャンスにもなり得ます。

北朝鮮の核問題解決で日中が協力

 北朝鮮の核実験に対する日中官民の認識はそれほど相反するものではありません。むしろ困難を迎えている日中関係の改善への良いきっかけになると思います。今後、両国はこの核問題の解決のためにどのような協力が可能でしょうか。
 一つ目には、日中首脳による相互訪問と対話で核問題への認識を共有し、共に解決する道を模索する必要があります。二つ目に、北朝鮮の核問題は、北朝鮮指導部が米国からの攻撃に恐怖を感じているため核を保有しようとしているのであり、日中両国はそれぞれの立場から米朝の和解を促していくべきです。特に米国が北朝鮮体制の安全を保証させるように促すべきです。三つ目は、日米等は中国に対し北朝鮮への経済制裁を強化するよう求めておりますが、中国の立場や苦悩も理解しなければならないと思います。日米は北朝鮮との貿易規模が小さいため、制裁を行ってもそれほどのダメージはありません。しかし、中国はそうではありません。特に食糧や燃料の取引等を中断すれば、北朝鮮は人道的な危機に陥ってしまいます。
 四つ目は、米国だけが北朝鮮に対し武力解決する能力を持っています。しかし、北朝鮮からの反撃を受けた場合、その対象は韓国、日本等になります。日中両国は、話し合いによる解決を促す役割を果たすべきだと思います。五つ目は、これら役割を果たすために日中両国は協力すべきでしょう。日中は首脳同士の会談を速やかに正常化させ、米朝に対話を促す等の解決方法を探るべきでしょう。

制裁と圧力には限界

 日米は厳しい制裁と軍事的な圧力をかけて解決の道を探ろうしていますが、どれだけの効果があるのか判断はつきかねます。第一に、経済制裁というのは短期的な効果は望めません。経済制裁というのは長期的かつ国際社会の緊密な協力があってこそ効果が生まれます。第二に、北朝鮮は海外貿易等に依存していない自主独立の国です。経済制裁に期待するのは現実的なやり方ではありません。北朝鮮は国際社会の圧力を自力更生で克服し、人民生活レベルを下げてでも軍隊に食糧を回します。経済制裁は決して核放棄につながるわけではありません。第三に、経済制裁が功を奏せず、先制攻撃等のような外科手術的な解決を行った場合、果たして北朝鮮の保有するすべての核弾頭を消滅させることができるのでしょうか。たいへん疑問に思います。特に米国の攻撃は深刻な核汚染を引き起こし、北朝鮮から核爆弾による報復も考えられます。第四に、米朝平和協定の締結で北朝鮮の安全保障を担保することです。まず、米国が譲歩すべきでしょう。日本は米国を、中国は北朝鮮を説得すべきです。

北朝鮮への武力行使の懸念

  米国が着実に北朝鮮に対する武力行使を行うために様々な準備を行っています。果たして米国は軍事攻撃をするのでしょうか。米国が攻撃した場合、次の四つが懸念されます。一つ目は、米国が北朝鮮の核施設を攻撃すれば、核汚染等の環境破壊が懸念されます。最も被害を受けるのは中国であり、韓国であり、日本です。二つ目は、北朝鮮の60個もあるとされる核兵器を一度に破壊することができるのでしょうか。北朝鮮は核兵器を分散して管理しているとされています。三つ目は、米国の武力行使がレジームチェンジを目的にしているのではないか、ということです。そうした場合、北朝鮮は自暴自棄となって核兵器を使用するでしょう。これは北東アジア地域の悲劇となります。四つ目は、北朝鮮の罪なき国民に被害が及ぶということです。

講演者プロフィール
周永生氏(外交学院国際関係研究所教授)
1989年吉林大学日本研究所修士課程卒業、1997年外交学院法学博士号取得。研究分野は、日本外交、経済外交、国際関係。主要著書:『戦後日本外交』(共著)、『経済外交』、『中日米関係風雲五十年』(編著)

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