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日中有識者対話・北朝鮮の核危機と北東アジア情勢の行方③

「中米関係とアジア太平洋地域の安全秩序」

牛軍氏 (北京大学国際関係学院教授)

2017.11.07


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 私は約10年にわたって米中関係の歴史について研究してきました。ですので、テーマにとらわれずに大きな視点でアジア太平洋地域の安全秩序について、三つの点からお話しします。

40年近くの安全と繁栄

  一つ目は、第二次大戦以降のアジア太平洋地域は、二つの時期に区分できることです。まずは、中国建国から米中国交樹立までです。この期間は、この地域の対立でした。軸となったのは、1950年の中ソ同盟と1951年の日米同盟です。この対立基軸の基本的な特徴というのは、第二次大戦後の大規模かつ局地的な戦争は、アジア地域で起きたことです。もう一つは、1979年の米中国交樹立以降です。約40年近いこの期間では、対立から協力にシフトしていきました。もちろん、大小な緊張状況はあったとしても、基本的には安全秩序を保っています。この観点から言えば、この40年近くの発展と繁栄は、20世紀において他に見られなかったことで、アジア太平洋地域は欧州、北米と並び第三の経済中心地域となっています。

核保有が可能な人口一億人以上の国家が増加

  二つ目は、アジア太平洋地域において、この40年間で一億人以上の人口を抱える国が、ベトナム、フィリピンと登場しております。朝鮮半島でも南北統一が実現すれば、七千万人の国家が誕生します。欧州に置き換えると大国並みです。さらに同時に核兵器を保有し得る、その可能性のある国家も増えていることです。これは座視できません。たとえば、この地域に七千人を有する核保有国が登場するかもしれません。また、中国人の立場からすれば、アジア太平洋地域において、中国は決して大国ではなくなるということです。

覇権を求めないことが安全秩序の基本

 三つ目は、アジア太平洋地域の安定秩序に対する基本的な見方です。それには、三つの要素があると思います。第一の要素は、米中の戦略的協力です。これは冷戦後期に形成されたもので、同盟ではありませんが、特殊かつ密接な戦略協力関係であります。キッシンジャー氏は、「語らずに心の内が分かる同盟(心照不宣的同盟)」と言っており、地域の戦略安全確保の基軸になっています。第二の要素は、米国の軍事同盟システムです。これは中国にとって好むにしろ好まざるにしろ、長期かつ現実的に存在しており、今後も続くでしょう。その重要な部分は日米同盟です。このシステムは、中国をけん制するものでありましたが、1979年の米中国交樹立後には、中国は米国の同盟諸国とも友好関係を深めていきました。第三の要素は、冷戦以降は二国間、多国間で安全フォーラムやメカニズムが形成されています。もちろん、米国との同盟関係に比べると、まだ実質的な役割には及んでいませんが、地域を活性化させるためのプラットホームになっています。中国はこれを維持し、改善していかなくてはいけません。もちろん、海洋に関する領土や衝突等、個別的な案件について一つ一つ研究しないといけませんが、歴史が与える条件というものは変えることはできないしょう。1972年の米中における「上海コミュニケ」では、米中はアジア太平洋地域で覇権を求めるべきでなく、また他のいかなる国家あるいは国家集団の覇権樹立にも反対することを宣言しています。これは日中平和条約にも明記されています。まさにこれがなければ、アジア太平洋地域の平和秩序は必ず崩れてしまうと考えています。

講演者プロフィール
牛軍氏(北京大学国際関係学院教授)
中国人民大学で博士号取得。研究分野は、中国外交史、アメリカ外交、中米関係史など。主要論著に『冷戦と中国』(編著、世界知識出版社2002年)、『中米関係史1994-1972』(上海人民出版社1999年)、『冷戦期中国外交の政策決定』(社会科学文献出版社2012年)、『アメリカのグローバル戦略』(鹭江出版社2000年)など。

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