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一般事業 平和と安全への努力~安全保障・平和構築

2011年
事業

アジアの平和構築と日本の役割

事業実施者 笹川平和財団 年数 2/3
形態 自主助成委託その他 事業費 25,920,299円
事業概要
冷戦終結後、紛争のあり方が国家間戦争から国内の紛争へと変貌する中で、特定の地域や国家が(再び)紛争に陥らないために平和を定着させる「平和構築」が国際社会の課題として注目されている。本事業は、日本国内における関心喚起や国際連携強化を目的として、オルタナティブ ・ メディアへの支援(ラジオ、Web siteなど)を中心に、招へい、国際会議開催、事業開発、助成事業の運営などを総合的に行う。
実施計画
3年継続事業の2年目となる本年度は、以下の活動を行う。
  • 「アジアの平和構築と日本の役割(仮称)」シンポジウムの実施
    アジアの平和構築と日本に求められる役割に関する世論喚起を目的としたシンポジウムを11月頃に東京で開催する。シンポジウムへは、基調講演者としてノーベル平和賞受賞者で元フィンランド大統領のアハティサーリ氏が招待されるほか、アジアから平和構築の専門家3名程度が招聘される予定となっている。
  • 南タイ平和構築(および紛争転換)のための対話促進
    南タイで平和構築のために活動するオピニオン・リーダーの育成、バンコクをはじめとするタイの他地域で南タイの平和構築を支持する有識者ネットワークの形成を目的として、タイから有識者・政治家・ジャーナリストなどを12名程度を招へいし、対話会議(非公開)を行う。併せて、招へい者を発表者とした一般向けセミナーを開催する。
  • アジアの(元)紛争地メディア関係者ネットワーク形成
    平和構築に向けて活動するメディア関係者を国際的なメディア会議などへ派遣し、ネットワーク形成に貢献する。
  • 助成事業の運営
    (1)助成事業のモニタリング(現地出張)、(2)評価(外部専門家に依頼)、(3)事業開発(現地調査、関係者会議、業務委託による調査・研究など)、(4)平和構築に関する情報発信事業(外部専門家に記事執筆依頼など)を行う。
実施内容
アハティサーリ前フィンランド大統領招へい <2011年11月23日(水)~27日(日)>
七ヶ浜町役場前 渡邊町長と

七ヶ浜町役場前 渡邊町長と

11月23日(水)から27日(日)まで、2008年にノーベル平和賞を受賞されたアハティサーリ前フィンランド大統領を招へいしました。24日に「和平調停とは何か」をテーマに講演会を開催、翌25日には非公開で平和構築分野の研究者、NGO関係者等専門家向けの「マスタークラス」(特別授業)を行った後、日本の国会議員との懇談の場を設けました。また、26日には被災地である宮城県七ヶ浜町を訪問、町役場にて渡邊町長より町の復興計画などについての説明を受けたあと、仮設住宅や現地ボランティア・センターの方々を訪問しました。短い滞在期間でしたが、和平調停の豊富な大統領のご経験を日本のさまざまな方と共有して頂きました。
アハティサーリ大統領講演会 <2011年11月24日(木)ホテル・オークラ東京>
講演会には約400人が参加

講演会には約400人が参加

11月24日(木)にホテル・オークラで行われた講演会は約400人の方々にご参加いただき、盛況のうちに無事終了しました。

アハティサーリ大統領は講演の中で、平和調停は持続的な平和を構築するための第一歩に過ぎないと強調されました。同時に紛争は「私達が終えさせると決めれば」必ず終結すること、当事者を含め我々の平和への意志の大切さを訴えられました。

また、インドネシアのアチェ、アフリカのナミビア、旧ユーゴスラビアのコソボなどでの大統領ご自身の体験を取り上げながら和平調停が戦略的に考案され、様々な人の協力を得て実施されることが大事であること。更に調停にはある種のスキルが必要であると語られ、調停者としてのご自分を「正直なブローカーである」と表現されました。また、調停者は中立であるべきと考えられているが、どちらかの側にのみ立ってはならないという意味では中立であっても、調停の内容に関しては、独自の考えを明確に持っているべきだという発言が印象的でした。
日本のこれからの役割についても言及

日本のこれからの役割についても言及

質疑応答では、会場から数多い質問・意見が寄せられました。特に、日本のこれからの役割に対して、大統領は日本の南スーダンへの自衛隊派遣に賛成の立場を表明し、日本は、寸断された道路や市民生活に必要なインフラ整備に貢献している。和平をもたらすには、市民生活を取り戻すことが重要で、そのために日本がやっているようなインフラ構築への貢献は非常に大切であり、これから日本が担う役割の一つであることを強調されました。また学生からの質問に答え、学生時代に旅に出て海外で学ぶことの大切さについても触れられました。

今回の講演会を開催したホテル・オークラの平安の間は500人収容できる大広間で、当初はそれだけの集客ができるのか担当者ともども不安でしたが、今回は学生さん達のご協力も得て若い方々にも多くご参加いただけました。ありがとうございました。
 
アルバロ・セデニョ・モリナリ駐日コスタリカ大使ご講演会<2012年2月9日(木)>
「非武装化の中長期的な費用対効果とは―コスタリカの経験から」ご報告
SPFは、2012年2月9日(木)に駐日コスタリカ大使、アルバロ・アントニオ・セデニョ・モリナリ大使をスピーカーに、ジャーナリストの伊藤千尋氏を司会者にお迎えし、講演会を開催しました。当日は80名ほどの方々が集まり、コスタリカの経験について活発な議論が交わされました。
伊藤千尋氏

伊藤千尋氏

当財団茶野順子常務理事の挨拶のあと、まずは朝日新聞サンパウロ支局長、ロサンゼルス支局長を歴任され、コスタリカには10回以上訪問し、今年1月にも同国のエコツアーの取材をされてきたというジャーナリスト、伊藤千尋氏から、豊富な取材のご経験をもとにコスタリカという国についてお話しいただきました。

1980年代にサンパウロ支局長として赴任し、朝日新聞の中南米報道を担当されていた伊藤氏は、1984年に初めてコスタリカを訪問され、隣国のグアテマラ、ニカラグア、エルサルバトルといった国々がいずれも内戦に苦しみ、子供が銃を持って戦争に行くところ、コスタリカだけが平和を維持し、子供は戦争ではなく学校へ行くという状況に大変驚かれたと述べられました。

さらに、コスタリカは日本同様平和憲法を持っているが、日本と違い持っているだけではなく平和を輸出する努力をしてきたと。一例として、中米紛争解決のため、当時のアリアス大統領が隣国三国を回って対話を説き、この功績が評価されてノーベル平和賞を受賞された歴史や、軍隊を持たず他国に攻められたらどうするのかと市民に尋ねたところ、コスタリカは世界平和のために努力してきたのだからこの国を攻める国はないだろう、自分たちはコスタリカ人であることに誇りを持っている、と回答を得たというエピソードなど紹介されました。

続いて、コスタリカは、常備軍を廃止したことにより浮いた予算を教育、医療、福祉に回し、世界に冠たる教育国家、医療国家となった事実、「兵士の数だけ教師を作ろう」というスローガンなどコスタリカの政策の素晴らしさについて説得力を持って説明され、2002年に伊藤氏がエコツアーでコスタリカを訪問した際、山小屋で迎えてくれた人物が実はカラソ元大統領で、大統領任期終了後は、民間人として国の発展に貢献するため退職金を投じて山小屋を建てたという元大統領に感銘を受けたなど興味深い体験談も語って下さいました。

伊藤氏は、今年初めセデニョ・モリナリ大使ご夫妻とお食事をされたそうですが、講演会当日もご出席されていた日系ブラジル人の大使夫人との出会いが、お二人がNGO活動に従事されていたインドであったという逸話や、また大使が36歳であり、着任して間もなく起こった震災後、石巻に向かって被災者の支援をしていた事実などご紹介され、若くボランティア精神に溢れた人物を大使に任命するコスタリカ政府に改めて感嘆しつつ、セデニョ・モリナリ大使をご紹介いただき、大使ご講演へと移りました。
アルバロ・セデニョ・モリナリ大使

アルバロ・セデニョ・モリナリ大使

セデニョ・モリナリ大使は、ヨハン・ガルトゥングの定義などを引用しながら平和の哲学について語られた後、コスタリカの歴史に触れられました。選挙結果の是非をめぐり内戦に突入した1948年、「国民解放戦争」を率い政府軍を破ったホセ・フィゲーレスは、常備軍の廃止を構想し、翌年制定された憲法においてこれを制度化します。常備軍の廃止については、政府軍が弱かったという事情もあり、実際のところ大きな政治的反発はなかったとのこと。フィゲーレスは、H.G.ウェルズの『世界史概観』の「人類の将来には軍は存在すべきではない。警察はあっても良い、人々は不完全だから」という一説に啓発されたそうです。

その後、コスタリカにおける常備軍廃止の具体的な利益について大使が述べられたのは、(1)軍の政治介入がないため内政が安定、(2)国際社会、特に隣国のニカラグアとパナマに対し、コスタリカからの軍事侵略はないという保障を明確に与えた、(3)軍事費を教育と福祉の予算に回すことができた、などです。

大使はその後、中南米地域の現状にも触れられました。70年代後半より中米紛争が勃発、この和平調停の功績により当時のアリアス大統領は87年にノーベル平和賞を受賞されています。しかし現在も、カリブ海流域や中米は暴力の犠牲が多い地域であり、麻薬取り締まりによる死者数は、たとえばメキシコでは過去5年間で50,000人に上るとの数字も紹介されました。

世界の軍事費は1.6兆ドル、これは国連が2000年に出した「ミレニアム開発計画」と、スターン報告による気候変動への対策費を合わせた数字の15倍にあたるという事実、また世界では、人口全体の2倍にあたる140億もの銃弾が生産されている現実を指摘され、一体これだけのコストをかけた軍事費が必要なのかどうかと大使は問いかけられました。

ご講演の最後に大使は、2006年にコスタリカが発表した「コスタリカ・コンセンサス」(軍事費削減の努力を行う国家により多くの援助を与える)、またコスタリカ政府とアリアス大統領、及びノーベル平和賞受賞者の働きかけにより国連総会で議論が続けられている、武器の輸出入への規制を呼び掛ける「Towards an Arms Trade Treaty」など、コスタリカ政府が世界の平和へ向けて行う外交的努力に触れながらも、米国や安保理常任理事国が武器取引に深く関与する中、こうした外交的努力が実を結ばない現実の難しさについても述べられ、日本やコスタリカのような平和国家が、軍事力に頼らず国際的な信頼醸成を蓄積していくため努力を、手を携えて行っていくべきだと訴えられました。
ご講演後の質疑応答のセッションでは、セデニョ・モリナリ大使の「平和はそこにあるものではなく日々創り続けなければいけないもの」との考え方、非武装化を支える世論を国際的、あるいは日本国内でどう形成していくべきか、コスタリカの准軍事組織(民間軍事組織、Paramilitary)や国境警備隊について、非武装化の「コスト」はないのか、コスタリカで学ぶべきものは何か、といった点に関し会場から質問が続き、大使がコスタリカの経験とご自身の考え方を丁寧に説明され、これに伊藤氏が解説を加えて下さいました。

非武装化を支える世論形成に関して、大使は軍隊の存在に世界の多くの人々が慣れてしまっている現実と、しかし、例えば現在中米における最大の安全保障上の脅威は他国の侵略ではなく麻薬取引であり、暴力の悪循環を断ち切りストリート・ギャングをどう更生させていくか、という問題であるが、この解決において軍事力は無力ではないだろうかと問いかけられました。伊藤氏からは補足として、アリアス元大統領への取材の中で、元大統領が、中米紛争を対話で解決するという考え方は決して新しいものではなく、コスタリカで大統領が小学生の時から受けてきた教育、つまりもめ事や紛争は対話で解決するのだという教育の根本に基づいたものなのだという発言を紹介されました。

准軍事組織については、大使より、1948年に常備軍を廃止して以来コスタリカには准軍事組織は存在しない点、警察については7500名規模で存在し、国内で警察の強化は議論されることがあるが軍を持とうという議論は起きていない点など説明がありました。これに補足して伊藤氏より、多くの国には(1)警察(治安維持)、(2)国境警備隊(国境警備)、(3)軍(外敵・他国への武力執行)が存在し、コスタリカにも警察と、米国の沿岸警備隊や日本の海上保安庁に相当する国境警備隊は存在するが、これは国境侵犯を防ぐために当然であり軍隊とは異なること、日本国内に、国境警備隊の存在を理由にコスタリカには軍が存在するではないかという意見があるがこれは誤解であること、について解説されました。
また、「コスト・ベネフィット」分析については、伊藤氏より、コスタリカに訪問した当初は、理想だけで平和憲法が持てるのかと疑問を持ったが、政治家、大統領とのやりとりで、常備軍の廃止を決定できたのは現実的には「コスト」の問題であったという話を聞いて納得した、以前は国家予算の3割を軍事費に割いていたが、軍は社会をより良くするどころか破壊した、この予算を教育などに回そうとの決定は理想ではなく現実的な政策判断なのだという点を強調されました。

コスタリカで学びたいという学生に対して大使は、日本とは少し異なる平和の在り方、エコシステムや生物多様性を保護しながら発展を進めるという(環境への配慮も平和に含める)在り方を見てほしいとのメッセージがありました。伊藤氏からは、日本から直接コスタリカへ入るよりも、ニカラグア、エルサルバトルなど周辺国から入ると平和を維持するコスタリカの素晴らしさがわかるのではないか、またぜひコスタリカの家庭に入って、例えば大統領選挙の時期などに、親子が真剣に選挙について議論し対話する様子、あるいは学校で如何に子供たち同士の対話を通じて解決策を引き出そうとしているか、教育の現場を見てほしいとの助言がありました。

最後に、2011年12月にコスタリカ初の女性大統領、チンチジャ大統領が来日した際の、伊藤氏の質問に対する「コスタリカは過去にも原発計画を持ったことはなく、将来的にも考えない」との大統領発言に関連し、セデニョ・モリナリ大使はコスタリカのエネルギー事情について説明されました。コスタリカのエネルギーの95%は再生エネルギーで、40%は地熱発電であるとのこと、また大使は日本で地熱タービンを製造する企業関係者とも面会した経験があるが、その技術は世界一と思われるので、日本でももっと地熱発電を増やしてはどうかと述べられました。伊藤氏より、日本が平和憲法を制定した翌年に軍隊を廃止したコスタリカは、平和憲法とともに、地熱エネルギーの技術を80年代には日本から輸入していること、輸入するだけではなく独自に発展させていることに触れ、今後も日本人とコスタリカ人の人間同士の交流や学びあいを通じて、世界の平和に貢献していこうではないかと力説されました。

コスタリカの非武装化の取り組みは日本人参加者にはとても新鮮であったようで、講演会終了後も、会場では大使と伊藤氏への質問者が列を作り、熱心な議論が続きました。セデニョ・モリナリ大使、伊藤千尋さん、コスタリカ大使館の皆様、そしてご参加いただいた皆様、どうもありがとうございました。
事業成果
本年度は、2008年ノーベル平和賞受賞者であるアハティサーリ元フィンランド大統領を日本に招へいし、国内で講演会の開催および紛争解決分野での日本への貢献のあり方についての議論を行いました。
また、南タイの紛争解決に向け、南タイ、バンコク、ジャカルタから多方面の専門家を招き、具体的な取り組みのあり方を議論しました。

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