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論考

No. 104
2021/10/27

アジア系アメリカ人とアメリカ政治1

西山 隆行
成蹊大学学長補佐/法学部教授

モデル・マイノリティとしてのアジア系

アメリカでアジア系アメリカ人に対するヘイトクライムが増大している背景には、様々な要因がある。直接的なところでは、ドナルド・トランプ前大統領がCOVID-19問題を語る中で「チャイナ・ウイルス」という表現を用いてヘイトを煽ったことがある。そしてその背景として、アメリカと中国との間の、時に「新冷戦」とも呼ばれる国際的な対立状況がある。国際的影響力を増大させつつある中国に対するある種の不信感や脅威が、アメリカ国内においてアジア系に対する厳しい見方に繋がっていると思われる。

このような要因に加えて、構造的人種主義と呼ばれる問題も重要である。アメリカ国内において、アジア系アメリカ人は特殊な位置づけがなされている。一般的にアメリカは自国を移民の国だと認識しており、建国以来多種多様な移民を受け入れてきている。アメリカ国民とは一体誰なのかということを、民族性や言語などを根拠に説明することはできない。そうであるが故に、民族的背景に関わらず全ての人が個人として尊重され、「人種のるつぼ」の中に放り込まれてアメリカ人となるのだ、というような、アメリカのナショナリティに関する一種の神話がしばしば語られてきた。だが、こういった議論は実はヨーロッパ系の人々を想定しており、アジア系アメリカ人は必ずしも純粋なアメリカ人ではないという認識が、アメリカ国内では長らく一般的だった2

これを象徴的に示しているのが、アジア系についてしばしば語られる「モデル・マイノリティ」という言説である。アメリカには様々なマイノリティがいるが、例えば日系は非常に成功したマイノリティだと言われることがある。日系アメリカ人は、第二次世界大戦時に強制収容という悲劇的な経験をしている3。そのような歴史を背負いながらも勤勉に努力して成功したのは素晴らしいことだ、日系はマイノリティではあるがアメリカ社会においてモデルとして位置づけるべき人々だ、というような評価が、しばしばなされている。このような議論は、日系・アジア系を称揚する半面、それと対比することによって黒人や中南米系を批判するために使われることもある。

この点に関連して、クレア・キムという研究者が、人種的三角測量という議論をしている4。キムによれば、アメリカにおけるマイノリティ政治を理解する上では、「アメリカらしい/アメリカらしくない」という軸と、「優秀である/劣っている」という軸の、二つの軸に各集団を位置付けて考える必要がある。白人はアメリカらしく優秀であると位置づけられ、黒人はアメリカらしいが劣っていると位置づけられる。これに対してアジア系は、「アメリカらしくないが優秀だ」と位置づけられるのである。

そして人種的な不穏、例えば黒人や中南米系の人々がアメリカ社会に強い不満を感じるようなことがあれば、アジア系アメリカ人のことが高く持ち上げられるようになる。「アジア系アメリカ人は、アメリカらしくないにも関わらず、また日系人は悲劇的な歴史を背負っているにも関わらず、勤勉に働いて成功している。これに対してお前たちはどうなのだ。アジア系を見習え」というメッセージを出す形で、このモデル・マイノリティ神話が使われてきたところがある。

このような位置づけがなされることによって、アジア系をめぐるマイノリティ政治は非常に複雑になっている。例えば、黒人のロドニー・キングが現行犯逮捕された時に警察官から暴行を受けたにもかかわらず、警察官が無罪の評決を受けたことへの反発として起こった1992年のロス暴動では、警察署や裁判所に加えて、韓国系アメリカ人が経営する商店などでも略奪が発生し、大きな被害を出した。この背景に、新来のアジア系が自分たちの雇用を奪ったのみならず、モデル・マイノリティとして高く評価されていることに対する黒人の反発があったとも指摘されている。

アジア系アメリカ人の歴史

アメリカにおけるアジア系の特殊な位置づけを理解するために、その歴史を簡単に振り返ることにしたい5。アジア系が決してアメリカ的な存在ではないということが明確に示されたのが、1870年の帰化法である。これは、南北戦争後にアメリカ人とは一体誰かを規定するために作られた、国籍に関する最初の法律である。アメリカ人は白人あるいはアフリカ出身者およびその子孫と定義され、アジア系は帰化できないと位置付けられたのである。

また1882年には、中国人排斥法(排華移民法)が制定された。これは、主にカリフォルニア州のことを想定して作られた法律だと言われている。カリフォルニア州は1850年に自由州、すなわち奴隷制を採用しない州として誕生した。その結果、南部州で黒人が従事していた仕事の多くを中国出身者が引き受けることになった。そのような中で中国系の人々は、白人系移民とは違うと認識されるようになったのである。この法律は、特定の国籍を対象とした最初の移民制限措置であり、帰化不能外国人という表現を用いることで、アジア系、とりわけ中国系(中華系)の人々は帰化不能だと位置付けられたのである6

この他にも、アジア系を対象にした有名な法律として、1924年の移民法(ジョンソン=リード法)がある7。日本では排日移民法と表現されることもあるが、構成を見ると実際は、同法は特段アジア系や日系を排除するために作られたというわけではない。同法は三部構成となっており、東欧・南欧出身者に関する規定、アジア系に関する規定、西半球出身者に関する規定の3つに分けられている。ポイントは、アジア系はヨーロッパ系とは違うと規定されていることである。

また第二次世界大戦時、日系人が強制収容の経験をしたこともアジア系の中に分断を作り出した。戦争とは国のために人々が命を懸けて戦うという状況であるため、戦争に参加したマイノリティの多くがアメリカ人として位置付けられていった。第二次世界大戦時は、日系アメリカ人が悪いアジア系であるのに対して、中国系やフィリピン系は良いアジア系であるという形で、アジア系の中での分断が強調されたのである。

なお、アジア系移民に対する差別的待遇は、冷戦の文脈の中で徐々に解消されていくことになる。1952年の移民国籍法では、帰化不能外国人という規定を廃止し、移民一世の帰化権を認め、アジア諸国にも一定の移民枠を提供することが定められた。また、1965年の移民法(ハート=セラー法)では、1924年の移民法の国別の移民割当制度を廃止し、高技能者と、既にアメリカに居住している人と近親関係にある人を優先的に受け入れることが定められた。これらの規定が、中南米系とアジア系の移民人口が増大する背景にあるのである。

そして、アジア系の問題を考える上でもう一つ重要なのはヴェトナム戦争である。ヴェトナム戦争が終わった後、多くのヴェトナム人が難民としてアメリカにやってきたことも、アメリカにおけるアジア系の位置付けを複雑なものとしている。のちに述べるように、アジア系は全体としては相対的に豊かであるが、難民として米国に来た彼らは非常に貧しかったのである。

アジア系アメリカ人の多様性と一体感の欠如

このような歴史が、今日のアジア系アメリカ人に関する重要な特徴を生み出している。アジア系は白人や黒人とは異なる扱いを受けてきた点では共通しているものの、多様な背景を持っていることが重要な意味を持っている。例えば、アメリカにおける黒人の多くは、公民権運動のように人種全体としての共有経験を持っているが、アジア系はアメリカに来た時期も違えば、その経験、国内で置かれている文脈も異なっている。

その結果として、アジア系内部に明確な分断が存在し、アジア系の人々はアジア系としての一体感を強く感じているわけではない。やや古いデータではあるが、アジア系アメリカ人が、自分のことをどのように認識しているのかを問うた2011年の調査がある(表1)。自分のことを、例えば日系アメリカ人として考えているのか、日本人として考えているのか、 アジア系アメリカ人として考えているのか、アジア人として考えているのか、アメリカ人として考えているのかを問う調査である。驚くべきことに、自分のことをアジア系アメリカ人として認識する人々は、一番割合が大きかったコリア系であっても43%程度なのである。

表1 アジア系の自己意識

  インド 中国 フィリピン 日本 韓国 ヴェトナム 全体
エスニック系アメリカ人 36 40 46 44 64 69 47
エスニック集団 28 38 40 36 70 37 40
アジア系アメリカ人 21 20 15 13 43 20 21
アジア人 12 17 15 12 48 16 19
アメリカ人 6 4 3 5 2 1 4
その他 3 2 5 4 0 2 3

(出典)Janelle Wong, S. Karthick Ramakrishnan, Taeku Lee, & Jane Junn, Asian American Political Participation: Emerging Constituents and Their Political Identities, (New York: Russell Sage Foundation, 2011), p. 162.

このように、アジア系アメリカ人は集団としての一体感を強く感じているわけではないため、アジア系に対するヘイトが増大しても、アジア系としてまとまって行動するのに困難が伴うことを認識する必要がある。

その一方で、アジア系の中には、見た目で日系なのかコリア系なのか等の認識が難しい人々がいる。例えば日本のバブル期には、日本人がニューヨーク等の土地を買いあさった結果、反日運動が高まり、日系のみならず中国系の人々も被害に遭った。今日のコロナ騒動において中国系への批判が強くなされた時は、その他のアジア系の人々も強く批判されたり被害に遭ったりした。

このように、自分たち自身としては必ずしも一体感を持つわけではないものの、他者からは同一集団に属するものとして扱われるという問題を、アジア系は抱えているのである。

アジア系アメリカ人に関する基礎知識

最後に、アジア系アメリカ人についての基本的な情報を簡単に提供していく。

アジア系は現在、アメリカで最も急速に増大しつつある人種民族集団である。ピュー・リサーチセンターによると、1870年代には6万3,000人程度であったアジア系が、2019年には2,240万人となり、2060年には4,620万人にまで増大するだろうと予測されている。またアジア系の内部比率は、中国系24%、インド系21%、フィリピン系19%、ヴェトナム系10%、コリア系9%、日系7%となっている。アジア系アメリカ人の57%はアメリカ国外で産まれており、エキゾチックな存在として見られる傾向がある。英語が堪能なアジア系は72%程度である8

アジア系の人々は平均すると、他の人種、例えば黒人や中南米系と比べると経済的に豊かであると言える。だがその一方で、元国籍によって大きな差が存在している。例えば、アジア系の内部でも、インド系は非常に豊かであるが(2019年時点での家計収入の中間値が11万9,000ドル)、ビルマ系あるいはネパール系の人々は必ずしも豊かではない(それぞれ、4万4,000、5万5,000ドル)。貧困率もどのような民族的背景を持っているかによって相当違っており(例えばインド系は6%、ビルマ系やモンゴル系は25%)、アジア系と言っても実は多様な人々がいるのである9

例えば、英語に堪能な人の割合は、日系は85%、フィリピン系は84%、インド系は82%と非常に多いが、ブータンやビルマから来ている人で英語が堪能な人はそれぞれ36%、38%とそれほど多いわけではない。また大卒者の割合は、インド系は75%と非常に多いが、ラオス系(18%)、ブータン系(15%)、モン族(23%)等はあまり多くない10

なお、同一民族集団内にも多様な人々が存在する点も念頭に置いておく必要があるだろう。例えば同じく中国系と言っても多様な人々が存在する。清朝の時代にゴールドラッシュで来た人々と、天安門事件以降にやってきた大陸系の人々と、中国が強くなってきてからやってきた人々は社会経済的にも文化的にも異なっている。

このように、アジア系の内部は非常に多様であるため、アジア系が一団となって政治的に行動することは考えにくい。アジア系の人たちは、特定の政党に帰属意識を持っていない人たちがそれなりにいる(表2)。概して民主党支持の傾向が強いが、例えばヴェトナム系に関しては共和党支持の傾向が強い。このように、政党支持という点についてもアジア系としての一体感はなく、その投票行動が揺れる可能性が高いことを意味している。

アジア系に対する今回のヘイトクライムに対しては、例外的に一定の協力はあったものの、このように、アジア系がまとまりを欠いているということは、近年のようにアジア系に対するヘイトが強まったとしてもアジア系が十分効果的に対応できるわけではないことを意味している。ただし、アジア系が特定の政党と恒常的な関係を築いているとは限らないことは、民主、共和両党ともに、アジア系の票獲得を目指して様々な配慮をすると予想できることを意味している。このような状況を的確に活用することができるかどうかが、今後のアジア系の政治力を考える上で重要な意味を持つ可能性もあるだろう。

表2 アジア系の政党帰属意識

  民主党 共和党 政党帰属意識なし
インド系 54 14 32
中国系 41 13 46
フィリピン系 50 24 26
日系 59 19 23
コリア系 59 27 15
ヴェトナム系 29 45 27
全体 48 22 31

(出典)Wong, Ramakrishnan, Lee, & Junn, Asian American Political Participation, p. 129.

(了)

1 本稿は2021年8月19日に開催された笹川平和財団日米グループ主催の公開ウェビナー「アジア系米国人へのヘイトクライムと米国社会」における報告をまとめたものである。ラッセル・ジャン氏(サンフランシスコ州立大学教授)、マイケル・オミ氏(カリフォルニア大学バークレー校名誉教授)の報告や質疑応答も含めて、同ウェビナーは以下で視聴することができる。「アジア系米国人へのヘイトクライムと米国社会」2021年8月19日
<https://www.spf.org/jpus-j/exchange/20210819.html> (2021年10月25日参照)。(本文に戻る)

2 アメリカの移民政策とその歴史については膨大な量の研究が存在する。アジア系に力点を置いた優れた移民史として、貴堂嘉之『移民国家アメリカの歴史』(岩波新書、2018年)をお勧めしたい。また、西山隆行『移民大国アメリカ』(ちくま新書、2016年)も参照のこと。(本文に戻る)

3 日系アメリカ人の強制収用に関しては、竹沢泰子『新装版 日系アメリカ人のエスニシティ―強制収容と補償運動による変遷』(東京大学出版会、2017年)、日系アメリカ人については、飯野正子『もう一つの日米関係史―紛争と協調のなかの日系アメリカ人』(有斐閣、2000年)等が参考になる。(本文に戻る)

4 Claire Jean Kim, Bitter Fruit: The Politics of Black-Korean Conflict in New York City, (New Haven: Yale University Press, 2003).(本文に戻る)

5 アジア系の歴史については、貴堂『移民国家アメリカの歴史』、ロナルド・タカキ『もう一つのアメリカン・ドリーム―アジア系アメリカ人の挑戦』(阿部紀子・石松久幸訳、岩波書店、1996年)等に詳しい。(本文に戻る)

6 中国系移民については、貴堂嘉之『アメリカ合衆国と中国人移民―歴史のなかの「移民国家」アメリカ』(名古屋大学出版会、2012年)が啓発的である。なお、差別的な待遇を受けたのは日系も同様である。日露戦争で日本が勝利したのを受けて日本脅威論が強まり、黄禍論が20世紀の初頭に広まったことは知られているだろう。黄禍論については、廣部泉『黄禍論―百年の系譜』(講談社選書メチエ、2020年)など参照。(本文に戻る)

7 1924年移民法については、簑原俊洋『排日移民法と日米関係』(岩波書店、2002年)(本文に戻る)

8 Abby Budiman & Neil G. Ruiz, “Key facts about Asian Americans, a diverse and growing population,” Pew Research Center, April 29, 2021,
<https://www.pewresearch.org/fact-tank/2021/04/29/key-facts-about-asian-americans/> accessed on October 25, 2021.(本文に戻る)

9 Abby Budiman & Neil G. Ruiz, “& Neil G. Ruiz, “Key facts about Asian origin groups in the U.S.,” Pew Research Center, April 29, 2021,
<https://www.pewresearch.org/fact-tank/2021/04/29/key-facts-about-asian-origin-groups-in-the-u-s/> accessed on October 25, 2021.(本文に戻る)

10 Ibid.(本文に戻る)

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