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戦略対話・人材育成グループ

「責任ある企業行動の促進」事業
研究員レポート(2020年11月)

ビジネスと人権に関する行動計画(NAP)の公表を受けて

研究員 植田晃博


2020.11.26
9分

はじめに

 2020年10月は、私にとって思い出深い月になりました。自分が担当する「責任ある企業行動の促進」事業が正式に発足した同じ月の16日(金)に、日本の「ビジネスと人権に関する行動計画」(以下、NAPと略す)が公表されたのです。前者についてはまた別の機会に報告したいと思います。今回は日本のNAPとその最近の活動について、私が普段お世話になっている企業の担当者や専門家の方々の反応や私の感想を述べたいと思います

NAPとは

 NAP(National Action Planの略)とは、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」(以下、指導原則と略)を各国政府が着実に実行するための計画です。2011年に、国連事務総長特別代表のジョン・ラギー教授が中心となって作った指導原則が国連人権理事会で支持(endorse)されました。そして同年、新たにビジネスと人権に関する専門家で構成される作業部会が設置され、指導原則の普及と実施にかかる行動計画を作成することを各国に奨励しました。これを受けて2013年から各国でNAPの策定が進められ、2020年10月時点で24カ国がNAPを公表しています。
 日本は2017年のG20サミットでNAPを策定することを表明し、2018年には「ベースライン・スタディ(現状把握調査)」を公表。2019年4月に諮問委員会及び作業部会が設置され、ステークホルダーを交えた議論を踏まえて2020年2月にNAPの原案が発表されました。それからパブリック・コメント手続を経て、ついに2020年10月16日に第一次行動計画が公表されました。

NAPに対する反応

 NAPが公表されたというニュースはすぐに関係者の間を駆け巡りました。私も参加している「責任あるサプライチェーン研究会」でも早速意見交換の場が設けられ、参加者(主に企業の担当者と弁護士で構成)がそれぞれ思うところを述べ合いました。その中で特に印象的だったのは、「もっと強いNAPにしてほしかった」という意見が多くの企業担当者の間で見られたことです。その理由は、社内を説得したり取引先に責任ある企業行動を求める際に、「NAPにこう書いてあるから」と説明ができるからだと言うのです。一般に、企業はビジネスと人権に関する取り組みに消極的だと思われていますが、実は担当者レベルでは真面目に取り組んでいる方が多く、少しでも周りを説得する材料が欲しいというのが実情のようです。
 当財団でもNAP公表を受けて、11月4日(水)にビジネスと人権リソースセンターとイベントを共催しました。イベントの様子についてはこちらをご覧ください。もともとビジネスと人権に関する日本語サイト完成を記念したイベントでしたが、急遽内外の専門家を集めてNAPに関するパネル・ディスカッションを行うことにしました。関係者の関心が高く、ショートノーティスにも関わらず100名を超える参加がありました。
 デンマーク人権研究所のデニス・モリス氏からは、フランスやオランダ、ドイツが人権デュー・ディリジェンスの義務化に踏み込んでいる旨の説明がありました。この段階で日本はようやく初のNAPが完成したところです。内容的にも日本のNAPはビジネスと人権に関する周知と啓発に留まっており、取り組みが遅れているという印象は否めませんでした。
 11月9日(月)には、日弁連主催でステークホルダー報告会がオンラインで催され、NAPが正式にお披露目されました。NAPの策定過程にステークホルダーとして関与した主な団体は、日弁連、経団連、連合、中同協、ILO駐日事務所、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)、ビジネスと人権NAP市民社会プラットフォームなどです。NAP策定を所管する外務省人権人道課からの報告を踏まえて、これらステークホルダーの代表がコメントを述べるという形で議事が進められました。
 報告会では、ステークホルダー側から、ギャップ分析がなされていない状況でどう進捗を評価するのか、周知と啓発だけでは不十分、具体的な施策が少ないなど、厳しい意見が多く出されました。一方で、政府の企業に対する期待表明が出された点は意義がある、すべては今後の実施に掛かっているという前向きな意見もありました。個人的に特に参考になったのは、ILO駐日事務所が発表した「ビジネスと人権に関する行動計画に係る作業部会 ステークホルダー合同コメント」です。この合同コメントには、ステークホルダーはNAP策定の過程において、政府に対して二度共通要請事項を提出したことが触れられており、その要請事項がどの程度NAPに反映されたのか、一目で分かる表が別添資料として掲載されています。残念ながら、要請事項はあまり反映されていません。なぜ反映させられなかったのか、政府には説明責任があります。今後の政府との対話において基礎となる重要な資料だと思います。

NAPに想うこと

 私は10年近く前になりますが、外務省の人権人道課に調査員として勤務していたことがあります。10人少々の人員で日本政府のあらゆる人権問題を扱う人権人道課は非常にハードな職場で、定時で帰宅できる職員はいませんでした。ビジネスと人権案件も一人で担当しており、同時に他の案件も所掌されていました。しかも、事務官は人権論に通じているわけでもありません。そうした状況で、一方でビジネスと人権問題について知識と熱意を持つステークホルダーを相手にし、他方で頑固な他省庁担当者と折衝を行うのは、相当骨の折れる作業だったと思います。
 当時と比べると、ビジネスと人権問題の重要性は格段に上がっており、業務量も相当増えているはずです。人員増など何等かの手当てがなされていることを祈りますが、関係者の話を聞く限り、まだまだ十分な体制とは言い難いようです。ビジネスと人権に関する政府の本気度が試されています。また、もう少し国際人権に詳しい専門家を多く配置し、全体に目配りできるようにするべきだったでしょう。NAPには「国際社会に対する(国際人権法上の(筆者補足))各種コミットメントの実施のための手段の一つとして、行動計画を策定する」と記載されていますが、実際に重点が置かれているのは国内関連政策の一貫性確保です。国際人権諸条約への言及はほとんどなく、他国のNAPと比べてもドメスティックな印象を受けます。
 このように、NAPの評価は総じて批判的でした。個人的にも、今回のNAPは「生ぬるい」という印象を拭えません。しかし、これはNAPに期待する人が多くいるということでもあります。曲がりなりにもステークホルダーとの対話を踏まえて完成させたことは事実であり、まずは関係者に敬意を表したいと思います。そして、今後の取り組みに期待したいと思います。
 

関連事業

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