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日中有識者対話・北朝鮮の核危機と北東アジア情勢の行方⑤

「北朝鮮の核問題と中国の輿論の変化」

周志興氏 (米中新視角基金会長)

2017.11.07


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 北朝鮮の核問題は非常に悩ましい問題です。エピソードを一つご紹介しましょう。米国の核専門家であるジョン・ルイス教授(米スタンドフォード大学国際安全保障協力センター)と彼のオフィスで雑談をしていた時のことです。私は自分の父親が中国の原子爆弾の開発に携わり、核汚染のために49歳で亡くなったとお話ししました。すると、教授は次のような話をしてくれました。彼は三度北朝鮮を訪問したことがあり、北朝鮮の核施設を見学したことがありました。北朝鮮人は米専門家にこの施設を見せたがっていましたが、中国人に一度もその施設を見せてこなかったというのです。その後、別の専門家が我々にこのようにも語りました。「北朝鮮の核施設を見たら、いろんなところからコピーしてきたものばかりで、何かが起きたら放射能が漏れて数十キロしか離れていない中国東北地方が汚染されてしまう。専門家としてはこうしたらいいと教えたいところだが、そうすればもっと先進的な核兵器を作ってしまうことになり、世界に大きな脅威となってしまう。この問題は非常に悩ましく、教えるわけにもいかないし、かといって教えないわけにもいかない」。正直言って、これは中国人にとっても同じことです。

悩ましい北朝鮮の核問題

 中国メディアも北朝鮮の核問題については悩ましいところです。中国メディアはご承知のように欧米メディアとは違い、ある程度制限がかけられております。官製メディアといってもよく、ネット上でも政府の監視下にあります。ですから、中国メディアの論調はほとんどが中国政府の考えを反映していると言っても良いでしょう。北朝鮮側も中国メディアの論調をたいへん重要視しています。エピソードを二つ、ご紹介しましょう。かつて「戦略と管理」という著名な雑誌がありました。この雑誌が2004年頃に突然廃刊となりました。理由は、北朝鮮を批判する論文を掲載したところ、北朝鮮側から強い抗議を受けたためです。そのおかげで私どもが発行している「領導者」という雑誌の売れ行きは良くなりましたが...。もう一つは、我々が運営していたサイト「共識網」のことですが、昨年閉鎖致しました。
 というのは、北朝鮮問題に関する記事について、中国政府から批判を受けたのです。ある日、米シンクタンクの関係者が訪中し、食事をしながら懇談しました。「共識網」の記者はその様子を録音し、記事にしました。その中で、その関係者が「実のところ習近平氏は金正恩氏が好きではない」と述べ、そのまま記事にしました。これに北朝鮮側が激しく反応してきたのです。これは本当のことなのかと。また、中国社会科学院のある研究者が北朝鮮の核問題は「斬首作戦」を行ってから議論しても良いという趣旨の文章を「共識網」で公表しました。社会科学院は中国政府系のシンクタンクで、政府の立場を反映していますので、北朝鮮側はこれに強く抗議をしてきたのです。我々も中国政府から批判を受けました。
 ある日、ネットを管理担当していた元政府高官と北朝鮮問題について話をする機会がありました。私は、多くの中国人は北朝鮮の指導者について多くの批判の声があるが、これをどう処理すればよいのかと質問しました。この元政府高官は、考えた末に次のように答えました。中国の指導者を批判してはならないのならば、北朝鮮の指導者についても批判しない方が良かろうと。

北朝鮮批判を増すメディア論調

 中国メディアと民間世論の論調には違いがあり、官製メディアは控え目な感じになります。大衆紙である『環球時報』を例にとっても、2012年から2014年にかけては北朝鮮を、どちらかというと好意的に報道していました。ところが、最近になって変化が見られます。たとえば、北朝鮮のミサイル開発は危険な道だとか、多くの中国人は北朝鮮を友好国とは見なしていないとか、等です。中国人の民間世論は北朝鮮を批判し続けていましたが、政府はそれをある時は統制し、ある時は見て見ぬふりをしています。いまは見て見ぬふりをして、北朝鮮の批判をさせているといえるでしょう。
 中国の北朝鮮に対する論調というのは、少数の両極端な意見と多数の中立的な意見で成り立っています。両極端とは、北朝鮮は人類史上最悪の国だと激しく批判するものと、とても良い国だと賞賛するものです。中立的なのは、合理的に批判する論調です。最も多い意見としては、北朝鮮を批判すると同時に、その責任は米国にあるというものです。『環球時報』は、「北朝鮮問題のカギを握っているのは米国であって、中国に押し付けはならない」と主張します。

世論は一つの見解に過ぎず

 中国では世論が政策を決定づけるわけではありません。多くの世論はシンクタンク等の研究者により取りまとめられ、分析され、政策決定者に届けられます。世論というのは重要ではありますが、メディアが発達している諸国ほど重要ではありません。世論とは一つの見解に過ぎません。
 最後に、中国メディアの北朝鮮に対する論調変化は何を意味するのか。それは中国の対外政策が変化してきたということです。たとえば、中国が北朝鮮を血で繋がった兄弟であると考えていれば、論調にも変化は出ないでしょう。その基本的な考えに変化が起きれば、態度にも変化が起きるわけです。仮に米国が北朝鮮を攻撃するということになれば、以前ならば中国は絶対に反対していましたが、現在は明らかにそこのところは緩くなっているといえます。

講演者プロフィール
周志興氏(米中新視角基金会長)
中央文献研究室劉少奇研究チーム研究員補佐、中央文献出版社副社長、『鳳凰週刊』社長、鳳凰網社長、『財経文摘』社長、共識メディアCONSENSUS NET総裁、『指導者LEADERS』誌社長などを歴任。2016年に米中新視角基金会を創立、現職に。

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