石川 附属 単元開発 2025年度
金沢大学附属特別支援学校
河川調査から海洋プラスチックごみの発生源を理解する
実施単元
1. 海洋プラスチックごみは、どこから来たのだろうか?[1,2,3年生](総合的な学習の時間)
取り組みの概要
1.学習目標
本単元の学習目標は、海岸清掃活動の経験を出発点として、海洋プラスチックごみの発生源に着目し、「海洋プラスチックごみはどこから来るのか」という問いをもとに、河川や身近な生活環境との関係を探究することで、環境問題を自分事として捉えることである。従来、知的障害のある生徒においては、環境学習で得られた知識や技能が断片化しやすく、活動の目的を十分に理解しないまま参加にとどまる傾向が指摘されてきた。そこで本実践では、同一の学習テーマのもとで、知的水準に応じた段階的な学習目標を設定することにより、すべての生徒が意味のある学びに参加できることを目指した。具体的には、基礎段階で河川や海岸での清掃活動に教師や仲間と共に参加し、ごみの存在に気づき、環境に親しみながら活動に関わろうとする態度の形成を目標とした。発展段階では、河川の上流・中流・下流におけるごみの様子の違いに着目し、ごみが流れて移動することや、人の生活と環境との関係について理解を深めることを目標とした。さらに応用段階では、海洋プラスチックごみが河川や生活圏とつながっていることを踏まえ、ごみの発生源について自分なりの考えをもち、環境保全に向けて自分たちにできる行動を考え、提案することを目標とした。
このように、本単元では「気づく」「理解する」「考えをもつ」という意味形成の深まりを意図した三段階の学習目標を設定し、活動内容は共通としながらも、到達の水準を柔軟に設定した。これにより、知的水準の異なる生徒が同一のテーマのもとで学びを共有しつつ、それぞれの発達段階に応じた学習成果を得ることが可能となる学習構造を構築した。
2.実施期間
2025年4月から7月
3.対象者
(重度・中度・軽度)知的障害のある中学部1年から3年 総計17名
4.学習場所
本校教室、手取川(石川県)、犀川(石川県)、小舞子海岸・専光寺浜海岸(石川県)
5.学習内容
本実践では、知的水準の異なる生徒が同一のテーマのもとで学びを共有できるよう、学習内容に応じて一斉学習とグループ学習を計画的に組み合わせて指導を行った。一斉学習は、単元全体の見通しをもたせる場面や、共通体験を通して環境への関心を高める場面に位置づけ、グループ学習は、生徒の知的水準や理解の深まりに応じて学習内容を調整し、探究を深める場面として活用した。一斉学習では、学習の導入として海岸清掃活動や河川でのフィールドワークを学級全体で行い、海洋プラスチックごみの存在や量に気づくことを学習内容とした。この段階では、重度知的障害の生徒にとっても活動の意味を感じ取りやすいよう、実際に体を動かしながらごみを拾う、見比べるといった感覚的・体験的な活動を中心に構成した。また、上流・中流・下流を順に訪れることで、活動の流れに一貫性と連続性をもたせ、全ての生徒が「同じ場所」「同じ経験」を共有できるようにした。一方、グループ学習では、一斉学習で得た共通体験をもとに、知的水準に応じた学習内容を設定した。重度知的障害の生徒には、ごみの分別や量の比較など、具体的な操作活動を通してごみへの気づきを深める学習内容を設定した。中度知的障害の生徒には、上流・中流・下流で見られたごみの違いを整理し、ごみが河川を通して移動することや、人の生活との関係について考える活動を行った。さらに軽度知的障害の生徒には、収集したデータや観察結果をもとに、海洋プラスチックごみの発生源について話し合い、自分たちにできる環境保全の行動を考え、まとめる学習内容を設定した。
このように、一斉学習によって全体としての学習の方向性と共通理解を形成し、グループ学習によって個々の知的水準に応じた学びの深化を図ることで、「気づく」「理解する」「考えをもつ」という段階的な意味形成が可能となった。また、一斉学習とグループ学習を往還する学習構成により、生徒は自分の学びを学級全体の学びの中に位置づけながら、主体的に環境問題に取り組むことができた。
6.学習における効果
本実践において、学習目標を知的水準に応じて三段階に設定し、一斉学習とグループ学習を組み合わせて指導を行ったことは、知的障害のある生徒の環境学習において多くの教育的効果をもたらした。第一に、生徒が「何のために活動を行っているのか」を理解しやすくなり、学習が単なる清掃活動にとどまらず、目的意識を伴った学びへと発展した点が挙げられる。一斉学習によって全員が同じ場所で同じ体験を共有したことで、学級全体として共通の課題意識が形成され、環境問題を話題として共有する土台が整えられた。第二に、グループ学習を通して、生徒一人ひとりの知的水準に応じた学習内容が保障されたことにより、理解の深まり方に応じた意味形成が可能となった。重度知的障害の生徒は、ごみの存在や量に気づき、活動に参加する経験を重ねることで環境への関心を高めた。中度知的障害の生徒は、河川の構造やごみの移動に着目することで、人の生活と環境との関係を理解するようになった。さらに軽度知的障害の生徒は、発生源という視点から環境問題を捉え、自分たちにできる行動を考えるなど、探究的な学びへと発展した。このように、同一の学習テーマのもとで到達の水準を段階化したことにより、知的水準の異なる生徒全員が学習の主体となることができた。第三に、一斉学習とグループ学習を往還する学習構成は、生徒の主体性と学習意欲の向上にも寄与した。グループ学習で得た気づきや考えを一斉学習の場で共有することで、生徒は自分の学びが学級全体の学びに貢献していることを実感し、発言や活動への参加が活発になった。特に、これまで成功体験を得にくかった生徒においても、「できた」「分かった」という経験が積み重ねられ、学ぶことへの肯定的な態度が育まれた。
以上のことから、学習目標の段階化と、一斉学習・グループ学習を柔軟に組み合わせた指導は、知的障害のある生徒における環境学習の理解促進、主体性の育成、探究的な学びの実現に有効であることが示唆された。本実践は、異なる知的水準の生徒が共通のテーマのもとで学び合う包摂的な学習の在り方を具体的に示すものといえる。
7.課題
本実践は、知的水準に応じた学習目標の段階化と、一斉学習・グループ学習を組み合わせた指導により、知的障害のある生徒の主体的な環境学習を促す一定の成果を示した。一方で、いくつかの課題も明らかとなった。第一に、学習効果の評価方法に関する課題である。本実践では、生徒の行動の変化や発言内容、活動への参加状況を中心に質的に評価を行ったが、学習の深まりや理解の程度を客観的に比較・検証する指標は十分とはいえない。特に、重度知的障害の生徒における「気づき」や「関心の高まり」といった内面的変化を、どのように可視化し評価するかについては、今後の検討が必要である。第二に、指導体制および授業運営上の課題が挙げられる。一斉学習とグループ学習を柔軟に使い分けるためには、複数の教員による協働や事前の綿密な指導計画が不可欠であり、人的配置や時間的制約の大きい学校現場では継続的な実施が難しい場合もある。また、グループ学習においては、生徒の理解の差が大きいため、支援の量や方法に偏りが生じやすく、教員の専門性や経験に依存する側面が大きいという課題も認められた。第三に、学習内容の一般化に関する課題である。本実践では、河川という具体的で生活に密着した題材を用いたことで高い学習効果が得られた一方、他の環境題材や地域においても同様の効果が得られるかについては検証が必要である。河川環境や海岸へのアクセスが限られている地域では、同様の学習構成をそのまま適用することが難しい可能性がある。第四に、学習成果の生活場面への転移に関する課題である。生徒は授業内において主体的に環境問題に取り組む姿を示したが、家庭や地域生活において環境配慮行動がどの程度継続・定着しているかについては、十分に追跡できていない。学習で得た気づきや理解を日常生活へと結びつけるためには、家庭や地域との連携を含めた継続的な支援が求められる。
以上の課題を踏まえ、今後は評価規準の精緻化、指導体制の工夫、他題材・他地域への応用可能性の検討、ならびに生活場面への学習成果の転移を視野に入れた実践の継続が必要である。



