愛知 公立 単元開発 2023年度
豊川市立金屋小学校
海とともに生きるわたしたち -つなごう 海と森とわたしたちー
実施単元
つなごう海と森を -わたしたちの三河湾、ぼくたちのきららの森― 海となかよし大作戦「三河大島大冒険」[5年生](総合的な学習の時間・社会・国語・家庭・理科)
つなごう海と森を -わたしたちの三河湾、ぼくたちのきららの森― 「きららの森をもっと豊かに」[5年生](総合的な学習の時間・社会・国語・家庭・理科)
取り組みの概要
6月2日、豊川市上空に発生した線状降水帯により、豊川市一帯は未曽有の水害に遭遇した。各地で車が水没したり、土砂崩れが発生したり、近隣の学校では校舎が浸水したりした。豊かな水に恵まれた地域ではあるが、それは水との闘いの歴史を意味している。子どもたちは4年生時に豊川上流のダムや下流の汚水処理施設を見学し、生活に関わる水の流れについては学習してきた。しかしながら、海に放出された水が海のさらなる浄化作用により多様な命を育み、蒸発した水分はやがて雨となって上流の森を育て、私たちの生活を支えているというグローバルな視点では捉えきれていない。折しも、コロナ禍でプールでの水泳はもちろん海水浴の経験がほとんどない子どもたちに、海の恵みを理解させるためには、海で泳いだり遊んだり体験したりすることが不可欠であろうと考えた。そこで、三河湾に浮かぶ無人島での体験活動を通して、子どもたちに海の偉大さやおおらかさを体感させ、生活に関わる水の課題を自分ごととして捉えさせることとした。
三河大島で体験活動を運営している柘植基成氏と相談して、泳いだり、ボートに乗ったり、磯遊びをしたり、海辺でのドラム缶風呂体験をさせる機会をつくった。また、柘植氏からは、海を生業とする人が海に寄せる思いや願いを聞き取った。さらに、美化活動をすることで、無人島にも関わらず漂着したごみの量に驚かされた。プラスチックやビニールだけでなく、保水力を失った河川が土砂や樹木を流出させていることにも気づいた。
学校に戻った子どもたちは、豊川中流域に住む自分たちの生活が海と森に支えられていることを理解し、生活に関わる水との関わり方を見直すようになった。ごみの分別に気を遣うようになったし、生物指標や水質検査キットを使って、学校の東隣を流れる佐奈川の水質を調べたり、一滴の油を浄化するために大量の水が必要であることを知って、仲間だけでなく、家庭や地域に家庭排水に意識をもつよう呼びかけるポスターを作成したりした。
こうした啓発活動に触発されて、4年生の子どもたちは、私たちがあたりまえに使っている水を得るために、先人たちが工夫をこらし、ダム建設・用水開発・衛生的なシステム等、壮大な仕組みを造り上げてきたことを学習した。また、水質データや一滴の油を浄化するために必要な水の量をペットボトルで示されたことから、ふだんの水の使い方や台所・風呂等の家庭排水のよりよい在り方についても考えるようになった。これらの学習を踏まえて、豊川上流にある宇連ダムと、豊川下流の豊川浄化センターに見学し、学んだことを自分の目で確かめた。水の大切さを実感したこの子どもたちも来年度の夏には、三河大島での体験活動を通して、海のおおらかさや偉大さと生活を支える浄化作用を体感させたい。
さらに、人間が作った生活必需品のごみだけでなく、草・枝・幹・竹・土砂等、自然物によるごみの多さに驚いた5年生の子どもたちに、西沢昭夫氏による講話を聞かせることにした。西沢氏は、教科書執筆の経験もある生物・科学を専門とする元中学校理科教師である。具体物や実験道具を用意して、実際に操作したり子どもたちに扱わせたりして理解を促す手法に堪能である。高低差のある土地を長さ77kmで海に注ぐため、豊川は昔から暴れ川であった。豊かな川という地名は裏返せば水との闘いが繰り返されてきた地域である。下流の市街地を洪水から守るために、江戸時代には霞堤と呼ばれる中流域の堤防の土手をあえて低いままにして水を逃す工夫をしていた。近代化に伴ってダムや用水の開発により土手をコンクリートで固めてしまったために、かえって上中流域の保水力がなくなり、大雨の際には木や竹や土砂が一気に流出しやすくなったという話は、ダムや用水を豊かな生活を支える便利なものと認識している子どもたちにはショックな内容であった。
そこで、きららの森の宿泊体験では、森を歩いたり、森と対話したり、森の生育を邪魔しない程度に苗木を植えたりして、森を理解し、守る活動を織り込みたいと子どもたちは願うようになった。栄養と水分に満ちた腐葉土を踏みしめたり掌に包んだりすることで、自然の保水力を体感し、自分が落とした葉で自分を育てていくという自浄作用や自己完結性を森から学ぶことができた。
これら一連の学習活動を通して、豊川中流域に住む子どもたちの豊かな生活を、豊川上流の森と豊川が流れ出る三河湾が培い、支えているということを子どもたちは学ぶことができた。私たちの生活が持続可能となるように、海や森に対してどのようにアクションし、適切に関わっていけばよいかを考えさせてくださった貴財団の支援に厚く御礼申し上げる。
提出物
学習内容報告書「海と仲よし大作戦「三河大島大冒険」」 PDF形式(678KB)
補足資料「令和5年度海の学習実施案」 PDF形式(209KB)
補足資料「「水はどこから」実践記録」 PDF形式(1,922KB)
補足資料「郊外学習実施案計画・水はどこから授業案」 PDF形式(363KB)