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再生可能エネルギー外交を考える

2018.04.09

「再生可能エネルギー外交の時代と日本の進路」と題する国際セミナーが4月4日、笹川平和財団ビル(東京都港区)で開かれ、世界的に脱炭素化へのエネルギー転換が進む状況下で、日本のエネルギー外交の在り方を中心に熱い議論が交わされました。

セミナーは公益財団法人・笹川平和財団と外務省が共催しました。

日本は大胆なリーダーシップを

冒頭、岡本三成外務政務官が河野太郎外相のメッセージを読み上げました。この中で河野氏は「戦略的なエネルギー外交を展開することは、エネルギー資源の大半を海外に依存する日本にとって、外交政策の試金石でもあります。私が再生可能エネルギー外交を掲げるのは、世界のエネルギー部門で今後、最も成長していくのが再生可能エネルギーだからであり、日本企業が関連分野でもつ高い技術力を、国際市場で競争力に転換できるかどうかが、これからの日本の経済成長を左右する重要なポイントだと考えております」と強調しました。

笹川平和財団の田中伸男会長は、国際エネルギー機関(IEA)の「2017年版世界エネルギー展望」を引用する形で、①米国がシェール革命により、化石燃料を中心とする圧倒的な競争力をもつ②太陽光発電のコストが低下しており、近いうちに最も安い電源になる③中国が再生可能エネルギーを活用するグリーン革命を進めており、世界を大きく変えようとしている―と、「3つの革命」を指摘しました。

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田中伸・笹川平和財団会長

そのうえで、「こうした世界の中でどうやってエネルギー安全保障を維持していったらいいのか、すべての国がパラダイムのシフトについて真剣に考えていく必要がある。そのことを理解しないと、いかなる国であれ、企業であれ、組織であれ、生き残ることはできない」と述べました。

さらに「海外で再生可能エネルギーをつくり、送電網を結び日本へ運んできた方が、日本で発電するより安いかもしれない、というアジアスーパーグリッド構想があります。中国、韓国、日本などをつなぐこの構想をロシアのプーチン大統領も支持している。エネルギー安全保障をどういうように考えていくか、アジアスーパーグリッド構想における連携も含め日中韓首脳会議でぜひ議論してもらいたい」と呼びかけました。

一方、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のアドナン・アミン事務局長は基調講演で、「再生可能エネルギーは気候変動対策になる。世界のGDP(国内総生産)を2050年までに0.8%かさ上げすることができ、2600万人の雇用を増やすこともできるなど、経済成長をもたらしてくれる。再生可能エネルギーを持続可能なエネルギーに転換することは十分に可能です」と語りました。

Mr. Amin, Director-General of IRENA
アドナン・アミンIRENA事務局長

そして「石油や天然ガスをめぐり国家間で敵対し、石油パイプラインなどを守るために軍事費も使ってきました。政治的、地政学的な大きな問題を提起してきたわけですが、再生可能エネルギーが支配する社会になると、近隣諸国との電力の系統連系などによる協力のように、資源をめぐる争いにはならない。イノベーションも共有できるようになるだろう」との見方を示しました。

再生可能エネルギー外交については「これを駆使することによって、地政学的にも平和に満ちた協力関係にもっていくことができます。威嚇や争いの代わりにです。これこそ20世紀とは違うエネルギー外交です」と強調しました。日本に対しては「技術的に優位性があり、イノベーションの力や研究開発機関が強く、いい位置についている。世界のエネルギー転換の主要なプレーヤーに必ずやなる。大胆なリーダーシップをとり、大胆なビジョンをもって日本という国を次のレベルに引き上げてください」と強い期待感を示しました。

太陽を奪い合う戦争はない

この後、パネルディスカッションが行われ、日本の再生可能エネルギー外交の在り方について討議されました。

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パネルディスカッションでは、さまざまな角度から再生可能エネルギー外交が論じられた

国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)の末吉竹二郎特別顧問は「世界がエネルギー転換へ向かう中で、日本の立ち遅れが顕著になっている。エネルギーのことをエネルギーだけで考える時代は終わった」と力説しました。そして①再生可能エネルギー外交を推進して気候変動対策で世界に貢献し、日本の社会、経済の発展につなげる②持続可能なエネルギーで途上国の未来に貢献する③エネルギー効率化と再生可能エネルギーを脱炭素化の中心に据え、パリ協定と調和した脱炭素社会を築く④原発への依存度を「可能な限り」ではなく、「限りなく」低減する―などを指摘しました。

ファアラヴァアウ・ペリーナ・ジャクェリン・シラ・トゥアラウレレイ駐日サモア大使は、 気候変動に伴う海面上昇に苦しむ島嶼国の立場から「私たちは気候変動に日々さらされています。それだけに再生可能エネルギーへの転換は、住民の生活に大きな変化をもたらすのです。サモアのような多くの島嶼諸国にとり、再生可能エネルギーは持続可能な経済発展の中核と位置付けられています。私たちはエネルギー安全保障も求めています。多くの島嶼諸国の経済は観光産業に依存しており、気候変動、地球温暖化に対し脆弱です。再生可能エネルギーへの転換は『選択』ではなく、『必要』なのです」と訴えました。

サモアは電力発電における再生可能エネルギーのシェアを、2025年までに100%にまで引き上げるという目標を設定しています。しかし、大使は「投資、資金へのアクセスが、島嶼諸国や開発途上国にとりエネルギー転換を図るうえでの大きな障害になっています」と、投資などにおける支援を求めました。

日本に対しては「日本は世界的に有数の技術先進国であり、国際社会の連携という点でも非常に重要な役割を果たしています。再生可能エネルギーへの転換というグローバルトレンドを率い、ビジョンに満ちたリーダーシップをとってほしい」と要請しました。

自然エネルギー財団の大林ミカ事業局長は「日本は知識、技術、資金力がありますが、これを一つのパッケージとして海外、国内で展開していく政策がとられていない。ドイツの自然エネルギー専門家であり、政治家でもあるヘルマン・シェア氏の言葉に『太陽を奪い合う戦争はない』というのがあります。太陽を奪い合う戦争はないという観点から外交を考えると、隣国とともにアジアの中の日本として成長し、さらには途上国とともに再生可能エネルギーを拡大し持続可能な道筋をつけていくといった、再生可能エネルギー外交の戦略が必要とされているのではないか」と述べました。

資源エネルギー庁の高科淳省エネルギー・新エネルギー部長は「それぞれの国にはいろいろな事情があり、自然条件も国際環境もニーズも異なると思う。インフラ整備などを支援するうえでは、相手国のニーズに応じた二酸化炭素の排出削減に資する選択肢を提案していきたい」と指摘しました。

元IEA事務局長でもある田中氏は「エネルギー外交は資源外交で、再生可能エネルギーを増やしていくことは地球環境にも優しく、エネルギー自給率を上げるうえでも非常に意味があるので、コストさえペイするならどんどん進めるべきだというのは、まったくその通り」としながらも、「再生可能エネルギー以外の電源とも包括的に考えないと、外交という意味では不完全なのではないか」と問題を提起しました。

その一例として、「石油の需要が減り始めるのは意外と早いと思うが、そうなると困るのは石油産油国、とくに中東諸国です。中東がより平和にならなければ困り、再生可能エネルギーをどんどん使っていくことによって中東が混乱しないような外交を考えなければならない」と指摘しました。

さらに「原子力を『限りなく下げる』という話がありましたが、太陽光発電が最も安い電源になってくると、今の大型軽水炉はコスト的にペイしなくなることは想像に難くありません。大型軽水炉が限りなく下がっていくことは間違いない。ただし、それで日本はいいのかという問題を考えなければいけない。北朝鮮と米国がこれからミサイル・核開発問題をめぐり協議し非核化に向かうとしても、相当時間がかかる。日本はどうしても原子力を維持する必要がしばらくはあるだろうと思わざるを得ません。日本は広島、長崎を経験しており原爆をつくるつもりはさらさらなく、そのことは確認しておく必要がありますが、原子力をもっていないということで外交上の弱みを見せることは防がなくてはいけない。そのための技術をどう維持するか、真剣に考えなければいけない」と強調しました。

具体的には「小型炉は分散型にすると出力調整が非常に楽になり、再生可能エネルギーとも食い合わせがいい。小型で分散型、デブリ処理ができる安全な原子力というのがありうると思います。こういうことを国として進めていくことは外交上も必要なこことではないか」と訴えました。

アミン氏は「再生可能エネルギー外交は、ゼロサムゲームではなくウインウインの発想から考えるべきであり、敗者と勝者が一緒に出るような世界にはならない。こういうマインドで外交に臨むべきです」と語りました。

(特任調査役 青木伸行)

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