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[インド洋地域の安全保障国際会議]
日米豪印の協力探る

2018.02.28

公益財団法人・笹川平和財団(会長・田中伸男)は2月23日、笹川平和財団ビル(東京都港区)で、「インド洋地域の安全保障」をテーマに国際会議を開きました。インド洋を通るシーレーン(海上交通路)は、世界経済を支える物流の大動脈であり、中国は「一帯一路」構想の一環として、この地域でもプレゼンスの強化を着々と進めています。こうした動きに対し、日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国は「自由で開かれたインド太平洋」を掲げ、海洋の安全保障と航行の自由の確保へ向けた協力を進めています。今回の国際会議では、4カ国の専門家が中国海軍の動向などに焦点を当てつつ、官民挙げて4カ国による協力を推進する必要性を確認しました。

インド洋に中国空母常駐も

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会議の開会にあたり挨拶をする田中伸男・笹川平和財団会長

冒頭、笹川平和財団の田中会長は「経済的利益を求める中国のような国が、インド洋沿岸国への接近を進めています。『一帯一路』戦略のもとで、パキスタン、ミャンマー、スリランカ、モルディブへの接近は大変大きな動きであり、将来において地域の安全保障に大きな影響を及ぼす可能性があります」と述べました。そして「不安定要素を抱える南アジア地域において、シーレーンの安定を確保しながら地域の安定化に寄与するために、域内外の大国がどうかかわっていくべきか、極めて重要な問題です」と提起しました。

国際会議では専門家が、2つのセミナーに分かれて議論しました。「中国とインド洋」と題したセミナーで、米海軍分析センターのマイケル・マクデビッド上級研究員はまず、「インド洋には中国海軍のフリゲート艦や補給艦、潜水艦が4、5隻航行しています」と、中国艦船の動向を説明しました。そのうえで、空母に加え「中国版イージス艦」や、最新鋭の055型駆逐艦などを建造、就役させ海軍力を増強し続けており、「『大型海軍』として急成長している」と指摘。「万が一、米中関係が悪化した場合、中国が権益を守るために多くの艦船をインド洋に派遣する事態になるかもしれません。空母機動部隊が定期的にインド洋に派遣され、あるいは2020年代の半ば、後半ともなると、常駐することも十分考えられる」と警鐘を鳴らしました。

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第1セミナーの「中国とインド洋」で、見解を表明するデイヴィッド・ブリュースター(オーストラリア国立大学国家安全保障カレッジ上級研究員)、マイケル・マクデヴィッド(米海軍分析センター上級研究員)、カンワル・シバル(ヴィヴェカナンダ国際財団参与)、田中伸雄(笹川平和財団会長)の各氏=写真左から

一方、オーストラリア国立大学国家安全保障カレッジのデイヴィッド・ブリュースター上級研究員は、中国の今後の動向について、複数のシナリオを提示しました。

まず、中国が現在のような限定的な軍事プレゼンスを維持するというものです。その根拠として「中国の主要な戦略の優先順位は太平洋であり、インド洋は第二戦域にすぎない。中国本土からかなり離れているということもあり、主要なプレゼンスをインド洋に振り向けるということは、かなり軍事費もかかるのです」と説明しました。

また、限定的な「接近阻止・領域拒否」(A2/AD)戦略を指摘しました。ただ、限定的なA2/ADを実施するうえでは、インド洋に潜水艦基地を設けることなどが必要となり、「中国はいずれにせよ、インド洋のパートナー国に依存し、その国の領海と領土を活用せざるをえない。しかし、インド洋に関しては、A2/ADのためのシステムを構築できるパートナー国はないのです」と述べ、限定的なA2/D2であっても現状では難しいとの認識を示しました。

インドのヴィヴェカナンダ国際財団のカンワル・シバル参与は「最近、中国の学者が発表したのですが、中国はインド洋に16の基地を建設することを検討しているのだというのです。これらは名前を挙げて特定されています。中国の力がかなり拡大することになり、隣国にとっても問題になるわけです」と、懸念を表明しました。

中国との協力模索も

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第2セミナーで「地域の安全保障」について論議するヴィジャイ・サクージャ(グジャラート国立法科大学上級研究員)、下平拓哉(防衛省防衛研究所主任研究官)、ロリー・メドカルフ(オーストラリア国立大学国家安全保障カレッジ長)、デニス・ブレア(笹川平和財団米国会長)の各氏=写真左から

「地域の安全保障」と題したセミナーでは、 笹川平和財団米国のデニス・ブレア会長が「経済、外交、軍事的な中国との競争が、インド洋で生じていることは間違いない」としたうえで、「しかし、中国との協力の機会もあるはずです。インド洋では、すべての利害関係国に共通の課題があるからです」と述べました。

インドのグジャラート国立法科大学のヴィジャイ・サクージャ上級研究員も、「中国が『自由で開かれたインド太平洋』を理解してくれるとありがたい。インド洋ではインド、中国、日本、韓国が力を合わせ海賊対策に対処している例がある」と指摘し、中国も引き込むことが望ましいとの認識を表明しました。そのためには「安全保障協力は中国の利益にもなると説得しなければなりません。まずは対中封じ込めではないということであり、封じ込めということでは間違ったシグナルを発信してしまいます」と語りました。

笹川平和財団は今回の国際会議での議論を踏まえ、日米豪印の協力の在り方に関する提言をまとめることにしています。

(特任調査役 青木伸行)

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