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論考シリーズ | No.148 | 2023.12.26
アメリカ現状モニター

大統領候補者が「不測の事態」に陥ったら・・・

山岸 敬和
南山大学国際教養学部教授

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前回の論考で、最近心身の衰えが見えるバイデンは2024年選挙に出馬すべきではない、という声が身内から出ているという話をした。その中で、バイデンよりも3年半若いトランプはまだましだと書いたが、トランプもバイデン大統領と言うつもりがオバマ大統領と言ってしまったり、習近平を金正恩と言い間違えたりしている。バイデンもトランプも失言癖が元々あるが、最近になって以前よりも悪化しているということが指摘されている。

本論考ではまず共和党の主要候補者がトランプの年齢についてどのような発言をしているのかを紹介する。その後に、大統領候補者が就任式までの間に不測の事態、すなわち死亡するまたは能力喪失に直面したときに、選挙にどのような影響が及ぶのかについて解説する。

認知機能検査導入の提案

共和党候補者のニッキー・ヘイリー(51歳)は、2月に出馬表明をした時、「我々は準備ができている。古くなったアイディアや色褪せた過去の人物の名前を乗り越える準備ができている1」と述べ、世代交代の重要性を訴えた。そして70歳を超える高齢の政治家には認知機能検査を行うべきだと主張した。政治家に対する一般論として話をしたが、この発言は明らかにトランプとバイデンを意識したものであった。

この演説直後には、ヘイリーのこの発言に対する高齢の政治家や有権者による反発などが紹介されたこともあった。また、大統領に立候補する時の要件として憲法に明記されていない限り、検査の義務付けは憲法上の問題があるという議論もある。さらに、たとえ実施できたとしても、どのような検査をやり、誰がそれを評価するのかということも問題となる。しかしバイデンやトランプの失言が増える中で、やはり高齢の候補者には認知機能検査の義務化が必要だという議論が燻っている2。

ヘイリーよりも若い45歳のロン・デサンティスも、最近になって高齢を理由にしたトランプへの攻撃を強めている。11月に入って「現在のトランプは、2015、2016年の頃に討論会でステージに上がったトランプではない」「彼はテレプロンプターなしではやっていけない。だから討論会に出てこない・・・3」などと発言している。主張する政策も支持基盤も似ていて、「トランプの弟子」とも言われるデサンティスが、トランプとの差異を主張するには年齢を争点にするというのは合理的であろう。

「もしもの時」の対応は?

今回の選挙で認知機能検査の義務付けが行われることはない。他方で、高齢の候補者が明らかな能力喪失に陥った場合、そして最悪死亡してしまった場合にはどうなるのだろうか。大統領に就任した者がそうなれば副大統領が昇格することは知られているが、選挙戦中だった場合どのようになるのか。以下、そのような不測の事態が起こる時期に分けて説明する4。

【現在〜6月中旬】
候補者が各州で行われる予備選挙に参加するための登録期限については、州によって異なり選挙前年の12月から6月中旬の間に設定されている。もし予備選挙の前に不測の事態が起これば、州の選挙管理者(多くの場合州務長官)が、登録期限を変更する可能性がある。期限変更が行われない場合には、登録されていない候補者の名前を記入することが認められる場合もある。ただし州務長官がどのような判断を下すのかは州によって、そして個人の政治的イデオロギーによって左右されることが考えられ、日本の選挙管理委員会のような統一された動きを想定することはできない5。

【2024年6月中旬〜全国党大会の指名投票日】
予備選挙が終わり党の候補者が絞られると、各党の全国党大会が開かれる。共和党は7月15〜18日、民主党は8月19〜22日で行われる。慣例に則るとこの期間の水曜日に投票が行われることになっている。党大会の指名投票日までに予備選挙で決まった各党の候補者に不測の事態が起こったらどうなるのか。

そういう場合には、党大会に集まった各州の代表者の話し合いに委ねられる。指名を目指す者は、不測の事態に陥った候補者を選んでいた州の代表団を訪問し自分に投票してくれるよう働きかける。これは予備選挙が普及していなかった頃の党大会で見られた光景に類似したものだと言える。その議論をどのように進めるのかは党大会を主催している各政党の全国委員会が主導して決める。

【全国党大会〜本選挙投票日】
党大会で指名された候補者が、大統領選挙の本選挙投票日(11月最初の月曜日の後の火曜日)までに不測の事態に見舞われたら政党ごとに決まりがある。共和党は、各州に3名の共和党全国委員会の委員がおり、その委員たちを中心に新たな候補者を選ぶことになっている。他方で民主党は、州の人口に比例して全国民主党委員会の委員が割り当てられており、その委員の投票によって決まる。

過去に一度だけこのタイミングで候補者(副大統領候補だったが)が変わったことがある。1972年に民主党の副大統領候補者トーマス・イーグルトンが精神疾患を患っていることが判明し本人が指名を辞退し、その後、サージェント・シュライヴァーが代わりに指名を受けた。

もし投票日が近くなり、不在者投票が開始される時期になったら、各政党は新たな候補を選出する時間的余裕がない。その時期になって候補者が死亡したとしたら、投票日には死亡した候補者がそのまま投票用紙に選択肢として掲載されると考えられる。

【投票日〜12月17日「本当の大統領選挙日」】
11月の本選挙の勝利者がその後に不測の事態が起こることを想定する時に、今回の選挙でいえば2024年12月17日というのが一つのポイントとなる。各州の大統領選挙人が実際に州会議事堂に集まって投票する日である。間接選挙の建前をとっている米国の大統領選挙は、州ごとに割り当てられた数の大統領選挙人が投票するこの日が「本当の大統領選挙日」であると言えよう。

12月17日の時点で、11月選挙で勝利した候補者に投票できない状況になった場合には、大統領選挙人は他の候補者の名前を投票用紙に書くことになる。各党の全国委員会が新たな大統領と副大統領のペアを設定することが想定される。副大統領として11月の本選挙で勝利した者が大統領候補として名前が挙がることは容易に想像される。しかし、半分以上の州とコロンビア特別区は、大統領選挙人の投票行動がその州における11月の選挙結果に法的に縛られることになっている6。これらの州はその規制を修正する必要が出てくる。これを回避するために、不測の事態に陥った候補者の名前をそのまま書くという選択が行われることも想定される。

何れにしてもこのような段階で不測の事態が起こったことはこれまでにない。どのように決まるかも分からない部分が多いが、さらにそれを最終的に認めるのは年明けに行われる新議会の上下両院合同本会議である。その議会で異議の声が上がればその結論の行方も予想できない。トランプ大統領が2020年選挙の結果を無効にすべく、合同本議会の議長を務めるペンス副大統領に圧力をかけたという話は記憶に新しいであろう。

【12月18日〜就任日】
12月の大統領選挙人の投票によって新大統領が決まったが、約1ヶ月後の就任式までの期間に当選者に不測の事態が起こったらどうなるかは合衆国憲法修正20条第3項に明記されている。この場合には副大統領が代わりに就任する。

ロナルド・レーガンが1980年に大統領に当選した時には69歳で史上最高齢の大統領であった。2期8年を務めて数年経った時に、アルツハイマー病に罹っていることを公表した。しかし、実際には大統領在職中にすでに病気は進行していたということをレーガンの息子が発表して話題になった7。病気というのは、突発的に起こるものもあるが、アルツハイマー等の高齢による認知症のようにゆっくりと進行するものもあり、医師の判断も難しい時がある。そのような時にお抱えの医師では診断が正確に行われる保証はない。

世界で一番多忙であるとされる業務をこなし、その言動の一つ一つが世界の政治経済を大きく動かし、また「核のボタン」を握るのがアメリカ大統領である。どのような心身の状態で選挙戦を戦い、大統領に就任し、職務を遂行するかはアメリカ市民のみならず、世界にとっても重要である。

現在の支持率を見る限りは、本選挙はバイデンとトランプの再戦になる可能性が高い。彼らの年齢が議論になればなるほど、副大統領候補に誰を選ぶのかが重要となってくる。特に今回の副大統領候補は「未来の大統領」としてふさわしいかどうかという目で見られる。

民主党内では、ハリス副大統領で大丈夫かという心配の声が上がっている。ただバイデンとしても相当の理由がない限り現職の副大統領をすげ替えることはできない。ハリスは副大統領として活躍しているとは言えないが、大失策を犯したというわけでもない。他方で、トランプは複数の候補から選挙に勝つために最善の選択をすることができるという優位性がある。

まもなく予備選挙が始まるが、各州で誰が選ばれるのかのみならず、高齢候補者のパフォーマンスはどうか、そしてもし一般選挙でバイデンとトランプの戦いになるならば、誰を副大統領候補として選ぶのかを注目していきたい。

(了)

  1. Kelly Garrity, “Nikki Haley calls for competency tests for politicians over 75 during campaign launch,” Politico, February 15, 2023, <https://www.politico.com/news/2023/02/15/nikki-haley-competency-tests-00083018>, accessed on December 20, 2023.(本文に戻る)
  2. Bill Press, “Nikki Haley is right: Our leaders need cognitive tests,” The Hill, November 14, 2023, <https://thehill.com/opinion/4308328-press-nikki-haley-is-right-our-leaders-need-cognitive-tests/>, accessed on December 20, 2023.(本文に戻る)
  3. Shauneen Miranda, “Ron DeSantis again calls Biden, Trump too old for White House,” Axios, November 19, 2023, <https://www.axios.com/2023/11/19/desantis-trump-biden-age-2024-race>, accessed on December 20, 2023.(本文に戻る)
  4. 以下を参考にした。Elaine Kamarck, “What happens if a presidential candidate cannot take office due to death or incapacitation before January 2025?” Brookings Institution, September 7, 2023, <https://www.brookings.edu/articles/what-happens-if-a-presidential-candidate-cannot-take-office-due-to-death-or-incapacitation-before-january-2025/>, accessed on December 20, 2023; Joseph Ax and Jan Wolfe, “What happens to the U.S. presidential election if a candidate dies or becomes incapacitated?” Reuters, October 4, 2020, <https://www.reuters.com/article/idUSKBN26N347/>, accessed on December 23, 2023; Andrew Prokop, “What happens if a presidential candidate dies?” Vox, October 7, 2020, <https://www.vox.com/21502447/trump-biden-death-what-happens>, accessed on December 23, 2023.(本文に戻る)
  5. 分権化された選挙管理システムを象徴するものの事例として、3月5日に予備選挙が予定されているコロラド州(2020年選挙ではバイデン55.4%の得票で勝利)では、トランプを予備選挙の登録者として認めないとの判断を州最高裁が下したことが挙げられる。(本文に戻る)
  6. 2020年大統領選挙に先立って、州が大統領選挙人の投票行動を縛ることに対して連邦最高裁で合憲判決が出された。Mark Sherman, “Justices rule states can bind presidential electors’ votes,” AP, July 7, 2020, <https://apnews.com/article/district-of-columbia-ap-top-news-elections-courts-electoral-college-a398c3e7c8d2c4a1b9ad498ed5f86ed7>, accessed on December 20, 2023.(本文に戻る)
  7. Ed Pilkington, “Ronald Reagan had Alzheimer's while president, says son,” The Guardian, January 17, 2011, <https://www.theguardian.com/world/2011/jan/17/ronald-reagan-alzheimers-president-son>, accessed on December 20, 2023.(本文に戻る)

「SPFアメリカ現状モニター」シリーズにおける関連論考

  •  山岸敬和「『バイデンは2024年選挙に出馬すべきではない』身内からの声」 
  •  渡辺将人「2024年予備選挙目前報告④ 共和党編その2:大統領経験者としてのトランプと共和党候補者たち」
  •  渡辺将人「2024年予備選挙目前報告② 民主党編:バイデン再選戦略:『トランプ頼み』の党内結束」
  •  山岸敬和「初等中等教育をめぐる文化戦争と2024年大統領選挙―批判的人種理論、トランスジェンダー、マスク―」
  •  山岸敬和「2024年大統領選挙におけるオバマケア」
  •  渡辺将人「2024年米大統領選挙、予備選挙の『異変』:アイオワ党員集会が消える?」
  •  山岸敬和「2024年大統領選挙を理解するために―アダム・シャインゲイト教授に聞く―」
  •  西山隆行「ロン・デサンティスは2024年大統領候補になることができるか?―2022年中間選挙出口調査から見て取れる強さと弱さ」
  •  山岸敬和「消え去らない老兵:SuperAgersによる大統領選挙」

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