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論考シリーズ | No.42 | 2019.10.25
アメリカ現状モニター

消え去らない老兵:SuperAgersによる大統領選挙

山岸 敬和
山岸 敬和
南山大学国際教養学部教授・ジョンズ・ホプキンス大学客員研究員

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 2020年度のアメリカ大統領選挙で過去の選挙と比べて大きな話題になっているのが「年齢」である。文末の表は、歴代大統領の就任時(1期目)の年齢をまとめたものだ。トランプ大統領はその中でも第1位で、初の70才越えとなった(平均は約53才)。トランプが再選されたら次の就任式では74才であるということも話題になっているが、より注目されているのが、民主党主要候補者3人、ジョー・バイデン、バーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレンの年齢である。2019年10月時点で、それぞれ76才、78才、70才である。この中で誰が大統領になっても年齢ランキングでトランプを抜いて第1位になる。

 最近この「年齢問題」に改めて注目が集まった。10月1日にサンダースが心臓発作でカテーテル手術を受ける状況になったからだ。15日に行われた4回目の民主党の候補者討論会でも年齢に対しての質問が出た。過去に脳動脈瘤の手術を2回受けたことがあるバイデンは、予備選挙が始まるまでには医師による健康診断の結果を公表すると約束した。人々を驚かせたのは、カテーテル手術から2週間ちょっとしか経っていないサンダースがピンピンしていたことである。かえって前回の討論会よりも元気に見えたのは私だけではないだろう。

 本コラムでは、「SuperAgers」の実態と、それが特に民主党に与える影響について書きたい。

「SuperAgers」「gerontocracy」

 神経科医のマーセル・メスラムが作ったという「SuperAgers」という言葉がある。高齢者にも関わらず、記憶力や注意力が若い世代と同じレベルにある人たちのことをいう。このような人たちは、複雑な社会構成の中で生きるためにあるといわれるVon Economo Neuronsという大型ニューロンが同世代の人よりも大きいという解剖結果がある1。この「SuperAgers」という言葉が最近、既述の民主党候補者3人がそれに当たるとして使われるようになった。

 年齢については、議会でも話題になった事がある。民主党の下院議長のナンシー・ペロシである。ペロシは2018年11月の中間選挙の結果を受けて行われた下院議長選挙で再選された。その時点で彼女は78歳。この時に話題になった事の一つが、世代交代の必要性であった。勇退すべしとの意見を退けてペロシは出馬し再選を果たした。ちなみに下院民主党のトップスリーの残りの二人である、ステニー・ホイヤー院内総務は79歳、ジム・クライバーン院内幹事は78歳である。

 この状況は「gerontocracy(長老支配)」と揶揄されるようになった。

民主党への影響

 現在の下院共和党の方にはgerontocracyの影はない。前下院議長を務めたポール・ライアンは史上最年少の45歳で下院議長となったし、現在のケビン・マッカーシー少数党院内総務もスティーブ・スカリス少数党院内幹事も両者とも54歳である。

 民主党はジレンマに直面している。民主党は急速に「若者の党」になっていると言われているからだ。ミレニアル、ジェネレーションZと呼ばれる10代後半から30代の世代は、「人生で一度もいい思いをしていない世代」として、政治、経済、文化の多くの争点で左傾的な傾向があると言う。2018年中間選挙で史上最年少29歳の女性議員として当選したアレクサンドリア・オカシオ=コルテスがその世代の象徴的な存在である2。

 「若者の党化」が進む民主党のリーダーシップが高齢化している、これをジレンマと呼んだ。しかし、民主党支持者の若者は候補者の高齢化現象にはそれほどの違和感を持っていないようだ。

 前回の大統領選に続き、若者を熱狂させているのは最高齢候補のサンダースであるし、最近オカシオ=コルテス議員が早々とサンダースへの支持を表明した。それもサンダースが手術を受けた直後にである。

 彼女が代表するという民主党支持の若者にとって重要なのは、現在の政治、経済、社会の行き詰まり状況を打破するためのビジョンであり、年齢はさほど問題ではないのだろう。

 または、彼らはそもそも強力なリーダーは必要としていないのかもしれない。彼らは基本的には組織立った行動を取らない傾向が強い。面白いのは、「Medicare for All」など同じような政策を主張するウォーレンは若年層に人気がない。元ハーバード大学教授の堅さや強さが敬遠されているのかもしれない。もしそうであれば、この世代が民主党内に拡大していくと、主張する政策のみならず、党内政治のあり方も大きな修正が求められる。それが近い未来に民主党が直面する大きな問題である。

長老支配の是非

 日米の長老支配をめぐる議論を見ていると、大きく様相が違う事がわかる。アメリカではやはり政権交代があり、既存の政治ヒエラルキーの外部にいる人物が大統領になれるシステムであるため、長老支配は本当の意味での「支配」になりにくい。v

 科学的には、たとえ80歳以上であっても若者と同じレベルで物事を記憶し判断できる人が存在するという事が証明されている。ただ、長老の方々が権力の座に居続けると、次の世代へのリーダー教育の機会が失われるということはどこでも起こることであり、民主党内でもその心配がなされている。

 これからの選挙戦に大きな変動がなければ、次回の大統領選挙は、74歳のトランプ大統領(弾劾の動き次第ではあるが)と、70数歳の民主党候補者の戦いになる。健康状態への疑念の対処や、副大統領選びなど、SuperAgers同士の争いがどのような展開を見せるのかも面白いポイントである3。

(了)

Age at Inauguration
出典:POTUS, "Age at Inauguration," <https://www.potus.com/presidential-facts/age-at-inauguration/> accesed on October 19, 2019.
  1.  Nicola Davis, “Scientists Unravel Secrets of ‘Superagers,’” The Guardian, February 18, 2018 < https://www.theguardian.com/society/2018/feb/19/scientists-unravel-secrets-of-superagers> accessed on October 18, 2019.
  2.  Niall Ferguson and Eyck Freymann, “The Coming Generation War,” The Atlantic, < https://www.theatlantic.com/ideas/archive/2019/05/coming-generation-war/588670/> accessed on October 18, 2019.
  3.  大統領が在任中に死亡した場合には副大統領が昇格することが憲法に規定されているが、もし政党の予備選挙で指名された候補者が本選挙までに死亡した場合には、民主・共和両党とも全国委員会(それぞれDemocratic National Committee, Republican National Committee)が指名する仕組みになっている。その他想定されるケースを含めて以下を参照。Joshua Tucker, “What Happens If a U.S. Presidential Candidate Withdraws (or Dies) Before the Election is Over,” The Washington Post, September 14, 2016 <https://www.washingtonpost.com/news/monkey-cage/wp/2016/09/14/what-happens-if-a-u-s-presidential-candidate-withdraws-or-dies-before-the-election-is-over/> accessed on October 21, 2019

「SPFアメリカ現状モニター」シリーズにおける関連論考

  • 渡辺将人「民主党大統領候補としてのジョー・バイデン」
  • 山岸敬和「討論会で見た民主党の苦境―医療保険改革のジレンマ―」
  • 中山俊宏「米大統領選、民主党候補第一回公開討論から(かろうじて)見えてきたもの」
  • 山岸敬和「民主党版『オバマケア廃止(Repeal Obamacare)』」
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