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アメリカにとっての戦略的選択肢-America's Strategic Choices

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エリオット・コーエン氏
(ジョンズ・ホプキンス大学教授)

2010_04_img01.jpg中国の台頭、いわゆる「ならず者国家」への核拡散、そしてテロ。現代国際社会が直面するこうした課題に、アメリカはどのように取り組んでいくのか?そこには、いかなる選択肢があるのか?2011年1月30日、こうした喫緊の課題に答えるべく、「アメリカにとっての戦略的選択肢」と題した講演が行われた。講師はジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院(SAIS)教授エリオット・コーエン氏、戦略に関する歴史学的また政治学的分析のみならず、実務にも精通した著名な研究者である。

戦略的選択肢とは何か?コーエン氏によれば、5年後、10年後の国際情勢を見通すということは、研究者にとっても実務家にとっても、極めて難しい課題である。例えば1985年、新冷戦のただなかで冷戦終結を予測することはほとんど不可能であった。また、現実の政策は、一回の「戦略的決定」によって決定的に分岐するわけでもない。政策決定者は、日々の小さな決定の積み重ねの中で、一つの方向性を形作っていくものだからだ。

以上を留保した上で、しかし尚、大きな意味で戦略の幅、というべきものを確定することは可能であると、コーエン氏は言う。コーエン氏によれば、戦略には、相対立する二つの大きな概念が存在するものであり、現実の選択とはその両端の狭間で行われるものだからである。中印をはじめとする新興諸国が急速に台頭して地政学的状況が急変し、またイラク戦争と金融危機によってアメリカ国民が自信を喪失しつつある現在、アメリカは、従来の戦略を再検討し、新たな状況に対応しなければならない。その選択肢の幅にはどのようなものがあるのだろうか?

2010_04_img02.jpgコーエン氏はこの問いに、アメリカが直面する三つの挑戦、すなわちイスラム原理主義によるテロ活動、中国の台頭、そして北朝鮮やイランをはじめとする現状修正志向国家群の挑戦を取り上げることで答える。まず、テロに対しては、秘密工作や情報収集を主軸とする狭義のテロ対策を強化する方策と、テロの温床である過激派へのイスラム社会からの支援を断つという政策、すなわちイスラム諸国の自由化を促進する方法がある。コーエン氏は、現在の政策は狭義のテロ政策に偏っているがこれは不十分であり、問題の根源にあるイスラム諸国の変革を進めることが重要であると主張した。

また中国の急速な台頭に対しては、コーエン氏によれば、二つの選択肢がある。第一に、台頭する中国の国際政治的地位を、より直截にいえば東アジアにおける覇権を容認し、また経済関係を緊密化することを通じて紛争の火種を取り除く融和政策がある。第二に、日本やオーストラリアなどとの同盟関係を強化し、またインドやベトナムとの関係強化を通じて、力の均衡を維持するという方法も有力だ。コーエン氏は、第二の選択肢がより的確であると考えており、また現在、オバマ政権は融和から対抗へと徐々にシフトしつつあるという。

では、北朝鮮、イラン、ヴェネズエラといった、諸国家についてはどのように対応すべきか?コーエン氏によれば、ここには、既存の体制の存在を前提としつつ行動を制限していく抑止と、体制そのものの変更を視野に入れた弱体化という、二つの選択肢がある。従来アメリカは、抑止を重視した政策を展開してきたが、これは効果的でないのみならず、近隣諸国への核拡散を招く危険があり、適切ではないとコーエン氏は言う。コーエン氏によれば、アメリカは、こうした諸国の体制の問題を直視しなければならないのである。 

こうした具体的な戦略的選択には、大前提として、アメリカが、アメリカ自身の将来として、何を選びとるか、という課題がある。すなわち、大国としての役割を今後も果たし続けるか否か、である。コーエン氏は、大国でありつづけることを選らぶならば、より外交的手腕を磨き、友好諸国との関係を安定させることが肝要だという。

最後に、コーエン氏は、アメリカ国民はいま自信を失っているとしながらも、アメリカの国力と底力についての楽観的見通しを示し、日米間の協力の必要性を訴えて講演を締めくくった。

質疑応答
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講演に続いて、質疑応答が行われた。特に、東京大学の久保文明教授から、中国の台頭、近年の核兵器全廃に向けた動き、アメリカの同盟政策に関する包括的な質問があったので、紹介しておきたい。

これに対してコーエン氏は、まず中国の台頭は、近年の政府関係者の好戦的言動と相まって、周辺諸国に不安を掻き立てていると指摘した。この背景には、経済的・軍事的台頭によって中国の自信が高まってきたこと、そしてアメリカが弱体化したと考えていることがあるという。

また核軍備管理に関しては、コーエン氏は、ロシアとの核交渉には大きな成果がなく、また北朝鮮やイランの核開発問題があるため、核全廃は不可能であると述べた。また核廃絶という目標は、北朝鮮やイランの問題から目をそらすことになるとも指摘する。

同盟関係に関しては、コーエン氏は、アメリカは同盟国にグローバルな役割を望むべきではないという。それぞれの同盟国が各々の地域の防衛にあたり、それをアメリカが支援する。コーエン氏によれば、それが適切な未来なのである。

「アメリカにとっての戦略的選択肢-America's Strategic Choices」

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