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オバマ大統領のグランド・ストラテジー:変化か、継続か?

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ピーター・フィーバー氏
(デューク大学政治学部教授)

2009_01_img01.jpgオバマ政権のグランド・ストラテジーとはどのようなものなのだろうか?「チェンジ」を掛け声に登場したオバマ大統領は、グランド・ストラテジーにも大きな変化をもたらすのだろうか?2009年6月1日、政軍関係研究の大家にして実務経験も持つディーク大学教授、ピーター・フィーバー氏を講師に、オバマ政権におけるグランド・ストラテジーに関する講演が行われた。

フィーバー氏は、グランド・ストラテジーを、国家の目的と、それを実現する手段を規定する全体像であり、軍事・経済・外交・文化・心理といった幅広い要素を包括したものであると説明する。そしてフィーバー氏によれば、グランド・ストラテジーとは、直近の大戦の再来を防ぐためのものであるという。したがって、冷戦期のグランド・ストラテジーは第二次世界大戦の再現を防ぐことを目的としたものであり、冷戦後は、冷戦の再現を防ぐためのものとなる。

フィーバー氏は、冷戦後のグランド・ストラテジーには、5つの柱があったと指摘する。第一の要素が、軍事力だ。冷戦後のアメリカは、二つの方法を通じて軍事力の柱を維持しようとしてきた。第一に、高度な技術力によって機械化された圧倒的な軍事力を保持することで、潜在的敵対国の挑戦を抑止すること。第二に、潜在的な敵対国と対立するのではなく良好な関係を築き、受け入れ、既存の秩序に組み込んでいくこと。1980年代から90年代にかけての日本、冷戦後の統一ドイツ、ソ連崩壊後のロシア、そして現在の中国やインドのようなライバルとなり得る国々に対し、アメリカは、一方で軍事力の圧倒的優勢を保持しつつも、その地位と主張を受け入れるよう努めてきた。

2009_01_img02.jpg第二の柱アメリカの政治的価値観である民主主義の拡大、また第三の要素は同じくアメリカの価値観である自由主義経済とグローバル化の進展である。同じような政治・経済システムと価値観を持つ国を増やすことによって、アメリカの安全を保障するというものだ。

第四の柱は、大量破壊兵器の拡散防止である。米ロ両核大国の核削減、核拡散防止条約(NPT)体制の強化、いわゆる「ならずもの国家」が大量破壊兵器を獲得した場合の対抗措置の三つの要素によって成り立つという。

第五の柱は、テロ対策である。情報・心理面を主戦場とし、テロ組織の補給線と聖域を撲滅する。この要素は、ブッシュ政権に入ってから、テロ対策は法の問題から戦争へと位置づけが変化し、かつテロを支援する国家もテロと同様にみなす方向へと大きな変化を遂げたが、それ以外の要素はクリントン政権から継続していた。

フィーバー氏は、以上5つの柱によって冷戦後のアメリカのグランド・ストラテジーは形作られていると指摘し、この点において実は、オバマ政権には、変化よりもむしろ継続性が際立っていると主張する。したがって、フィーバー氏によれば、グアンタナモ基地の扱い、テロとの戦いにおける捕虜の取り扱い、拷問、イラク政策、アフガン対策、イランへの対応、北朝鮮へのスタンスといった具体的な政策課題をとってみても、オバマ政権とブッシュ前政権との間に顕著な差異はみられない。国内政治において大幅な「チェンジ」に打って出ているオバマ政権は、グランド・ストラテジーの次元ではむしろ強い継続性を持っていると、フィーバー氏は主張する。

では、オバマの登場によって何が変わったのか?フィーバー氏によれば、オバマ大統領は、その海外からの高い人気を背景に、ソフト・パワー、すなわち他国を自国の意に添わせるよう試みてきた。だがグランド・ストラテジーとは国際環境により強く規定されるものであり、この意味でソフト・パワーの効力にも限界があり、オバマ政権の登場によって変更される余地はそれほど大きくないとフィーバー氏は指摘する。フィーバー氏は最後に、しかし、この小さな変化が、あたかも空母が1度進路を変更することによって大きく航路を変化させるがごとく、大きなチェンジをもたらす可能性もあると述べて、講演を締めくくった。

質疑応答

講演後、フロアから活発な質疑応答が行われた。講演時間の最後に、

  • グランド・ストラテジーは国際状況に規定されるとしてもそれを遂行する能力は政権によって異なるのではないか、
  • 脅威への対抗手段の選定においてブッシュ政権は誤りを犯したのではないか、
  • ソフト・パワーに限界があるとするならば、アメリカはどのようなアメやムチを用いて他国をリードしようとするのか、

という3点の質問が行われた。

時間も差し迫っていたため、フィーバー氏は、第3の質問に絞って、以下のように返答した。ソフト・パワーには限界があるが、必ずしも無力なわけではない。特にオバマ大統領は、ブッシュ前大統領と比して、他国や意見の異なる識者と対話し、また説得する能力に長けている。フィーバー氏によれば、的確な説明によって世界各国がアメリカの立場を理解するようになることは、アメリカの立場を有利なものとするのである。

「オバマ大統領のグランド・ストラテジー:変化か、継続か?」

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