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駐日グルジア大使イワネ・マチャワリアニ閣下講演会 ('08.8.20開催)
「南オセチアを巡るロシア・グルジア両軍の軍事衝突の行方と平和解決の道」の要旨(日本語)を掲載しました

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笹川平和財団は、南オセチアをめぐるグルジアとロシアの軍事衝突を受けて、急遽駐日グルジア大使による講演会を開催した。当初、大使が帰国中のため臨時代理大使による講演を予定していたが、大使自らが発言したいということで、この講演にあわせて急遽帰任し、大使による講演会を開催する運びとなった。聴衆者は150名を超え、メディアを含めた多くの人々が集まった。

冒頭、笹川平和財団・羽生副会長が挨拶を行い、「グルジアにおいて恒久的平和実現のために、日本が今何をすべきか、何ができるのかを明らかにするべく、その前段階として我々自身が現状の評価を行う必要がある。この点につき大使から、何故こういう衝突が起きたのか、今何が起っているのか、関係国はどのように考えているのかについてご講演いただき、我々の評価のための礎としたい。」と今回の講演開催の趣旨説明が行われた。

続いてイワネ・マチャワリアニ駐日グルジア大使の講演が行われた。大使のご講演要旨は以下のとおり。

グルジアはロシアの軍事占領下に置かれている。これはグルジアがNATOへの参加を希望したための制裁であり、黒海・カスピ海での西側の影響力を弱めることを目的としたものだ。また、この戦争を始めたのはロシア側からであることを明言したい。ロシアの軍事行動はオリンピック開会式に始まったものではなく、88月初旬から既に開始されていた。南オセチアとアブハジアの分離独立派を支援するため、プーチン首相の指示の元、メドベージェフ大統領が2万の兵隊と500の戦車・装甲車を送り込み、グルジア全土に空爆を開始した。ロシアがグルジア国内の南オセチア自治州の住民にパスポートを発行したのは、攻撃開始の口実にするための、まさに軍事戦略であった。これは欧米との対決を鮮明に打ち出したものといえる。ロシアは国連憲章や主権を遵守すると発言しながらも、一方では近隣諸国の分離派を支援し、ロシアの国境に沿った地域に、今後大きな影響を及ぼすことは間違いない。

ロシアは依然、大変権威的な国家で、元KGBのプーチンの指導力が絶大で、西欧に対して間接的に攻撃をしているとも言える。国際社会は停戦合意に向けた動きをしているが、まだまだ結果が出ていないのが現状である。独裁的なロシアの指導力が台頭し、自分達の新しいルールを前面に押し出して正当化させようとすることを懸念している。ロシアの今回の動きは、20世紀の2つの大戦をもたらしたきっかけと全く同じもので、このような横暴をグルジアは許すわけにはいかない。ロシアのこの破壊的な行動に対し、日本は民主国家として、国際法の下で平和維持・安定のために参画していただきたい。と語った。

フロアーからの質疑、および大使の応答は以下の通りである。
Q1.ロシアのメドベージェフ大統領はフランス大統領との会談で、ロシアの軍隊を22日までに撤退させると約束したそうだが、それは実現されると思うか?
A1.ロシアに撤退の気配はなく、むしろ占領地区を拡大し、略奪や暴行が横行している。アメリカがイラクに駐留している位長く、ロシアはグルジアに駐留すると言ってはばからない。
Q2.ブッシュ政権は末期にきており、政策的決断が早急にはできない状況にある。そこをついて今回の攻撃が行われたのではないかと思われるが、大使は何をアメリカに期待し、彼らに何が出来ると思うか?
A2.アメリカはここ数日かなり積極的な動きをしてくれている。米・大統領をはじめ、欧州の指導者も今回のことを受けて、ロシアは全く変わっていないということを実感したと思う。アメリカは安定した国であるから、政権が変わったとしても、引き続きグルジアをサポートし続けてくれることは間違いない。確かにアメリカの対応は遅かったが、ロシアの戦車と兵士が北オセチアからトンネルを通って南オセチアに侵攻してきたという情報は、アメリカの衛星を通じてもたらされたものだ。
Q3.グルジアからみて、6項目の点について満足しうるものか?事実上はこの合意によってグルジアが分割されるという危険性は見てないか?また現状において、アブハジアと南オセチアとの和解プロセスの可能性について、グルジア政府としてはどのような考えなのか?
A3.この6項目のプランは停戦のための合意であり、即時停戦ということで、ロシアの撤退ということ。現状を8月6日の前の状態に戻すこと。そこから我々は、ロシアがサポートしている南北オセチアの分離派指導者との対話を始めるということだ。繰り返しになるが、グルジアが軍事攻撃を始めたのではない。国連の監視保護下にあるグルジア村落に対し、ロシアの支援した分離独立派が攻撃を開始し、グルジアが応じたというのが事実だ。

グルジアは国内においてアブハジア、オセチアという自治州を有し、16年にわたって交渉を重ねてきた。交渉というやり方はかなりの時間を要すると思われるが、ロシアはこうした状況を逆手にとって、グルジアが統治能力のない国であるということをアピールしようとしている。かつてロシアはアブハジア、オセチアの民族を一掃しておいて、そこにはもうその民族がほとんどいない所で、彼らの希望を尊重し、独立させようなどと発言しているが、不可解なことである。22年前に北オセチアのべスラにおいて、ロシアは200人の子供の射殺命令をし、それを報道した人も暗殺した。ロシアはチェチェンでも10万人の市民を殺害したが、このようなグロズヌリでの集団虐殺をグルジアでも行うのか。ロシアはいまだ文明国ではない。ゴリでの虐殺を報道したオランダ人を含む4人のグルジア人でない国際的な報道陣までも殺害した。これがロシアの現実。グルジアは文明国になりたい、西欧諸国の一部になりたい。その一念だ。
Q4.ロシアの動きに応じた攻撃ということだったが、どのようなシナリオを描いていたのか?またそのシナリオの中で、対応が遅かったといわれたアメリカの位置づけはどのようなものだったのか?
A4.グルジアは南オセチアでの軍事活動に応戦したが、これは我々の領土であって、ロシアの領土ではないからだ。ロシアは首都であるトビリシへの侵攻を計画したようだが、もしそうなったら我々がすべきことは降伏だろうか?我々は民主主義国家を建設しようと努力してきた。また諸外国との貿易も積極的に行い、経済が安定するための仕掛けをいくつも行ってきた。それを面白くないと思ったロシアが攻撃を加えてきた。

欧米諸国は、ロシアがこのような暴挙に出るとは思いもよらなかった。実際、アメリカはイラクで忙く、NATOはアフガニスタンで手一杯、そしてその他の国々はオリンピックで盛り上がっている、元KGBが束ねるロシアは、そういった状況の全てを承知の上で、攻撃のタイミングを図っていた。しかし、欧米諸国はロシアがここまでの軍事行動にでるとは思いもよらなかった。我々は空爆を受け、しかしながら冷静に判断し応戦に至った。ロシアがグルジア政府を転覆させようと試みたことは間違いない。ロシアにとってはモスクワから遠いところでの戦闘は非常に都合がいい。そしてこれはロシアがNATOに対して行った宣戦布告であるとみなされる、これが大事なことだ。彼らの反応を見て、ロシアは次にウクライナ、アゼルバイジャン、バル33国、さらにそこから中央アジア諸国へと触手を伸ばすだろう。ポーランドに対する攻撃にも言及している。
Q5.ロシアの挑発に乗ったとはいえ、ツヒンバリを大規模攻撃したというのは政治的な誤りではなかったのか?それによってロシアの侵攻を招いて、国民を危険にさらしたことを政治的ミスとは思わないか?また、ツヒンバリの攻撃については、事前にアメリカの承認を得ていたか、通告をおこなっていたのか?
A5.政治的なミスかと言われればそれはそうかもしれない。その時に現地にいた私には、刻一刻と緊迫した情報がもたらされ、本来南オセチアが持っているはずのない、ロシア軍の保有する武器が使われていると。アメリカの諜報活動によると、南オセチアの基地から58軍戦略部隊が侵攻しているという情報が入った。これに対応したにすぎない、これは確実にロシアの侵略であり、これに対する反応であった。これを後付けで政治的判断のミスと言われても、あの時、自国民を守るためにするべきことを我々は行ったとしか言いようがない。また事前通知に関しては、欧米諸国や駐グルジアの各国大使に対し、攻撃がなされたと通告した。大きな衝撃だったと思う。直接ロシアに話を聞いた欧米に対し、これは平和維持の軍事活動であり、沈静化するための処置であると嘯いた発言をした。エネルギー資源あふれる大国ロシアに、誰が挑発したり、戦争を仕掛けるか?
Q6.グルジア政府が把握している、国民の犠牲者の数は?日本政府に今後どのような支援を期待しているか?
A6.ロシア占領下において、赤十字もUNHCRも現地に入れず、犠牲者の数を把握することは大変困難な状況である。12万以上の人が居住しそこで何人殺害されたか?は不明である。昨日ロシアはやっと捕虜の交換を受け入れた。またグルジアおよび国際社会は、難民に対し手を差し伸べようとしたが、ロシアはこれに応じなかった。そしてロシア軍が東西の道路をふさいでいるため、救援物資の搬入もままならない状況にある。

日本政府は、ここ数年わが国に対して素晴らしい支援をしてくれていたし、2009年には日本大使館をグルジアに開設しようとしている。そして、この状況を受けて、日本国は経済支援ではなく、復興支援をしてくれるのではないかと考える。高村外務大臣が言われたように、日本は欧米諸国とともに、ロシアの動きを止め、NATOへの加盟を希望するグルジアの意向を尊重していこうという姿勢であって欲しい。
Q7.ソ連崩壊後の92年に成立した、南北オセチアとグルジア・ロシアの平和維持の合意は、今回完全に破綻した。今は軍事衝突を回避することが先決だが、いずれはこの地域の平和維持について話し合われる段階となる。その時どういった平和の形が現実的で、理想的であると思うか?ロシアが主張している国境線の変更や新たな独立という問題について、国際社会はコソボの独立は認めたのだから、南オセチアについても検討すべきなのでは?との発言に、グルジアはどう反論するか?
A7.思うに、国際社会の大多数の共通認識として、ロシアはグルジアに対し、この16年平和を仲介してきた国ではなく、むしろその逆であると考えられている。ロシアはグルジアをはじめ、欧米、世界各国との約束をことごとく反故にしてきた。オセチアを手に入れたいというのが彼らの本音である。パスポートを発行してロシア国民だと言わせるのを許してはいけない。世界中で紛争問題を抱える少数民族は数多く、その自立はどのようになしえるのか?ロシアは分離派をただ殺戮してきたという歴史がある。グルジアの400万人に満たない国家で12万人もの人口を抱える地域が問題を抱えている。それを踏まえた我々のメッセージは極めて明確で、国連などが行う民族間の仲介にロシアは介入すべきではないということだ。なぜなら、ロシアは中立などではなく、国連監視団の介入は避けたいというのが彼らの意向であり、彼らこそが問題の紛争の一部だ。コソボのケースは、アブハジアや南オセチアとは違い、国民は確かにコソボの民衆だった。
Q8.ロシアの侵略への反応であるということを言われたが、軍事的な規模を比べるとそこには歴然とした差がある、にもかかわらず応戦したというのはなぜか?そこにはリスクをとってもこの問題を国際社会にアピールしたいという意図ではないのか?
A8.自国における軍事活動、これは自殺行為であるが、我々は軍事行動をもって自治州との問題を解決しようと思っていなかった。国連の平和プロセスは時間がかかるが、忍耐をもって実行する、これを踏襲してきた。今度行われるソチでのオリンピックは、モスクワよりトビリシの方が近いし、我々はこれに協力しようというスタンスだった。また南北のオセチアの融和を考えてきた。南オセチアを取り込もうと考えたことはない。ではロシアは何をしているのかというと、欧米のやり方を真似ようとしたが、それには無理があった。グルジアの軍事基地や港を攻撃しようと試みたが、ロシアの今回のやり方は失敗であった。

もう一度繰り返すが、我々は出来る限りの対話を試みたが、ロシアからは拒絶された。そしてこの攻撃はロシアからもたらされたものである。
最後に大使から日本の皆さんには、今回の一連のことに関心をもっていただければ幸いです。とのメッセージが発信された。

以上
駐日グルジア大使イワネ・マチャワリアニ閣下講演会 ('08.8.20開催)
「南オセチアを巡るロシア・グルジア両軍の軍事衝突の行方と平和解決の道の要旨(日本語)を掲載しました」

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