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一般事業 パネルディスカッションの議事録をアップしました「AIIB設立協定に見る日本の取るべき道」

パネルディスカッション「AIIB設立協定に見る日本の取るべき道」議事録

本内容は2015年7月13日(火)に開催したパネルディスカッション「AIIB設立協定に見る日本の取るべき道」の議事録です。

AIIB講演会.png[上段左より]パネリスト:河合 正弘 氏 (東京大学公共政策大学院特任教授)、伊藤 隆敏氏 (コロンビア大学教授 (兼) 政策研究大学院大学教授)、ユン・スン氏 (米スティムソンセンター シニアアソシエイト)、[下段左より]フィリップ・リプシー氏(スタンフォード大学 アシスタント・プロフェッサー)、モデレーター:滝田洋一氏(日本経済新聞編集委員)

【滝田】 では司会を務めさせていただきます日本経済新聞、滝田でございます。時間の制約、および非常に優れたパネリストの皆さん、およびテーマの重要性に鑑みて、私のほうの前振りのお話は、なしとさせていただいて、早速お4方のお話を順次おうかがいしてあがりたいと思います。

 まず河合先生から、AIIBに対する日本の立ち位置、スタンスのお話をおうかがいし、それに次いで伊藤先生、そして3番目にユン・スン先生、そして最後にフィリップ・リプシー先生にお話をおうかがいするという、そういう順番で進めてまいりたいと思います。ではまず河合先生、よろしくお願いいたします。

【河合】 東京大学の河合でございます。着席してプレゼンテーションさせていただきます。まず中国主導で作られるAIIBですけれども、皆様ご存じのように、6月の末に、57カ国中50カ国が署名するということになりました。この残りの7カ国がどれぐらいのスピードで、いつ頃までに署名するのかというのはまだわかりませんけれども、50カ国、あるいは57カ国といいますのは非常に大きな数であると。ADB、アジア開発銀行の場合は、67カ国がメンバーになっています。そしてADBの場合は、十数カ国の大洋州の島嶼諸国、小さい国々がありますけれども、それがメンバーになっていまして、AIIBには、それらの国は入っていません。ですからAIIBをすぐ拡大しようと思えばすぐできるということでして、日本とアメリカがAIIBに入ってないということの違いがありますけれども、そしてAIIBの場合は、域外諸国、しかもブラジルですとか、南アフリカのような国、あるいはロシアが入っているということで、ADBと違い、ADBよりも若干広がりを持った組織だと言っていいかと思います。

 まずなぜ中国はAIIBの設立を目指してきたのかということをお話ししたいと思いますけれども、4点ほどあると思います。

まず第1は、中国自身が既存の国際金融機関に対して、相当な不満を持っていると。特にIMFでの2010年の改革が進んでいない。その結果、中国の発言権が抑えられたままになっている。これはよくないということで、自分たちで国際金融機関を作ろうと。

 とりわけ第2点ですけれども、中国が得意な分野でありますインフラ建設で主導権を取るということで、アメリカやヨーロッパはIMF、世銀を主導する。日本はADBを主導する。世界第2の経済大国である中国はどこも主導する国際金融機関がない。これはおかしいのではないかという発想があったように思われます。

 第3番目は、国内的な理由、国内経済がやはり成長率が鈍化してくるという中で、過剰生産物が相当生まれてきている。国内の中で、エクセス・キャパシティができてきている。インフラ投資も抑え気味になってきていますので、インフラビジネスを外でやりたいということがあるかと思います。

 そして第4点としましては、中国の外交政策の一環として、AIIBを使うという認識もあるのではないかと思われます。これは先頃BRICs会議ですとか、ユーラシア経済圏の首脳会議、あるいは上海協力機構の首脳会議が同時に行われましたけれども、そういうことを見ましても、AIIBBRICs銀行などを組み合わせて、そして中国の2国間援助基金でありますシルクロードファンド等を組み合わせて、自分たちの経済圏、あるいはひょっとすると、政治的な影響力が及ぶ地域を拡大したいということがあるものと思われます。

 AIIBにつきまして、設立協定ができたわけですけれども、それを見てみますと、まだいくつかのやはり問題点があるかと思います。

第1の問題点はビジョン、AIIBはいったいどのようなビジョンを目指しているのかというのが、まだちょっと1つはっきりしません。例えば世界銀行やADBは、貧困削減を目指すと、貧困のない世界を目指すと、あるいは貧困のないアジアを目指すということですけれども、AIIBの場合は、どのようなアジアを目指すのかという、そういうビジョンがちょっと読み取れません。

 第2番目の問題は、これ最大の問題だと思いますけれども、ガバナンスの問題であるということで、出資比率で見ますと、中国は30%近く、議決権でも26%以上ということで、そしてかつ、理事会は設けるわけですけれども、北京への常設の理事会とはしないと。理事会は設けるものの、北京ではないということ。そして重要な決定事項、重要と言いますか、世銀やADBなどの場合は、融資案件、これはすべての融資案件では必ずしもありませんけれども、もう大半の融資案件は、特に重要な融資案件は必ず理事会の審議にかけるということになっているんですけれども、それがそうなるかというのは、設立協定見ますと、わかりません。そうは必ずしも書いて、そうは明確には書いてありません。ですからこういう融資案件の決定というのは、非常にAIIBとしては重要なことなんですけれども、誰がいったい決定するのかということがわからないということで、かなりAIIBのマネジメント、すなわち総裁ですとか副総裁たちの意思でかなり決まる可能性があり得るということです。

 第3番目の問題としましては、融資政策や融資基準の問題で、環境基準や社会的な基準、社会的基準と言いますのは、インフラ事業が行われますその場所に住んでいる、あるいは近くに住んでいる住民たちへのインパクトをどうするか。あるいは広域的なインフラ事業ですと、広域的なインパクトが非常に大きいわけですけれども、その広がりも大きくなってくるわけですけれども、そういった問題に対して、どこまで注意を払うのかということが、必ずしも明確ではありません。これは金立群氏や楼継偉財務大臣などの発言を聞いていますと、環境問題や社会問題については十分配慮するというふうには言ってるんですけれども、同時に、世界銀行やADBのやり方が必ずしもベストとは限らないというふうにも言っていますので、ちょっとここら辺も今のところ曖昧であるということになります。

 そしてもう1つの問題点は、既存の国際機関とどこまで協調してやっていくのかということが、必ずしも明確ではないということです。こういう援助問題をご存じの方はもうご存じだと思いますけれども、1つのインフラ、2つのインフラプロジェクトをやるから、経済発展が生まれるというものでは必ずしもないわけですね。ある1国の中で、経済発展のための戦略を立てる。そして部門別のセクターストラテジーと言いますか、部門別の戦略も作る。そしてその全体の中で、非常に重要なインパクトのあるインフラプロジェクトを選んで、そして経済発展に貢献するようにやっていくということが重要なんですけれども、そのためには、自分たちがやってることだけではなくて、ほかの国際機関や2国間援助機関がやってることも十分注意しながら、そして協調しながらやっていく。そのことで援助の、あるいは支援の効果が出てくるということなんですけれども、そこをどこまでAIIBがやるのか。ご存じの方、多いと思いますけれども、中国はODA、中国の援助をやるに当たって、ほかの機関とは必ずしも協調してやっていかない。OECDDACというのがありますけれども、そことの協調というのも、自分たちはその中に入らないということをやっています。AIIBがこれからそういった点でどうなっていくのかということが問題になる可能性があると。

 もうあまり時間がありませんけれども、私なりに、AIIBの若干の評価をさせていただきますと、アジアにおけるインフラ需要というのは非常に膨大なものがありますので、AIIBがきちんとした形でインフラ投資を行えるのであれば、それは非常にプラスになるものと思われます。かつ、AIIBの場合は、議決権の70%ほどがアジアの途上国によって持たれるということになりますので、ということは、途上国自身による、途上国のための国際金融機関であるという、そういう位置付けになります。これは途上国による自助努力であるというふうに考えますと、これ自体はもう大変いいことではないかという、積極的な評価をしていいかと思います。そして中国は、もし中国のやってることを積極的に捉えるのであれば、中国は自分たちの金融力、あるいは経済力を変な方向に使わないで、アジアのインフラ構築という、ある意味で公共財を提供する方向に使うのであれば、それはアジアとしても、世界としてもプラスになるのではないか。

 ただその一方で、中国がAIIBを政治的、外交的な手段として使うと、国際的な公共財の側面よりも、むしろ自国の利益のために、そっちを積極的に使っていくというふうになりますと、それは必ずしもよい方向ではないだろうということで、日本としましては、恐らくこれからAIIBの実際の業務を見て、どちらの方向にAIIBは行くのか、国際的な公共財をサポートする方向に行くのか、それとも中国は自分たちの政治的、あるいは地政学的な利益を追求するためにAIIBを使うのか。そこを見極めてやはりいくと。

 もし前者の場合であれば、社会的な基準ですとか、環境基準などもAIIBはしっかりやっていこうとするでしょうし、国際機関といろんな形で協調もしていくものと思われます。後者であれば、むしろ後退する方向といいますか、そうではない方向になるのではないかと思いますので、そこを日本としてはやっぱり見極めていくということが重要ではないかなと思います。

【滝田】 ありがとうございました。河合先生が、今プレゼンテーションしていただいたテーマにつきましては、日本経済新聞の5月1日付けの「経済教室」の欄にもご寄稿いただいておりますので、併せてご参照いただければ幸いでございます。

 続きまして、伊藤隆敏先生にお話を頂戴したいと思います。よろしくお願いします。

【伊藤】 コロンビア大学と、それから政策研究大学院大学の教授をしております伊藤隆敏です。よろしくお願いいたします。滝田さんがいま言われました「経済教室」では、私は参加を見送ったのは妥当と書きまして、河合さんが参加すべきだったという論陣を張りまして。

【河合】 それは交渉ですね。

【伊藤】 交渉に。はい、交渉に参加すべきだったということで、今日も伊藤、河合の論争を期待されて来た方には大変申し訳ないんですけれども、われわれの意見がほぼ一致しておりまして、これから私がしゃべることも、ほとんど河合さんの今おっしゃられたことと同じであります。私は、河合さんが私のほうにすり寄ってきたと思ってるんですけれども、河合さんは別の意見をお持ちかもしれません。ということで、河合さんが言われたことはほとんど同じですので、時間の節約のために、少し先を急ぎますと、まず中国の意図というところは、ほとんど河合さんの分析されたことと同じだと思います。

 非常にいろいろな意味で中国はうまくやった、巧妙だったということだと思うんですね。1つは、まず第2位の地位を占めている、経済力第2位の地位を占めているんだから、第2位のそれなりの処遇をしてもらわないと困るという点は、まったくそのとおりだと思うんです。それで、これは最初からうまく仕組んでありまして、河合さんが言ったように、域内国が75%を持つと、域外国は25%と。まず域外と域内に分けちゃったと、ここが非常に巧妙なところなんですね。というのは、ほかの開発機関、開発金融機関、ADBとか、あとほかにもEBRDとか、アフリカ開銀とかあるんですけれども、アジア開発銀行、それからEBRD、それからアメリカ、米州開銀と、こういったところは、アメリカが常に1位なんですね。地域金融機関でもアメリカが1位を取っていると。アジア開発銀行の場合には、アメリカと日本が共同の1位になっているんですね。つまり世界で一番経済力のあるアメリカは、あらゆるもので1位にならないと気が済まないということになってるわけですが、それを封じるためには、中国は、その域外国は全体で25%しか持ってないということで、そこでまず封じ込めて、アジアの域内で75%で、しかも中国がその中で一番になっていますので、そこでは中国が自動的にボーティングシェアで1位になるというのが、最初から仕組まれていて、そういったものをまず提示して、それでこれに参加する人は、どうぞ参加してくださいという枠組みを自分で決めちゃって、この指止まれということをやったという、非常に巧妙だと、絶妙だと思うんですね。悪いと言ってるわけじゃないんですよ。私は悪いとは一言も言ってないんですけれども、そこの仕組みを作ったあたりが、非常に巧妙だったということだと思うんです。

 それからタイミングの関係で言うと、これも河合さんが強調されたように、インフラ需要が非常に重要であるというのは、アジ銀が発表しておりまして、それからIMFの出資国、出資クォータの、出資比率について、アメリカ議会が、4年たってもそれを批准していないということで、その順位が6位から3位に上がるはずのものが実現していないというところで、中国としては非常に不満だと。不満を行動で示したということなんですね。これについて言えば、日本はかつて同じような不満を持ってたんですね。経済力は2位だった頃、それもアメリカに肉薄していっていた頃に、日本は当然出資比率で言えば、例えば10%ぐらいもらってもいいのに、6%に抑えられていたということで、非常に不満を持っていたんですけど、日本はそれを行動として起こすことはできなかったということで、そういう意味では、日本ができなかったことをいま中国がやってくれているというような評価もすることができると思います。

 河合さんが指摘されなかった点について、一言言いますと、世界には開発銀行というものと、それから投資銀行と分類してもいいようなものの、この2つの種類の銀行があるというふうに分類することができます。

開発銀行とここで呼んでいるのは世界銀行、それからアジア開発銀行、それから先ほどちょっと触れました米州開発銀行、それから欧州復興開発銀行、EBRDと呼ばれてるものですけど、こういったものが協定で作られている国際機関として認められている開発銀行のグループに属しています。ここではほとんどの場合、アメリカが第1位を取っていて、理事会が本部に常駐しています。そして開発銀行ですから、多くの場合、経済力が高まるような融資をすると同時に、貧困を削減するといった、それから社会政策としても、問題のないような融資をしていくといったような、ある意味で、ベストプラクティスと呼ばれるものをそこでは実現しているというふうに考えることができます。

 一方、投資銀行というふうに分類できるものがいくつかあります。その中で1番大きいのが、欧州投資銀行、EIBEuropean Investment Bankと、ほとんど聞かれたことのない、新聞にも登場しない銀行なんですけれども、そういうものがあります。あとは、アンデス開発公社とか、黒海貿易開発銀行、イスラム開発銀行、カリブ開発銀行というのがあるんですが、これはだいたい投資銀行、仲間うちの投資をする銀行であるというふうに分類することができます。最大の特徴は、理事会が本部に常駐していないものになっています。したがって、これはある地域で仲間が集まって、そこで投資案件を決めていこうと。仲間うちの投資銀行であると。例えば欧州投資銀行の場合には、メンバーはほとんどEUに限られている。EUの中でお金を出し合って投資案件をしていこうかということで、特にそこで貧困削減なんていうのは目的には入っていないと思われます。ドイツも出資するけど、ドイツもそこで投資案件借り入れをしていると。フランスも出資もすれば、借り入れもするといったような、投資組合のようなものができている。

 中国はどっちを目指すのかというと、私は恐らくこの投資銀行のほうだと思うんですね。だから開発銀行で、ADBに対抗するということでは必ずしもなくて、仲間うちで足りないと言われているインフラの投資をしようかということであろうと。これはヨーロッパのある財務省関係者から聞いたんですけれども、中国がEIBに非常に関心を示していて、これはどうやって運営されているのかということを聞きにきたというんですね。で、EIBはこうなってるんだよということを説明してあげたということで、ふたを開けてみると、割合このEIBのようなものが実現しつつあると。最大の点は、先ほど河合さんが言った、理事会が本部に常駐しない。これもEIBもそうでありまして、財務省の、本国の財務省の例えば審議官とか、局長レベルの人が、EIBの理事を兼任していて、月に1回、本部に行って、ルクセンブルクに行って、投融資案件、こうこうこういうのがあるんだけれどもどうですか、いいでしょうというようなことをやっていると。特に審査というものを厳しくやっているわけではないというのが、EIBでありまして、どうも中国はこれを目指しているらしいということがわかります。

 したがって、特に開発銀行として、ADBに対抗する、あるいは世銀に対抗するものを作ろうとしているわけではどうもないんじゃないかと。これはいい点もあれば、悪い点もあるわけですけれども、それが私のAIIBについての認識であります。

 ではそれを踏まえた上で、AIIBにどういう問題があるのかということですが、まず出資比率で中国が第1位になることを最初から仕組んであるという点は申し上げましたが、それによって何が起きるかというと、拒否権が発生する。つまり中国が気に入らない案件には融資できないという構造になっています。これは実はアメリカが、世銀でもIMFでも持っている拒否権というものなんですね。したがって、IMFや世銀が、よくアメリカの意向には逆らえないという場合の根拠は、この拒否権を1国で持っているのはアメリカだけだと。だから中国にしてみれば、だってアメリカがやってることをわれわれはアジアでやろうとしているだけで、何が文句があるんだと言えば、アメリカとしては強く反論はできないわけです。ということで、これは1つ、それでいいのかという問題が残ると。

 2番目は、理事会が本部に常駐しないという、これは河合さんが先ほど言いましたけれども、これはどういう問題が起きるかと言うと、理事はそういった融資案件について、必ずしも的確な情報を得ることはできないと。本部に常駐すれば、当然スタッフと毎日のように話し合いをしますし、融資案件について、理事会でいろいろ中身の議論までできるわけですけども、常駐していなければ、当然情報はあまり来ないということで、そういったことができなくなる。つまり本部の総裁以下幹部の意向でほぼ決まるだろうということが予想されます。

 それから3番目が、これも河合さんが言ったことですけれども、融資案件の中身について、どういうような融資が行われるのかと、どういった融資はいけないのかといったような原則と、投資原則といったものがはっきり示されていないために、中国が友好国と思うような国にどんどん融資をしていくと。あるいは中国のプロジェクトと密接に関係するようなものだけに、その延長として融資をしていくと。ではないかという疑問が、今のところ残っているということですね。そうならないかもしれませんが、そうなるんじゃないかという疑問が拭いきれないというわけです。

 4番目の問題は、中国は今でも世銀、ADBから借り入れを続けているわけですけれども、その中で、AIIBとしては、貸し出し側に回るということで、そういったことに問題があるのではないかと。

 それから5番目の問題としては、これは河合さんが先ほど言ったことですけれども、ADB、世銀と協調して融資をしていくのか、あるいは競争して融資をしていくのかといった問題が残る。したがって、どういった協力関係を築くのか、築かないのか。あるいは、ADBが、こういうところにはとても融資をできないというところを拾っていって、融資をしていくのかといったようなことについての疑問が残るわけです。

 先ほどベストプラクティスというお話をしましたけれども、そういった開発銀行では当然とされている環境問題の配慮とか、あるいは住民への配慮といったことがきちんとなされるかどうかということについて疑問が残っているわけですけれども、これについて中国は、ベストプラクティスというのはないんだと明言しているんですね。これについては、もし今の開発銀行がベストプラクティスを持っているのであれば、新しいものをわざわざ作る必要はないということを明言しているわけで、そういう意味では若干いま言ったような疑問というのは非常に大きくなるということになります。

 以上をまとめてみますと、こういったような懸念が残る中で、日本として交渉に参加しなかった、あるいは設立メンバーとして手を挙げなかったということは致し方ないことであったというふうに思います。もし将来参加するのであれば、その道は別に閉ざす必要はないと思いますけど、もし参加するのであれば、いま言ったような疑問というのがすべて解決されるといったことが重要であり、それについては、日本としては、外から常に疑問をぶつけていくということが重要であるというふうに考えています。以上です。

【滝田】 ありがとうございました。伊藤先生の今のプレゼンテーションも、冒頭で先生おっしゃいましたとおり、日本経済新聞の「経済教室」の欄にご寄稿いただいておりますので、併せてご参考いただければ幸いでございます。

 では次に、アメリカおよび中国の見方というお話をおうかがいする番になりました。まず、ユン・スン先生からお話をおうかがいしたいと思います。ユン・スン先生は、ちょうどパシフィックフォーラム、CSISというところで、AIIBについてのポジションペーパーを書いておられまして、その中にありまして、いわゆるブレトンウッズ体制に対する中国の挑戦というような、so-called external implicationsといったような側面もさることながら、AIIBに関する中国としての、ないしは組織の運営、形成に関する内なる問題点、international challengesという言葉を使っておられますが、その論点を指摘しておられるわけであります。では、お話をユン・スン先生におうかがいしたいと思います。

【スン】 ありがとうございます。お招きいただきましてありがとうございます。研究結果について共有させていただきたいと思います。笹川平和財団米国のAIIBのリサーチプロジェクトに参加をすることができておりますけれども、私は中国に行きまして、更なるリサーチをすることもできております。私のほうから言いたいのは、相当の中国の意図は何なのかということで、研究はずいぶんあると思います。そしてどういうチャレンジがあるのか、国際制度にとって、国際社会にとって、どういうチャレンジがあるのかということは、研究が十分あります。中国がなぜこういうことを始めたのか。そしてどういう意味合いを持っているのかという話を主にしたいと思います。

 私にとりましては、中国のポジションを見た後で、あるいは中国のポジションがAIIBでも順次変わってきたということを考えますと、もっと面白い問題が出てきております。それは、中国はどこまで成功したのかということです。当初のゴールを達成するということについては、どれだけ成功したのかということです。中国のポジションということを見てみますと、そしてそれが順次どう変わってきたかということを見ていきますと、AIIBというのはいい例になるんじゃないかと思っております。中国のビヘイビアというのがどういうふうに形作ることができるのか。国際社会が集団的に対応することによって、それを変えることもできるということだと思います。

 まず最初に言いたいんですけれども、設立協定から見るAIIBというのは、われわれ、いま見ている限り、中国がそもそももともと提案したものとはずいぶん違っているということです。それはいろんな問題に表れております。例えばメンバーシップでありますとか、出資比率とか、拒否権の問題とか、AIIBと中国自身の経済的な目標とのつながりでありますとか、それからガバナンスとか、スタンダードな問題などにおいて、それを見ることができます。

 第一に、例ですけれども、中国のAIIBのメンバーシップに関するポジション、特に地域外のメンバーに関しましては、相当変わってきております。最初の頃は、中国はアジア以外の国が参加するということは想定しておりませんでした、まったく。3月6日頃になっても、今年の3月6日頃になっても、中国の財務部長 楼継偉は、こういうステートメントを言っておりました。設立メンバーというのは、地域の国がまず最初であると言っております。そして域外の国の申し出というのは、今は考えないというふうに言っております。このステートメントというのは、英国が参加をするということを言う、たった6日前に行われていたものでありまして、恐らくは、中国は英国が入るなんて予想もしなかったんじゃないかなということがうかがえます。ヨーロッパの国々が競ってAIIBに入るようになったというのは、それは中国からすれば嬉しい喜びでありました。北京もだんだんポジションを変えていきまして、ヨーロッパの国々、域外の国々を迎えるようになりました。特にヨーロッパの国々、それからアフリカ、ラ米の国々を設立メンバーとして入ってもらうというふうに、立場が変わってまいりました。設立メンバー、PFMであります。北京は、最初は地域性ということをフォーカスしておりましたけれども、地域内は75、域外は25というふうに、国際社会からサポートを得られるように分配の決め方を変えていきました。

 2つ目、もう1つ、中国の立場が経時的に変わってきたのは、AIIBを多数国間の開発機関として位置付けるということであります。以前は、中国におきましてこの銀行ができれば、中国の援助機関になるんだとか、商業銀行になって、政策的なエレメントは入っているけれども、商業銀行なんだというイメージが最初にありました。援助機関になるというのは、最初は中国でこれだけ銀行のメンバーがほとんどがアジアの途上国であるので、中国がこんなに大きな出資をするので、AIIBというのは、基本的にもう1つ中国がアジアのインフラ開発をするための、もう1つのチャンネルになるというふうなイメージがありました。しかしながら、財務省の役人などは、それとは違う考えを持っておりまして、AIIBというのは、市場志向型の利潤を求める商業銀行なのだと言っておりました。そして中国は、お金を損するためにお金を出すのではない、利潤を出すのだ、ということを言っております。これは投資銀行的な伊藤先生の理論にかなうものであります。最終的なAIIBというのは、両方の極端は取らずに、中道を行っております。設立協定に書いてありますように、AIIBというのは、多国間の開発銀行であり、中国は大きなコントロールを持ちますが、ドミナントロールを持つものではないというふうなものになっております。これは、AIIBということは、商業銀行でもないし、政策銀行でもないということになります。そうではなくて、いわば、彼らに言わせますと、準商業銀行であるということと、その投資というのはリターンをあげなければいけないということを意味しております。

 単純に聞こえるかもしれませんけれども、リターンをあげなければいけないというのは大きな問題であります。どういうふうに銀行はインフラプロジェクトに賛同しながら、実務的な商業銀行的なこともやるということ、アジアでのインフラ開発というのは、長期の資金調達サイクルであり、低金利であり、そして無駄があったり、汚職の温床になったりし得るものであります。AIIBが融資をする時に、ほかの銀行がちゃんと理由があってリジェクトしているものにお金を出すということになりますと、大きなリスクを抱えることになります。特にアジアの途上国などの場合には、国内の経済が安定しておりません。政府も安定しておりません。受け入れ国がどうやって融資を返済するのかというのは、どんな銀行にとっても、AIIBにとっても大きな問題であります。交渉を通しまして、中国は、この対立、すなわち損失をあげるかもしれないプロジェクトにお金を出しながら、しかしながら、利潤をあげなければいけないという、この対立を何とかしなければならかったものであります。ですから2015年の前半に北京が考えていたのは、そのことでありました。ほとんどのアナリストが言っておりますが、アジアのインフラ市場のリスク、そしてAIIBがそのリスクは避けなければいけないということ、これは中国のアナリストみんなが言っていることであります。その解決を求めるために、専門家の間でコンセンサスが上がってまいりました。中国は、インフラプロジェクトにすべてお金を出すと、しかもリターンをあげながら、と。そういう非現実的なことは諦めろというふうになっていきました。この問題に関しまして、最も代表的なポジションというのは、ある国家開発改革委員のマクロ経済研究所の幹部が言ったコメントがあります。NDRCの幹部です。そのステートメントは、こういうことです。AIIBの運営というのは、高いリターンは求めない。しかしながら、せいぜいトントン、あるいは最低限の利潤をあげることを求めるのだ、というふうに発言しております。

このように、利潤と志の間の対立というのは、2つの意味合いを持ちます。まず第1点に、AIIBのプロジェクトのスコープというのは、ある程度、制約的にすると。中国が最初に言っていたものよりある程度制約的にして、最初はアジアのインフラマーケットのギャップを埋めるんだと言っておりましたけども、それを制約的にすると。第2点目は、AIIBの融資というのは、借り入れ国がもともと期待したような寛大なものにはならないかもしれません。責任ある形で投資をし、そして最低レベルの利潤を上げるためには、そう大盤振る舞いをするわけにはいかないでしょう。中国の財務省の人たちはこういうことを言っております。AIIBというのは、厳しく、高いスタンダードを守らなければいけない。需要あるのはわかっているけれども、スタンダードを守らなければいけない。そのスタンダードというのは、ADBに近いものだ、ということを言っております。

 中国の拒否権には、ずいぶん批判が高まっておりますけれども、これはずいぶん改善されております。前のバージョンからは改善されております。2014年の10月にMOUの調印をいたしました時、中国が目指しておりましたのは、銀行の資本の50%を中国が出すということで、中国の人たちは、ということは、絶対拒否権が中国に与えられるものだというふうに理解をしていました。どんな問題であったとしても、多数決で決める時には、中国が拒否権を持つと同じだと。しかしながら、多くの人たちが、それぞれ設立メンバーになってきまして、2つのことが起こりました。1つは、中国はそのシェアをスケールバックいたしまして、30%まで落としました。2つ目に、より高度なフォーミュラが議決権に関して導入されるようになりました。これはキャピタルシェアとベーシック・ボーティング・ライトと設立メンバー・ボーティング・ライトの、コンビネーションでやると。いろいろなボーティングライトを兼ね合わせるようになっております。それによりまして、このフォーミュラによりますと、中国は26.06%であります。そして特別多数決が必要なようなものについては、拒否権があるかもしれないけれども、例えば総裁の権限や理事会のメンバー構成、重要な政策とかに関しましては中国の影響が大きいかもしれないけれども、一つ一つのプロジェクトに融資をするか決めるようなものに関して、特別多数決を必要とするような案件になるのかどいうかというのは、まだわかりません。主要なことに関しましては、中国がコントロールを持ち続けたいということだろうと思います。

拒否権というのは、多くの人が眉をひそめましたけれども、そんなに恐ろしいものではないと思います。なぜか、説明しましょう。例えば新メンバーを受け入れるかどうかということは、特別多数決ではありません。ですから中国は拒否を行使できません。そして中国が嫌と思うようなことをブロックするために、拒否権を行使するということは、本当に自分が好きなようにやりたいということとは同一ではないのであります。ですから、例えば考えてみますと、非常に重要な問題が上がってきたとしても、銀行のほかのメンバーの人たちが中国に満場一致で反対するということはあまり想定できないことであります。そういうことがあれば、もう北京は拒否権を行使しなければいけないということがあるでしょうが、そんな状況はなかろうと思います。中国が有利なポジションにいるということ、それからまた意思決定に影響力を行使するということを考えれば、拒否権はいらないわけであります。一般的なコンセンサスが言っておりますのは、中国というのは、拒否権の行使に慎重でなければならないということです。中国というのは、AIIBというのは、多国間の金融機関であるのだと、自分のところの政策銀行じゃないんだということを言いたがっているわけです。拒否権を行使するということになりますと、そういった言ってることと反することになりまして、国際社会でも疑惑の念を持ち、中国を批判することになります。ということは、銀行は自由に中国の特別な影響力や特別なステータスを、それはあることは事実でありますけれども、国際社会が厳しい見方をして、プレッシャーを与えるということによって、中国の懸念ということ、例えば評判を気にするとか、それから中国のアクションに対しては認識してほしいということもありますので、必ず形作ることに影響をすることはできるでしょう。

 また中国は、自らの国家利益、例えば輸出振興や1B1RのためにAIIBを使うだろうということが言われております。しかし、これは実際に銀行が業務を開始しないとわからないことではありますけれども、大きな議論がいま中国の政策サークルの間で起こっております。それはどこまで中国というのはAIIBを利用して、北京の経済目標を追っかけるべきなのかということです。中国の一番議論を呼んでおります目標というのは、輸出振興策として、中国の過剰能力を吸収するためにAIIBを使うんだという、しかしこの論点というのは、中国の政府の発表から消えております。メディアのレポートからも消えてきております。中国の物品の輸出を振興し、過剰能力を吸収するということは、例えば反ダンピング訴訟を起こすということになるし、習近平の経済改革キャンペーンを損なうことにもなるし、またAIIBの正当性、それからクレディビリティをも傷つけるということになります。ですから50以上の設立メンバーがいる中で、AIIBが中国の輸出に利するような決定をするということは難しいし、問題になるでありましょう。まさに中国の財務省、それからAIIBの準備グループなどが何度もこのことを言っております、ステートメントで言っております。

 次に、基準とレギュレーションをちゃんと守って、AIIBをやっていくのだということ、これもガバナンスの問題ということでよく言われております、国際的に批判が上がっております。中国はAIIBというのは、ファンディングを効率的に、効果的にやるんだと言っております。しかし、中国がもう1つ認識しなければならないのは、質の高いルールが必要なんだということです。いろいろなプラクティカルな理由で、理由必要であります。例えば、よき意思決定、信用格付け、それから銀行のクレディビリティのためにもハイクオリティなルールが必要であります。設立協定をどういうふうにガバナンスをきかせるかというのは、中国にとって初めてのことです。中国は、この銀行というのは、贅肉のない、クリーンで、グリーンなものにやるということを言っております。そして国際的なベストプラクティスを取り入れなければいけないというふうに言われております。ワーディングとしては、非常に曖昧で幅広いものでありますけれども、しかしながら、コミットメントというのは、中国の政府が言っていることは、少なくとも認めてやる必要はあると思います。実際のプラクティス、オペレーションというのが、本当にこれから将来のAIIBのパフォーマンスを占うものとなるだろうと思います。しかしながら、このプロセスを通して、国際社会が教育をするということ、そして疑惑の念を持って、それをプレッシャーとして発言するということが、中国のビヘイビアを形作っておりますし、また銀行のルールにも影響していくだろうと思われます。

 それでは中国がこのようにポジションを変えてきたのだろうかと聞かれるでしょう。なぜAIIBが最初の立場とは違うような立場を取るようになったのかという質問が出てくるわけですけれども、一番大きな理由というのは、なぜかと言いますと、とにかく最初のバージョンとはずいぶん違っております。それは国際社会が果たした役割があるのであります。一番大きなイベントといたしましては、AIIBに主要なヨーロッパ国が3月の末に入ったということであります。銀行に入るに当たって、設立メンバーの人たち、この中には先進国のメンバーも入っておりますけれども、そこで集団交渉力を使って交渉することができました。導くことができ、そして銀行の設立協定を中から形成することができたのであります。そして中国を国際的な規範や基準のネットワークに入れることができたのであります。中国がその期待感やポジションをこのような現実に合わせて変えてきたわけであります。このようなフレキシビリティがあったということ、そしてそれ自身が可能性、そういう可能性を見せたということはポジティブなことだと思います。疑惑の念や反論があります。アメリカや日本が反論を持っておりますけれども、これも大きな役割を果たしていると思います。中国の自己中心的な志をある程度宥め、そしてもうちょっと注意深くやったほうがいいよという気にならせたと思います。

 AIIBというのは、中国が既存のシステムに対するチャレンジをかけたのだ、ということもできます。しかしながら、このケースからわれわれが学ぶことができるのは、既存のシステム、国際システムというのは、やはりバランスをする力、影響力を、影響する力、中国の革命的な野心を牽制するという、そういったことができる能力を持っていると思うのです。そうすれば中国の国際制度における将来の行動を牽制することができるということは、一番AIIBから得ることができる大きな教訓ではないでしょうか。もちろんAIIBのゲームは始まったばかりであります。この設立協定というのは細かいところを見なければわかりません。しかしながら、そのディテールというのは今はわかっておりません。一番大事な問いといたしましては、AIIBの問いというのは、すべてそれが推定されておりますこの銀行というのは、中国のものだと言われているイメージ、そしてそれが政策的手段としてどういうふうに使われるかということであります。オブザーバーは、そういう細かいことをこれから見ていかなければなりません。例えば中国の拒否権の行使はどうなっているのかということをつぶさに見なければいけませんし、AIIBのプロジェクトが中国の輸出振興につながってるかどうか。それから幅広い政策につながってるかということをよく見なければなりませんし、ガバナンスもコンプライアンスも見ていかなければなりません。それからファンドレイジングモデルも見ていかなければなりません。

 中国はAIIBの設立の第一期は終わりました。しかし多くのチャレンジというのはまだこれからのことであります。究極的にはこの銀行というのは、実際のパフォーマンスによって判断されることになるでありましょう。以上です。ありがとうございました。

【滝田】 ありがとうございました。要するに、AIIBの構想が現実の進展の中で、かなり変容を遂げているという面白い論点を提起いただいたと思います。

 それで、次のお話を頂戴したいのは、フィリップ・リプシーさんであります。リプシーさんは、アメリカの権威ある外交雑誌の「Foreign Affairs」に、「AIIBを恐れるな―アメリカと日本がAIIBに参加すべき理由」、これは翻訳のタイトルですが、そういう論文をご寄稿されておられます。ではリプシーさんのお話をいただきたいと思います。

【リプシー】 フィリップ・リプシーと言います。これまでしばらくの間、本を書いてきました。いろいろな国がいかにして国際的な機関のアーキテクチャーについて、どのような交渉をしていくか、駆け引きをしていくかということで、よく使われているのは、新しい機関を提案するという手法があるわけで、AIIBが非常にここでふさわしいトピックだというふうに思います。興味深いトピックです。

 それではまず最初に、これまで物議を醸すような展開である、この機関であるということが言われているので、いくつか引用したいと思います。「AIIBは国家のようなものである。AIIBの総裁は皇帝、天皇みたいなものだ。」「すべてのプロジェクトは、中国の支援が必要である。そうでなければ、理事会まで届きもしない、承認も受けることができない。」「AIIBは外交政策手段として使って、中国の外交的利益追求のために使われる」というふうに言うわけですけども、このように非常に議論を呼ぶ組織であるということが、これからわかると思います。しかし、実際には、これらのステートメントというのは、ADBに関するもの、日本に関するものだったわけです。まず最初の点は、元事務総局長、ADBの方から引用しました。「ADBは国家のようなものだ。」ADBの総裁は常に日本人であるわけなんですけれども、「それはもう天皇のようだ」というふうに言っております。2番目は、学術論文から引いたものですけれども、ADBの融資について調査をしたもので、「すべてのプロジェクトは日本のサポートがいる。でないと、この理事会にも、承認のためにふされることはない」というふうに言っており、最後、1993年で、Yasutomo Dennisが書いたものですが、「ADBというのは、日本の外交利益を追求するための外交政策手段である」というふうに言っております。ここで組織と国の名前を替えるとこうなるわけで、非常に興味深いと思います。この組織のイメージがちょっと変わってくるんじゃないかと思います。

 しかし、ここでの1つの疑問というのは、AIIBというのは、本当に極端なものなのか。1つの事例なんですが、よく言われている非難なんですけれども、そのうちの1つをここに書いております。産経新聞が書いたことですが、やはりAIIBは中国独裁であり、拒否権、本部、総裁を独占するというふうに書かれております。したがって、中国はあまりにも主張をし過ぎて、そしてこの組織をコントロールしようとしているのじゃないかということなんですけれども、しかし世銀を見てください。現在の世銀の総裁、そしてこれまでの創設以来のすべての総裁はアメリカの国民が占めてきました。こちらはグーグルマップで世銀の本部があるところなんですが、ホワイトハウスはこちらにあって、こちらが世銀があるところです。(※注記:非常に近い)また、ワールドバンクが出しているオフィシャルの、公式のウェブサイト上にあるアメリカの紹介なんですけれども、「アメリカは世銀構造の変革に対する拒否権を持つ唯一の出資国である」と。そして米国は、開発上の優先課題を形づけることができるというふうに言っております。これは世銀の公式のウェブサイトから引いた引用なんです。したがって、AIIBを非難する前に考えなければならないのは、じゃあ国際的な現状は何なのかということです、これらの問題について。したがって、批判をする時に、自分自身も同じような状態であるということではいけないので、まずはその現状認識が重要だというふうに思います。本当に中国、AIIBを批判するということは、本当に正当なことなのか。日本やアメリカがこれまでやってきた、何十年にもわたってやってきたことを振り返ってみると、本当に正当なのかどうかということです。

 確かにAIIBは物議を醸しているということで、国際的な国際機関と似ているかどうかということなんですが、3つの理由があると思います。なぜ物議を醸しているかという点を説明しましょう。

まず第1は、政治的な利用ということですが、中国がこの組織を支配をして、この組織を自らの利益のために、中国の利益のためだけに使うんじゃないかということ。

 2番目には、国際基準を弱めてしまうんじゃないか。基本的には既存の国際援助努力というものがより困難になってしまう。なぜならば、中国がこの融資をする時に、より低い、疑わしい基準でもって融資をする。例えば環境とか人権を無視してということになるわけです。これらについては、私のほうからも言いたいことがあるんですけれども、ほかのパネリストがすでに焦点を当てておりますので、3番目のところに焦点を当てたいと思います。

 3番目としては、これは基本的には、AIIBは脅威となる、既存の組織に対する脅威となるということですが、特にAIIBは、恐らく中国によって、既存の組織を置き換えようとする、IMFや世銀やADBを置き換えようとしている試みではないのか。より広範で言うと、アメリカと日本というのを、世界のリーダーとして追いやろうとしている試みではないのかということです。内示的、明示的であったとしても、今の議論の基調に流れているのがこのような問題だと思うので、そこに焦点を当ててお話をしていきたいと思います。

 それでは、繰り返しになるかもしれませんけれども、AIIBというのは、中国の現状秩序に対する、アメリカが戦後作った現状の秩序に対する挑戦なのかどうかということです。1つの質問として言えるのは、中国は基本的には修正主義的な国であるのか?つまり中国というのは、既存の秩序を根本的に覆したいと思っている国であるのかどうかということです。これは軍事面では議論が続いているところで、まだクリアではありませんけれども、国際機関のアーキテクチャーの観点からも、これは特にクリアではありません。なぜならば、戦後以降、中国の外交政策の目的というのは、国際機関を通じて国が認知をされ、まずそこに参加をして認知をされると、主要な国際機関で認知をされる。そして最終的には、中華民国と中国を代表する主権はどっちが取るのかという主権をめぐる競争があって、結局中国になったわけです。したがって、長年にわたって、中国というのはこの国際機関に入りたかった。そして多くの意味において、70年代以降について、中国は、何とかこのような組織において、国際機関において、場所を取ったわけです。このような国際機関に参加をしたことによって、非常にいい場所を取りました、多くの国際機関において。その結果、中国は国連の安保理の常任理事国にもなっております。日本やドイツが、これまで長きにわたって戦ってきたけれども、常任理事国になっていないにもかかわらずです。当初は台湾だったのです、この常任理事国は。でもその後、中国に代わりました。ということで、中国はこの国際的なアーキテクチャーに、多くの国々にとっては手の届かないものが手に入ったわけです。

中国のプロパガンダが特に強調しているのは、この現状維持志向というふうに私は言いたいと思うんですけれども、つまりファシズムを打破をして、そして戦後秩序を守っていかなければならない。日本の再軍事化を許してはならないというようなことで、つまり現状を覆そうというふうには思っていないのだと思います、中国というのは。IMFと開発機関、例えば世銀ですけれども、それはちょっと例外的だと思います。というのは、中国はそこで十分に代表されていないからです。しかしながら、それは広範的な中国の外交パターンの一部ではありません。国際的な組織を全体として見てみると、このIMFなど、世銀というのは、中国の声があまり発信されていないので、まだ改革が進んでいる最中ですけれども、例外的であるというふうに言っていいと思いますが、これは中国が変えたいと思っている外交政策の一般的なパターンとはちょっと違うというふうに思います。

 そこで、AIIBは果たして、IMF、世銀、ADBを置き換えるのだろうかということです。IMFは、このようなグループによく入れられますけれども、実はまったく異なる組織なんです。これは重要です。AIIBというのは、国際収支や金融危機に対応しようとは思ってないわけです。むしろそれは、BRICsの新開発銀行のほうがそれに興味を持っているんだというふうに思います。IMFというのは、このディスカッションにはあまり関係ないと思います。世銀とADBのほうですけれども、これは潜在的には、より興味深い議論になると思います。この開発融資というのは、非常に競争の激しい政策分野なんです。29以上の2国間の援助機関があります。また少なくとも、28の多国的な援助機関があります。また民間のドナーもたくさんあります。例えばゲイツ財団もそうです。これらが国際開発の活動に携わっているわけで、AIIBというのは、このように非常にひしめいている領域の1つのプレーヤーにしか過ぎないわけです。したがって、AIIBが既存の組織に取って代わるなどというのは、ちょっと間違った議論だというふうに思います。多くの機関がすでに、この政策分野にはすでに共存しているわけです、まずもって。

 もう1つは、この開発援助の特徴を考えなければなりません。AIIBが成功したとしても、世銀、ADBが失敗したということを意味してはいないということです。国際関係の学者が言っているように、ゼロサムゲームではないのです。ここでは私が勝てば、あなたが負けるというようなゲームではありません。経済開発という広範な利益というのは、非常に拡散的なものであるので、例えばタイにおいて中国がインフラを開発することができるとします。それでタイから中国により安く物流することができる。それは中国にとっていいんですけれども、でも中国でそれがあったとしても、経済開発にこの地域で従事する日本の企業にとってもこれはプラスになるわけです。

 でも問題があります。この問題は、既存の援助機関にも関わるものですし、またいろいろな学術論文にもあります。世銀の援助はアメリカの利益、そしてADBの援助は日本の利益に合致をしているというふうによく言うわけですけれども、中国は、このAIIBを使って、中国の利益を追求するかもしれません。しかしながら、それは援助の分野においては、あまり大した議論ではないのです。つまりインフラを開発したとしても、中国に利したとしても、ほかの機関が、ほかのインフラ開発に携わることができるわけです。つまり1つを作ったら、ほかのものが作れないということではないからです。AIIBが非常に成功したとしても、その国が、もう世銀は必要ないよというふうに言う国はないと思います。つまり国際援助を必要としている国はたくさんあるし、ニーズはたくさんあるからです。

 多国間の国際機関の特徴も考える必要があります。AIIBがその1つになるわけですが、多国的な国際機関というのは、パワフルな国家の利益や影響を受けてしまいますが、制約要因もあります。こちらが最も重要なところで、よく忘れられがちなんですけれども、この議論において、GATTWTOがいい例だと思います。GATTが作られる前は、アメリカの通商政策というのは非常にもう動きが激しかったわけです。共和党が政権を取っている時には、関税をあげて、通商が止まる。そして民主党が入ってくると、その逆になるということで、その時に政権を取っている政党によってかなり通商政策が動くわけです。しかしながら、GATTが作られてくると、アメリカにとってのメリットというのは、もちろんグローバル市場なんですけれども、しかしそのほかの国々にとって、アメリカ以外の国々、つまりアメリカの政策が安定的になってきたので、そのほかの国があまりその乱高下の影響を受けなくなったわけであります。AIIBも、そういうことで、ほかの国々に対して、中国の経済外交政策を制約したり、方向づけるチャンスを与えるわけです。そういったチャンスがあるということを念頭に置いておくべきです。

 中国側にとっては、もし中国がAIIBをプロアクティブな形で、きちんと配慮のある形で運営をしていったならば、中国にとっても、中国の台頭を心配している国々に安心感を与えることができる。中国の意図は協調的であり、平和的であり、あまりアグレッシブではないということを示すことができるわけです。

 それでは世界秩序を作り直す問題についてですけれども、中国だけの話ではありません。国家がより大きな経済、軍事力を持ち始め、台頭していく場合には、常に、国際システムに影響力を及ぼしたわけです。例えば明治維新以降の、第二次世界大戦前の日本もそうだったと思います。日本は軍を近代化し、植民地を作り、勢力範囲を広げたかったということで、ステータスを取りたいと思うわけです。しかし、日本は同時に、人種的な平等を覆そうとしたり、また平等を取ろうとしたり、国際連盟に入ろうといたしました。そういうことで、日本もこのような多国主義において勢力を拡大しようといたしました。第二次世界大戦以降におきましては、国際社会がより平和的な形で、各国が国際的な影響力や地位を達成できるような仕組みをつくりました。つまりオープンな世界経済があり、そして国際機関というのがもっと重要になってきたので、そこで交渉をして、議決権を取ろうとしたり、あるいは自らの組織を作ろうといたしました。あるいは国際法を作ろうとした。日本やドイツのような国というのは、以前においては軍事的なオプションを取ったかもしれないけれども、しかしながら、国際世界においては、軍事力を増強しなくても尊敬される国際的なメンバーとなることができるわけです、戦後においては。

 そして戦略や関係をAIIBに関して考えてみると、もしこの台頭する国が平和的な手段で目標を達成することができなければ、平和的でない手段に頼ることになるわけです。そこでこれの意味するところですが、日本とアメリカにとっての、AIIBというのを考える時に、中国の台頭に対して、どのようにマネージしていくかという側面を考えなければなりません。例えば1つの答えというのは、すべて抵抗するということ、つまり中国がその地位や影響力を持たないように、もう全面的に排除しようとする、防止をしようとするというような政策対応を取ってしまったならば、中国がその軍事力に訴えることになるでしょう。そうなると、ほかの国には依存しない、独自の道を行くということになると、恐らくは中国は、国際的な現状を打破しようというふうに思うでしょう。したがって、よりよい答えというのは、日米の観点からするならば、むしろ中国に働きかけて、国際的な影響力や名声を平和的な、建設的な手段でやれということです。したがって、最も大きな問題となるような軍事力の使用というようなもの、例えば領土紛争というような近隣諸国に対しての脅威を外すということをするわけです。したがって、中国は国際的な名声を達成しようとする時に、多国的な開発銀行を設立することでやらせるのか、あるいは空母を建造することでそれをやらせるのか。どっちがいいのかということになるわけです。その選択肢というのは、軍事的な拡張よりも前者のほうがいいというふうに思います。

 成功したAIIBは何を成し遂げるでしょうか。理想的なシナリオでは、アジアの経済開発を加速化することができる。また中国の経済外交政策を多国主義を通じて制約したり、改善することができる。また、より大きな発言権を中国に与える、グローバルな経済問題について。それをする時に、対立することなしに発言権を与える。また中国がきちんとした行動を取るならば、つまりAIIBに関してですけれども、中国は既存の秩序をひっくり返したり、武力に頼ることなく、国際的な影響力や地位を確保することができる。これがAIIBが成功した場合のシナリオです。

 結論ですが、日米というのは、AIIBに参加をするべきであると思います。なぜならば、もちろん詳細が重要なんですけれども、最も重要な政策問題というのは、象徴的な問題、シンボリズムだと思います。アメリカや日本がいかにして中国の台頭を考えているのかということです。AIIBは、中国の将来を方向づけるチャンスです。さらに日本とアメリカが戦略的に行動をして、そして平和的かつ相互の利益にかなうような影響力の行使の仕方を奨励することができるわけです。したがって、中国をつついていく時に、われわれの全員の利益につながるような方向につつくほうがいいということです、中国の利益だけに資するのではなくて。

 さらにガバナンスやオペレーションを、この恐らく重要な開発援助の財源となるであろうこの機関のガバナンスとオペレーションを改善するということ。またほかのパネリストも言ったように、本当はその当初の段階から、その組織に参加をするべきであったというふうに思います。この国際機関のいろいろな論文を見てみると、創設メンバーになったほうが、影響力をたくさん行使することができるわけです、後から参加した国々よりも。AIIBも例外ではないでしょう、そのパターンの。したがって、いま参加をするということは、もちろん当初の段階で参加するよりもいいアイデアではない。でも時計を逆回しすることはできないので、当初の段階からもう参加できなかった、であるならば、すぐ参加するべきだと思います。

<ディスカッション>

【滝田】 4方の大変貴重なお話をいただきました。最もいまわれわれが抱えている重要な問題は、残った時間が20分しかないということであります。それで、10分間の間に4人のパネリストの皆さんに、クイックアンサーを、1つずつご質問申し上げますので、頂戴して、その後で、フロアの皆さんからのご質問を頂戴したいと思います。申し訳ありませんが、お答えは簡潔にお願い致します。

最初に河合先生におうかがいしたいのでありますけれども、日本がAIIBに参加するかどうかという、極めてプラクティカルな質問をさせていただきたいと思います。その場合の条件ということを考えるとすれば、どういうものでしょうか、というのがご質問であります。

【河合】 はい。今リプシーさんからありましたけれども、日本はやっぱり交渉に、やっぱり参加して、日本が言うべきことをちゃんと言うべきだったと。結果として、日本の言うことが通らなければ、別に署名しなければいいということだったと思いますけれども、さてこの時点に立って、なるべく早く入ったほうがいいかどうかということになりますと、私は、今はそうは思っていません。

 リプシーさんほどオプティミスティックにはちょっと考えられないと言いますか、AIIBがちゃんとできて、中国がそれをマネージするようになれば、中国は必然的にピースフルな行動を取るようになる、というのは、相当大胆な仮定ではないかなと思うんですね。やはりAIIBをちゃんとマネージして、それでそれが本当に有用なものであると、アジアにとって非常にプラスになる、日本としてもサポートできるようなことをちゃんとやるという確証が持てないと、やはり日本としては、あるいは恐らくアメリカとしても入れないのでないかと思うんですね。と言いますのは、やはりまだAIIBを中国が独自の目的のために使うというオプションは当然あるわけですから、そこが確認されないといけないのではないか。

 私ちょっと計算してみたんですけれども、日本が参加した時にいったいどうなるか。そうしますと、中国の資本の出資比率は25%程度になりまして、投票権の比率、投票比率は、21%ぐらい、21~22%ぐらいになります。ですから日本が入っていいことは、ヴィートーパワーをなくすことができると、中国の。そのプラスの点はありますので、まったく日本が入ってインパクトがないということはないわけですけれども、日本の投票権は9%ぐらいになります、10%はいきません。ですから中国が21~22%の投票権、日本は9%ぐらいですから、非常に日本の力は、中国と比べると小さいんですけれども、ヴィートーパワーはひっくり返せると。しかし依然として、60%以上は、やはりアジアの途上国が投票権を握りますので、そこで中国がいろんなやりたいことをやろうとすると、やっぱりロシアとか、イランとかもメンバーになってますので、これは日本が言うことが本当に通るかということになりますと、なかなか難しいところがあるなと。アメリカが入っても、中国の議決権には影響はないと。と言いますのは、アメリカは、ノンリージョナルですから、ノンリージョナルの中で計算しますと、中国を抑止するということは、議決権の上ではなかなか難しい。ただアメリカが入ると、すごくうるさいことを、やっぱりアメリカはすごく言いますから、これはADBの中でも5~6年、7~8年ぐらい前までは、アメリカの理事の方々はものすごく厳しい、ものすごく厳しいことを言っていました。恐らくアメリカはすごく厳しく出るでしょうけれども、ただ投票してみると、アメリカが負けるというのは、やっぱりあり得るかなというふうに思うんですね。

【滝田】 わかりました。いま河合さんから、リプシーさんのご指摘に対する批判が出ましたので、それに対するリプシーさんのお答え、およびアメリカのスタンドポイントというのをもう少しクリアにしたお話をおうかがいしたいと思います。ただ、時間が5時と迫っているので。申し訳ないですが手短にお願い致します。

【リプシー】そうですね、いくつか申し上げることがあると思います。私の論点というのは、AIIBに入れば、中国が平和的になるとは必ずしも私は思いません。AIIBというのが利用されて、彼らの狭い意味での政治的な目的のために使われるという可能性はあると思います。そういうふうにやったからといって、必ずしも中国のためになるとは思いませんけれども、それに対する但し書き、警告としては、既存の開発機関というのは非常に政治性を帯びたものになっています。それも事実なんです。ですから相対的な政治という問題だろうと思います。これはなかなか批判するのが難しいですね。AIIBだけをそういうことで批判するというのは難しいと思います。研究者に言わせますと、既存の国際機関と同じじゃないかということが言えるんだろうと思います。

 次に、アメリカの政策はどうかということですけれども、議会という存在が重要であります。ただ単にAIIBだけに関してだけではなくて、IMFにつきましても、世銀についても、議会が鍵を握っております。これはアメリカでも議論を呼んでいることで、長年議論されております。今回初めて、IMFとかブレトンウッズ体制の改革が議会で足止めを食らっているというのは初めてのことではありません。共和党側で言いますと、懐疑的な気持ちがあるんです。国際機関というのはどういうものだろうかという一般的な懐疑的な気持ちがあります。一般論として、歴史的にとにかく行政府が政治資本を十分投入するつもりがあれば動くことは可能なのです。いろんなことが言われておりますけれども、例えば今もアメリカでは政策がマヒしているというようなことを言われておりますけれども、TPPのTPAということにしろ、イランとの核問題にしても、もし大統領が本当に本気になれば、議会というのは必ずしも障壁にならないのです。ですから究極的には、結局は政策の優先順位かということだと思います、アメリカの大統領がどう出るかということだと思います。

【滝田】 アメリカ議会という存在は大変面白い論点だと思います。じゃあ伊藤先生に、具体的に、要するに、AIIBのどこをどういうふうに変えたらいいのか。さっきのお話にあった点を少し補足的に頂戴できましたら幸いです。

【伊藤】 はい。第1点は、常駐の理事会というのは譲れない点だと思うんですね。やはり常駐の理事会を作ることによって、いま出ていたような懸念ですね、中国が自分の国のための融資案件ばっかりやるんじゃないかというようなことについて、少なくとも透明性が保たれて、いろんな意見が出てくるということで、非常に重要な点だと思います。

 それと併せて、やはり拒否権を中国が持ち続けるということについては、非常に不安が残るということで、河合さんが提案されたように、日本が入って、その拒否権が消せるということであれば、それは1つの意味のあることかもしれない。拒否権というのは、それを行使する必要ないので、ちらつかせればいいだけの話なんですね。これはIMFでも世銀でも、アメリカはちらつかせて、影響力を保っているわけで、決してそれを使うということは得策にはならないわけですから、使わなくて影響力が発揮できるようにするという、そこがアメリカのうまいところで、多分中国もそれを学んで、使わずに影響力を発揮するために拒否権を持ち続けると、持ち続けたいと思うということがあるというふうに思います。

 河合さんは、ファーストハンドで経験されているわけですけれども、ADBは決して日本が独裁的に運営できているわけではなくて、これはうるさいアメリカというのがいて、常に日本を牽制してきたわけで、日本がやりたいようにADBを運営してきたということは決してありません。それだけやっぱりアメリカが共同1位であるということの重みというのは大きかった。AIIBの場合には、それは私が最初に申し上げたように、域内国、域外国ということを最初に枠組みを作ったために、アメリカが入ってもアメリカはほとんど影響力が持てないというところで大きな違いがあるというふうに思います。

【滝田】 ありがとうございます。では次に、ユン・スンさんにお話をおうかがいしたいと思います。実はAIIBの当初構想から様々な国が参加してくる過程で、かなり大きな変容を生じてるという論点は大変興味深い論点なんですけれども、時間の関係で、そのご質問は割愛いたしまして、あえて中国の国益ですね、ナショナルインタレストとの関係をおうかがいしたいと思います。特に注目されるのは、一帯一路と言うんでしょうか。The one belt one road policyとの関係であります。AIIBは、果たしてどういうような立ち位置、スタンドポイントを取ることになるんでしょうか。教えてください。

【スン】 ご質問ありがとうございます。中国側から見られるポジションというのは、一帯一路というのは、別に二律背反的なものではないわけです。言い換えるならば、一帯一路の対象プロジェクトかどうかがAIIBのプロジェクトとして融資するかを決めるべきものではありません。AIIBで審議をする時には、その内容を見て、きちんとプロジェクトがきちんと基準、ガバナンスの基準などに合っているかどうか、AIIBの基準に満たされているかどうかということを見るわけです。したがって、一帯一路のプロジェクトだからと言ってAIIBにおいて融資を拒否するというのもまた理にかなっていないと思います。

 もう1つ問題だと思うのは、1B1Rは実に問題が多いのです。中国は必ずしもAIIBに頼らなくても、資金はあるわけです。たくさんの資金チャネルは、中国は持っております。例えば輸出入銀行、CBDなどもありますし、最近のシルクロード基金もあります。したがいまして、このような一帯一路のプロジェクトとして問題のある案件を、国際的な批判にさらしてまで、AIIBに提出する必要はないわけです。それは中国にとってもプラスにはなりません。

Q and A

【滝田】 では4方のお話を頂戴いたしましたところで、フロアの皆さんからご質問を頂戴したいと思います。ちょっと大変申し訳ないんですけれども、5時5分前ということになってしまってるものですから、そう多くのご質問は頂戴できません。挙手いただいて、簡潔なご質問をいただければと思います。

【質問者】ありがとうございます。質問ではないんですけれども、どちらかと言うと、コメントです。AIIBの問題に関しましては、いろんな議論が日本では行われております。私が見るところ、ずいぶん日本での議論は大きいわけですけれども、相当ドラスティックな変化が生まれていると思います。意見で、日本は入るべきだと、そして中国に影響力を行使すべきだと、もうゲームに入って、影響力を与えるべきだということを言う人がおり、雰囲気は最近変わってきたと思います。どうしてかと言うと、日本政府が近いうちはもう入らないということを決めたからだと思いますニュースとか、メディアとか、専門家の意見とか、そういったようなところも、セーフガード的に調整するようになっているんだと思います。

 でも本当の問題は何かということを考えてみますと、日本の選択は何なのか。AIIBに入るのか、入らないのかという問題は、基本的には、それは日本が中国の台頭を受け入れることができるのか、本当に心の底から受け入れることができるのかという問題だと思います。メンタリティの問題です。中国をどう考えるのか。中国が競争相手か、あるいは敵国だと考えていたら、それは絶対に、いわゆるゼロサムゲーム的に考えれば、それは入れないということになるでしょう。それが大きな問題だと思います。それがある限り、日本は決定を下すということはできないと思います。

【滝田】 ではほかのご質問、もし、じゃあどうぞ。その前の女性の方。

【質問者】 お話ありがとうございます。今回が、AIIBの設立協定に見る日本の取るべき道ということのお話だったのですが、ちょっとイギリスの観点からぜひお話をうかがいたいと思います。今回AIIBに参加国が増えた1つのきっかけとして、イギリスの参加があったかと思いますが、イギリスも日本と同じように、やはり内側から入ってコントロールしたいという意思も1つあったと思いますが、現在中国の出資比率等や議決権の比率が決まってしまった状態で、そういった欧州の国々が中に入ってコントロールというのが果たして可能なのかどうかということを河合様にお聞きしたいです。よろしくお願いします。

【河合】 一番最初の方のコメントなんですけれども、不幸なことに、中国が東シナ海、そして南シナ海で非常に一方的な行動を取って、ルールを無視するような形で行動を取ってるということが、相当大きな悪影響を与えてるのではないのかなというふうに思います。もし中国が平和的な形で、こうやっぱり台頭してくるというのであれば、これはもうアクセプトするのが当然だと思いますけれども、必ずしもそうなってないというのがやっぱり問題を生んでるのかなと思います。

 イギリスですけれども、イギリスも中に入って、影響力を持つということは考えているんでしょうけれども、どうもそれよりも、むしろ経済的なメリット、中国により近づいて、やはり経済的な利益を得たいということ、ロンドンで人民元サービスをやりたいという、そっちのモチベーションのほうがむしろ強いのではないのかなというふうに、私は見ています。

【滝田】 司会者は本来あまり余計なことを言うべきではないと思いますが、1つクイックコメントを河合さんのお話に付け加えさせていただきたいと思います。

 G7のサミットがエルマウで開かれた時に、G7のリーダーたちの間で、かなり強くイギリスの姿勢に対する批判があったというふうに聞いております。これはジャストインフォメーションという話です。

 では時間になってしまったんですが、もし可能でしたら、お1人方、いらっしゃいましたら、よろしいでしょうか。じゃあ、お願いいたします。

【質問者】 すいません、じゃあ最後に1点だけ、先ほど伊藤先生がおっしゃられた点なんですけども、中国は既存のMDBからまだ多額に借り入れをしているわけですね。そういう立場でありながら、こういう新しい機関のクレディターの立場で入るということについて、どういうふうに説明されるのか、ユンさんのご意見をうかがいたいと思いました。

【スン】 この問題は面白いですね。中国は借りているのに、何で貸せるのだという、そういう問題ですけれども、私は面白い会話をしたことがあります、中国の役人としたことがあります、この点について。彼らの答え、彼らの考え方というのは、貧しい国というのは、お互いに、貧しい国はお互いに貸し合うこともできるのだと、別に貧しい国がお金を貸したからいけないなんていう国際的なルールはないよというコメントでありました。

【滝田】 極めて簡潔なお答えですが、登壇者の皆さんから何か追加的コメントはございますか。では、大変ホットなテーマにもかかわらず、ちゃんと時間厳守のオーディエンスを持てたことは幸せでございます。ぜひ4人の素晴らしいパネリストの方に拍手でお送りください。どうもありがとうございました。

[了]

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