世界を動かす新しい動き 「社会的インパクト投資」という言葉は、日本ではまだまだ一般的ではないと言えるのではないかと思います。

社会的インパクト投資フォーラム2018

開催の挨拶より 

大野修一氏(公益財団法人笹川平和財団理事長)

2018.02.19


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世界を動かす新しい動き

 「社会的インパクト投資」という言葉は、日本ではまだまだ一般的ではないと言えるのではないかと思います。しかし、比較的新しい分野とはいえ、欧米は勿論、日本でも既に様々なお立場で、活躍を始めておられる先駆者の方々が多数おられます。

 今回は、これら先駆者の方々が、このフォーラムの趣旨に賛同し、講演者やパネリストとしてご参加下さいました。また、特に海外から駆けつけてくださった方々は、まさに、この分野では世界的なリーダーとして、またキーパーソンとして高名・著名な方々ばかりです。遠方からわざわざお出でいただいたことに対し、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

 本来なら、こうした方々お一人一人をご紹介し、御礼を申し上げるべきであると思いますが、今回は時間の関係で出来ません。誠に申し訳ありませんが、皆様の詳しい経歴や現在のお立場については配布資料をご覧頂ければと思います。

 ところで、お気付きのようにこの配布資料の中に2月9日付の朝日新聞が含まれていると思います。これは、メディアパートナーとして今回のフォーラムにご協力頂いた朝日新聞の宣伝ではなく、そこに、本日講演頂くインパクト投資の父と言われるロナルド・コーエン卿のインタビューが掲載されているためです。

 コーエンさんはG8サミットでの合意に基づき4年前に始まったインパクト投資の専門家組織「G8インパクト投資タスクフォース」の議長に就任され、現在では、その後継組織で拡大版の機関であるGSG(Global Steering Group)の会長として、名実ともにインパクト投資の世界的なリーダーとして精力的に活躍しておられます。

 私はコーエンさんとは、日本の民間セクター代表として参加させて頂いたG8タスクフォースの席で初めてお目にかかりましたが、それ以来、誰よりも日本でのインパクト投資の動向に関心を寄せ、支援の手を差し出してくださっていることに、深く感銘を受けて来ました。今回も、健康問題がある中でこのフォーラムのために遠路はるばる駆けつけて下さり、心から感謝申し上げたいと思います。

 さて、インパクト投資という言葉が、「金融的価値と社会的価値の双方を追求する投資」として、定義されたのは、今から10年少し前になりますが、2007年に、ロックフェラー財団の呼びかけで開催されたイタリアでの会議においてであると言われています。

 尤も、ビジネスにおいては、単なる経済的利益を追求するだけではなく、社会的な責任の視点をも取り入れるべきだという考え方は、決して新しいものではありません。欧米のみならずそれ以外の地域においても、金融や実業の世界では、はるか以前からこのような考え方が存在していたことが知られています。日本でも、渋沢栄一翁を始め立派な先駆者が大勢おられます。

 しかし、近年、そのような考えをもっと明示的に取り入れ、具体的な投資活動によりシステマチックに反映させて行くべきだという考え方が、欧米の投資家を中心に広がり、実際にかなりの資金が投じられるようになって来ました。こうして生まれたのがESG投資やインパクト投資と言われるものです。そしてこのような投資が、今後の世界を動かす新しい動きとして、大きな注目を集めるようになってきていると言えるのではないでしょうか。

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主催者挨拶 大野修一氏(笹川平和財団理事長)

100億円のインパクトファンド設立
アジアの女性の経済活動を支援

 同様に公益のために設立された欧米の財団の間でも、それまでは純粋に資産運用の観点のみで行われて来た金融資産の扱いにおいて、金融的価値のみでなく社会的価値の追求も目指すべきであるという考えが広まって来ています。

 また、これら欧米を中心にした財団における公益活動支援の分野では、これまでのような非営利団体を対象にした助成金を通じた支援一本槍ではなく、公益を目的にした社会的企業と言われる組織が増えるにつれ、それらに対する投資や融資、信用保証などの形態での支援の仕方がひろがりつつあり、こうした活動もインパクト投資の一形態であると考えられています。

 一昨年末に成立した休眠預金活用法においても、社会貢献活動の支援に向けて、これまでのような助成金としての利用に加えて、投資などの形態での活用が謳われているのも同様の考えに基づくものであると言うことが出来ます。

 こうした中で、私ども笹川平和財団も、昨年、アジアの女性の経済活動を支援するための100億円のインパクトファンドを設立することを決め、公式に発表しました。 これは、笹川平和財団の金融資産の一部を、アジアの女性企業家向けを中心に運用し、その収益を、専ら東南アジアを中心とする途上国での女性企業家を育成、支援していくための活動に振り向けよう、というアイデアです。

 実際の資金的な展開はまだこれからという段階ではありますが、この「アジア女性インパクトファンド」は、民間財団によるインパクト投資基金としてはアジア初の本格的な取組みであるとして、特に海外で大変な注目を集めています。その結果、私ども笹川平和財団には、このところ、いろんなところからもっと詳しい話を聞きたい、とご招待を受けるようになっています。

 数ヶ月前には、先ほど申し上げたインパクト投資の出発点となったイタリアの会議、GIINの10周年を記念する会議にも招待され、私が参加して来ました。招待者は20人ほどという小さな会議でしたがアジアからの参加は私一人というのが印象的でした。

 このイタリアの会議に限りませんが、こうした会議の主催者や参加者からはアジアや日本でのインパクト投資の現状について質問を受けるとともに、協力の申し出を多数頂いています。笹川平和財団としてはこれらのパートナーと協力して、日本やアジアでのインパクト投資の発展に向けて微力ながら貢献して行きたいと考えて今回のフォーラムを企画するに至りました。

 さて、皆さんよくご存知のように、国連では3年前の2015年に、持続的開発目標SDGsが採択されました。2030年までに達成すべき世界的な目標として17項目に及ぶSDGsが決まった訳ですが、これらの目標の実現のためには、膨大な額の資金が必要で、これまでのような財政資金や政府機関によるODA、あるいは慈善団体の支援金などだけでは賄いきれないと考えられています。

 一説には、少なくとも毎年2.5兆ドル以上の資金が追加的に必要になるという推計もあります。そのためには、今回お集まりの皆さまのように志を持った人々による、実業界、金融界を巻き込んだ、官民合わせた広範なネットワークを通じて、新たな資金の流れを作り出すための努力が求められていると言えるのではないでしょうか。

 本日と明日の二日間にわたる今回のフォーラムが、そのような目的に少しでも貢献出来ることを期待したいと思います。

 最後になりましたが、今回のフォーラムの趣旨にご賛同頂きスポンサーとしてご支援下さいました三井住友銀行、みずほ銀行、エボリューションファイナンシャルグループを始めとするすべての協力者・パートナーの皆さまにもこの場を借りまして御礼申し上げます。

 また、本日は、多数の学生ボランティアの方々にも文字通り無償でお手伝いいただいております。皆さん、本当にありがとう。

 ご静聴ありがとうございました。

<略歴>
大野修一氏
公益財団法人笹川平和財団理事長
日系大手総合商社を経て、2001年日本財団に国際部長として就任、2004年より同財団常務理事。G8社会的インパクト投資タスクフォース日本国内諮問委員会委員。2016年12月より現職。

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