北極海

 近年、地球温暖化等の影響による海氷減少等を背景に、北極海に対する関⼼が国内外で⾼まっており、特にスエズ運河やマラッカ海峡を経由する南回り航路の約60%の⾏程で欧州とアジアを結ぶ北極海航路は今後の本格的な商業利⽤が期待されております。また北極圏には未発⾒の⽯油・天然ガスや多様な鉱物資源が多く存在しており、資源開発に向けた動きが各地で活発化するなど、今後の我が国の発展を考えるうえで北極海域の重要性は今後ますます⾼まっていくと考えられます。

 ⼀⽅で海氷が減少しているとは⾔え、過酷な⾃然環境、不⼗分なインフラ、脆弱な⽣態系など、同海域が依然として経済活動を⾏うには困難かつ特殊な環境であることに変わりはなく、適切な環境保全のためには、正しい情報や専⾨的な知識・技能、国際的な協⼒体制などが必要です。

 当財団は、早くから北極海の重要性に注⽬し、これまで20年以上にわたり様々な事業を実施して参りました。

INSROP/JANSROP(1993〜2006)

 1993年から1999年までの間、有史以来⼈類に閉ざされた場所であった北極海の航路としての可能性を探るため、当財団は⽇本財団の⽀援の下、ロシア、ノルウェーの研究機関と共同で「国際北極海航路開発計画」(INSROP: International Northern Sea Route Programme)を実施し、様々な研究や実船航海試験を通して、北極海の通年運航が技術的に可能であることを⽰しました。またINSROP と並⾏して国内プロジェクト「JANSROP」を⽴ち上げ、2002年から2006年にかけて実施した「北極海航路の利⽤促進と寒冷海域安全運航体制に関する調査研究」(JANSROP-II)では極東ロシア地域の豊かなエネルギー、鉱物、森林、⽔産の諸資源並びに地勢データを数値化した、世界で初めての地理情報システム(JANSROP-GIS)を完成させるとともに、オホーツク海の海洋環境保護に関する海洋レジーム構想をとりまとめました。これらINSROP及びJANSROP-GISの成果は、北極海沿岸8か国などで構成されているハイレベルの政府間協議体である北極評議会(Arctic Council)が2009年4⽉に公表した「Arctic Marine Shipping Assessment 2009 Report (AMSA)」で取り上げられるなど、国際的に⾼い評価を受けております。

⽇本北極海会議(2010〜2011)

 INSROP/JANSROP 実施当時は北極海の氷がまだ厚く、商業航路としての実⽤化は2050年以降になると⾒込んでいましたが、その後北極海の氷は我々の予想を超える速さで減少し、北極圏諸国のみならず世界中の関⼼を集めるようになりました。しかし我が国では、北極圏及び同海域の重要性に対する認識が低かったため国レベルでの調査研究活動はほとんど実施されておらず、必要な情報等が不⾜している状況にありました。そこで当財団は2010年、国際法、安全保障、科学調査、造船、海運、気象観測など各分野の有識者からなる「⽇本北極海会議」を発⾜させ、2年間にわたる議論の成果として、北極海の現状や未来動向、課題等について取りまとめた報告書を発表するとともに、我が国が取るべき政策や戦略について、以下の9つの柱からなる政策提⾔を⾏いました。当財団はこの提⾔に基づき、現在まで様々な事業を展開しています。

  1. 1.北極海政策の司令塔の設置
  2. 2.北極海管理への関わりの充実
  3. 3.北極海等の環境問題への積極的対応
  4. 4.北極海資源への取り組みの強化
  5. 5.北極海調査・研究の充実
  6. 6.北極海航路啓開に伴う物流変化への対応
  7. 7.北極海航路啓開後の防衛政策の⽴案
  8. 8.北極海に係る国際秩序形成への貢献
  9. 9.北極海問題の総合的取り組みのための日露間対話の創設

北極海航路における船舶からの黒煙に関する調査研究事業(2012〜2013)

 船舶から排出される黒煙(ブラックカーボン)が極域で雪氷面に沈着すると、雪氷表面における可視光の反射率を変化させ、雪氷の融解を早めて気候変動を引き起こすと言われております。地球温暖化より急激かつ局所的とも言われるこの気候変動が脆弱な生態系に与える影響は大きく、将来の北極圏での商業航路の発展等によってさらに増大する可能性があります。当財団は船舶からの黒煙の排出実態を調査するとともにシミュレーションによる環境影響評価を行い、北極域での黒煙に関する規制のあり方について検討を行いました。

北極海航路の持続的な利用に向けた環境保全に関する調査研究事業(2013)

 船舶の航行増加や天然資源開発が増加する一方で、北極海の海図や航行支援施設は現在必ずしも良好な状況とは言えず、衝突や座礁事故による深刻な海洋汚染が発生する危険性が指摘されています。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や北極評議会の報告書でも示されているとおり、北極海における環境影響は北極海だけでなく地球環境全体にも深刻な影響を与えることが危惧されることから、本事業では北極海で船舶の航行が及ぼす影響に焦点を当て、北極海への環境評価と環境リスク対策、法令等の最新の動向について調査・分析を行い、その現状と課題を明らかにしました。

国際共同研究用北極観測船に関する調査研究事業(2013〜2014)

 我が国が地球環境問題の解決に貢献し、また北極海沿岸国との共同開発や関係強化を推進するにあたっては、北極海での通年稼働が可能な砕氷型多目的観測船を建造し、国際共同研究プラットフォームとして通用することが非常に有効で、科学技術分野における国際貢献で我が国が大きな役割を果たすことが期待できます。本事業では、我が国の持つ技術や経験を活かし、他国と共用活用できる国際共同研究用北極観測船の建造および運航に必要な事項について検討を行いました。

我が国の北極海航路利活用戦略の策定事業(2014〜2015)

 北極海航路の商業利用が急速な進展を見せるなか、航路啓開のメリットを最大限に利活用するため、我が国の北極海航路利活用戦略を策定し、商業利用の更なる促進のための施策及びロードマップの具体案を示すことを目的として実施しています。

 また、我が国の多くの企業が北極海航路の利点を理解しつつも実際の利用には躊躇の姿勢を見せていることを踏まえ、今後の安定的かつ持続的な利活用に向けた最新情報の提供とネットワーク拡充の場として、ロシア、ノルウェー、米国など北極海沿岸国のキーパーソンを招聘し、北極海の商業利用に焦点を当てた国際セミナーを開催しております。

北極海のガバナンス政策に関するワークショップの開催(2015)

 今後の北極ガバナンスにおいては非北極圏諸国の重要性がより一層高まるものと予想されており、2013年に新たに北極評議会オブザーバーとして承認された、我が国をはじめとするアジア諸国の動向に大きな関心が集まっています。本事業は、北極評議会主要国とアジアのオブザーバー諸国の北極担当行政官を中心とする専門家を招聘してトラック1.5による対話の場を設け、今後の望ましい北極圏ガバナンスのあり方について相互理解を深めるとともに、我が国がとるべき北極政策について具体的要件を明らかにすることを目的としています。

北極ガバナンスの国際協力の研究(2016~)

 北極域の持続的な利用を考える上では、北極圏諸国の視座を尊重しつつ、多様なステークホルダーとともに多角的な検討を行うことが重要です。当財団は日本財団、政策研究大学院大学と共に、分野・業種をまたがる「北極」というテーマについてオールジャパンの体制で議論するプラットフォームとして「北極の未来に関する研究会」を2016年に立ち上げました。この研究会では、日本の北極域に関係する研究者、産業界関係者を中心にオブザーバーとして各省庁、地方自治体、国会議員等も参加し、総勢80名の有識者がセクターの垣根を超えた闊達な議論を行っています。

 また海洋基本計画の見直しの時期にあたる2017年度には北極問題を政策的に進めていくうえでの方向性について議論を行い、北極に関する施策を海洋政策の一環として明確に位置づけ、これまで以上に具体的かつ実効性の高いものとする必要があるとの考えから、以下の5つの柱からなる政策提言を取りまとめました。

  1. 1.北極域研究の強化と推進
  2. 2.北極海の海洋環境保全への対応と貢献
  3. 3.北極域に関する海洋経済(ブルー・エコノミー)の推進
  4. 4.北極海における安全の確保
  5. 5.北極域に関する国際協力の推進

 さらに研究会活動の一環として北極圏諸国およびアジアの北極評議会オブザーバー国の要人・専門家を招き、北極域の将来像や日本を含むアジア地域の協力の在り方について議論するため国際ワークショップを開催しています。

Arctic_WS_2017.jpg開催報告:「Workshop on Arctic Governance in Tokyo 2017」

    日時:2017年2月2日~3日

グリムソン 2.jpg開催報告:「Workshop on Arctic Governance in Tokyo 2018」
    日時:2018年2月8日~9日

海洋情報季報

 2013年4月より『海洋安全保障情報月報』と『北極海季報』の内容を統合し、新たに『海洋情報季報』として3か月に1度定期発信しています。詳細はウェブサイト「From the Oceans」をご覧ください。

From the Oceans

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